労働新聞 2004年7月15日号 社説

04年度防衛白書

全世界規模の対米軍事支援、
海外派兵拡大を叫ぶ

 小泉政権が、イラク駐留多国籍軍に自衛隊を派兵する中、「04年度版防衛白書」(以下「白書」)が7月6日、閣議で了解され、発表された。
 白書は、米国によるイラク占領・統治を支える多国籍軍派兵をあらためて正当化し、さらなる海外派兵のための体制整備など、対米追随の軍事大国化の道を加速させることを公言している。
 しかも重大なのは、政府はこの白書が打ち出した内容を、今年中に策定される「新・防衛計画大綱」に盛り込む方針だということである。
 これは、全世界での反米の機運と闘争の高まりの中、孤立し、衰退を深める米帝国主義にあくまで付き従って、世界規模で軍事でもこれを支えようとするもので、世界のすう勢に反し、わが国を孤立と亡国へと導く最悪の道である。
 白書の打ち出した方向とその狙いを暴露し、徹底的に打ち破ることは、わが国の平和と安全を守り、独立・自主の国の進路を実現する闘いを発展させる上で、きわめて緊急、重要な課題である。

対米追随の海外派兵拡大を目指す
 今回の白書の第一の特徴は、その徹底した対米追随ぶりにある。
 白書は、イラク多国籍軍への自衛隊の派兵を、「日米同盟の実効性」を高めたものとして、日米同盟優先の角度からあからさまに評価、賛美している。
 その上、日米同盟を「世界における広範な課題を対象とした協力関係」とすべきだとして、全世界規模での日米の軍事一体化、共同作戦体制の強化を目指す立場を鮮明にしている。
 そしてそのため、従来、自衛隊法で「付随的任務」と位置付けられてきた国連平和維持活動(PKO)などの海外派兵を、「防衛出動」と並ぶ自衛隊の「本来任務」に格上げすることを提案。さらに、海外派兵を専門任務とする「国連待機制度」、つまり常設の海外派遣部隊の創設をも提起しているのである。
 白書は、「独裁政権や国際テロ組織に蝕(むしば)まれた国家が崩壊した場合、責任ある国家へと再生させることも国際社会の課題」「イラクはテロとの戦いの最前線」などと、米国の「ブッシュ・ドクトリン」そのままの表現で、米英による野蛮なイラク侵略戦争を賛美し、自衛隊派兵の合理化にやっきとなっている。
 そして、イラク多国籍軍への派兵という既成事実の上に立って、ついにその常設の、専門部隊の創設を実現しようというのである。
 「待機部隊」の任務は、「国連」という外皮をかぶせてはいるが、イラク派兵でも明らかなように、実態は米国の世界戦略に対する軍事面での支援にほかならず、全世界で米軍が引き起こす侵略戦争に即応し、派遣される部隊である。これはまさに海外派兵の常態化で、事実上、海外遠征軍の創設を意味することになる。
 しかし、独仏などの欧州やロシア中国などがイラク多国籍軍への派兵を行わず、米国の全世界での孤立と、その国際的指導力の弱まりが劇的に進む中で、この白書の提起する方向は、まさに時代錯誤、世界の大勢に逆らう孤立と亡国の選択と言わねばならない。

アジア敵視で軍備増強を合理化
 第二の特徴は、中国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)などをあからさまに仮想敵国扱いし、危機をあおり立て、軍備増強を急ごうとしていることである。
 白書が描く情勢認識の基本は、「大量破壊兵器や弾道ミサイル、テロ攻撃などの新たな脅威」の登場であり、具体的には、北朝鮮と中国への露骨な敵視である。
 とくに北朝鮮に対しては、8ページ以上に渡って「ミサイル」などの「脅威」をあおり、「東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因」などと決めつけている。中国に対しては10ページも割き、軍事費の増大などをあげ、随所に「注目していく必要がある」との表現が使われるなど、「警戒」をあおることに懸命である。
 これはまた、拉致問題や「核問題」などを口実とした北朝鮮敵視、小泉首相の靖国参拝や尖閣諸島問題を利用した意図的反中国、排外主義キャンペーンと軌を一にするものである。しかし、どのような意味でも、北朝鮮や中国がわが国を攻撃する必要性がないことは明白である。むしろ日米安保体制下で、世界第二の軍事費大国となったわが国こそ、脅威である。
 さらに白書は、抑止力として「存在する自衛隊から、より機能する自衛隊への転換」を打ち出し、自衛隊の実戦能力の強化、装備の高度化・再編の方向を提示している。
 具体的には、「対テロ、弾道ミサイル」と「核・生物・化学兵器などに即応できる部隊を保持する」方向に転換するという。これは、北朝鮮や中国に身構えた、即応能力ある実戦部隊の常設を意味する。
 しかも、陸海空の三自衛隊を統合指揮する統合幕僚長(仮称)を置き、情報本部を防衛庁長官の直轄とすることで、指揮の一元化も図るという。
 この狙いは、統合運用で実戦即応能力を強化すると共に、米軍との共同作戦が効率的にできる体制をつくり上げようということである。
 これは、北朝鮮への封鎖と軍事どう喝を続け、台湾海峡での危機をあおり続ける米国とより一体化し、その先鋒の役割を果たそうということにほかならない。これが、北朝鮮や中国の不信感を拡大させ、アジアの緊張を高めることは明確である。

米国と財界の意に沿って武器輸出3原則の見直しを提言
 第三の注目すべき特徴は、昨年12月に閣議決定された、米主導の弾道ミサイル防衛(BMD)構想への参加と、それと関連して、日本側開発部品を対米輸出するための、「武器輸出三原則の見直し」を公然と打ち出していることである。
 すでに、昨年11月の、ラムズフェルド、石破による日米防衛首脳会談では、その正式発表とは異なり、ミサイル防衛と「3原則見直し」が密かに議論されていたことが暴露されている。この6月下旬に来日したオベリング・米国防総省ミサイル防衛局長もまた、「3原則見直し」への「強い期待」を表明した。
 「武器輸出3原則」は、67年に佐藤政権が表明以降、わが国内外の警戒感と反対の声に押され、まがりなりにも維持され、わが国の武器輸出は原則禁止されてきた。83年に当時の中曽根政権が、武器技術に関して、対米輸出を例外としたが、今回は、武器そのものの輸出を解禁し、米などとの共同開発・生産へ踏み込もうというものである。
 ありもしない「弾道ミサイルの脅威」などを理由とするBMD自身が、北朝鮮や中国への敵視の産物であり、徹底した対米追随の代物である。同時に、米国はBMDを口実に、わが国の高度な科学技術、その応用である武器そのものを吸い上げ、自国の軍事力や経済の振興に役立てようとしているのである。
 またこれは、対米従属の下で、次第に、経済力にふさわしい軍事力を手に入れ、世界での発言権を得たいとする、財界、多国籍大企業の要求でもある。
 財界は、5月末の日本経団連第3回総会で「国の基本問題検討委員会」を発足させ、憲法改悪や、集団的自衛権の容認などと併せて、武器輸出三原則見直しを検討し、提言することを決めている。
 イラク、アフガン人民の頭上に降り注ぎ、残虐な殺りくをほしいままにした米軍の精密誘導兵器の心臓部にも、日本製の技術が多数詰め込まれていたことを忘れてはならない。わが国軍需産業は、いよいよ対米武器輸出と共同研究へと本格的に踏み出し、先端軍事技術を獲得し、軍事大国への道を急ごうとしているのである。

 多国籍軍への派兵など、小泉政権の進めるあまりの対米追随、アジア敵視の軍事大国化の道に対して、保守層内部からも批判や危ぐの声が広がっている。
 わが国の進路をめぐって、国論は今、重大な岐路を迎えようとしている。広範な国民的戦線を組織し、運動を巻き起こす好機である。
 白書が打ち出した、対米追随でアジア敵視の、軍事大国化、海外派兵拡大の道を、徹底的に暴露し、闘わなければならない。


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