労働新聞 2004年3月15日号 社説

相次ぐ北朝鮮「制裁」法案

敵視と排外主義あおる
財界の走狗(そうく)、
民主党

 2月25日から28日にかけて、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の「核問題」などを協議する第2回6カ国協議が、中国の北京で開催された。
 協議では、米国が平和利用も含めた「あらゆる核の放棄」に、その要求をつり上げ、北朝鮮に「リビアのように核放棄を決断せよ」と迫った。一方、北朝鮮は、諸悪の根源である「米国の敵視政策の放棄」と「安全の保証」を要求、あくまで同時行動で解決されねばならないという原則的見解でこれに対した。
 韓国は「核凍結」の見返りとしてのエネルギー支援を表明し、中国、ロシアもこれに同調したが、当の米国が強硬姿勢を変えず、予測されたことではあったが、協議の実質的進展はなかった。
 協議は前回同様、共同文書を採択できず、議長国の中国が、協議継続と準備のための作業部会の設置を盛り込んだ、議長総括を発表して閉幕した。
 年末の大統領選挙を控えて、何らかの変化も、より根本的には平和解決に向けた打開策も望まない米国と、あくまでこれに追随し、拉致問題などを口実とした北朝鮮敵視政策を強めるわが国政府の態度は、およそ挑発的で、敵対的なものであった。

米国こそ「核危機」の策源地

 「北朝鮮の核問題」などと言うが、そもそも朝鮮戦争休戦協定以降一貫して、北朝鮮敵視を続け、韓国と沖縄をはじめとする在日米軍基地に、膨大な核兵器を配備し軍事どう喝と政治的経済的封鎖で、北朝鮮を深刻な国家的苦境に追い込んできたのは、米帝国主義である。しかも、米ブッシュ政権は、北朝鮮を「悪の枢軸」と決めつけ、ブッシュ・ドクトリンで核兵器による先制攻撃と、内政干渉の政権転覆まで公言してきた。
 北朝鮮政府が、自国の独立と政権を守るために、「安全の保証」を要求し、一方で米帝国主義による侵略戦争に身構え、核、ミサイルを含むあらゆる手段で防衛力の強化を図ることは、独立国としてやむにやまれぬ選択である。それは、国連や国際原子力機関(IAEA)の査察に応じたにもかかわらず、米帝国主義の無法な侵略戦争で崩壊させられたイラク・フセイン政権の例を見れば、当然のこと。国家の自衛権として理解できることである。
 しかも、93年の米朝枠組み合意に基づく軽水炉建設を意図的にサボタージュし、果ては、代替措置としての原油提供すら一方的に打ち切って、北朝鮮を深刻なエネルギー危機に追い込んでいるのも、また米国である。
 「核危機」なるものの根源、米帝国主義と、これに追随、加担し、敵視政策を強めるわが国政府に、北朝鮮に「平和利用も含む」「検証可能で後戻りできない完全な核放棄」などを迫る資格などあるはずがない。

拉致問題口実に敵視、排外主義あおる政府

 ところがわが国政府は、今回の六カ国協議とその結果を受けて、いっそうの北朝鮮敵視政策を強めようと画策している。マスコミもまた、「北朝鮮への圧力を強めるとき」(日経)、「核廃棄に抜け道は許されない」(読売)などの本末転倒のキャンペーンを強め始めた。
 安倍官房副長官は先月28日、「自民党は船の出入りを止める法律もつくろうとしている」「北朝鮮が拉致問題を解決せず、これ以上状況を悪化させれば、制裁発動の判断をするかもしれない」などと、拉致問題を口実とした制裁を公言し、あからさまなどう喝を行った。
 拉致問題は、戦前の植民地支配に続き、戦後も対米追随で、一貫して敵視政策を続けてきたわが国と北朝鮮の関係が不正常、かつ極めて敵対的状態にある中で起こった、不幸な事件であった。1昨年9月の日朝首脳会談では、金正日総書記が国家的犯罪としての事実と責任を認め、再発防止を約束して、日朝平壌宣言が合意された。
 したがって、家族を含む帰国問題や以降の補償など、北朝鮮政府の対応を含め、懸案事項はわが国政府が敵視政策をやめ、両国の国交正常化を図って、平和的に解決されるべきものであった。
 しかし、両国間の約束を一方的に破り、一時帰国した拉致被害者を帰さず、「拉致問題解決が国交正常化交渉の前提」などと、わが国政府が故意に交渉のハードルを高めたことで両国関係は最悪の局面となった。
 しかも政府は、約束を守って、被害者をいったん帰せ、と言う北朝鮮の要求も、「出迎え方式での解決」などのさまざまな提案をも拒否し続けている。
 拉致問題の解決を望まず、これを長期に政治利用し、国内の排外主義をあおり、日朝平壌宣言を反故(ほご)にして、敵視政策を強めているものこそ、わが国政府である。
 先に外国為替・外国貿易法の改悪を強行し、さらに、不定期貨客船「万景峰号」など北朝鮮の船舶の日本への入港を規制、禁止する「特定船舶入港禁止法案」や在日朝鮮人の再入国を禁止する「再入国不許可法案」などの成立を画策し、経済制裁で北朝鮮をさらなる窮地に追い込んで、両国関係を緊張させることが、両国間の諸問題の解決をいっそう難しくさせることなど明かではないか。
 そればかりかこの道は、わが国を米国がつくり出すアジアと朝鮮半島での緊張の矢面に立たせ、わが国を亡国へと導く、最悪の選択である。

小泉と北朝鮮敵視競いあう民主党

 しかも許し難いことは、自民・公明の与党にとどまらず、野党の民主党がこの北朝鮮敵視で足並みをそろえていることである。
 民主党は、早くも昨年総選挙最中から、北朝鮮への送金規制のための法整備を、政権公約(マニフェスト)の追加項目として決定し、今国会では、自民、公明らとの外為法改悪の法案協議に積極的に応じ、ついには共同提案して、その成立を推進した。管代表は、先月17日定例会見で、改正外為法の行使など、「統一的な戦略に基づいて北朝鮮と交渉すべき」と述べ、「制裁カード」を積極的に使うように政府に迫ってすらいる。
 しかも菅代表は、特定船舶入港禁止法案についても、今国会での成立の必要性を強調。さすがに参院選も意識してか、自民党案とは異なる民主党独自案なるものの検討を指示した。これを受け、今月3日、民主党「次の内閣」が、法案の大枠を決定したが、それは、船舶に加えて航空機も規制対象に加えるという、より徹底したものであった。
 悪らつな北朝鮮敵視政策の高まりは、戦後の対米従属の政治、経済のツケの支払いを求められ、深刻な経済危機の下、その犠牲をあげて国民経済と国民各層に押しつけることでしか事態を乗り切れない支配層、多国籍大資本の危機感のあらわれである。支配層は、避け難く高まる国民の不満と怒りを外に向けてそらすため、あえて北朝鮮敵視を強め、排外主義をあおっているのである。拉致や、核問題などはその口実にすぎない。
 しかも、悪質なのは、朝鮮の脅威に対処するには、日米同盟が重要と、イラクなどへの自衛隊の海外派兵を合理化し、わが国の軍備増強、それも核武装を含む軍事大国化を合理化することにも利用しようとしていることである。これは、世界での権益を確保するため、軍事を含む発言権を強めようとする多国籍大企業の要求だが、わが国が戦前犯した誤りを再び繰り返す、幻想に満ちた最悪の「冒険」である。
 民主党はまさに、この財界、多国籍大企業の要求に沿って、一連の北朝鮮敵視、排外主義の策動の先頭に立とうとしているのである。
 外交、安保など基本政策で差のない、2大政党制の一方の極として自らを位置づけ、財界の支持の下で政権にありつこうというこの党は、自民党とともに多国籍大企業の走狗である。わが国を亡国に導く民主党に、労働者はじめ多くの勤労国民はどのような意味でも期待を寄せることなどできず、徹底的に打ち破らなければならない。
 独立、自主の国の進路への転換をめざし、支配層の進める2大政党制を挫折させなければならない。
 強力な国民運動と国民的戦線の発展こそ力である。議会でも、それと結びつき闘う、新たな闘う党の形成が急務で、その条件もまた拡大している。闘う勢力は団結し、共同した努力を強めなければならない。


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