労働新聞 2004年5月15日号

国民犠牲の年金改悪
またも悪法推進する民主党

 5月11日、年金制度改悪関連法案が衆院本会議で、与党などの賛成多数で可決、参議院に送付された。自公両党との「三党合意」に基づいた修正案には、民主党も賛成。またしても民主党は国民の利益を裏切って、政府与党とともに悪法成立を推進している。
 採決された年金制度改悪案は、(1)保険料の引き上げ(厚生年金は年収の13.58%を2017年度には18.3%に、国民年金は月額1万3300円を2017年度に1万6900円に)、(2)給付水準の引き下げ(夫婦モデル世帯で現役平均所得の59%から50%へ)などを内容とするもので、圧倒的多数の労働者・勤労国民に一方的に犠牲を強いるものである。

未納議員に年金を議論する資格なし
 しかも、この年金改悪案が議論されているその最中に、当の国会議員の年金未納・未加入問題が次々と発覚。国民の怒りは頂点である。
 福田康夫官房長官をはじめ、麻生太郎総務相、中川昭一経済産業相、谷垣禎一財務相、竹中平蔵金融・経済財政担当相、石破茂防衛庁長官、茂木敏充沖縄・北方担当相などの現職閣僚。さらに橋本龍太郎元首相ら自民党有力国会議員。神崎武法代表以下公明党執行部ら。果ては、民主党の菅直人代表、鳩山由紀夫前代表、さらに社民党の土井たか子前党首等々と、実に際限がない。
 改悪法案を提出している政府の閣僚の責任は重大である。福田官房長官の辞任程度で幕引きをはかろうなど言語道断で、当該閣僚の辞任のみならず小泉首相の責任もまた厳しく問われる。また、所管閣僚である厚生労働大臣を送り出している公明党の神崎、冬柴、北側といった幹部たちの未加入・未納問題も、この党の腐敗、堕落を象徴するものである。「100年安心の保険制度」など大見得を切って改悪を推進してきた、この連中の恥知らずな行いと、内部処分程度でことを済まそうという居直りを、低所得層も多いといわれるこの党の支持者たちは、いつまで容認するのであろうか。
 そもそも国会議員は、10年在職すれば年額412万円の年金が一生涯給付される。在職年数が1年増えるごとに8万2000円も増額である。国庫負担率は7割にも達する。一方、国民年金は40年保険料を支払っても給付は年額79万7000円、国庫負担率は3分の1に過ぎない。厚生年金も40年加入していても支給額は年額200万円程度だ。特権的な議員年金がある国会議員が国民年金に無関心なのは、当然といえば当然である。
 「制度の複雑さ」などをあげつらい不正を居直るこの連中に、年金問題を議論する資格など、毛頭ないと言わねばならない。

多国籍大企業の利益のための社会保障改悪
 保険料の引き上げと給付の引き下げという二重の犠牲を国民に押しつける今回の年金改悪政府案、そして民主党が協力した修正案も、言われるような、少子高齢化に対処し「制度の安定、公平」に向けた「抜本改革」案などではまったくない。
 それはあくまで、多国籍大企業ら財界の利益のための、国民犠牲の「改革」政策の一環である。
 日本経団連の奥田会長は、昨年1月「奥田ビジョン」(活力と魅力溢れる日本を目指して日本経団連新ビジョン)を発表し、「改革」加速を小泉政権に要求。ここで、高まる国民の抵抗を「打ち破って進め」と、檄(げき)を飛ばした。そのビジョンの重要な柱こそ、年金改悪など社会保障制度改革であった。同ビジョンは、これまでの日本のシステムは「少子化・高齢化の進展、グローバル競争の加速といった構造的な変化に迅速に対応できない」と言い、「自助努力」や「官から民へ」を強調。年金受給額の大幅削減と、財源を国民に広く押しつける消費税の大増税を提案した。果ては、「サラリーマンの社会保険料(厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険)は、全額本人が負担する方法に改めるべき」と、現行でもわずかな企業負担を、全面拒否する方針まで明記している。
 また、昨年9月10日の日本経団連の「今次年金制度改革についての意見」では、「公的年金においては、(a)保険料率の増加抑制(厚生年金の保険料は労使折半のため)、(b)既裁定者も含めた給付の抑制、(c)基礎年金の間接税方式化(消費税導入)による三位一体の改革」を、などとあらためて提言している。
 グローバル経済の中で、国際的市場競争に生き残ろうとする多国籍大企業にとって、国内での企業の社会保障費負担は、ムダなコストである。結局のところ、これを徹底的に削減しようとするものこそ、一連の財界の「提言」にほかならない。
 少子高齢化への対応だとか社会保障制度の安定的維持などは口実に過ぎない。財源不足を理由に、削減の大なたが振るわれるのは年金、医療など民生部門ばかりで、軍事費などは効率化などといいながら、引き続き手厚く確保されている。企業の研究開発などの支援に財政が集中的に投資される。大銀行など金融機関の危機に際しては、公的資金が惜しげもなく投入されてきた。
 そして挙げ句の果ては、米国のドルを支えるために、為替介入資金として年間数十兆円の国民の資産が投入され続け、膨大な米国債に化け、米国への仕送りが続けられているのである。
 国民の基本的人権、最低限の生存権にかかわる年金財源は、本来こうしたムダで理不尽な支出をやめ、歳出を効率化させるとともに、政府の手厚い支援の下で、リストラ、国内切り捨てを続けて、ついに過去最高の利益をあげるほどに肥え太った、トヨタなど多国籍大企業に負担させることで確保されねばならない。
 少子化、高齢化への対応などと言うのであれば、労働者の賃金の大幅引き上げや住宅問題解決など、国民生活を豊かにして、安心して子供を産み、育てられる社会をめざして、抜本的に取り組まれなければならない。そもそも、世界第二の経済大国で、最大の債権大国、しかも膨大な貿易黒字を年々積み上げているわが国が、その富を国内に振り向け、内需を拡大させて国民の生活を豊かにすれば、社会保障制度を安定的に維持することはまったく可能である。

急速に暴露される財界の走狗(そうく)・民主党
 与党の年金改革案に反対するとしてし、衆議院の委員会審議を一時ボイコットしてみせた民主党も、その馬脚を早くもあらわした。
 民主党の打ち出した年金改革案は、財源を消費税増税に求めることを明記したもので、奥田ら財界の要求に政府案以上に露骨にこたえようとするものであった。
 さらに与党が衆院厚生労働委員会で年金改革案を強行採決するや、民主党は与党との「対決」のポーズを早々と投げ捨て、政府案にすり寄り「3党合意」で修正に応じた。菅代表らは「年金一元化に向けて道を開いた」などと自画自賛したが、その修正合意は、「社会保障制度全般について、税、保険料などの負担と給付のあり方など、一体的見直しを行う」などというもので、年金に限らず社会保障制度全体の財源として消費税をあてること想定したものである。民主党は、党内の抵抗で消費税増税に消極的な自民党の尻を押して、あくまで消費税大増税に道を開こうというのである。まさに財界の走狗、二大政党制の一方の極として、小泉と「改革」政治を競う民主党の犯罪性は明らかである。
 4月29日の連合メーデーでは、年金未納問題が暴露された民主党・菅代表に対して、労働者、労働組合員から激しいヤジが浴びせられた。貧弱な年金制度の下、こんにちでさえ苦しい保険料負担にあえぐ労働者の怒りは当然である。
 自らの年金未納問題に加え、「三党合意」による年金改悪推進に対する国民の怒りと反発の高まりの中で、10日、ついに菅代表は辞任に追い込まれた。後継代表をめぐる党内調整が続いているにしても、民主党に対する労働者の不信はいっそう高まらざるを得ないだろう。いまこそ、労働運動の中でのこの党への幻想を一掃しなければならない。
 米国と多国籍企業のための「改革」に反対し、国民生活・国民経済を守るために、広範で強力な国民戦線、国民運動を強めて闘わなければならない。支配層の進める二大政党制の策動を打ち破り、議会でも真に闘う新しい党を形成するため、共同した努力を強めなければならない。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2004