労働新聞 2004年9月5日号 社説

税源移譲エサに地方財政削減狙う
「三位一体改革」打ち破れ


 小泉政権による地方財政「改革」の攻撃、いわゆる「三位一体改革」で、政府と地方自治体の矛盾が激化している。
 政府は今年度予算で、国庫補助負担金1兆円、地方交付税1兆2000億円の合わせて2兆2000億円の削減を強行した。他方、国から地方自治体への税源移譲なるものは、所得譲与税などわずか6500億円にすぎなかった。国による地方への仕事の押し付けの実態は変わらないまま、地方自治体の財源が1兆5500億円も減らされたのである。
 この結果、地方自治体は予算編成に窮し、各種基金を取り崩したり、そもそもわずかばかりであった住民サービスをさらに切り捨て、保育や医療、交通事業の民営化・外部委託の導入などで、その犠牲はあげて住民にしわ寄せされた。とくに、自主税源が少ない地方都市や町村は、地方交付税の削減で深刻な打撃を受けた。
 これが「三位一体改革」の実態で、そこには聞こえのよい「地方分権」も「地方の財政自主権の拡大」もない。地方への「税源移譲」は形ばかりで、あるのは国の財政赤字の犠牲押し付けであり、財政削減による、地方の切り捨てにすぎない。
 全国の地方自治体が国への反発を強め、1部では地域ぐるみの抵抗の闘いが始まったのも、当然のことであった。

異例の採決となった知事会案

 しかも、小泉政権は6月、「改革」政治推進の青写真、「骨太の方針・第4弾」を決定した。そこでは、「三位一体改革」について、2005〜06年度に3兆円程度の補助金を削減する。国から地方への税源移譲も、「おおむね3兆円」。さらに、地方交付税の「改革」を目指す、などがうたわれた。そして、地方自治体に対して、税源移譲をエサとして、補助金削減の具体案をとりまとめるよう求めたのである。
 残念なのは、これを受けて全国知事会、全国市長会など地方6団体が8月19日、3兆2000億円の補助金削減リストを決定したことである。しかし、これに先立つ18日の全国知事会では、義務教育費国庫負担金の1部(中学校教職員給与)、8500億円余が削減対象として含まれていることをめぐって議論が紛糾、異例の挙手による採決となった。「知事会は決議機関か」などといった疑問、不満の声が出されるとともに、群馬、山梨、長野、三重、広島、愛媛、大分の7県知事は最後まで反対の態度を貫いた。義務教育費国庫負担金が削減されれば、財源に窮する自治体が教職員の人員や給与の削減に手をつけ、教育水準の低下や自治体による格差の拡大が目に見えているからであった。
 地方6団体は、この3兆2000億円の補助金削減案と共に、3兆円程度の税源移譲の実施と、地方交付税の総額確保などの要求をあらためて政府に提出したが、地方自治体が自ら補助金削減案を打ち出したことは、まさに政府、財界が進める「三位一体改革」の土俵に乗るものであり、自治体関係者、あるいは教育関係者などからの不満や批判の声は高い。
 しかも、この程度の地方6団体案に対しても、財務省はさっそく、31日の経済財政諮問会議で、「骨太の方針」で打ち出した税源移譲3兆円は、今年度実施した6500億円を含む金額だと主張、早くも税源移譲を空文化しようと画策しだした。さらに、地方の歳出肥大化の原因は地方交付税だから地方交付税の「財源保障機能を見直し・縮小して総額を抑制する」と、真っ向から対立する方針を打ち出した。奥田・日本経団連会長や牛尾・前経済同友会代表幹事らの民間議員は、地方交付税を削減するための具体案を提案している。財界や小泉政権の本音は明らかである。

地方・住民への犠牲転嫁求める財界

 小泉政権の改革政治の具体的内容は、小泉首相と竹中経済財政相、奥田や牛尾などの財界代表や御用学者が主導する経済財政諮問会議で矢継ぎ早に打ち出されている。しかも、その基本方向は財界がすでに提言しているものの焼き直しに過ぎない。だから、小泉の地方改革が何のために、どんな状況をつくろうとしているのか、財界の方針を見れば行き着く先が見えてくる。
  地方行財政改革についての旧経団連の提言(00年12月)や経済同友会の提言(02年10月)は、次のように述べている。
 経団連の提言は、「わが国財政が国・地方共に極めて危機的状況に直面」しているとして、その解決を、あげて地方の住民負担の増大で乗り切ろうとするところに最大の眼目がある。それは、「住民の痛みを伴わない対症療法的な財源対策を今後も継続」すれば、企業への「法人課税を中心に増税策が講じられ、経済活力及び、企業の国際競争力の低下をもたらす」と述べているように、グローバル経済下での国際競争に勝ち残るために、企業の税負担を徹底的に削減しようという多国籍大企業の利害と要求に貫かれたものである。
 同友会は、これを実現するために、「もたれ合い・甘えの構造」から「自己決定と自己責任」への転換が必要だとか、「官主導、均質・平等指向」から「個性と活力ある地域創生」の「地域主権型システム」への転換だとかを強調している。これこそ財界の言う地方分権であり、それは地方への犠牲押し付けのための口実に過ぎないのである。税源移譲などは、この目的のために地方へばら撒く、わずかなエサに過ぎない。
 しかも、これら提言では、日米構造協議で米国に公約された430兆円の公共事業投資計画が、国と地方のばく大な借金の出発点であったことには、まったく口をぬぐったままである。国の誘導で地方に借金までさせて単独事業をやらせた90年代の景気刺激策への反省もない。
 財政危機というなら、国民の血税を食い物にしてきた、米国とわが国のゼネコンなど巨大資本、さらに地方の一部支配層にこそ、そのツケを払わせるべきである。
 地方に犠牲を押し付けるニセの地方分権論を徹底的に暴露し、打ち破らなければならない。

地域ぐるみの闘いを発展させよう

 しかも支配層は、昨年の総選挙で「マニフェスト選挙」を提唱・推進して2大政党制を加速さえようと画策した21世紀臨調(奥田が顧問会議議長として自ら指揮する財界の別働隊)の1部として、「知事市町村長連合会議」を結成している。この組織は、増田・岩手県知事を座長に宮城、静岡、神奈川、福岡などの県知事や横浜市長など、「改革派」と言われる首長らで構成されている。この連中は、「真の三位一体改革を」などと財界の意図そのものの提言を繰り返し、自治体間競争論にたった地方の自立、弱肉強食の分権推進を騒ぎ立て、税源移譲への幻想をあおっている。今回の地方6団体の補助金削減案をめぐっても、この連中が「積極的役割」を果たしたのである。「トロイの木馬」よろしく、地方自治体の内部に財界の方針を推進する装置として埋め込まれた、この連中の画策と欺まんをも徹底的に暴露しなければならない。

 すでに奥田ら多国籍大企業の頭目どもが直接乗り出して、小泉を督励し改革加速化、地方自治破壊の先頭に立っている。政府への陳情や申し入れ、あるいはさまざまな協議会だけでは事態を打開できない。地方を上げた対政府行動、闘いこそが自治体を守る確かな道である。
 地方6団体は、5月25日、東京で7000人規模の「地方財政危機突破大会」を開催した。福島県の地方6団体は、5月13日、1900人の総決起大会を開き、JA福島五連、商工会議所連合会、連合が連帯を表明した。長野県ではさらに進んで、県の地方6団体、連合、経営者協会、中小企業団体中央会、商工会議所連合会、商工会連合会など12団体が県民会議を結成、8月27日に1000人の県民集会を開いた。
 こうした動きが全国に広がり、国民運動として大きく発展すれば、政府に政策変更を余儀なくさせる力となる。95年、米兵による少女暴行事件に怒った沖縄県民は、基地の整理・縮小、日米地位協定の見直しを要求して島ぐるみの闘いに立ち上がり、日米両政府を震撼(しんかん)させたではないか。
 地域で働き、暮らし、地域を愛し、地域の発展を願っている住民各層、労働団体、中小商工団体、農民団体、地域のさまざまな諸団体が力を合わせ、地域ぐるみの大衆行動に立ち上がろう。


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