労働新聞 2004年7月5日号 社説

イラク、「主権移譲」劇に
見る米国の窮地

国民運動強め自衛隊撤兵を

 イラク国民の闘いをはじめとする全世界の反米気運の高まる中、突如として6月28日、連合国暫定当局(CPA)からアラウィ・イラク暫定政府への「主権移譲」が発表された。イラク国民の抵抗におびえ、外出もままならなくなっていた米国とその傀儡(かいらい)どもは、予定の2日前、しかも密室で5分間、たった6人で「主権移譲」の式典をデッチあげた。
 今回の「主権移譲」劇は、形を変えた米軍による占領に過ぎない。だが、予定を繰り上げて、ぶざまな式典を行わざるを得なかったことは、直後に、CPAのブレマー行政官が、「脱兎(だっと)のごとく」米国に逃げ帰ったことと合わせ、孤立を深め、窮地に立たされた米国の姿を象徴するものとなった。

米軍のイラク占領は続いている
 暫定政権発足により、米英を中心とする占領軍は多国籍軍と名前を変える。だが、占領という実質が変わるわけではない。米軍13万8000人を中核とする16万人規模の多国籍軍は、「新政権発足まで」と言う名目で駐留する。この多国籍軍の軍事作戦を、イラク側が拒否する権限はない。
 暫定政権を構成するのは、米中央情報局(CIA)とも通じているとされるアラウィ首相など札付きの連中だ。しかも、政府機関には約200人の外国人「顧問」が任命され、うち約150人は米国人である。さらに米国は、旧大統領宮殿に職員2000人規模(世界最大)の在イラク大使館を残す。
 まさに暫定政権とは、米国の傀儡(かいらい)そのものである。イラク国民が政権の正当性を認めず、「主権移譲」後も、政権それ自身を攻撃目標とする闘いが続いているのは、当然のことと言わねばならない。「イラク人自身の手に、統治権限が戻った」(読売)などという政府、マスコミなどの評価は、まったくのデタラメである。

窮地に追い込まれた米帝国主義
 この「政権移譲」の演出は、全世界での反米の気運と闘争の高まりの中で、国際的孤立に追い込まれた米国の窮地を象徴的に示している。
 米国は、イラク国民の反米闘争が激化し、占領が泥沼化する状況の下で、軍事的、財政的負担を軽減するために、「主権移譲」で「軍事力を政治的正当性に転換させる」(キッシンジャー元国務長官)ことを狙っていた。それはまた、25カ国へと拡大した欧州連合(EU)が国際政治上も発言力を増し、仏独を中心に米国への戦略的対抗を強めると同時に、中国、ロシアなども「多極化」を掲げた動きを強め、スペインの撤兵など、「有志同盟」が崩壊する中で、迫られた転換であった。
 そのためには、占領軍を多国籍軍に編成し、北大西洋条約機構(NATO)軍を引き込むこと、イラク開戦時には無視し、「機能不全」とまでののしった国連さえも使って、主要国にイラクへの関与を促すことであった。
 しかし、国連安保理決議1546では、多国籍軍の駐留期限や暫定政府との関係などで、米国が大幅な妥協を迫られた。
 さらに、「主権移譲」と同時期に行われたNATO首脳会議では、仏独は引き続き、NATO軍の多国籍軍参加を拒否、国連での譲歩にもかかわらず、米国は多国籍軍の編成でも思うようにいかなかった。会議は、イラク治安部隊の訓練で一般的に合意したにすぎず、それもイラク国内での訓練は拒絶された。イラクへの債権放棄についても、具体的合意はなく、米欧の対立は埋まっていない。
 NATO首脳会議は「イラクの民主化という難事業を支える国際社会からのメッセージ」(読売)どころか、米欧対立の激化と米国の孤立を、いっそう際立たせた。
 米兵の死者はすでに千人を超え、捕虜虐待問題まで暴露され、米国内ではブッシュ政権批判が強まっている。大統領選挙でのブッシュ再選も保証の限りではなくなった。
 こうした米国の窮地とは逆に、全世界的な反米闘争・気運は前進している。反米の国際的世論と闘争は、いまや大勢である。
 フセイン政権を凶暴な武力で転覆し、「勝利」を勝ち誇ってからわずか1年、米帝国主義の凋落(ちょうらく)ぶりは、まさに急速である。

民主、共産のペテン許さず、自衛隊撤兵の国民運動発展を
 ところが、わが国小泉政権は、米国の孤立と欧州の対米対抗の強まりなど、全世界の反米の高まりというすう勢に逆らい、相も変わらず対米追随を続けている。
 イラク開戦前から米国を支持し、占領軍への派兵や多国籍軍への参加も真っ先に表明してきた小泉政権だが、突然の「主権移譲」にも相談にあずかれないまま、またも「歓迎」を表明、ぶざまな売国奴ぶりをあらわにした。
 小泉政権は、「主権移譲」にともなって28日、自衛隊を多国籍軍に参加させた。自衛隊は米英とより一体的となって、イラク国民に敵対することになる。
 それどころか、小泉政権は米国に対し、「イラク復興支援国会議」を10月に東京で開催するよう提案した。米国のお先棒を担いで「復興」を主導し、その分け前にあずかると同時に、国際政治上の発言力強化を狙おうといものである。
 だが、イラクでは自衛隊が公然と占領軍に参加、米軍の手先として人民に銃口を向けている。こういう国が「復興」を口にするなど、盗人猛々しいにもほどがある、というものである。
 保守層、支配層の中にも多国籍軍派兵への不安と躊躇(ちゅうちょ)が高まっている。今こそ、自衛隊の撤退を求める、国民的運動発展の好機である。
 ところが、こうした中で、国民運動の高揚に水をかけ、混乱を持ち込もうとしているものこそ、野党第一党の民主党である。
 彼らは、多国籍軍への自衛隊の参加に表面上は「反対」している。しかしその反対は、自衛隊が駐屯しているサマワが戦闘地域か否かとか、国連決議に基づく新法が必要だとか、結局のところ手続き論に過ぎない。自衛隊がいったんイラク国外に退去し、新法ができれば、喜んで多国籍軍に派兵しようというのが結論である。
 そもそも民主党は、かねてから、「国連決議に基づく自衛隊の活用」を主張、多国籍軍への参加は、この党を事実上牛耳る小沢前代表代行の持論でもある。
 しかも、最近の同党憲法調査会の報告では、国連決議に基づく国連軍や多国籍軍などの集団安保活動への参加を明記した。多国籍軍どころか国連軍にも参加する。これは、小泉以上に海外派兵を主張するもので、これこそこの党の本音である。民主党は、すでに方針転換の準備を整えているのである。
 日米安保堅持と対米関係基軸のこの党の基本政策からして、これは当然のことでもある。参院選挙対策の「多国籍軍参加反対」のポーズなど、到底信用できるものではない。
 一方、共産党はどうか。
 共産党は、多国籍軍編成の根拠となっている国連決議1546について、「国際社会の願いが反映されている」(志位委員長)などと、またも国連への幻想をあおり立てている。この党は、国連決議自体が、米国が追い込まれて持ち出したものであり、「譲歩」も当面の術策に過ぎないことを一言も暴露しない。
 こうして、国連が中立で公正な国際機関であるかのような幻想をあおることで、それを隠れみのとする米国を免罪しているのである。これは、国連決議に基づく自衛隊活用を主張する、民主党とまったく同じ立場である。
 これでは、米帝国主義や、それに追随する小泉政権と闘うことはできない。わが国の平和と自主的な進路を願う国民は、民主党、共産党に希望を託すことなどできない。
 広範な国民的戦線と、国民運動の強化こそが、わが国の自主的な進路を切り開く真の力である。そして、この国民運動と結びつき、自主、平和の国の進路を目指す、新しい議会の野党を形成すること。これこそ、当面の政治局面での、社民主義諸勢力をはじめとする進歩的人びとの共同の、喫緊(きっきん)の課題である。
 全国、地域での、共同の闘いの陣形づくりを急がねばならない。


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