労働新聞 2004年12月5日号 社説

「三位一体改革全体像」
「地方の声」装い犠牲押しつける、
財界とその手先と先と闘おう

 政府・与党による協議会は11月26日、懸案の国と地方の税財政改革(三位一体改革)に関する「全体像」を決定した。
 それによると、2005、06年度の国から地方への補助金の削減額は約2兆8380億円で、政府が掲げた3兆円の目標にほぼ近いものとなった。一方、地方への税源移譲は、04年度分の6560億円を含めても、総額で約2兆4160億円にとどまった。
 補助金削減では、強い反対のあった義務教育国庫負担金が2年間で約8500億円、国民健康保険負担金約7000億円の削減が明記された。同じく抵抗の強い生活保護国庫負担金の削減は、結論が先送りされた。
 8月19日、3兆2000億円の補助金削減・税源移譲リストである「国庫補助負担金等に関する改革案」(地方案)を政府に提出していた全国知事会など地方6団体は、同日、これを受け入れる姿勢を表明した。
 懸案先送りと妥協に満ちたものとはいえ、小泉が改革政治の1つの目玉とした「三位一体改革」は、地方団体の合意をも引き出して、政府案としての形を整えることとなった。
 しかし、国庫補助、負担金の削減は、教育・福祉など国民に全国一律の水準を保証すべき国の責任を放棄し、その負担と犠牲を地方自治体と住民に押しつけるものであり、地方への税源移譲なるものの実態は、国が配分する交付金(税源移譲予定交付金)化であって、地方の安定的な税源確保が保証されたものではない。さらに、地方交付税は「総額確保」とされたものの、財務省は地方の「ムダ使い」を口実に、いっそうの削減方針を崩していない。
 これは、地方分権どころか地方切り捨てそのものであり、今後の「全体像」具体化の過程では、地方の痛みと反発が高まらざるを得ないものである。

「改革」は財界のための地方切り捨て策

 いわゆる「三位一体改革」は、何より財界の要求である。
 02年に多国籍大企業の主導下で財界団体を統合した日本経団連は、03年1月、「奥田ビジョン」を打ち出した。そこでは、国内改革の目玉として社会保障制度改悪と並び、地方分権「改革」が掲げられ、「州制」の導入による自治体数の削減と地方交付税と国庫補助負担金の完全廃止が、あからさまに提言されている。
 経済同友会の地方行財政改革推進会議も、この奥田ビジョンの基本方針の下で政府への提言をくり返し、本年10月28日は、「総理の決断で三位一体改革の着実な実行を求める」と、政府、与党などへの圧力を強めた。ここでは、「小さな政府」が重点の第1に掲げられ、「総理の決断」とともに、07年度以降の改革「工程表」明示をも迫っている。
 激しい国際競争での生き残りをかける多国籍大企業にとって、法人税負担など国内のコスト削減が急務で、小さな政府による財政支出の削減、とりわけ地方の効率化、合理化は至上命題となったのである。
 小泉が打ち出した「三位一体改革」はこのような財界、多国籍大企業の要求に従うものであった。地方分権など口実で、わずかばかりの税源移譲をエサに、補助金、交付税の大幅削減で政府支出を減らそうというのが狙いである。それはまた、町村などの地方財政を危機に追い込みながら、強制合併を推進しようという、強引な地方自治破壊と軌を一にしたものである。
 
仕組まれた小泉との「出来レース」

 しかし、改革推進は与党内部も含め、地方自治体や地方住民との利害対立と抵抗を激化させる。そこで、財界、小泉政権にとって、この保守層を含む抵抗を抑え込み、「地方の声」の主導権を取ることが課題となった。
 この過程で大きな役割を果たしたのが、「新しい日本をつくる国民会議」(二十一世紀臨調)である。
 21世紀臨調は、政治改革法成立を画策した「民間政治臨調」を前身とし、昨年の総選挙では「マニフェスト選挙」とあおり立てることで、保守2大政党制を実現すべく策動した団体である。共同代表には、地方「改革派」の代表である北川・前三重県知事、財界の2大政党制策動の中心人物である茂木・キッコーマン社長らが並び、顧問会議議長は奥田・日本経団連会長が務めている。要するに、財界の別働隊で、改革政治推進のための官製国民運動団体である。
 そして、同団体の下に「知事・市町村長連合会議」(連合会議、座長・増田・岩手県知事)が組織され、松沢・神奈川県知事、浅野・宮城県知事、中田・横浜市長など、「改革派」首長が顔を揃えている。
 「連合会議」の考え方は、大物の「抵抗勢力」であった土屋・前埼玉県知事の失脚を受けて全国知事会長となった、梶原拓・岐阜県知事の主張に端的に示されている。
 梶原氏は「日経新聞」への寄稿で、「補助金のシステムが国と地方の歳出規模を拡大する」「究極の財政再建につながる改革は『地方分権』によってなされる」と、ひたすら国の歳出抑制を説いている。およそ地方の立場に立たないこの論文は、一体だれの手によるものかと見まがうものである。
 「連合会議」の提言「分権国家へのリセットを」(5月13日)でも、「今後も、地方は『痛み』を恐れず」「人件費の削減など『自ら血を流す』行財政改革」を行うと宣言している。「地方分権」が国と地方の財政削減のための口実であることは、もはやあけすけである。
 前述した通り、地方6団体は、小泉の呼びかけにこたえ、補助金削減の「地方案」を発表したが、これも7月初旬の「21世紀臨調」会合の席上、増田・岩手県知事が提言したのがきっかけであった。まさに「地方案」は、「連合会議」が主導して、地方六団体内の異論を「(地方の)一枚岩」の名の下に抑えつけて取りまとめたものであった。
 だからこそ、「地方案」には、義務教育費国庫負担金の一般財源化など、財界が泣いて喜ぶ案が並んだのであり、財界は「6団体案の尊重」を政府に求めたのである。
 このように、「21世紀臨調」に組織された「改革派」の首長グループは、「地方分権」を掲げつつ、財界の意を受けた「地方案」を描き、財界が要求する「改革」を加速させる役割を果たしたのである。小泉は「地方の声を尊重する」と称して、政府・与党内部の矛盾を押し切るためにこれを利用し、決着にこぎつけた。いわば、財界のシナリオによる「出来レース」なのである。

地方の存亡をかけた闘争は続く

 形の上では「全体像」合意にこぎ着けた小泉政権だが、いざ、補助金削減などを実施する段階になれば、地方の激しい反発・抵抗に当面するのは避けがたい。
 地域経済の苦境を抱える地方の首長からは、とりわけ厳しい批判が相次いでいる。経済、農業、労働各団体が県民ぐるみの運動を展開してきた福島県の佐藤知事は、「全体像」について、「とても満足できるものではない」と批判している。また、財政力が弱く、基金が底をついた自治体も多い沖縄県からは、「画一的に自治体の予算を切り捨てるのはおかしい」(座間味村)などの声が上がっている。
 与党内の矛盾も深い。義務教育国庫負担金の削減については、06年度からの恒久措置について自民党内に不満が残されている。先送りされた生活保護の国庫補助率引き下げについても、公明党の反対が根強い。
 さらに、支配層による地方切り捨て攻撃は、これで終わりではない。支配層は、いっそうの改革を焦っており、財務省が交付税削減の姿勢を崩さないのはそのためである。
 地域間の経済格差が急速に広がっているこんにち、地方住民は、自らの生活や営業を守るために闘わざるを得ない。分権や自治を標榜するなら、自治体はその時どのような立場を取るべきだろうか。
 財界の利益のために、日本全国の町や村の暮らしを犠牲にさせてはならない。多国籍大企業のための「三位一体改革」を暴露し、「21世紀臨調」やその下にある「連合会議」など、裏切り者の画策を打ち破って、地方自治体は一致して闘うべきである。犠牲の押しつけを許さない、住民の大衆的行動こそ、その闘いのもっとも確かな力である。


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