危険な米軍再編計画　国民運動の分断許さず、本土、沖縄貫く一大闘争を

労働新聞　2004年10月5日号社説

危険な米軍再編計画

国民運動の分断許さず、
本土、沖縄貫く一大闘争を

　小泉首相とブッシュ米大統領による日米首脳会談が９月２１日、米ニューヨークで行われた。
　会談では、ブッシュが日本の国連安全保障理事会常任理事国入りを支持したほか、イラク問題、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の「核開発」問題、牛海綿状脳症（ＢＳＥ）発生で停止中の米国産牛肉の対日輸出問題などが議論された、と伝えられている。
　マスコミ発表以外に会談の詳細は明らかでないが、それでも注目すべきは、米国がかねてから検討し、ブッシュが８月に公表した世界的な米軍再編計画（トランスフォーメーション）に関し、小泉がそれに全面的な賛意と協力を表明したことである。
　こんにち、米国が全世界での反米の高まりの下で、孤立にあえぎ、その国際的指導力を大幅に低下させている中で、小泉政権は、苦境の米国を徹底的に支え、英国と並ぶ最大の同盟国として振る舞っている。小泉が米軍再編計画への協力を約束し、そのお先棒を担ごうというのも、新たな米戦略に沿って、世界で米国と一体で軍事的役割を果たそうという狙いに沿うものである。
　この時代錯誤、危険な亡国の道を断固として打ち破らなければならない。

中国に身構え、軍備の高度化・強化策す再編案

　米軍再編計画とは、アジアと欧州に展開する米軍計２０数万人のうち、今後１０年以内に約３分の１に当たる兵力を撤退・再編するというものである。だが、削減はドイツ（５万6000人）でのものがほとんどで、アジアでは陸上兵力を中心とする在韓米軍の削減、後方配備（１万2500人）はあるものの、軍事技術の高度化によって戦力は逆に強化される。ラムズフェルド米国防長官は、アジア太平洋での再編について、①海空戦力の追加配備（空母戦闘群を２個に増強）②特殊部隊の拠点増設③緊急時対応のため複数のアクセスの確保などを明言しているほどだ。
　わが国に関しては、①陸軍第１軍団司令部（ワシントン州）の米軍座間基地（神奈川県）への移転②横田基地（東京都）とグアムの空軍司令部統合のほか、在沖海兵隊１部のキャンプ富士（静岡県）、キャンプ座間（神奈川県）への移転、岩国（山口県）への夜間連続離発着訓練（ＮＬＰ）移転などがもくろまれている。普天間基地（沖縄県）の戦力は、名護市辺野古への代替基地建設という従来案のほか、嘉手納基地への統合、あるいは下地島への新基地建設など、複数案が討議されている。下地島は「台湾海峡有事」に備え、基地新設の必要性が米空軍内部などで検討されている琉球諸島南部、宮古島に近い島である。
　こうした米軍再編計画について、小泉政権は米側と協議を続け、年内にも「中間報告」を作成、わが国における具体化に踏み込もうとしている。さらに、両国政府内では、「対テロ」共同行動などを口実とする、世界規模の日米共同作戦体制強化を目指した「日米安保の再々定義」の準備も開始されている。

米軍再編への協力は亡国の道

　世界的な米軍の再編計画とは、圧倒的優位にある軍事力をより効率的、機動的に配備し、イラク駐留の長期化などで伸びきった在外米軍の負担を軽減するとともに、引き続き「テロ」や地域紛争を口実とする、世界規模での「先制攻撃能力」を維持し、世界の一極支配を守ろうとする米国の悪あがきである。
　アジアにおいては、米国が「核開発」問題を口実に敵視する北朝鮮への対処や、資源、地政上の戦略要衝として重要な中東地域をにらんでのものであるが、より本質的には、経済成長によって国際政治への影響力を増す中国を「仮想敵」として備えることである。米国はアジア・中東地域を「不安定な弧」などと決めつけ、朝鮮半島、台湾海峡、イラン、イラクなどで意図的に軍事的政治的緊張をつくり出すことでこの地域での影響力の維持を狙っている。座間や横田などでの司令部機能統合は、その重要な一環である。
　ここまでくれば、日米安保条約が掲げる「日本防衛」や「極東条項」は完全に空文化し、わが国はアジア太平洋、中東から全世界を射程にした米軍の拠点に「格上げ」され、米国の戦争政策の最前線としてフル活用されることとなる。
　米軍再編への協力は、世界で孤立し、没落しつつある米世界戦略を徹底して支えながら、海外でも軍事的役割を果たそうとするもので、わが国の政治軍事大国化の道である。これは、徹底した対米追随であると同時に、増大した経済力にふさわしく世界規模での政治的、軍事的発言権を確保しようという、わが国多国籍大企業の要求でもある。この下で、武器輸出３原則の緩和や集団的自衛権行使の容認などを含む「新防衛大綱」の策定が進められてもいる。
　経済、政治で没落を早め、軍事力をのみを振りかざした米国の悪あがきに対する全世界の反発が高まる下で、日本はそのすう勢に逆らい、目下の同盟者としての役割を積極的に買って出ようというのである。
　しかし、これはわが国をこれまで以上に、中国をはじめとするアジア、さらに中東と世界に敵対させる危険なもので、戦前の誤りに再度踏み込ませる、「いつか来た道」にほかならない。

反軍基地運動の分断狙う小泉の本土移設案

　許し難いのは、小泉首相が米軍再編計画を協力・推進するにあたって、「米軍の抑止力の維持と沖縄の基地負担軽減の両立」を「原則」として掲げ、米軍基地の本土移設検討を持ち出したことである。
　しかし、すでに述べたように、米軍再編の実態は「沖縄の負担軽減」どころか、わが国全土の米軍基地機能の強化で、いわば、全土の「沖縄化」である。小泉はあえて「本土移設」を持ち出すことで、沖縄と本土の反基地の闘いに分断を持ち込み、沖縄県民の闘いの発展に水をかけようとしているのである。
　だが、小泉が「沖縄の負担軽減」を持ち出さざるを得なかったことこそ、米国と売国小泉政権の最大の弱点にほかならない。
　宜野湾市で８月に発生した米軍ヘリ墜落事件を契機として、９月１２日には３万人が結集した宜野湾市民大会が大成功するなど、沖縄の反基地闘争は新たな県民運動へと発展しつつある。日米特別行動委員会（ＳＡＣＯ）合意に基づく、普天間基地の県内移設案についても、抜本見直しを求める広範な県民世論が高揚している。日米両政府は、沖縄県民の大衆行動の発展を何より恐れるがゆえに、「沖縄の負担軽減」という欺まんを掲げざるを得なかったのである。
　しかし、当然にも本土で、米軍基地の移転・集約先となった自治体の反発は不可避で、すでにその動きは始まっている。再編に名を借りた米軍基地機能強化と日米の世界規模での軍事一体化を許さず、日米安保条約そのものを破棄し、米軍基地をわが国から一掃するための一大国民運動を巻き起こさなければならない。

　ところで、野党第１党・民主党の欺まんを暴露することは、国民運動の発展の上からもきわめて重要である。
　民主党は９月２２日、「普天間米軍基地の返還問題と在日米軍基地問題に対する考え」なるものを発表した。民主党はここで、「普天間基地の返還」を言う一方、普天間の機能「分散」を主張、沖縄での米海兵隊の訓練を引き続き「容認」し、米軍に「嘉手納基地以外の滑走路を手当てする」ことまで主張している。
　これでは、米軍自身の再編計画とどこが違うのか。
　民主党の見解は、沖縄県民の切実な願いにこたえるようなポーズを取りつつ、実際は米軍の再編計画を後押しするもので、きわめて悪質である。日米安保条約容認の民主党に、何ら期待することはできない。
　95年の米兵による「少女暴行事件」を契機に示された沖縄県民の闘いの高揚が、情勢を大きく転換させ、日米両政府を追い詰めたことは記憶に新しい。
　本土と沖縄を貫く安保破棄、米軍基地一掃の大衆行動、国民運動こそ事態を切り開く最も確かな力である。政党の真価は、この国民運動と結びつき、発展に貢献してこそ示されるはずである。
　沖縄県民の闘いを孤立させず、これに呼応し、連帯する本土での闘いが、今こそ緊急に求められている。