労働新聞 2004年6月5日号 社説

再び平壌宣言を
反故にしてはならない
わが国独立・自主外交の
一つの試金石である

 5月22日、小泉首相は一昨年に続いて再度朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪問し、金正日総書記と首脳会談を行った。
 この会談で、両者は(1)日朝平壌宣言が「日朝関係の基礎」であると再確認し、(2)国交正常化交渉再開に向け協議する、(3)北朝鮮は核問題の解決に向け六カ国協議の進展に努力する。ミサイル発射実験の凍結を再確認、(4)平壌宣言を順守する限り、日本は北朝鮮への制裁措置を発動しない、(5)日本は食糧25万トン、1000万ドル相当の医薬品を人道支援する−−ことなどを確認し合った。
 また、日本側が要求していた拉致被害者家族八人のうち、拒否した3人を除く子供5人が来日、両親との再会を果たした。金総書記は、安否不明者10名の再調査も約束した。

訪朝結果をめぐるさまざまな評価
 今回の小泉首相の再訪朝をめぐっては、政府、自民党内ですらその評価は分かれている。「首相の英断」を称えるものから、「訪朝は成果がなく、北朝鮮に譲歩しすぎ」などの強硬意見まであるが、「参院選に向け首相を支えていく」との発言が、おおむね多数派である。
 野党の民主党は、核問題での追及がない、あるいは「制裁発動しないとの言質は北朝鮮への圧力カードを捨てるもの」などと言って、自民党反動派以上に北朝鮮敵視の姿をさらけ出した。
 他方、社民党は、肯定的に評価している。共産党にいたっては、双手をあげて「歓迎」し、不破共産党議長は「政府に協力する」とまで言って小泉を褒(ほ)め上げている。
 マスコミは、直後の世論調査結果を発表し、6割以上の国民が再訪朝を支持していると報じた。低落傾向を強めていた小泉政権の支持率も上向いているという。参院選に向けて、小泉の政権浮揚策は、一定の効果が予測される。

平壌宣言反故(ほご)にしたのは小泉政権
 政府、小泉首相が、平壌宣言を再確認し、これに復帰したこと。前回に続いて拉致問題でも、帰国5人を含め、若干の前進と約束がなされたこと。われわれは、これらを歓迎し、一定の肯定的評価をするものである。
 前回、2002年9月の日朝首脳会談は、米帝国主義による経済封鎖と軍事圧力の下で強いられた、国家的存亡と経済苦境から脱せんとする北朝鮮の側の事情と、わが国、小泉政権の思惑、政権浮揚をはかりたいという事情が背景となり実現した。そして、平壌宣言が合意された。
 動機はともかく、国交正常化交渉の再開は平和と友好を望む両国国民の多くにとって喜ぶべきことで、当然、会談での合意事項は両国政府と両国国民によって誠実に履行されねばならないものであった。
 これは、戦前の過酷な植民地支配を清算すると共に、戦後の米帝国主義に従属した北朝鮮敵視政策を転換する、わが国外交の転機となすべき合意であった。
 しかし、平壌宣言直後から政府、マスコミは、国民の拉致事件に対する驚きや怒りを、北朝鮮と朝鮮人民に向けようとする、悪質な排外主義キャンペーンを開始した。それはまた、対米関係の悪化を恐れての行動であった。米国は、日朝二国間で事態が進むことに反対したのである。
 米国の干渉下、小泉政権は、「拉致問題の真相解明が交渉再開の前提」などと、あえて交渉のハードルを高め、02年10月に開かれた国交正常化交渉では、北朝鮮との約束を破り、一時帰国した拉致被害者を返さないばかりか、拉致の真相解明なるものを一方的に突きつけた。さらに、直前の米朝高官協議で浮上した北朝鮮の核開発問題まで持ち出して、正常化交渉を入り口でとん挫させた。
 昨年5月の日米首脳会談では、北朝鮮には「対話と圧力が必要だ」と合意。小泉は、米国の核軍事力を背景に、北朝鮮に対する圧力と挑発を強め、屈服を迫ることを基本姿勢として確認させられた。
 こうして昨一年、さまざまな排外主義キャンペーンと併せ、不定期貨客船・万景峰号の寄港妨害、朝鮮総聯攻撃などが執拗(しつよう)に繰り返された。さらに小泉政権は、今年2月、北朝鮮への送金を阻止する外国為替法改悪を強行し、今国会に北朝鮮船舶の寄港を禁止する特定船舶入港禁止法案をも提出し、敵視を強めてきた。
 しかも、今国会に提出されている米軍行動円滑化法、国民「保護」法など有事七法案は、北朝鮮や中国を仮想敵とし、自衛隊が米軍の活動を支援すると共に、国内の動員体制整備を狙うもので、朝鮮敵視政策の最たるものである。
 米国の干渉に屈して挑発的な敵視政策をさまざまに展開し、平壌宣言を反故にしてきたのは小泉政権であった。

小泉再訪朝の背景と意図
 では今回、その小泉が急きょ再訪朝し、日朝首脳会談がもたれた背景は何か。それを理解する上で、当時との国際環境の変化と両国のそれぞれの事情を知ることが必要である。
 前回の日朝首脳会談以降、この1年8カ月、北朝鮮を封鎖、圧迫し、軍事どう喝を続ける米帝国主義の国際的孤立と指導力の衰退は、急速に進んだ。北朝鮮、イラクなどを「悪の枢軸」と決めつけ、ブッシュドクトリンで、これら反米国家への先制攻撃と政権転覆まで公言した米国は、実際、アフガニスタン、そしてイラク侵略戦争を始めたが、こんにち、イラクで完全に泥沼にはまった。イラク、中東人民の抵抗を前に米軍の被害は拡大し、ついに在韓米軍まで、イラク戦線に投入せざるを得ないまでに追いつめられた。侵略戦争に動員した「有志同盟」は、スペインの撤兵などで崩壊の危機を迎え、一方で開戦に反対した仏、独など欧州やロシア、中国が公然と米主導の占領統治に反対し、いわば戦略的な対抗を強めている。
 孤立し窮地の米国に、イラクと合わせて朝鮮でもことを構える余裕はない。昨年8月開始された6カ国協議も、現状を固定化しようという米国の狙いに沿ったものものだが、関係国の力を借りねば朝鮮問題に対処できない、弱さを暴露するものでもあった。
 この局面では北朝鮮が、軍事、政治、経済面で、前回より有利な状況下にある。北朝鮮は、中国、ロシアとの連携を深め、廬武鉉大統領が復帰した韓国と南北対話を強めるなど積極的な外交政策を展開しはじめた。今回の日朝首脳会談は、この流れの中で実現した。
 わが国では、イラク派兵のみならず、経済問題も含め、小泉のあまりの対米追随への不満ととまどいが、支配層の一部も含んで拡大した。改革政治加速化の中で、諸階層、とりわけ地方での反発が急速に増大し、小泉政権は政治的修正と求心力の再構築を必要としていた。参議院選挙を目前に、政権浮揚を図る必要性に迫られていたのである。
 このような中で、米国の苦境は、小泉の外交的演技の幅を広げる可能性を与えた。一時的、条件的に、つまり極めて小泉流の政治として、対米関係より国内問題を優先させたのである。しかし、それは早晩、馬脚があらわれるであろう。
 パウエル米国務長官は、核問題で日米韓の連携が重要と、あえてくぎを刺しながら、小泉訪朝を支持すると表明せざるを得なかった。
 今回の小泉の再訪朝の背景、あるいは意図は以上のようであった。従って、わが国の対米追随、北朝鮮敵視の基本政策が変更されたわけでは全くない。それは、「制裁を行わない」などと言った舌の根も乾かないうちに、特定船舶入港禁止法案を国会に提出した、その一事をとっても明らかである。

国民運動強め早期国交正常化を
 しかし、首相あるいは米国の意図や背景がどうであれ、今回、日朝両首脳は平壌宣言が「日朝関係の基礎」と再確認し合った。そうである以上、その方向に沿って、国交正常化交渉再開など具体的に、今度こそ誠実に履行されなければならない。
 それは、わが国政府と国民にとっても独立・自主の外交の一つの試金石である。
 再度の合意を、米国の干渉下でまたも反故にし、サボタージュすることがあれば、わが国はアジアでも世界でも、何の信頼も得られないこととなろう。
 国民運動を強め、平壌宣言の順守、日朝両国の早期の国交正常化に向けて、小泉政権を追い込まなければならない。


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