労働新聞 2004年11月15日号 社説

ブッシュ再選で勢いづく、
新たな「恐米論」打ち破れ

 米大統領選挙は、現職、共和党ブッシュが民主党のケリー候補を破り再選を決めた。
 投票結果は、有権者による投票数で51
%対48%という極めて僅差の接戦となった。投票した有権者の半数近くが現職で、かつ「戦時の大統領」を演じたブッシュへの反対票を投じたのである。
 80年代から続く国民の所得格差の拡大、持てるものと持たざるものへの2極分化の中で、ブッシュ、ゴアが激しく争った前回大統領選挙に続き、米国社会と国民世論は深刻な分解と対立を深めていることをあらためて示した。
 イラク侵略戦争を「ブッシュの失敗」と批判したものの、「対テロ戦争」では同じ土俵に立ち、説得力に欠けたケリーに対し、現職ブッシュは、財政を投入した景気刺激策の大盤振る舞いで経済、雇用好調を演出した上、所得減税の恒久化などの高、中所得層に受けのよい公約を掲げ、辛うじての勝利をものにした。
 結果を受けてブッシュは、「米国の分断修復」を訴えるとともに、「対テロ戦争を闘い抜く」と宣言し、その侵略的な世界戦略「ブッシュ・ドクトリン」を継続させる立場を鮮明にした。そして、イラク戦争で対立が深まった国際社会、とりわけ欧州に対しては「テロと闘う共通の使命がある」などと脅しつけ、米国への協調を迫っている。
 しかし、米国の国際的孤立と政治的指導力の弱まりは、この瞬間も深まっており、イラク戦争や経済政策をめぐる深刻な国内世論の分裂の中で、2期目のブッシュの政権が安定したものとなる保証はない。

ブッシュ再選に勢いづく売国政府

 一方、かねてからブッシュ支持を露骨に表明していたわが国政府、小泉首相は、ブッシュ再選を大歓迎し、「『世界の中の日米同盟』を強化しつつ、国際社会が直面する課題に力を合わせて取り組む」との談話を発表した。
 米国の要求に従い、英国と並ぶ有志同盟の有力メンバーとなるべく自衛隊のイラク派兵をしゃにむに進めてきた小泉は、接戦が伝えられる大統領選挙で、ケリーが勝てば、登ったはしごをはずされかねないと恐れてもいた。しかし、ブッシュ再選で胸をなで下ろした小泉は、イラクでの邦人誘拐、殺害事件や自衛隊宿営地へのロケット弾攻撃など、現地情勢の緊迫化などまるでなかったかのように、自衛隊のイラク派遣期間の延長を打ち上げ、「自衛隊の活動地域が非戦闘地域」などと居直ってはばからない。
 焦点化する米軍再編問題についても、日米安保条約の枠組みすら踏み出して、ブッシュの求める世界規模での日米軍事一体化を進め、対米追随の軍事大国化を急ごうとしている。
 ブッシュが再選された以上、米国の基本政策は変わらない。世界は強大な米国に従う以外なく、これを支え続けることが日本の国益だ、と反動マスコミや知識人どもも騒ぎ立てている。
 しかしこれは危機を深める米帝国主義を、ことさらに強大に描く最悪の「恐米論」、ニセの国益論で売国奴の見解である。
 ブッシュ再選を契機として、支配層が再び振りまく「恐米論」を徹底的に暴露し、打ち破らなければならない。

窮地に陥った米国の世界支配戦略

 小泉が胸をなで下ろし、政府、マスコミがその強さを賞賛する米国と、ブッシュ政権の前途は極めて危ういものである。
 大統領選挙直後から開始されたイラク、ファルージャでの「掃討作戦」は、その残酷な皆殺し戦術でイラク民衆に多くの犠牲を強いている。当然にも、イラク人民の反米、反占領の抵抗闘争は全土へと拡散の様相を見せている。
 欧州などへの国際公約である来年1月の国民議会選挙の実施を前に、治安確保を焦る米国だが、イラク民衆の抵抗と傀儡(かいらい)政権への反発の高まりの中で、それが成功する保証はない。力ずくでの弾圧は、イラク、中東民衆の抵抗の火に油を注ぐものとなろう。
 自衛隊とともにサマワに駐留するオランダ軍が来年3月には撤兵を決めるなど、占領の泥沼化の中で有志同盟も崩壊の危機に瀕している。
 イラン、さらに朝鮮民主主義人民共和国を「悪の枢軸」などと決めつけ、大量破壊兵器疑惑などで制裁をちらつかせる米国だが、イラクと併せた2正面作戦など避けたいのが本音である。
 独仏など欧州は、イラク侵略戦争の強行で示された米帝国主義の世界一極支配の野望を見抜き、多極化を掲げて、米国への戦略的な対抗をいっそう意識的に追求している。
 中東の不安定化は、原油はじめエネルギーの供給の多くを、この地域に依存する欧州諸国にとっても不安要因で、その限りでの一定の妥協があったとしても、中東支配を狙った米戦略に完全に屈することは、欧州の死活にかかわる。苦境のブッシュが、ことさらに協調を働きかけようとも、米欧同盟の復活や、長期にわたる米欧協調は困難であろう。それはまた、欧州との戦略パートナーとしての態度を強める中国、そしてロシアにとっても考慮すべき動きとなろう。
 強大な軍事力を前面に、「対テロ戦争」を掲げるブッシュの再選は、米国をさらなる国際的孤立、指導力低下へと導かざるを得ないだろう。

経済の衰退に焦り深める米国

 しかも、その強大な軍事力といえども、経済の上に乗っている。経済が衰退すれば軍事力もまた長期に優位を保つことはできない。
 米国の経常収支赤字は2003年に5000億ドルを超え、今年さらに拡大しようとしている。これは、独仏など欧州、日本、中国を含む国内総生産(GDP)上位20カ国の経常収支黒字の総計の倍以上で、いかに巨額かがわかる。これが、世界からものを買いあさって借金まみれとなっている米経済の真の姿である。
 この借金大国の経済が回り続けている秘密は、世界からの資金環流で、とりわけ日本は米財務省債を買い続け、ばく大な血税を仕送りして米国を支えている。ブッシュ政権はこれを元手に景気刺激や減税、あるいは膨大な軍事支出の大盤振る舞いを繰り返し、米国の過剰消費をあおってきた。
 しかしその結果、財政赤字も5000億ドルに迫り、過去最悪を続けている。クリントン時代にGDP比2%程度の黒字であった財政収支は、こんにち5%を越える赤字に転落した。米政府債務の累計は、7兆3000億ドルという政府の定めた上限額を突破することが確実となった。
 いくら基軸通貨国とはいえ、このような借金漬けの経済構造が、長期に維持できないことは明かである。
 すでにドルへの不安が増大し、ブッシュ再選確定後も、ドル安が続いている。世界の資金が米国から距離を置きだしている兆候で、ユーロが国際通貨としての存在感を高めている中で、これはドル暴落の引き金を引く可能性すら秘めている。
 そうでなくとも借金は返さねばならず、利子負担も増大している。ブッシュは年金、医療制度の改悪を公約として打ち出したが、米政権は早晩、国民への犠牲押しつけに迫られるだろう。そのとき米国民は引き続きブッシュを支持し続けるだろうか。米国が誇る超軍事力といえど、国内の階級闘争を抑えることはできず、まったく無力である。

 経済的衰退を早める米国が、冷戦後の世界の中で、2度とソ連のような対抗勢力の登場を許さず、唯一優勢な軍事力を振りかざして、世界一極支配を維持しようとする悪あがきこそ「ブッシュ・ドクトリン」であった。したがってそれは米国の強さではなく弱さのあらわれである。しかも米国は緒戦でつまずき、孤立し没落を早めている。ブッシュ再選は、この米国の苦境を加速させこそすれ、救うものとはならないだろう。
 小泉は、この米国の力に賭けているのだろうが、それは国際社会の現実に目をつむり、そのすう勢に反する全くの時代錯誤で、わが国を米国とともに世界での孤立、亡国へと導く最悪の選択である。
 小泉の徹底した米国追随に、支配層、保守派内部からも不満と懸念が広がっている。売国的「恐米論」やニセの国益論を打ち破り、広範な世論を結集して、独立・自主の新たな国の進路を切り開く国民的な闘いを強めねばならない。


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