労働新聞 2004年7月25日号

第20回参議院選挙の結果について

日本労働党中央委員会政治局

1、はじめに

 第20回参院通常選挙は、7月11日投票、即日開票された。
 確定した結果によれば、改選121議席のうち、自民党は改選51議席(欠員1)を割り込み、2減の49議席に後退。公明党が改選10議席を1増の11議席に。これによって、与党の自民、公明両党の改選議席数61は1減となったが、60議席は確保した。
 野党の民主党は、50議席を獲得。改選38議席から「躍進」し、自民党を上回った。共産党は改選前15議席を、4議席に減らす大敗であった。社民党も改選前の比例2議席を獲得したが、10選挙区では、7選挙区で供託金が没収された。共、社ともに、深刻な結果となった。
 今回選挙の結果、非改選議席と合わせた参院の新勢力は、自民115議席、公明24議席、民主82議席、共産9議席、社民5議席、無所属7議席となり、結果として、議席数でみる限り、与野党関係にはわずかな変化しか生まれなかった。
 小泉首相は、自民党が改選議席を割り込んだものの、非改選議席を合わせると、国会運営で主導権を握る現状に変わりはないとして、自公連立政権の維持を確認、「改革路線の継続」を掲げ、引き続き政権運営にあたると述べた。自民党や与党内部での責任問題が浮上するならともかく、昨年の総選挙と今回の参議選での敗北にもかかわらず、衆参両院で、依然として安定過半数を制しているのだから、これは当然の理屈ではあろう。
 また、今回の参院選でも、共産、社民両党が大きく後退し、民主が議席を大きく伸ばしたので、マスコミは、昨年衆院選で鮮明となった「二大政党化の流れ」が加速した、と口裏を合わせたようにキャンペーンを強めている。
 今回の参院選の結果は、各党にとって、暑いさなかに絶叫した甲斐があっただろうか。悲喜こもごも、さし当って民主党は歓喜し、公明党はニンマリだろうが、奥田・日本経団連会長に代表される財界、支配層は、支配の安定を手に入れることができるだろうか。
 だが、今回の選挙結果、各党の消長とそこにあらわれた一定の民意、つまり各階級、社会層の意識や動向は、それほど単純なものではない。これを読み取ることが決定的に重要なことである。各政党にとっての悲喜こもごもも、分析してみなければ分からない。

2、選挙結果について、各党の消長

 昨年11月の総選挙では、自民党は公明党の支援を受けたが、10議席を減らした。公明党は、3議席増やした。民主党は躍進し40議席増となった。共産党は11議席減、社民党は12議席激減させた。
 今回の参議選での各党の消長はどうであろうか。

(1)自民党は選挙区で34議席(1978万6954票)、比例区15議席(1679万7687票)で計49議席、改選議席比では2減だが、前回参院選(2001年)比で16減。
 公明党は、選挙区3議席(216万1764票)、比例区8議席(862万1265票)の計11議席、改選議席比では1増だが、前回比で2議席上回った。
 野党の民主党は、選挙区31議席(2193万1984票)、比例区19議席(2113万7458票)で計50議席となり、改選議席数からは12増だが、前回を24議席上回った。
 一方、共産党は、改選前7議席あった選挙区が、1959年以来のゼロ議席(552万0141票)となり、比例区4議席(436万2574票)のみとなった。
 社民党は、選挙区はゼロ(98万4338票)、比例区2議席(299万0665票)のみとなった。(表1・表2)
(2)各党の消長、有権者の各政党への支持の動向を、もっともあらわれやすい比例選挙での絶対得票率で見ると、自民党は、今回の絶対得票率16.37%と前回を4.47ポイントも減らしている。自民党は今や、有権者の10人中2人も支持していない党へと成り果てたのである。
 連立与党、公明党は、8.40%で0.32ポイントの微増にとどまっており、議席にあらわれたほどの前進ではない。
 一方、民主党は20.60%と前回を11.73ポイント増で自民を上回った。
 共産党は、4.25%で前回比0.02ポイントの減。社民党も2.92%で前回比0.67ポイント減となった。
 しかし、今回も最大の勢力は、43.46%を占める棄権した有権者であった。「政権交代」をちらつかせても、これほどの有権者が投票所に足を運ばなかったのである。

3、与党(自民党、公明党)とその相互関係

(1)自民の歴史的後退
 自民党は、今や絶対得票率は16.37%に過ぎない。89年参院選挙で与野党逆転に陥った自民党は、93年に政権を追われ、95年参院選での大敗を底として、若干盛り返し、前回2001年は「小泉効果」で予想以上に善戦し、得票を伸ばしたが、今回、沖縄を除いて全国各県ですべて得票を減らし、89年の水準へと落ち込んだ。(グラフ1)
 特に、政党支持率を問う比例区では、全国平均で、自民党は得票数前回比で20.45%も大幅な減となっている。さらに各県別に見ると、この平均より多く減らしている県が27県あるが、そこには、政令指定都市がある全12都道府県中の、9道府県が入っている。(表4)
 絶対得票率の低い県は、上位10県を大阪、愛知、兵庫、京都、埼玉、福岡、沖縄、東京、千葉、神奈川がしめている。逆に絶対得票率が高いのは、下から島根、福井、鹿児島、熊本、富山、佐賀、山梨、秋田、石川、群馬となっている。
 都市部での後退傾向が鮮明であるが、農村部でも、沖縄を除き得票を増やしている県はない。
 これを、各県人口に占める商業従業者数が多い県、上位10県の平均で見ると、自民党の得票は前回比で22.37%減と全国平均を上回って減らしていることがわかる。ここには、改革に苦しむ、都市中小商工業者の自民党からの離反の顕在化を見ることができる。
 民主党は今回の選挙で、これらの都市部で、社民党、共産党の支持者だけでなく、自民党から離反した中小商工業者の一定部分を、引きつけたと見られる。

(2)公明党依存深める自民党
 自民党の不評、支持層の激減にもかかわらず、与野党関係の逆転を阻止し、自民党を支えたのは、今回も公明党であった。
 今回参院選の、自公両党の選挙協力で、公明党支持者が選挙区選挙で自民党に投票した割合は、マスコミなどの出口調査によれば、約4割(朝日新聞)といわれている。そこで、公明党の各県別の基礎票を、比例選での得票数と見て、その4割を、自民党候補の得票数から引いてみる。すると、僅差で民主党に勝っていた一人区の自民党候補のうち、4人が民主党候補に敗れて落選。一人区でも自民党は民主党に惨敗することとなる。(表3)
 自民党にとっては、公明党の協力がなければ今回程度の議席の確保すら難しいものであった。自民党の公明党への依存は、前回総選挙以上に決定的なものとなった。

(3)与党効果で議席を着実に伸ばした公明党
 連立政権内部の公明党の存在感、発言力は、当然、以降いっそう拡大する。だが、自民、公明両党間には福祉政策や教育基本法、憲法問題、安全保障など少なくない政策上の相違がある。しかも支持基盤との関係で、公明党はさらに独自性を打ち出す必要にも迫られる。これは自民党と連立政権にとって、新たな困難となり、連立さえ危うくするに違いない。そうでなくとも、なにかと両党間の矛盾は深まるであろう。
 他方では、今回選挙の最終局面で自民が重点選挙区として、公明党への支持を重ねて要請した10選挙区のうち、実際に勝利できたのは3選挙区だったともいわれている。今回の公明党の比例選での絶対得票率は、わずかに0.32ポイント増えたに過ぎない。これを指して、公明党の頭打ち、との見方もある。

4、野党(民主、共産、社民)とその相互関係

(1)民主党は農村票の受け皿になれず
 躍進が言われる民主党は、なによりも共産党と社民党のこれまでの支持者の大半を引きつけて、比例区で前回(自由党の得票を含む)比平均59.92%得票を増やしたが、この平均値以上に得票を伸ばした23都道府県中、政令市を含む県が八道府県あり、都市型の県での前進が顕著であった。だが、増やしているとはいえ、伸び率が低い県は、下から岩手、富山、山梨、徳島、長崎、福島、長野、島根、宮崎、和歌山と続き、農村型の県での伸び悩みは続いている。
 自民党は農村部でも票を減らしているが、民主党も農村部では、都市部と比べてそれほど伸びず、自民党から離反した農村票の十分な受け皿になりきっていないことがわかる。
 この党は、昨年総選挙以降、意識的に農業重視のポーズをとり、食糧自給率向上や、農家への所得保証を明記した農業政策を発表したりと、農村票の獲得を執拗に画策した。しかし、結果は、それほど効果があらわれなかった。自民党と改革政治を競い、多国籍大企業のために、自由貿易協定(FTA)推進を掲げて、日本農業を犠牲にしようというこの党の基本政策を、農家ははっきり見抜いているのである。
 都市部における中間層、中小商工業者は、前回総選挙では民主党に期待せず、デフレ不況のなかで、政権党の自民党への依存を深めた。しかしこんにち、いよいよ危機は深まり、小沢、岡田という保守体質を前面にかかげた民主党への期待を高めたものと思われる。民主党の都市部での躍進の一部には、明らかに、この部分が含まれている。

(2)共産、社民のこれまでの支持者が、民主党に投票した
 今回選挙は、昨年総選挙に続いて共産党、社民党という少数野党にとっては、きわめて深刻な結果となった。
 共産党は、ついに選挙区での議席をゼロにするという、大敗を喫した。比例選での得票の伸びは、前回比0.77%増にとどまったが、この平均値以下で、前回比得票を減らした県は21都道府県ある。その中には、埼玉、東京、大阪、京都など、この党が比較的強いといわれ、選挙区でも当選者を出していたか、かつて出していた都市部での後退が目立った。
 選挙区選挙でも、東京が4割、大阪が3割余も得票を減らして、同様な低落傾向を見せている。民主党にこれまでの支持者の大半を奪われたからである。
 不破ら指導部は、いまさらのように二大政党への財界の攻撃を語るが、それは言い訳にもならない。民主党への幻想をあおったのは、ほかならぬ共産党であったからである。「野党共闘」という幻想をふりまき、敵の装置としての民主党を暴露できないこの党が、選挙の期間だけ民主党を暴露する。それは、なんともこっけいな姿であった。
 社民党は、現有2議席にとどまったとはいえ、敗北は疑いない。しかも、比例選の得票率で見れば、前回比17.58%の減と後退した。選挙区で公認候補を立てた10選挙区では、7選挙区までが法定得票数に届かず、供託金を没収されるという惨状であった。「党再生の足場を保った」というにはかなりの無理があろう。

(3)いわゆる野党の選挙協力について
 社民党が、民主党との間で選挙協力を行って、独自候補を立てず、民主党候補あるいは無所属候補を推薦した、秋田、新潟、大分、沖縄の各県では、沖縄の70.73%減を最高に、どこでも比例選挙での得票を、全国平均よりも激減させた。しかも、同選挙区での民主党の比例票は、全国平均以上に大きく増加させているのである。(表5・表6)
 選挙協力がどの党にとって有利な結果を示すか、今回は劇的にあらわれた。
 民主党は、「社民党が独自候補を立てなければ、勝てた選挙区が3はある」などと言って、かさにかかって攻め立てようとしているが、今回の結果から学ぶべきことは多い。
 民主党と選挙協力をすれば、民主党への幻想をそれだけ広めることになる。社民党の都道府県連に、立てる力がない場合もあるが、民主党への幻想があるからでもある。こうして何とかしのごうとするのでは、中途半端で、もはや展望はない。
 民主党や共産党との合流論もあると聞くが、激動、大乱の時代だから、政党の分化再編は結構なこと。だが、「生き残る」などとの発想は、小さくて問題にならない。だれが、どの党派が、幾千万有権者の願いにこたえるかである。この状況下では、社民党、新社会党その他の皆さんが団結し、より幅広い勢力を結集し、強力な国民運動の組織者としての、新しい党を目指すのが、唯一の選択肢ではなかろうか。

5、選挙結果の特徴、展望

 今回の参議選の結果は、「小泉効果」が完全にはげ落ち、自民党の支持基盤は崩れ、敗北した。民主党は躍進し、「政権交代の可能な二大政党制」に向かって、わが国の政治状況は大きく前進した、と解説されることが多い。そして冒頭で述べたように、参議院での与野党の新勢力関係は、ほとんど変わらなかった。衆、参両院ともに、与党が安定多数を制しているのである。
 では、わが国支配層は、政治の安定的支配を手にすることになるだろうか、二大政党制はこのまま定着するのだろうか。これまでの分析から明らかになったのは、マスコミの解説とは反対のこと。政治、政党の再編がいっそう劇的に起こる可能性と、二大政党制に向かっているようだが、それが崩れる要因もまた蓄積されつつある、そんな展望である。

(1)与党、自民党と公明党
 自民党の支持基盤が崩れ、党が衰退に向かったのは、今に始まったわけではないが、近年の改革政治やイラク戦争への参加で見るような、恥知らずな対米追随、海外派兵の結果での加速化でもある。
 自民党は、支持基盤が崩れるので、公明党にますます依存する。昨年の総選挙、今回の参議選挙ではっきりしたように、もはや公明党の支援なしでは第一党の座も危うくなった。
 公明党は、自民党と連立を組んで与党効果を利用し、発言力を強め、議席増加を図っている。
 こうした与党とその内部構造、その矛盾は、小泉政権とその与党が推進する対米追随、売国と改革政治の、不可分な結果として、深まっているのである。自民党内では、存亡をめぐって危機感が高まっている。対立面としての野党、民主党の前進も、さらに危機感を増幅させている。与党としての自公連立が、いつまで維持できるだろうか。
 こうして、現在の政治の継続は、それを可能としている条件をますます掘り崩すことになる。

(2)野党、民主党と共産党や社民党
 奥田のような財界、支配層が、政治の安定的な支配構造として、二大政党制を強力に進め、マスコミの大合唱のなかで、民主党は躍進を始めた。
 今回の参議院選挙では、昨年の総選挙でできなかった都市商工業者の支持も、若干は手にした。だが、農村ではそれほどでもなかった。
 これは要するに、自民党支持からの離反者の、十分な受け皿にはなってはいないことを示すものであった。したがって今回の民主党の躍進は、その大半が、共産党や社民党のこれまでの支持者が、民主党に幻想を抱いて投票した結果として、実現した。
 民主党は、小沢の自由党と合流して岡田体制となったが、票欲しさで、さまざまなマヌーバー、ごまかしをやっているが、財界の走狗(そうく)という点でも、改革推進でも、自民党も顔負けである。
 今回の選挙では商工業者向けの政策、また、とくに農業問題ではごまかしをやって票をかすめ取ろうとした。だが、十分には果たせなかった。
 だが、民主党は、多国籍大企業の主導する財界の走狗であり続けながら、どうして自民党からの離反者の支持を受けることができるだろうか。ここに矛盾がある。
 したがってこの党、民主党の総選挙と今回の参議院選での躍進も、強固なものではない。共産、社民からの民主への大変な票の移動は、両党の無力さと、有権者の一時的な幻想に過ぎない。自民党離反者の十分な受け皿になりえないことは、すでに述べた。
 こうした分析と判断を加えると、民主党の躍進も、野党内部での相互関係も、きわめて条件的であることがわかる。

(3)展望
 小泉政権を支えている現在の与党体制は、衆参で安定多数を制していながら、いつ崩壊するかもしれない。野党民主党の躍進も条件的で、安定したものではない。早晩、政治と政党の再編は、劇的変化に見舞われるであろう。そんな時期が近づいている。
 イラク多国籍軍への派兵、また膨大で、展望のないドル体制維持のための為替介入など、外交、安保にとどまらず、経済でも、わが国は深刻な岐路に直面している。八方ふさがりのブッシュ、米国を見ながら、小泉政権は、手探りの内政と「出たとこ勝負」の外交をやっている。
 奥田など財界、支配層にも、動揺と変化が見られ、内政や外交、安全保障問題など、一般に政治問題に異常なほどに口を挟むようになっている。彼らにとっても厳しいからである。
 われわれにとっても、闘いの時がやってきたのである。構想は大きく、闘いは大胆なほどよいのである。国民の不満は、言ってみれば、見渡す限り枯草のようだからである。

表1 各党の獲得議席数
表2 各党の比例区得票数と絶対得票率
グラフ1 各党の絶対得票率の推移
表3 公明党の自民党候補者への「貢献」度(自民が勝利した一人区)
表4〜6 自民・民主・社民の得票数の増減率(比例区01年比・昇順)
(自民)        (民主)       (社民)

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