労働新聞 2004年4月15日号 社説

イラク日本人人質事件

売国政府追いつめ、
自衛隊の即時撤退を

 日本時間の4月8日、ボランティア活動や取材のためにイラク入りしていた3人の日本人が「サラヤ・ムジャヒディン」と称するイラク人反米武装抵抗組織に誘拐されるという事件が発生した。
 「3日以内に自衛隊を撤退させよ」と求めた抵抗組織の声明に対して、福田官房長官は「自衛隊は、人道復興支援に行っている。撤退すべき理由はまったくない」と言下にはねつけ、小泉首相も「テロには屈しない」などと、あくまで強硬姿勢で臨む態度を打ち出した。
 家族らの必死の呼びかけや、イラク宗教指導者などの働きかけの中で、11日には「人質を解放する」との抵抗組織の新たな声明があったものの、14日段階でも、事態はいまだ解決を見ず、その推移は予断を許さない。
 事件に遭遇した3人は、国際ボランティアとして、あるいは報道カメラマンとして、イラクの人びとの支援を願って現地入りしていたものであり、自衛隊のイラク派兵には、反対の態度をとっていたとも聞く。3人の無事を、心から願わずにはいられない。
 事件直後から無事救出を願う自発的な署名運動が各所で取り組まれ、「3人を見殺しにするな。自衛隊の撤退を」との街頭行動などには、強い共感が寄せられている。これは、同胞の無事を願う、当然の国民感情である。
 さらに、この事件をきっかけに、あらためて自衛隊撤退を求める国民世論も彭湃(ほうはい)と沸き起こっている。

小泉は同胞を見殺しにするのか
 今回の事件発生に際して、わが国政府、小泉政権の見せた強硬姿勢はきわめて異常である。
 小泉、福田らが、早々に撤退拒否を明言したことに、ラムズフェルド米国防長官は、「正しい態度だ」と胸をなで下ろし、来日したチェイニー副大統領も、「大変感謝している」と褒め称えた。
 イラク侵略「有志同盟」の一角のスペインが崩れ、ニュージーランドその他、撤兵を決める国が続出しだした中で、同胞の命を見捨てても、あくまで自衛隊を居座らせ、米主導の占領を支えようというわが国政府の態度は、窮地に陥った米ブッシュ政権にとって、まさにありがたいものに違いない。小泉はいったい、どこの国の首相だというのか。
 「救出に全力」などの言葉とは裏腹に、「情報が錯綜(さくそう)している。分からない」などを繰り返し、果ては「退避勧告を出していた」などと被害者に責めを負わせようとする政府の無策、不誠実な態度に、被害者家族はもちろん国民の不信感は増大するばかりだ。何より、同胞の命より対米公約優先と、自衛隊の派兵継続にこだわり続ける政府、小泉らの態度は、国民の安全を顧みず、民族の利益を裏切るものである。
 しかも、小泉はチェイニーとの会談で人質救出への米軍の協力を要請し、「緊密な協力」を確認した。しかし、無法な侵略と占領、野蛮な掃討作戦でイラク民衆を殺りくし、その怒りと憎しみの矢面に立つ米軍が、事件に介入するなど火に油を注ぐようなもので、事態をいっそう複雑にする。たとえ事件の顛末(てんまつ)がどのようなものになろうと、これは、以降に大きな禍根(かこん)を残すものとなろう。
 海外での邦人保護という国家としての当然の義務すら、独力で果たす意志も力もなく、ひたすら米国の力に依存しながら、海外派兵で、政治、軍事大国として振る舞おうなどという、わが国政府の態度は、自主性のかけらもない、売国奴そのものである。

破たんした米の戦争、窮地の小泉
 侵略戦争開戦から1年が経過したこんにち、米国主導のイラク占領・統治は、イラク人民の激しい反米・反占領闘争に遭遇して、完全に行き詰まっている。
 激化する抵抗闘争と占領長期化で増大する負担に耐えかねた米国は、6月末に迫った政権移譲を焦り「基本法制定」を強行したが、傀儡(かいらい)「統治評議会」の内部分裂や、イスラム勢力各派の反発などで、「イラク人による統治」などメドすら立たない。そればかりか、開戦一周年を迎えた先月末を前後して抵抗闘争は激しさを増し、これを弾圧しようとする米占領軍との間にし烈な戦闘状態が繰り広げられている。
 スンニ派を中心とする反米対抗勢力の拠点ファルージャへの「包囲・掃討作戦」では700人ものイラク人が殺された。シーア派(サドル師派)勢力に対する機関紙の発行停止、側近逮捕などの弾圧に対し、4日には大規模な反米デモが行われ、米英連合軍との軍事衝突も拡大している。両派の連携など反占領闘争は組織的様相を深め、今月に入っての米兵の死者が80人を超えるなど、イラク全土は戦場となっている。
侵略戦争で蹂躙(じゅうりん)され、生活インフラが寸断され、治安の悪化で市民生活は混乱、失業で仕事はない。「復興」とは名ばかりの米国の占領に対するイラク民衆の怒りは当然である。帝国主義の占領・支配に反対し、国の独立と尊厳を求めるイラク民衆にとって、米占領軍とこれを支える自衛隊を含むあらる外国の軍隊は敵であって、憎しみと抵抗闘争には根拠がある。
 侵略者による弾圧が過酷である以上、抵抗闘争はあらゆる形態で、あらゆる契機をとらえて激化せざるをえない。侵略者が、それをテロだとか、卑怯だとか、蛮行だとか言う権利など、みじんもない。最大のテロリストは侵略者米国であり、その追随者である。いわんや、資金でも軍事でも突出して米国を支え続ける小泉政権が、その例外であろうはずがない。「テロに屈しない」など本末転倒で、盗人猛々しいとはこのことである。どのような事態であれ、責任を負うべきは、派兵を強行しイラク民衆に敵対する小泉政権である。
 今回の事件は、このような中で発生した。直前には、サマーワの自衛隊宿営地にロケット弾が打ち込まれてもいる。
 泥沼の戦場に自衛隊を派兵する限り、今回のような事態が起こることなど、小泉らには容易に想像できていたはずである。
 すでに自衛隊がイラク民衆の攻撃の対象であることが明確になった。サマーワの連合国暫定当局も対戦車弾の攻撃を受けている。自衛隊が戦闘地域にいることなど自明のことで、「イラク特措法」でいう派遣の前提すら完全に崩れている。
 イラク、中東民衆に敵対する自衛隊の派兵こそすべての原因である。遅きに失したとはいえ、速やかな撤兵こそ中東民衆との信頼回復の糸口であり、事態解決に向けた最も確実な道である。政府は自衛隊を直ちに撤兵させなければならない。

撤兵反対叫ぶ民主党打ち破り、国民運動で自衛隊撤退を
 国論の重大な岐路に直面し各政党の態度が厳しく問われている。
 「平和の党」「人権の党」などの看板も掲げ落ちた公明党は、今に至っても与党として小泉を支えている。同胞の命を見捨て、対米追随の海外派兵を支持し続けるこの党の態度を、創価学会など支持者は、いつまで容認するのか。
 一方、最大「野党」の民主党の菅代表は12日、小泉首相と会談し「脅しに屈して自衛隊を撤退させる態度はとらない」などと語り、政府への全面協力を約束した。この党は同胞の命をどう考えているのか。
 この党の掲げてきたイラク派兵反対など、真っ赤なウソであったことも、暴露された。財界の進める二大政党制の一方を目指し、小泉と競い合って対米追随の売国政治を進める、民主党の犯罪的役割はいよいよ明かである。
 さらに共産党は事件発生当初から一貫して「武装集団の蛮行は許せない」と平和ボケで、本末転倒の主張を繰り返している。帝国主義者に屈服した「テロにも戦争にも反対」などの主張は、闘いの方向をねじ曲げる反動的なものである。
 米国の一極支配が崩れ去る世界のすう勢を見誤り、率先して自衛隊を渦中に送り込んで、日本をイラク、中東民衆の敵とした小泉政権の責任は重大である。
 すでにスペインでは、国民が撤兵を選択した。わが国でも、国論は重大な岐路を迎えている。自衛隊撤退を迫る国民的戦線を構築し、国民運動を強め、国の進路を誤らせ、国民の安全を脅かす小泉政権を追いつめなければならない。


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