労働新聞 2004年6月15日号 社説

シーアイランド・サミットと
小泉の売国外交

多国籍軍派兵を許すな

 米国シーアイランドで開催された第30回主要国首脳会議(サミット)で小泉首相は、窮地の米ブッシュを一人支え、またぞろ米国のちょうちん持ちを演じた。ブッシュの議長総括に「拉致問題」の文言を入れてもらった小泉は、「一定の存在感を示せた」などと得意満面だが、この結果わが国民が負わされた代償は、極めて重大なものである。
 小泉は、サミット前日の日米首脳会談で、イラク問題の新たな国連安保理決議が採択される前から、「世界の中の日米同盟の観点から」などと、早々とイラク多国籍軍への自衛隊派兵をブッシュに約束、サミットでも重ねてその立場を表明した。
 周知のように湾岸戦争以来、ソマリア、ルワンダ、アフガニスタンと国連関与の下で多国籍軍が編成されてきたが、日本はこれまで海外での武力行使を意味する多国籍軍への参加は憲法に違反するとして、さすがに自衛隊の参加を見送ってきた。 今回小泉は、従来の政府見解すら反故(ほご)にして、「武力行使と一体化しない」「人道復興支援」などという見え透いた欺まんで、明確な憲法違反の多国籍軍派兵を強行しようというのである。
 国連決議がどう言おうが、多国籍軍が米軍の指揮下で、イラク占領、「治安維持」という名の掃討作戦など、武力行使を目的としたものであることは明白である。「武力行使と一体化するか、しないか」などは、それこそ神学論争で、軍靴で蹂躙(じゅうりん)される占領国民にとってみれば、それは皆、敵、占領軍である。
 ことは憲法違反というにとどまらず、わが国安保、外交政策を画す重大事で、これを許すことは、わが国の進路にとって重大な禍根(かこん)を残すものとなろう。
 小泉の今回の突然の対米公約に、自民党の中からさえ「非常に慎重であるべきだ。なし崩し的に次から次へと自衛隊が海外に派遣される状況が起きてくるのではないか」(古賀誠元幹事長)などと、批判、とまどいの声が上がっている。

国連新決議は米国の衰退を象徴
 イラク侵略戦争開戦から1年余を経たこんにち、米国の孤立、その国際的な指導力の低下はだれの目にも明らかとなった。
 昨年5月、早期にバクダットを陥落させ、得意満面で「戦闘終結・勝利宣言」をしたブッシュだったが、イラク人民の反占領、反米の抵抗闘争は日毎に高まり、戦闘はイラク全土で激しさを増し、米兵の戦死者も、すでに800人を越えるなど、米国は完全に泥沼にはまった。苦境の米軍は、ついに在韓米軍の一部すらイラク戦線に投入せざるを得ないほどに追いつめられた。
 戦争の「大義」だった大量破壊兵器は未だ発見されず、さらに米英軍によるイラク人捕虜への虐待も明るみに出て全世界の憤激を買うなど、米国の国際的孤立はきわまった。
 米国が侵略戦争に動員した「有志同盟」も、スペイン、ホンジュラスなどがイラクからの撤退を決め、ポーランドも動揺するなど、まさに崩壊の淵に立っている。
 さらに戦費調達でも日本以外の国はみな出し渋り、かさむ駐留経費は米財政を圧迫。急増する双子の赤字に追い打ちをかけ、米経済の不安要因を拡大させている。
 ここに来て、米国内でのブッシュの支持率も急落、大統領選にも黄信号が灯(とも)りだした。
 一方、イラク開戦に当たって、安保理での拒否権も辞さずと反対したフランス、ドイツなど欧州は、政治、経済、軍事面で独自性を強め、米国に対する戦略的な対抗を強めている。5月の欧州連合(EU)の中東欧への拡大、25カ国体制の発足は、新旧欧州などと呼んでEU内の離間を策した米国の意図をとん挫させ、むしろ国際政治での欧州の存在感を増している。さらに欧州は、ロシア、中国などと「戦略的パートナー」としての関係を強め、「多極化」を掲げ、米の一極支配に反対する世界の流れを加速させている。
 このような中での新たな国連安保理決議1548は、米国が、イラク開戦時に「機能不全」とまでののしった国連に助け求めざるを得なかったという意味でも、その決議内容で、多国籍軍の駐留期限や暫定政府との関係など、米軍の主導権を削ぐことを狙う仏、独など欧州、ロシア、中国などの要求に妥協せざるを得なかったという意味でも、米国の窮地と衰退を象徴するものであった。
 それは、欧州の戦略要衝である産油地帯、中東を抑え、引き続き欧州を支配下に組み敷いて、世界一極支配の維持を狙おうとした、米国の戦争目的が、その欧州の力を借りねば、イラク占領すら維持できないというほどに、破綻に瀕したことを意味している。

戦略性のかけらもない小泉従属外交
 国連での新決議、そしてそれに続くサミットは、表面上、米欧関係修復と協調を演じて見せた。しかし、米国の危機は深く、米欧間の矛盾が本質的に解消されたわけではない。
 フランス、ドイツ、そしてロシアは、多国籍軍に自国軍隊を派遣をしない意向を変えず、北大西洋条約機構(NATO)軍の関与すら見送られた。
 また資金支援、とりわけイラクの債権放棄については、サミットでも調整がつかず、結論が持ち越された。
 米国が提唱した「大中東圏構想」についても、独仏などは米国の主導権に反対し、「中東諸国の自主性」を主張して、米国に妥協を迫った。
 自らの資源、エネルギー供給地としての中東の安定化では妥協した欧州だが、以降の指導権をめぐっては米欧間の矛盾、その対立の火種は引き続き大きく残った。
 米国の妥協は戦術的で、世界支配の野望をあきらめたわけではない。窮地の米国の悪あがきは、米欧対立をいっそう激化させ、中東、そして世界をいっそう不安定なものとしよう。
 ところが、このような中でわが国、小泉政権は、自衛隊の多国籍軍への派兵を早々と表明、イラク債権の放棄、そして復興支援の名目の政府開発援助(ODA)の大盤振る舞いや、「大中東圏構想」推進のためのプロジェクトなどを約束、その対米支援は世界でも極めて突出したものとなった。これは、深まる米欧対立と動乱の世界の中で、多国籍軍の名目で、米国の従僕として、全世界の戦場へ軍隊を派遣するという、わが国をあえて危険にさらし、孤立と亡国へと導く道である。
 小泉にとっては、これら一連の大盤振る舞い、とりわけ多国籍軍への参加という対米支援策は、訪米直前の、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)再訪問という、政権浮揚のための外交的術策を、米国に認めてもらったことに対する高い対価でもある。政府内の調整すら済まず、与党内でも異論と戸惑いがある中での、ブッシュへの唐突な申し出にも、追いつめられた小泉のさもしい下心を見ることができる。しかし、この小泉の政権浮揚策は、以降国民に重大なツケ、深刻な負担を負わせることとなった。そしてこれは、小泉自身の窮地をも加速するものとなろう。

民主党の欺まん打ち破り、多国籍軍派兵反対の闘いを
 今や、米国の衰退は鮮明で、自衛隊のイラク派兵を合理化するため、小泉やわが国の売国奴どもが吹聴した「米国の世紀が百年も続く、米国が世界の再編に乗り出した以上、従うことが国益」などの「恐米論」は、早くも完全に破たんした。
 多国籍軍派兵と小泉の売国外交は、保守層も含む国民的反発を呼び起こし、国論は重大な岐路に直面しよう。
 しかし、このような時、野党第一党の民主党は、犯罪的にも、この問題で、意図的にあいまいな態度をとり続けている。
 そもそも民主党を実質的に牛耳る小沢は、国連決議に基づく多国籍軍参加には積極的態度を取ってきた。すでに民主党内には、自衛隊がいったん撤退すれば、あるいは国連決議に基づく「新法」があれば、参加を容認しようとの意見も表面化している。この党の「多国籍軍参加反対」はしょせん、欺まんに満ちた参院選対策のポーズにほかならない。
 平和と国の独立、自主外交を求める広範な国民は、民主党に期待することなどまったくできない。「日米基軸」路線の、この党の欺まんを打ち破り、広範な国民運動を巻き起こし、多国籍軍派兵に反対して闘おう。


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