労働新聞 2004年2月15日号 社説

外為法改悪強行

対北朝鮮「経済制裁」で敵視、
排外主義強める支配層

 日本単独で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への経済制裁を可能にする「改正外国為替、外国貿易法(外為法)」が、2月9日の参院本会議で自民、民主、公明各党などの賛成で可決・成立した。
 これは従来、国連決議や多国間合意がなければできなかった、送金停止や資産凍結、輸出入規制などの「経済制裁」を、日本政府の判断だけで行えるとする法律で、自民、民主、公明の与野党3党が共同提案していたものである。
 これを受けて、政府は25日から北京で開催される「北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議」の場で、北朝鮮に対し、拉致問題について期限を切って回答を求める方針を固めるなど、「経済制裁」を振りかざした圧力と挑発を強めている。
 国会では、これに続き、北朝鮮船舶の入港を制限する「特定外国船舶入港禁止法案」、さらに、在日朝鮮人など永住外国人の再入国を禁止する「出入国管理法改正案」すら提出されようとしている。まさに、矢継ぎ早で執拗(しつよう)な北朝鮮敵視である。
 マスコミも、経済制裁の「発動は北朝鮮の出方次第だ」(読売)などと、排外主義をあおり立てている。
 対北朝鮮経済制裁の発動は、ただでさえ、米帝国主義の核どう喝の下、長期にわたる厳しい経済封鎖の中で、苦境を強いられている北朝鮮経済を、さらに深刻な事態へと追い込むもので、北朝鮮政府が「経済制裁の発動は宣戦布告と見なす」と警告するのも当然なことである。しかも、在日朝鮮人の人びとは、祖国の家族、親族へのわずかばかりの送金も禁止され、日用品や医薬品を送ることさえできなくなる。戦前、戦中の植民地支配下、多くの朝鮮人民を強制連行で拉致し、家族離散の悲劇を強制したわが国が、その離散家族の細々とした交流や送金を禁止するなど、戦争犯罪、国家犯罪を塗り重ねるもので、二重三重の人権侵害であって断じて許せるものではない。

拉致、核問題は口実に過ぎない

 「対話と圧力」などという欺まんで、北朝鮮敵視政策を続ける政府は、外為法改悪とそれによる経済制裁のどう喝を、拉致、核問題の解決に向けた「外交カード」などと言いくるめる。国益のかかった外交政策を、バクチの「カード」になぞらえる、不見識、無責任さもさることながら、その根拠もまた、極めてでたらめである。
 そもそも、拉致問題は、戦前の過酷な植民地支配の謝罪も補償もせず、戦後も、朝鮮戦争以来、核どう喝で戦争政策と包囲、封鎖を続けてきた米帝国主義に従属して、一貫して敵視政策を続けてきたわが国と北朝鮮の関係が不正常、かつ極めて敵対的状態にある中で起こった、不幸な事件であった。一昨年9月の日朝首脳会談では、金正日総書記が国家的犯罪としての事実と責任を認め、再発防止を約束して、日朝平壌宣言が合意された。
 したがって、拉致被害者の人びとの恨み、憤りは容易に忘れられないとしても、以降の補償や関係者の処罰など、北朝鮮政府の対応を含め、懸案事項は両国の国交正常化を目指す交渉の中で、平和的に、話し合いで解決されるべきものであった。
 しかし、両国間の約束を一方的に破り、一時帰国していた拉致被害者5人を帰さず、「拉致問題の解決こそ国交正常化交渉の前提」などというわが国政府の態度は、平壌宣言に反し、交渉のハードルを故意に高め、合意そのものを反故にしようという、悪意に満ちたものであった。これに対し、北朝鮮政府が、約束を守って被害者をいったん帰せと言うのは、理のあることである。
 また、拉致被害者の家族の帰国問題でも、北朝鮮は昨年末、拉致被害者が北朝鮮の空港まで迎えに行くという、「出迎え方式での解決」を提案している。これは、経過と家族と再会したい拉致被害者の心情から見て、妥当な解決策といえた。しかし、わが国政府はこれに耳を貸さず、拉致問題を長期に政治利用する意図で、あくまで強硬姿勢を貫いたのである。
 これらから明らかなように、拉致問題の解決を望まず、これを口実にして国交交渉を拒否し、敵視政策を強めているのはわが国政府である。経済制裁などで北朝鮮をさらなる窮地に追い込んで、両国関係を緊張させることが問題解決をいっそう難しくさせることなど明かではないか。
 一方、核、ミサイル問題の解決なども、口実に過ぎない。
 そもそも、朝鮮戦争休戦協定以降一貫して、北朝鮮敵視を続け、膨大な軍事力で核どう喝と挑発を続けてきたのは、米帝国主義であった。しかも、米、ブッシュ政権は、北朝鮮を「悪の枢軸」と決めつけ、ブッシュ・ドクトリンで核兵器による先制攻撃と、内政干渉の政権転覆まで公言しているのである。
 北朝鮮政府が、自国の独立と政権を守るために、「安全の保障」を要求し、米帝国主義による侵略戦争に身構え、核、ミサイルを含むあらゆる手段で防衛力の強化を図ることは、独立国として当然とりうべき選択で、やむを得ぬ自衛権の範囲である。
 「核危機」を作り出す米帝国主義に追随、加担し、敵視政策を強めるわが国政府に、北朝鮮の武装解除を要求する権利などあろうはずがなく、そのための経済制裁など、むしろ地域の軍事緊張を高め、わが国を亡国へと導くものである。

排外主義強める政府、支配層の危機、狙い見抜け

 排外主義の大合唱を打ち破る上で、これをあおる支配層の真の意図を見抜いておかなければならない。
 奥田・日本経団連会長は、昨年、多国籍企業のための日本改造計画、「奥田ビジョン」の発表に当たって、その狙いを雑誌に寄稿したが、そこでは、改革政策加速を政府に求めながら、失業者があふれ、暴動が起こると危機感をあらわにし、それを「打ち破って進む」強力な政治を求めている。
 それは、バブル崩壊以降10年以上にわたる深刻で、出口の見い出せない経済危機の中で、激化する国際競争に対処するため、資本効率重視で国内を切り捨て、そのツケと犠牲をあげて国民経済と国民各層に押しつけることでしか事態を乗り切れない支配層、多国籍大資本の危機感のあらわれである。支配層は、避け難く高まる国民の不満と怒りを、外に向けてそららすため、あえて北朝鮮敵視を強め、排外主義をあおっているのである。それは、あたかも戦前の関東大震災時同様、国民の怒り、不満の矛先をアジア、とりわけ朝鮮民族に向かわせようとする悪らつなものである。拉致や核問題などは、その口実に過ぎない。
 しかも、悪質なのは、朝鮮の脅威に対処するには日米同盟が重要と、イラクへの自衛隊派兵を合理化し、わが国の軍備増強、それも核武装を含む軍事大国化を合理化することにも利用しようとしているのである。
 過去の過ちを繰り返してはならない。排外主義の大宣伝を徹底的に暴露し、打ち破らなければならない。

売国民主党打ち破り、国の進路転換のための壮大な戦線を

 見逃せないのは、野党の民主党の犯罪的役割である。
 民主党は、早くも昨年総選挙の際、北朝鮮への送金規制のための法整備を政権公約(マニフェスト)の追加項目として決定し、今国会に際しては、自民、公明らとの法案協議に積極的に応じ、ついには共同提案して、法案成立を推進したのである。
 まさに支配層を支える民主党の「面目躍如」である。安保、外交など基本政策で差のない2大政党制の一方を目指し、排外主義の片棒を担ぎ、朝鮮敵視政策を推進する売国民主党を、国民ははっきりと見抜き、打ち破らなければならない。
 一方、社民党もまた衆院本会議では賛成し、参院では棄権して法案成立に手を貸した。歴史的に日朝の国交正常化を訴えてきたこの党の惨状は、まさに政党の堕落、敵への屈服と言わねばならない。
 わが国の真の国益を守り、亡国への道を阻止するために、排外主義、北朝鮮敵視政策に反対し、日朝両国の即時の国交正常化を求めて闘わねばならない。こうしてこそ、両国間のさまざまな課題、懸案事項は解決に向かうことができる。
 これを切り開く何より確かな道は、国民的な運動と政治戦線の形成である。大衆的基盤ある国民運動と結合した、新たな力強い政治勢力を、広範な闘う勢力の団結で登場させよう。


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