労働新聞 2004年9月25日号 社説

連合
参議院選挙総括の犯罪性

 今夏の参院選挙では、昨年衆院選につづいて小泉政権の、対米追随と「改革」加速化の政治に対する国民諸階層の反発と抵抗が広がって、自民党が敗北し、その支持基盤の崩壊が劇的に示された。また、保守2大政党制の一方の装置として自ら位置付けることで、財界・支配層の強力な操作と、マスコミのキャンペーンに支えられた民主党が議席を「躍進」させた。マスコミなどは、「2大政党制が定着」などと評価した。
 この結果を受け、9月13日の民主党臨時党大会で岡田代表は、「次の総選挙で政権交代を実現する」とぶちあげた。
 一方、民主党の最大の支持組織である労働組合の連合は、民主党大会に先立つ8月20日、中央執行委員会で参議院選挙の総括を行った。
 「政権交代のある政治の実現」「2大政党制の確立」を政治方針として掲げる連合は、今回選挙結果について、「民主党が第1党に躍進したことにより、日本の政治に自民党と民主党の2大政党的状態が定着しつつある」と評価。次期総選挙にむけて「政権交代が現実のものとなろうとしている」として、従来「民主党基軸」とした政党支持、選挙支援の路線を事実上打ち消して、「組織の総力をあげて民主党を支えて」いくことを、あらためて宣言した。
 この総括は、労働組合運動の現場の幹部や活動家、社民勢力の多くの皆さんの以降の活動を考える上で、きわめて有害で、見過ごせない内容を含んでいる。これを進めた連合中央指導部の意図を見抜いて、打ち破ることは重要である。

2大政党制は進んだか

 最初にはっきりさせなければならないことは、連合の参院選総括がいう、「2大政党状態の定着」なるものは、本物かという問題である。
 わが党は、「第20回参議院選挙の結果について」(7月25日号)をすでに発表し、暴露しているが、今回参院選挙での与野党の得票結果は、それとは異なる状況を示している。
 民主党は、昨年総選挙でできなかった都市商工業者の支持を若干は手にした。しかし、農村部ではそれほどでもなかった。票欲しさからの農業重視のマヌーバーにもかかわらず、農村県では引き続き伸び悩んだ。これは要するに、この党が自民党からの離反票の、十分な受け皿にはなっていないことを示すものだ。
 自民党以上に徹底した改革政策推進で、財界の走狗(そうく)としての姿を露骨に自己暴露する民主党が、改革政治に苦しみ、怒って、自民党から離反した層の受け皿になれないことは、当然である。
 従って、今回の民主党の「躍進」は、その大半が同じ野党の共産党や社民党のこれまでの支持者が、民主党に幻想を抱き投票した結果、実現したものに過ぎない。これは共産党、社民党の無力さを示すにしても、民主党の前進の基礎が強固で安定的なものと見るべき根拠ではない。
 政府、マスコミなど、あげての投票キャンペーンにもかかわらず、投票率が前回並みの低水準にとどまったことにも、自民党から離れた有権者の多くが、その支持をたくすべき政党を見つけられず、棄権に回ったことをうかがわせる。
 野党内部での相互関係から見ても、民主党の「躍進」は、情勢の変化や共産党、社民党がどのように対応するかで、どのようになるかもわからない、きわめて条件的なものである。
 一方、与党内部での公明党の存在感が増したことによって、自公政権の不安定さがいっそう増している。公明党は最近、民主党との連立の可能性すらにおわすようになった。
 政局は安定どころか、政治、政党再編がいっそう劇的に起こる可能性の高まりを示している。
 参院選の結果は、「2大政党制の定着」と宣伝され、その傾向に向っているように見えても、一方でそれが崩れる要因もまた蓄積されていることを示しているのである。

労働運動内で進む民主党の自己暴露

 しかもこのことに連合指導部も気づき始めている。彼らは「政権交代が現実のものとなろうとしている」などと民主党への幻想をあおりながら、一方で、今回の民主党の勝利が「小泉政権の失点による批判票を集めた一時的なものか、政権を担い得る政党として本当に国民から認知されたのか」「詳細に分析していく必要」があるなどとと言って、民主党が政権の「受け皿」になりえていないことに不安を隠さない。
 しかも、自民党が小泉の改革政治加速化の中で、支持基盤を崩壊させていることも、他人事ではない。自民党による、業界や団体頼みの組織型選挙が効果を発揮しなくなったという、「政治治構造の変化は民主党や連合にも関わるものとして的確に把握していく」と、自民党と改革政治を競う民主党を支えている、自らの存立基盤の崩壊にも恐れおののいているのである。
 この連合指導部の不安、恐れはまさ「的確」である。
 今回参院選挙では、連合の組織内候補は、比例区に民主党公認で8人が立候補したが、それらが獲得した個人名での得票は、民主党の比例代表での得票2114万票のうちわずか8%、173万票にとどまった。前回参院選での9候補、169万票という深刻な結果を受けて、今回は、個人名での投票の徹底を図ったが、わずか4万票しか上積みできなかった。しかも出身母体の組合員数を上回る得票を得たのは、電力総連のたった1人、ほぼ組合員数の得票を得たのが情報労連の1名で、他の6候補は組合員数の2割から6割しか得票できないという惨めな結果であった。自治労の候補者にいたっては、組織人員のわずか16%しか得票できず、惨憺(さんたん)たる結果となった。改革政治推進で有事法制制定に力を貸し、憲法改悪を提唱するなど、労働者の利益をあからさまに裏切る民主党を支持できないことなど、労働者にとって当然である。いまや、連合指導部がどのように言おうとも、多くの連合傘下の労働組合の幹部と現場活動家が、民主党が「働く者の視点に立った」政党などでなく、財界の手足となる党であることに気づいていることを、この2度にわたる実際の結果は示している。

「民主党基軸」から民主党支持一本化への転換

 このような窮地の中で、あくまで民主党政権を夢見る連合指導部は、政党支援と選挙協力について今回の参院選挙結果から、「重要な」教訓をつかみ、方針転換に踏み出した。
 今回の参院選では、社民党が独自候補を擁立した13選挙区(公認10、単独推薦3)で、民主党と社民党が競合することとなった。このことについて、連合の総括は「社民党は議席を得ることができず、うち10選挙区では法定得票数にも達しなかった」と指摘しながら、社民党票と民主党票の合計が自民党票を上回りながら、民主党が敗北したところがあった、と民主党の敗北の責任を、あげて社民党に押し付けた。
 さらに、無所属候補を立てて社民党などと民主党の選挙協力が行われた秋田・新潟・高知・沖縄では、自民党に勝利したものの、無所属候補の多くが当選後も民主党に参加せず、選挙協力にはメリットがなかったと切って捨てた。
 これは、「民主党基軸」として、一部で社民党、無所属候補との選挙協力も容認した従来の方針からの事実上の転換を意味するものである。
 連合は以降、「組織の総力で」民主党を支持するとして、民主党以外の候補者、具体的には社民党の候補者の擁立すら阻止しようとすることは明らかである。
 参院選挙の惨敗から、「再建」をかける社民党はこの事実にどう対処すべきだろうか。
 社民党の参院選総括は、「どん底状態から一歩脱した」とか、「主体的要因の解決なくして今後の展望は開けない」と、それなりに厳しい現状を認め、闘いの強化を通じて支持拡大を図ろうとするなど、うなずけないものでもない。しかし一方で、「甘い」とする批判もあり、何より地方組織が崩壊に瀕し、労働組合の支持がなくなる下で、支配層が強力に進めている2大政党制の攻撃を阻むことができるのだろうか。
 明らかなことは、いまだ社民党内に一部あるような、民主党との選挙協力になど、民主党との連携に一縷(いちる)の望みを託す傾向など、いよいよ論外となった、ということである。


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