労働新聞 2004年10月15日号 社説

米国と多国籍企業のための
郵政民営化に反対する

 小泉首相は10月12日、臨時国会で所信表明演説を行い、郵政民営化や三位一体改革など、国民犠牲の改革政治の加速化をあらためて強調した。演説で、小泉が「改革の本丸」と位置づけた郵政民営化は、すでに昨年9月の経済財政諮問会議で「内閣最大の課題」として07年4月に民営化することを指示していたもので、参院選後の9月10日には、閣議で「郵政民営化の基本方針」(以下「基本方針」)が決定された。
 郵政民営化法案は、来年1月の通常国会に提出される予定である。
 小泉改革は、わが国多国籍大企業が国際競争に打ち勝つための内外の環境整備で、郵政民営化も例外ではない。しかしそれは、多国籍大企業の利益のために、国民多数の生活、国民経済を犠牲にする、断じて許し難いものである。

郵政大改悪もたらす「基本方針」

 閣議決定された「基本方針」の骨子は以下の通りである。
 まず時期は、07年4月に民営化をスタート、移行期間は10年間、17年3月末までに完了させる。
 経済財政諮問会議などでの郵政民営化の議論の焦点であった、会社発足時の経営形態については、国が100%出資する純粋持株会社を設け、その傘下に郵便、貯金、保険、窓口ネットワークの4つの各事業会社を配置する(分社化)。
 郵便貯金と簡易保険は順次、株式を市場で売却、民有民営化させ、民間金融機関として完全に独立させる。また、郵貯と簡保の貯金預け入れと保険金支払いについては、「民間金融機関の経営を圧迫しないよう」、現行と同じ1000万円の限度額を当面維持する、などである。
 郵便会社にはユニバーサル・サービス(全国一律)を義務づける。郵便会社を傘下に置く持株会社の株式は、国が3分の1超を保有する。
 これが小泉政権が描く郵政民営化の具体的な姿で、かなりの荒療治をやろうとしていることが分かる。

民営化を求めるわが国多国籍企業

 述べたように、郵政民営化は三位一体改革などと同様、多国籍化したわが国大企業の要求に従うもので、奥田・日本経団連会長や北城・経済同友会代表幹事が「基本方針」を積極的に評価しているのは当然である。
 すでに、経済同友会は01年5月、「日本経済の活性化を目指して」なる提言を発表、「聖域なき構造改革」を掲げた小泉政権の誕生を、「(同友会の)情勢判断と提言内容の多くが、小泉新首相の判断および公約と一致している」「わが意を得た」と大歓迎した。この提言で同友会は、「07年までに解決すべき構造的課題」として、財政再建、行政改革と並んで「郵便貯金・簡易保険など民間でもできる官営事業の廃止」を掲げた。
 また、同友会は同9月に「郵貯改革についての提言」をも発表。郵政事業の一部廃止を含む分割・民営化を明確に主張している。ここでは、郵貯など「公的金融」は「国家財政に対する構造的圧迫要因」だと攻撃し、「金融市場を完全に市場原理に委ねる」ことで、「世界レベルでの金融イノベーション、提携・合併の動きに参加できる国際的に競争力のある金融システム」をつくり上げろ、と主張している。
 要するに、公共サービスとしての郵便事業に投入される国家財政を切り捨て、同時に、郵貯・簡保を民営化することで民間の金融機関、とりわけ大手銀行、保険業界の新たな食い物にしようというのである。
 郵政事業、とりわけ金融事業は戦前の日本軍国主義の拡大、戦後も日本資本主義の「復興」と高度成長を支えるための、民間資金の回収窓口として、重要な役割を担わされてきた。ここに集められた比較的小口の個人資金が、政府の手で、財政投融資の原資として、さまざまな公共投資、特殊法人等を通じてばらまかれ、大企業の発展と利益のために使われてきたのも事実である。
 しかし、時代状況は大きく変わった。350兆円以上の資産を抱えるまでになった国営郵政事業は、金融グローバル化の下で、激しい国際競争を勝ち抜こうとするわが国多国籍化大企業にとって、すでに非効率となった。世界で荒稼ぎする多国籍大企業にとって、国内の財政負担や投資はすでに無駄なリスクである。従って財界は、これを解体、縮小、廃止あるいは分割民営化し、その事業と資金を食いものにし、あるいは外資とも分けあって、ごく少数の国際競争に耐え得る巨大金融資本を形成しようと乗り出したのである。

背景にある米国の強硬な対日要求

 それだけではない。郵政民営化の背景には、かねてからわが国の金融市場の開放を求めてきた、米国の要求がある。
 1994年、日米間の「保険合意」の場ですでに米国は、簡保など、わが国の政府系保険商品に注文をつけ、外国保険会社に「公正な機会を提供する」ことを約束させた。99年にも、米国は「規制緩和の目的と市場の『ビッグバン改革』に相容れない」と、簡保の役割拡大に「深刻な懸念」を表明した。
 2001年の日米首脳会談を機に発足した「成長のための日米経済パートナーシップ」の下で、毎年提出されている「年次改革要望書」でも、その要求は鮮明である。
 その03年版で、米国は郵政民営化について「3事業の民営化プランを04年秋までに作成するように指示したことを特筆する」と、小泉を最大限激励している。その上で、外国保険会社への情報提供や意見収集を行えと注文をつけ、郵便金融機関と民間会社間の「公正な競争確保」のため、郵便金融機関に民間と同一の法律、コスト負担を求めている。
 今年3月に開かれた「日米規制改革および競争政策イニシアチブ」の上級会合でも、米国側から簡保について、日本郵政公社の「民業圧迫」との懸念が出された。10月1日の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の場でも、スノー財務長官が同様の発言を行っている。
 以上、米国は小泉政権の進める郵政民営化、とりわけ郵貯・簡保という金融部門の民営化に、執拗(しつよう)に注文をつけてきた。米国の保険業界やウォール街の金融資本がわが国金融市場に進出し、食い散らし、吸収・合併するために、郵政事業を民営化しろと露骨に要求しているのである。
 これら米国の要求を実現するために、まさに忠実に汗を流す小泉と竹中らは、許し難い売国奴と言わねばならない。

国民犠牲の民営化と闘おう

 郵政民営化は、国民大多数にとってはどういうものか。
 これまで長い間、郵便局は広範な国民にとって、とりわけ地方の過疎地や中山間地では、基本的な生活設計を支える制度として役割を果たしてきたし、今もそうである。国営郵便局は中小企業や農民など、大多数の国民にとって、一定は役立つ金融機関であった。
 郵貯や簡保が民営化され、郵政3事業が分離されれば、国民生活・国民経済に深刻な打撃を与える。
 過疎地の郵便局は「採算性」を口実に廃止されるであろうし、全国一律の郵便料金も維持される保証はない。民営化は、今でさえ不況と小泉改革によって疲弊(ひへい)している地方経済に追い打ちをかける。民営の下では、基本的人権の1つである「通信の秘密」も侵害される可能性が高い。しかも、米ハゲタカファンドなどがわが国の富を食い荒らし、巨利をむさぼることとなろう。
 だが、国民の中には、130年間続けてきた官営郵政事業を支持する感情が広く存在している。民営化が具体化するにつれて、「だれのための民営化か」が広範に暴露されるであろう。
 すでに、秋田、新潟、和歌山、徳島の県議会では、民営化に反対、あるいは公社存続を求める意見書が採択された。北海道では、169の議会(全自治体の8割)で、同様の決議が上がっている。
 日本郵政公社労組と全郵政は、共同で「公開質問状」を小泉政権に提出した。また、全国特定郵便局長会を支持基盤とする与党・自民党内の根強い抵抗もある。
 小泉改革によって「痛み」を押しつけられた労働者・国民各層の不満と結びつけば、幅広い国民運動として発展できる情勢でもある。
 現場から、地方から、郵政民営化に反対する声を上げよう。労働運動が国民運動の先頭で闘うことこそ、真の勝利への道である。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2004