労働新聞 2004年12月15日号 社説

新「防衛計画の大綱」の閣議決定
米国支え、軍事大国化進める
亡国の道を許すな

 小泉政権は12月10日、新しい軍事・安全保障政策の基本方針を定めた「防衛計画の大綱」(以下「大綱」)を閣議決定した。「大綱」の改定は、1995年11月以来9年ぶりである。併せて、「大綱」に基づく新「中期防衛力整備計画」(2005〜09年)も決定、「官房長官談話」による武器輸出3原則の緩和を打ち出した。
 「大綱」の最大の特徴は、「国際的安全保障環境の改善」という名目で、海外派兵の拡大を安保戦略の直接の目標にすえたことである。
 これは、イラク戦争など軍事力による世界の一極支配維持を狙う米国を積極的、「地球大」の規模で支える、危険な道である。また、財界の主導権を握った多国籍大企業が、奥田・日本経団連の下で進めてきた、多国籍企業のための内外政治、政治軍事大国化の決定的な一歩である。
 しかし、これは「反米」と「自主」の声が高まるアジアと世界のすう勢に逆らうもので、わが国の国益に反する道である。もちろん、第9条を含む現憲法とはいよいよつじつまが合わせようがない。「大綱」の道を断じて許してはならない。

米戦略と一体化、「中国の脅威」公言する新「大綱」

 「大綱」は、従来の「侵略からの抑止」という「基盤的防衛力構想」の考え方を転換、テロなど「多様な事態への対応」が「国際社会にとって差し迫った課題」であると位置づけている。このため、「大量破壊兵器」などの「脅威の防止」と、海外での「国際的な安全保障環境の改善」を2大目標に掲げ、自衛隊の海外派兵を本来任務に格上げする、「多機能弾力的防衛力」構想を打ち出した。
 また、米国の先制攻撃戦略の一環である「ミサイル防衛(MD)システム」への参加もうたった。武器輸出3原則の緩和は、同システムへの協力拡大を直接の目的としているが、先端技術の分野でも、米戦略を支えることが狙いである。
 これらは、空文化していたとはいえ、自ら唱えてきた「専守防衛」の原則すらあっさり投げ捨て、米国が引き起こす世界の紛争などに介入する「政治軍事大国化」を直接の安全保障目標にしたことを意味する。
 イラク侵略戦争に見られるように、「対テロ戦争」を口実に主権国家への先制攻撃を公然とうたう「ブッシュ・ドクトリン」、さらにそれに基づいた世界的な米軍再編を積極的に支えるべく、米軍と自衛隊の一体化を進めようというものだ。「大綱」は、日米安保体制をわざわざ「重要な役割を果たしている」と持ち上げているが、その意図は、ともにイラクを侵略した英国と同様に、世界的規模で米国の戦争を支えるという、日米同盟の強化に踏み込もうということである。
 そもそも、自衛隊は発足以来、装備も情報・指揮系統も米軍に握られた、完全な対米従属の軍隊であった。それでさえ、情報技術(IT)による軍事革命(RMA)が急テンポで進む中、世界的規模での日米両軍の連携には不十分というわけだ。
 米太平洋軍海兵隊司令部関係者は「国際平和協力への自衛隊と米軍の共同派遣」「基地の共同使用」等々が、日米同盟のさらなる発展にも貢献する、と発言している。
 すでに、日本は通貨ドルを独り買い支えるなど、米国と一体となってドル体制を支えている。これに加え、軍事でもいちだんと日米の一体化を進めようというのである。
 しかも重大なことに、「大綱」は中国への警戒感を初めて名指しし、意図して敵視をあおっている。
 強まる中国敵視と軌を一に、台湾海峡を「不透明・不確実」としていた当初の表現をエスカレートさせ、中国を「新たな脅威」とまで呼び、中国からの「島しょ防衛」を打ち出すまでに至っている。
 このようにわが国支配層は、地域的には、旧「大綱」でも名指しした朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)とともに、中国にも身構えることを明確にしたのである。
 日米の軍事一体化の矛先は、イラクや中東、朝鮮という、米国言うところの「不安定な弧」であり、最大の焦点は台湾海峡と中国である。
 「大綱」の決定に先立って、イラクへの自衛隊派兵延長を決めた小泉政権は、2月の日米安全保障協議委員会(2+2)閣僚協議で「戦略合意」を目指している。そこでは、神奈川県の座間キャンプへの米陸軍第1軍団司令部の移転をはじめ、在日米軍の再編協議が加速されよう。
 これはまさに、米国の戦争にわが国を巻き込みかねない、亡国の道である。

多国籍大企業のための軍事大国化策動

 こうした「大綱」の目指す、対米追随と軍事大国化の方向は、米国の要求であると同時に、わが国財界、多国籍化した一握りの巨大企業が望むものでもある。
 日本経団連は本年5月、第3回総会で「国の基本問題検討委員会」(委員長・三木・東京三菱銀行会長)を発足させ、憲法改悪や集団的自衛権の容認、武器輸出3原則の見直しを検討することを決めた。
 また、本年10月、荒木浩・東京電力顧問を座長に、張富士夫・トヨタ自動車社長を座長代理とする小泉首相の諮問機関、「安全保障と防衛力に関する懇談会」が報告書を提出した。本報告書は、「国際的安全保障環境の改善による脅威の予防」という名で、海外派兵の拡大を主張、これまで以上に北朝鮮や中国への敵視もあおっており、まさに「大綱」の下書きともいえるものである。
 このように、新「大綱」は、わが国多国籍大企業の意を受けた形で閣議決定されのである。
 米国市場をはじめ世界で投資や商売をし、ばく大な利益をあげている巨大企業。例えば、トヨタ、日産、ホンダの自動車3社の海外売上高比率は約70%、海外資産比率が約54%である。こうした連中が、「世界の安定」と称して軍隊を海外に派兵できる体制を求めるのは歴史の必然であろう。奥田・日本経団連会長は、「日本企業が海外に投資した資金を守る」ことが「真の国益」だと言ってはばからない。
 集団的自衛権行使の容認と憲法改悪も、すでに支配層の日程にのぼっている。

「大綱」の道を国民運動で打ち破れ

 しかし、イラク占領に行き詰まり、全世界の「反米」の高まりで、米国の国際的指導力は著しく低下している。その米国の世界戦略と一体化し、支え続けるなど、時代錯誤以外の何ものでもない。また、わが国が真に繁栄しようとすれば、アジアとの友好協力関係が不可欠であり、軍事大国となってはそれは不可能である。すでに韓国、中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国も、「大綱」など、わが国の動きに危機感を高めている。
 最近、北城・経済同友会代表幹事が「首相は中国などが反対する靖国神社参拝を止めてほしい」と語ったが、ある意味本音であろう。筆舌に尽くしがたい侵略の歴史を経験したアジア各国との間で、その侵略の歴史を賛美し、そして再び軍事大国として登場しながら、友好的発展的に商売ができるはずがない。財界の中から、あるいは保守政治家の中からも、あまりの対米追随と日本の軍事大国化に危ぐの念を持ち、抵抗する人びとがあらわれて当然である。
 だが、野党・民主党はどうか。「大綱」に対する前原・民主党「次の内閣」防衛担当の「談話」は、「大綱」は「十分な議論もないまま決定された」ので「きわめて残念」というだけである。「日米基軸」で、米軍再編への「主体的協力」(前原)を主張するこの党が、「大綱」の方向と闘えないのは当然である。
 民主党はまた、「中国及び北朝鮮について、より掘り下げた分析が必要」と、「大綱」に注文をつけた。「北朝鮮の体制転覆」を公言する前原らからすれば、「敵視が不十分」とでも言いたいのだ。労働者・労働組合は、対米追随・アジア敵視の民主党に期待することはできない。
 多国籍大企業など支配層の進める危険な道は、広範な国民の不安を高めざるを得ない。米軍再編と、わが国の政治軍事大国化に反対し、アジア、世界との平和・共生を目指す広範な国民の闘いを発展させなければならない。労働者・労働組合がその先頭で闘うことこそ、運動発展のもっとも確かな力である。


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