労働新聞 2004年2月25日号 社説

民主党は農民をだませるか!

民主党「農業再生プラン」の欺まん

 2月18日の国会党首討論で、民主党・菅直人代表は、冒頭から農業問題を取り上げ、今さらのようにわが国食料自給率の低下を指摘、自民党農政は失敗したのではないか、などと間の抜けた批判を展開した。そして、自らの責任で民主党の「農林業、農山村再生プラン」をまとめ、参院選に向けた「政権公約」(マニフェスト)として提示すると大見得を切った。民主党が、党首討論で農業問題を取り上げたのは、極めて異例のことである。
 さらに民主党は、前日の17日、常任幹事会で「農林漁業対策本部」の設置を決め、農業政策をマニフェストの最重点項目のひとつと位置づけ、農業関係者・団体の意見を吸い上げる、などを決めている。
 事実、菅代表は、昨年の総選挙直後から秋田、富山、山口などで農業視察や農協、農家との対話集会等を進め、あたかも農業問題を重視するかのポーズを強めている。
 「消費者・生活者重視」などの看板で、国際化、規制緩和をあおり、小泉政権と改革政治の本家を競い合ってきた民主党が、この時期に、突如として「農林業、農山村再生」なる新たな看板を打ち出した背景や狙いは何か。この連中の欺まんを見抜き、幻想を打ち破ることは極めて重要である。

存亡の危機のわが国農業

 管氏に指摘されるまでもなく、今日、わが国の食料自給率は40%(2001年)とG7(先進7カ国)中最低となっている。米国122%、カナダ142%、フランス121%、ドイツ99%と多くの先進工業国が基本的に食料自給を維持する中で、日本の自給率はこの50年で半減するなど、まさに異常事態と言える。
 穀物自給率にいたると28%で、世界173カ国、地域中の130番目、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中の28番目と、まさに日本は世界でも特殊な、食料を他国に依存する国となっている。
 本来、農業と食料は、国の独立と安全保障の最大の基礎である。安全、良質、安価な食料の安定供給とそのための国内農業の保護、育成は、1国の政府の国民への責任である。当然、各国がそうであるように、政府には、国の独立の課題として、食料自給を目指し、目標を明示し、必要な施策を講じて、それを実現する責任がある。
 しかし、戦後の自民党農政は、この独立の課題を投げ捨て、米国の要求に屈し、一貫して米国からの食料輸入を拡大させ、わが国農業と農民を崩壊させてきた。さらに、80年代半ば以降は、国際化、市場開放の圧力の中で、輸出大企業の国外市場での大もうけのツケを押しつけ、オレンジ、牛肉、さらにコメと、米国などの農畜産物に市場を明け渡し、日本農業を今日の惨状、存亡の危機へと導いたのである。
 99年制定の「新農基法」はついに、食料自給目標も明示せず、食料の輸入依存の姿勢を鮮明にさせるなど、国の責任を完全に放棄するにいたった。最近の米国産牛肉のBSE(牛海綿状脳症)騒動に見るまでもなく、すでに輸入に依存したわが国食糧政策は、極めて不安定なものとなている。
 しかも、この新農基法とそれに基づく「食料・農業・農村基本計画」すら、多国籍大企業、財界は容認することができない。
 奥田・日本経団連会長は、総選挙中の昨年10月の講演で、「いつまでも『農業鎖国』を続けてはならない」「農業改革は待ったなし」と、政府に向かってハッパをかけた。
 これは、わが国多国籍大企業が、中国などとの主導権争いで勝ち抜き、アジアでの経済権益を確保するために、韓国、タイなどアジア諸国と進めている自由貿易協定(FTA)の成立を急ぐため、国内市場、とりわけ農業のいっそうの開放を迫ろうというものである。それはまさに、多国籍大企業の、東アジアでの投資、貿易でのぼろもうけと引き替えに、日本農業と農民に犠牲を押しつけようという理不尽な要求である。さらに、奥田は、国際競争力のない家族農業はつぶれて当然、代わりに企業が参入すると言ってはばからない。
 食料は国の独立と安全の基礎であり、他の工業製品などと同様に私企業の利益や市場原理で扱うことはできない。国内農業は国策として保護、育成されなければ、激動の世界で、国民の食料の安定供給を維持することなどできない。
 多国籍大企業の言う農業改革は、自らの国際市場での利益のために、民族の独立と安全の基礎を売り渡す、徹頭徹尾売国的なものである。

民主党の農業政策の実態

 一方、この奥田の号令に、直ちに反応したのが民主党であった。民主党は昨年の衆院選マニフェストで、食料の安定生産、供給をになう農業経営体への直接支援、直接支払制度の創設、なるものを農政の目玉として打ち出した。しかし、菅代表が各地の農民や農業団体に売り込んだ、農家への直接の所得保障というこの提案は、「食料自給率の向上とFTAの促進を両立させるための関税措置に代わるもの」であるという。それは、関税措置の撤廃、つまり基本的には農畜産物輸入の完全自由化を前提にして、それでも生き残れる、競争力のある一部大規模農家や株式会社などの農業企業に対して資金支援を行おうというもので、家族農業を中心とする圧倒的多くの日本農家にとっては、アメにもならず、いわば死に水をとるためものである。
 1月の定期大会でも菅代表は、民主党の「農業の再生プラン」は、単に農業の再生のためばかりでなく、「自由貿易協定を推し進める条件整備」となるものとだと言い、その農業政策は「貿易立国日本を維持する上からも避けて通れない、大改革」だと公言している。まさにこれは財界の農業改革要求そのものである。
 事実、日本経団連が政治献金の条件として発表した、「優先政策事項」についての評価では、「グローバル競争の激化に即応した通商・投資・経済協力政策の推進」という項目での民主党の評価は「B」(ややよい)で自民党と同点。財界はこの評価のコメントで、民主党を「アジア地域とのFTA締結促進を示すが、やや抽象的。また、農業経営体に対する直接支援・直接支払制度の導入による農業改革も打ち出す」と激励し、いっそうの忠誠を要求したのであった。
 ここまで来れば、この党の農業重視なるものの実態は明かであろう。

選挙目当ての民主党の術策うち破れ

 1月の民主党定期大会で、菅代表は、自・公連立与党を改選議席過半数の61議席を割り込ませ、小泉政権を退陣させるためには、1人区での10人以上の当選と、比例でも総選挙で獲得した2200万票を2500万票まで伸ばすことを目標とすると述べた。1人区(定数2で改選議席が1人)の選挙区は47都道府県(選挙区)の半数以上の27県で、東北、北陸、中四国、九州が大半を占める。ここで勝利するためには、農村部での支持・得票の拡大が必要不可欠というわけである。
 昨年の衆院選結果は、自民党の伝統的支持基盤での崩壊現象が、特に地方、農村部で止むことなく続いていることを劇的に示した。参院選にのぞんで、民主党がこれらの事実に注目し、彼らなりに総括し対処しようとしていることは想像に難くない。突如として農業政策重視の姿勢を打ち出したこの党の意図は明かで、参院選での票欲しさのあまりの悪質な党利、党略である。
 すでに見たように、民主党には、食料、農業問題を、国の独立の課題として真剣に取り組もうなどという意志はかけらもない。菅氏らの言う「食料自給率向上」など、欺まんに過ぎない。
 自民党も民主党も「同じ穴の狢(むじな)」で、多国籍大企業のための改革政治の推進を自民党と競う民主党に、日本農業が守れるはずがない。
 歴代自民党政権の売国農政で、存亡の危機に立たされた日本農業と農民が、この民主党に期待をつなぐとすれば、それは新たな悲劇で、自殺行為ですらある。
 民主党のペテンを見破り、広範な農村でも、その化けの皮を引きはがさなければならない。
 日本農業と農民の未来を切り開く確かな力は、自らの要求を掲げ、労働者など国民各層と連携した、力強い大衆行動であり、それを基礎にした国民的な政治戦線の形成である。


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