労働新聞 2004年5月25日号

「三位一体改革」の欺まん
高まる改革政治への地方の不満

 多国籍大企業らの史上空前の収益が騒がれる一方で、地方経済の疲弊は深刻である。自動車関連や情報技術(IT)など一部「勝ち組」企業の立地地域と、それ以外の地域での地域間格差は、かつてないほど拡大し、二極化が鮮明である。中小や地場産業、さらに農業地域などの落ち込みは、とどまるところを知らない。首都圏など一部の大都市を除く多くの地方自治体は深刻な税収難に陥り、財政運営で苦境を強いられている。しかもこの状況に拍車をかけ、一層加速するような国、小泉政権による地方分権「改革」、いわゆる「三位一体改革」の中で、地方自治体は、まさに存亡の危機へと追い込まれた。
 このような中、当然にも自治体による反撃が高まっている。
 3月27日には岐阜県で、県と市長会主催による「三位一体改革推進シンポジウム」が開催された。これは「改革推進」とは名づけてはいるが、「三位一体改革」それ自身に対する、根強い不信と怒りが相次いで表明された。梶原拓・全国知事会長は「改革は地方犠牲だけの『三位バラバラ』改革。地方が一斉に蜂起し、中央をたたきつぶして変えるしかない」と檄(げき)を飛ばした。
 一方、5月13日には福島県で、県など地方六団体主催の「総決起大会」が開催され、1900人余りが参加した。大会では佐藤栄佐久・福島県知事が「国庫補助負担金の削減などで地方公共団体の予算編成は大混乱に陥った」と国の「改革」政策を批判、「地方の文化を守るため全力で闘っていく」とあいさつした。ここで注目すべきは大会に、JA福島会長、県商工会議所連合会会長、労働組合の連合福島会長などが参加し、連帯を表明したことである。小泉「改革」政治に対する、広範な各階層、諸団体を結集した、地方からの闘いの始まりを感じさせるものとなった。
 5月25日には、全国知事会、町村会など地方6団体が東京の日本武道館で7000人規模の「地方財政危機突破大会」を開催することも予定されている。
 地方6団体などは、これらの闘いを積み上げ、6月に予定されている政府の「骨太方針2004」に、地方の要求を反映させることを求めているという。しかし、真に地方経済と住民生活を守り、地方自治を守ろうとするならば、そこにとどまらず、「三位一体改革」それ自身を打ち破る闘いを発展させなければならない。今はその好機でもある。

地方切り捨て鮮明な今年度政府予算
 昨年6月、経済財政諮問会議が打ち出した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(骨太方針・第3弾)は、今年度から06年度までの3年間に、(1)国庫補助負担金四兆円の廃止、縮減、(2)地方交付税の削減、(3)地方への税源移譲、の3方面を「三位一体で進めていく」という方針を示した。これが言うところの「三位一体改革」なるものである。これを受け小泉首相は、昨年総選挙後、今年度予算で国庫補助負担金を1兆円削減することを指示、一方で「税源移譲も行う」と言明した。今年度政府予算編成はこれにそって進められた。
 しかし、3月26日成立した今年度予算を見ると、その実態は、一兆円を越える国庫補助負担金の廃止、縮減と、地方交付税1兆2000億円弱の削減が強行された。一方で税源移譲は、4500億円程度の所得譲与税などを手当しただけで、およそ地方への税源の移譲などとはいえない代物であった。政府のいう「三位一体改革」など真っ赤なウソであることが明白となった。
 当然、地方自治体の予算編成は困難を極め、各種基金の取り崩し、借り入れなどで歳入を確保する一方、各種経費の圧縮、施設の統廃合、新規事業の抑制、凍結、さらに職員給与削減や新規不採用などリストラを迫られた。全国多数の地方自治体からは、「これでは、予算は組めない」との悲鳴があがった。
 本来、国庫負担金は、例えば義務教育費国庫負担金のように、義務教育水準の維持という、国の国民に対する最低限、かつ全国一律の責任を、地方に負わせるもので、国の責任で財政を保証すべきものである。それを一方的に削減するなどは、国の責任放棄にほかならない。
 また、地方交付税は、都市部と郡部、あるいは過疎地など、地方によって片寄りのある地方財源を調整し、最低限の住民サービスを維持するために不可欠の措置であって、地域間格差が拡大するこんにち、この削減は、自治体の存亡にかかわるものである。
 深刻なデフレ、地域経済の悪化で住民生活は危機に直面している。「三位一体改革」による交付税、国庫補助負担金の大幅削減、さらには自治体の裁量に任せる一般財源化で、何より矛盾を押しつけられ、犠牲にされるのは地域住民である。

「三位一体改革」の真の狙い
 00年に施行された「地方分権一括法」は、それ以前の地方行革を一挙に加速させるものであった。同法は、地方分権と自立の美名の下で、政府の関与縮小と地方への広範な事務事業の押しつけを進め、一方で財源移譲が先送りされた。これは自治体間の競争をあおり、必然的に財政基盤の弱い自治体の淘汰(とうた)、強制合併に道を開くものであった。財界は、このころから地方分権を掲げた提言を次々に発表、財政危機を口実に、国庫負担金や交付税削減、自治体合併が声高に叫ばれた。
 02年に多国籍大企業の指導権の下に再編された財界、日本経団連は、03年1月、「奥田ビジョン」を発表し、国内改革の目玉として社会保障制度改悪と併せて、地方分権「改革」がぶちあげられた。そこでは「州制」の導入による自治体数の再編と大合理化、地方交付税と国庫補助負担金の完全廃止まで提言するに至ったのである。
 激しい国際競争での生き残りをかける多国籍大企業にとって、国内コスト削減が急務で、小さな政府による財政支出の削減、とりわけ地方の効率化、合理化は至上命題となったのである。
 小泉の「改革」加速化の中で打ち出された「三位一体改革」はこのような財界、多国籍大企業の要求に従うものであった。地方分権など口実で、あからさまな自治体合理化、地方の切り捨てが狙いである。それはまた、地方財政危機を放置しながら特例債で誘導する、強制合併の推進と軌を一にしたもので、強引な地方自治破壊そのものである。

地方政治をめぐり深まる矛盾
 戦後、わが国保守勢力、自民党は国家予算の一部を地方交付税や補助金、さまざまな地域振興策などで分配し、農村部と農民、都市中小業者ら中間層を引きつけ、財界の走狗(そうく)自民党の一党支配を維持してきた。これが「3割自治」「ひも付き補助金」の実態であった。しかし、80年代半ばからの国際化、市場開放の流れの中で、内外の構造変化、財政危機、海外負担の増加などに直面し、この手法は限界を迎えた。構造改革が叫ばれ、行財政改革、とりわけ地方行革もその流れの中で推進された。しかしこれは、地方における保守層を含む広範な抵抗を呼びさまし、自民党の支持基盤を掘り崩して、93年の自民党一党支配崩壊の一因ともなった。
 日本経団連の頭目奥田は、そのビジョン発表に当たって「抵抗を蹴破って進め」と檄を飛ばしたが、それは保守層も含む抵抗によって、改革が進まないことに対する深刻な危機感のあらわれでもあった。「三位一体改革」は、さらに矛盾を拡大させ、地方における、保守層、広範な中間層を含む重大な抵抗に直面せざるを得ないだろう。地方政治をめぐっても、国論は重大な分岐に当面しよう。「改革加速化」で、敵はまさに薄氷を踏む思いである。多国籍大企業のための政治改革推進団体、「21世紀臨調」・「知事・市町村長連合会議」が「地方からの改革」「真の三位一体改革を」などと提言しているのも、保守層内部の矛盾の高まりに対処しようとする、支配層の術策である。たとえ、わずかな財源移譲がされたところで、交付金などが削減されば、財政基盤の弱い郡部や小規模自治体に、どのように生き残れと言うのか。
 「三位一体」の欺まんを打ち破って、真の地方自治の確立のために闘いを発展させなければならない。
 その最も確か力は、広範で強力な国民運動の発展であり、矛盾を押しつけられる地域住民、労働者、労働組合の積極的な闘いである。


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