労働新聞 2004年3月25日号 社説

イラク侵略開戦1年に当たって

自衛隊の撤退、
対米追随政治の転換を

 米帝国主義が、英国、スペインなど少数の追随者を従え、独仏やロシア、中国など全世界の戦争反対の声を押しきり、国連安保理の決議も回避して、イラクに対する凶暴な軍事攻撃、侵略戦争を開始して一年が経過した。
 この野蛮な侵略戦争を開始した頭目、米大統領ブッシュは3月19日、開戦一周年で演説し、「イラクは自由になった」などと、戦争の「大義」なるものを強調、「文明とテロとの闘いに中立はない」と、ことさらに「テロの脅威」をあおり立て、国際社会の結束を訴えた。
 イラク現地での反米、反占領の抵抗闘争の激化や、「有志同盟」の崩壊の危機の中、国際的孤立を深めるブッシュのこの演説は、戦争の結果いっそう危機を深め、窮地に追いつめられた米帝国主義の苦境がありありと見て取れるものであった。
 しかもブッシュは、この演説で、とりたててわが国、小泉政権の「功績」を評価し、よりいっそうの貢献を要求した。まさに、米国に次ぐ巨額の資金支援と陸、海、空3自衛隊をイラクに派兵する、わが国の対米支援は、国際社会でも際立ったものとなっている。
 開戦一年を迎えた今日、商業マスコミなどは、この期に至っても、小泉と口裏を合わせ、戦争の「大義」と国際貢献、対テロ戦争などを騒ぎ立て、侵略戦争と海外派兵を合理化しようとしている。
 開戦以来の一年で何が進み、何が明らかとなったのか、国際社会の現実を見つめ、はげ落ち、揺らぎ始めた米国の「大義」とわが国政府、マスコミの振りまくニセの国益論や、恐米論を徹底的に暴露し、打ち破らなければならない。

明らかとなった「大義」なき侵略

 この戦争の侵略性を全世界の前に端的に示したのは、米国が開戦以前から騒ぎ立てた、「イラクの大量破壊兵器の脅威」なるものが、こんにちに至っても、その痕跡すら発見できず、米国のイラク調査団長ですら、米議会で「もともと存在しなかった」とまで証言していることである。
 英国でも政府、情報機関による「大量破壊兵器」をめぐる情報操作、デマ宣伝が明らかとなり、ブッシュとともに世界を欺いた、ブレア首相の支持率が急落、窮地に陥っている。
 そればかりか、今年1月、ブッシュ政権中枢にいた元財務長官オニールが、イラクへの侵略戦争はブッシュ政権成立直後から、つまり「9・11同時テロ事件」なるもののはるか以前から議論され、準備されていたものであったことをマスコミに暴露した。ブッシュが叫ぶ、「対テロ戦争」などもまた、侵略のための口実に過ぎなかったのである。
 ブッシュはこの期に及んで「イラクと中東に自由と民主主義を導入した」などと、再び三度(みたび)、戦争目的を言い換えて、合理化に努めているが、この腹黒いいいわけを、すでに全世界は見抜いている。
 それどころか、アラブ、中東諸国は、「自由と民主主義」などという欺まんに満ちた価値観を、一方的に押しつけ、政権転覆すらを画策する米国のやり方に、急速に不信感と警戒感を高めてさえいる。
 米国の、真の戦争目的が別のところにあったことは明白である。
 衰退する経済を基礎に、没落を早める米帝国主義が、唯一優勢な軍事力を振りかざし、世界で「ことを起こし」、政治、軍事的指導権、つまり世界の一極支配を維持しようという戦略こそ「ブッシュ・ドクトリン」であり、イラク侵略はこの戦略の最初の発動であった。
 米国は、冷戦後の世界で、その世界支配の最大の脅威として勃興しつつある欧州に対抗するため、原油資源などで、欧州の「コメびつ」とも言うべき中東を抑え、自らの支配下に組み敷こうとイラク侵略を開始したのである。
 開戦1年を経たこんにち、テロや大量破壊兵器、あるいは「悪の枢軸」などの言いがかりが、侵略の口実に過ぎなかったことが、数々の事実で暴露された。米国の掲げた「大義」は、完全に地に落ちた。

止められぬ正義の反米・反占領闘争

 しかも、米国のこの戦争目的も挫折に直面している。
 イラク現地では、戦後復興どころか、治安回復もまったくめどが立たず、水道、電気などインフラ整備も大幅に遅れ続けている。「テロ掃討」の名の下に、すでに1万人を超えるイラク市民が殺されている。
 侵略戦争で蹂躙(じゅうりん)され、今、軍事占領の下で、塗炭(とたん)の苦しみをなめさせられているイラク人民の怒りが沸騰するのは当然である。
 無法な侵略戦争と軍事占領に対し、祖国の解放と独立、自立と尊厳を求めるイラク人民、さらにアラブ民衆の反米、反帝国主義の抵抗闘争は当然で、まったくの正義である。
 テロが事態の解決にも、最後の勝利にも結びつかないことは事実だが、米英など侵略者が「テロの脅威」を騒ぎ立てるなど本末転倒である。こんにちのイラクをめぐるあらゆる混乱も不幸な犠牲も、最大のテロリストたる米英の侵略者が、あげてその責任を負うべきものである。

「有志同盟」の亀裂、孤立深める米国

 そればかりではない。米国が頼みとする侵略者、「有志同盟」の中からさえ、深刻な亀裂と崩壊の危機が露呈し始めた。
 14日に投開票されたスペインの総選挙で、米国とともに侵略戦争に参加したアズナール政権が敗北。次期首相となるサパテロ氏は、イラク侵略に反対する国民の声に押され、米主導の復興支援体制が変わらない限り、6月末に撤兵すると発言した。
 さらに「有志同盟」のもう一方の柱であったポーランドのクワシニエフスキ大統領は、イラクの大量破壊兵器問題で「わが国はだまされた」と発言。米国への不信を表明した。 開戦と以降の経過の中で、米欧の亀裂は一層拡大し、欧州連合(EU)などの戦略的な対米対抗は政治、経済、軍事の各領域で、いっそう強まった。独仏など欧州はもちろん、ロシア、中国など安保理理事国も米主導の「復興支援」への協力に距離をおいている。
 窮地に陥る米国は、イラク占領への国連関与を求め、新たな国連決議を準備するなど国際世界の支援を引き入れようと躍起である。しかし、欧州などへの公約であった、6月末でのイラク人への「政権移譲」も、かいらい「暫定政権」への不信など宗教各派、民族対立の激化の中で、容易ではない。「イラク人自身による政権」など、まったくのペテンで、見通しがない。
 実際米国は、原油など復興利権の圧倒的部分を独占し、欧州などの不信をさらに高めている。
 とりあえずの軍事的勝利を収めた米国だが、占領統治は泥沼化し、国際的孤立と危機はいっそう深まり、その戦争目的は、今や破産に直面しているのである。

唯一米国を支える小泉の時代錯誤

 このような中で、わが国、小泉政権の対米協力、占領支援はいよいよ突出したものとなっている。
 小泉は、自衛隊のイラク派兵を「主体的な国際貢献」などと居直っている。さらに小泉は、イラク占領への国連の関与の拡大を声高に叫び始めた。
 しかしこれは、米国の「単独行動主義への注文」でも「言うべきことを言う」などというものでもまったくない。国際的孤立の中、窮地に陥った米国の意を受け、国連主導の名の下で、国際社会をイラク占領支援へと動員しようという画策で、「大義」なき米国の侵略戦争と世界支配戦略への全面協力、徹底した追随でもある。「主体的国際貢献」など真っ赤なウソで、世界の大勢に逆らう対米貢献にほかならない。
 これは、わが国を没落しつつある米国とともに、世界での孤立へと導き、アジアや中東諸国、人民と決定的に敵対させるもので、「国益」という意味でもまったくそれを売り渡す、亡国の道である。
 小泉の対米追随、自衛隊のイラク派兵に、保守層も含む広範な国民の疑念、不安が広がっている。支配層の執拗(しつよう)な世論操作は、危機感のあらわれである。
 国民世論をさらに喚起し、自衛隊派兵計画の撤回、即時撤兵と対米追随の売国政治の転換を求める国民的な運動を、強めなければならない。


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