労働新聞 2004年11月25日号 社説

窮地に陥る米のイラク支配
自衛隊の派遣延長許さず、
直ちに撤兵を

 「親友」、ブッシュ大統領の再選に胸をなで下ろした小泉首相は11月20日、ブッシュ再選後初の日米首脳会談で、さっそくに、12月14日に期限切れとなる自衛隊のイラク派遣の延長(イラク特措法の延長)を申し出た。
 この対米追随の派兵継続は、6月の米シーアイランドでの首脳会談の際、すでに小泉首相が表明していたものではある。だが、クシの歯が抜けるようにイラクから撤退する国が相次ぎ、米国の国際的孤立が深まる中、小泉の申し出は、ブッシュにとっては大いなる「助け船」となった。
 だが、これは中東地域に大きく資源を依存するわが国にとっては、「国益」に資するどころか、世界のすう勢にも反し、アジア・中東諸国を敵に回す亡国の道である。
 小泉政権がたくらむ、自衛隊派兵延長に反対し、即時撤退を要求する国民運動を、急速に強めなければならない。

孤立の米国への追随あおる支配層

 「国民議会選挙」を来年1月になんとしても成立させることでイラク傀儡(かいらい)政権を安定させ、中東「民主化」=支配の拠点としたい米国は、抵抗勢力の拠点である中部ファルージャに対して、残酷な皆殺し作戦を強行した。傀儡政権に非常事態宣言を発動させた上で、1万2000人の米兵はファルージャ市内の病院内にまで軍靴で踏み込み、全市で3000人近い住民を虐殺したといわれる。無辜(むこ)の市民まで虐殺したこの攻撃については、やがて全容が暴露される時が来るだろう。
 ところが、ブッシュ再選と、同時期のファルージャ「制圧」を機に、わが国支配層と御用マスコミらはまたも「恐米論」をあおり、米国に従い、支えることが日本の国益だと宣伝している。ファルージャでの虐殺を無条件に支持した小泉をはじめ、「市場を確保するためには、アングロ・アメリカン世界と協調するしかない」などと、露骨な対米追随を公言する売国奴、岡崎久彦・元駐タイ大使らは、その典型である。
 わが国支配層は、孤立し、苦境にあえぐ米国を、徹底的に支え続けることで、国際政治上での発言力強化を狙っている。
 そのために、小泉は、イラクへの自衛隊派兵を延長しようとしている。加えて、陸軍第1司令部や海兵隊の本土移転などの世界的な米軍再編への全面協力や、武器輸出3原則の緩和による対米協力にまで踏み込もうとしてるのだ。
 米国をことさらに強く描き出す「恐米論」は、こうした策動を合理化するための思想攻撃であり、打ち破らなければならない。

ますます薄れる「恐米論」の根拠

 しかし、こうした「恐米論」が一定の説得力を持ちうる根拠は、ときとともに失われつつある。
 米軍による「掃討作戦」にもかかわらず、イラク人民の反米・反占領の抵抗闘争は、全土に広がろうとしている。国際的反発を押し切っての大虐殺は、傀儡政権の閣僚さえ不満を述べざるをえない事態となり、イスラム聖職者協会は激しく抗議し、選挙のボイコットを表明している。中東、全世界の怒りも高まり、米帝国主義の国際的孤立は、ますます深まっている。占領のいっそうの泥沼化で、1月の選挙のみならず、傀儡政権が安定する保証などまったくない。
 また、国連の承認さえないイラク攻撃と占領を支えた「有志同盟」だが、イラクから撤兵する国は日とともに増えており、米国がいくら残留を願ったとしても、もはや押しとどめがたい状況だ。「(自衛隊撤兵は)国際社会の結束を真っ先に崩すことになる」(読売新聞)どころか、その「有志同盟」の維持さえ、すでに危ういのが実際である。
 事実、来年3月には、自衛隊とともにサマワに駐留するオランダ軍が撤兵する。だが、各国の脱落はこれにとどまらない。イラク戦争に反対し、米国が「古い欧州」と呼んだドイツ、フランスと対比して、「新しい欧州」として米国が持ち上げた東欧・旧ソ連圏諸国でさえ、ハンガリー、ブルガリア、ポーランドが撤退を決定、派兵人員で第5位(1700人)のウクライナも、閣僚が撤退を表明したほどだ。当初、30数カ国を数えた「有志同盟」も、3分の1がイラクからすでに撤退、または1年以内の撤退を決めているのである。
 日米首脳会談で、小泉が2度にわたってブッシュに「国際協調を強化しながら取り組むべき」と述べざるを得なかったのも、こうした米国の孤立が深まる中、それに付き従うことに対する、一抹の不安のあらわれでもあろう。
 しかも、より根本的な問題は、米国の足元の経済が、きわめて危うい状況にあることである。ブッシュが首脳会談で「強いドル」を表明したにもかかわらず、ドルの下落が続いているのも、米経済が膨大な経常赤字と財政赤字という「双子の赤字」という「爆弾」を抱えたままであることに、根本原因がある。欧州連合(EU)のユーロの台頭もあり、第2次大戦後、米国が世界を支配するための手段であった基軸通貨・ドルは、その地位がおびやかされ、破局の危機さえはらんでいる。
 強大な軍事力のみに頼ったこんにちの米国の凶暴さは、衰退におびえる悪あがきで、弱さのあらわれである。国際政治の面でも、また経済でも、米帝国主義の危機はきわめて深刻である。
 こうした米国への追随は、まさに世界のすう勢に反する時代遅れのものであり、わが国を米国とともに世界での孤立、亡国へと導く、徹底的に売国的なものである。

派兵推進の民主党の欺まん許すな

 イラクでの邦人殺害事件や自衛隊宿営地へのロケット弾攻撃など、イラク情勢はますます緊迫化している。小泉首相は「自衛隊の活動地域が非戦闘地域」などと居直っているが、信じる者はもはやない。憲法はむろん、イラク特措法に照らしてさえ、自衛隊派兵の条件は崩壊している。
 次期、イラクに派遣される自衛隊の地元である山形・宮城・福島県では、自衛隊員や家族を中心に、不安が高まっている。「何としてもイラク行きはやめさせたかった」「(イラクよりも)新潟の地震の復興のために働いてほしい」などの声が、地元紙などに多数寄せられているという。まさに当然の願いであり、理解できるものである。
 マスコミ各社の世論調査でさえ、そのいずれもが、60%以上の国民が自衛隊の派遣延長に反対しているという結果を報じている。
 自民党内からさえ、派兵延長に対する危ぐ・反対の声があがっている。公明党の最大の支持団体である創価学会からも、イラク情勢の緊張に対する危機感が吹き出している。
 このように、対米追随の小泉政権を追い詰める好機であるにもかかわらず、野党の状況はどうか。
 野党第1党の民主党は、自衛隊の撤退と「イラク特措法の廃止」を主張している。だが、民主党の主張は、自衛隊が駐屯しているサマワが戦闘地域か否かとか、国連決議に基づく新法が必要だとか、結局のところ手続き論に過ぎない。
 民主党の本音は、「国連決議に基づく自衛隊の活用」であり、国連の議決さえあれば、喜んで自衛隊を派兵するというものである。現に民主党は、2度にわたる邦人誘拐事件の際、「反テロ」を口実に、自衛隊の撤退に反対したのである。「日米安保堅持」と「日米基軸」のこの党の基本政策からして、自衛隊撤退に力が入らないのも当然である。平和を願う労働者と労働組合、広範な国民は、この党に期待を寄せることなどできない。
 共産党はどうか。イラク戦争の際の共産党の態度は、「国連決議がないから反対」というだけのものであった。では、国連決議さえあれば、米帝国主義によるイラク侵略や占領は許されるのか。ひいては、わが国の「貢献」も認めようというのか。このように、国連中心主義を掲げる共産党の態度は、民主党と何ら変わるところがないものである。
 大衆的で強力な国民運動の発展こそ、最も確かな力である。対米追随の自衛隊派兵延長の中止、イラクから自衛隊を即時撤兵させ、アジア・中東諸国と平等互恵の外交関係を樹立するための、広範な国民運動を発展させなければならない。
 労働者・労働組合こそ、その先頭で闘おう。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2004