労働新聞 2003年4月25日号

解説

第15回統一地方選挙前半戦終わる
示された有権者の政党と
政治への深刻な不信感

 4月13日投開票の10都道県知事選挙、44道府県議選挙と12政令市議選挙の統一地方選挙前半戦の結果が判明した(札幌市長選挙は再選挙)。国民生活と営業の未曾有の危機にもかかわらず、それにふさわしく主導性を発揮した政党はなく、地方政治の大きな構造変化の見られぬ結果となった。有権者の政治や政党不信はいっそう高まっている。

 今回の地方選挙は、デフレ不況の長期化と小泉構造改革、とりわけ不良債権処理の加速化の下で、倒産、失業の増大など国民生活と中小商工業の経営が未曾有(みぞう)の危機に襲われている中で闘われた。また、地方政治をめぐっては、小泉政権による財政再建、地方分権改革の名による交付税や補助金の大幅削減、自治体の大合理化、住民犠牲の押し付け、自治体合併の強制など地方経済の危機と自治体の存続自身が問われる情勢の中での選挙となった。
 さらに、米帝国主義のイラク侵略戦争の中で、この侵略戦争にいち早く支持を表明した小泉政権への審判など、この国のあり方も、問われるべき選挙であった。
 一方、今回の地方選挙は、予想される総選挙、来年の参院選挙など国政選挙の前哨戦と位置付けられた。国政選挙の足場となる県、市議選、知事選挙を、各政党はそれぞれ消長をかけて闘うこととなった。

政治不信増大示す記録的低投票率
 したがって国民の生活、営業や地方経済と自治体の危機打開をかけて、各党が政策を掲げ、激しく争われるべき選挙であった。しかし、選挙戦の実態は与野党ともに「改革」を競い合い、争点も不鮮明で、およそ有権者の期待にこたえるものではなかった。有権者は、どの党にも未来を託せず、選挙結果が見せた最大の特徴は、記録的な投票率の低さとなって現れた。
 知事選挙の平均投票率は前回比4.15ポイント低下の52.63%と史上最低。道府県議選挙でも平均投票率は52.48%、政令市議選挙に至ると47.70%といずれも史上最低となった。これは、前回地方選から選挙法を改正し、投票時間の延長までして投票率上昇をはかった上での、再度の低下である。
 知事選挙では、とりわけ、東京、神奈川、福岡など都市部の投票率は軒並み50%を切った。都市有権者の半分以上の人びとは投票所に足を運ばなかったか、選択すべき候補者を見つけられず、棄権に回った。
 圧倒的な有権者は棄権の拡大という事実で、政治不信、政党への不信のいっそうの高まりを示したのである(グラフ)

結果に見る各党の消長
 にもかかわらず、全国的な国民世論の動向を占う上で注目された知事選結果は、東京で現職石原慎太郎氏が前回を130万票余り上積みし、大差で再選を果たしたのをはじめ、岩手、島根、福岡と、無投票となった鳥取の5県で現職が全員当選した。
 新人同士の争いとなった残り六県でも、北海道、大分で連立与党推薦・支持候補が勝利。福井ではオール与党の後継候補が勝利し、自民の4分解で注目された佐賀も、事実上前職知事が後継として押す保守系無党派候補が勝利した。
 野党系では、神奈川の前民主党衆院議員と三重で民主、自由、社民推薦の無所属が勝利したのみ。しかも神奈川で勝利した松沢氏は小泉改革支持を公然と打ち出し、少なくない自民票にも支えられた。三重では自民党が自主投票となった上、前北川知事の「改革」路線の継承・発展を有力3候補が掲げた中での結果であった(表1)
 道府県議選挙結果でみる各政党の消長はーー、
 自民党が前回比21議席増の1309議席を獲得。過去最低の結果となった前回より盛り返したものの、95年の選挙以来3回連続の過半数割れと、復調というにはほど遠い結果である。民主党も35議席増の205議席を獲得したが、空白県を4県から7県へと増加させ、不振の知事選結果と合わせると、野党第一党の存在感はまったく感じられなかった。一方、公明党は178の候補者全員当選を果たし12議席増となった。北海道知事選で与党候補が接戦を制した鍵となったのもこの党の組織票で、小泉政権を与党として支えるこの党の犯罪的役割があらためて示された。
 一方、前回過去最高の議席を獲得した共産党は、候補を絞り込み、組織政党有利といわれたにもかかわらず45議席減の107議席へと惨敗し、その組織力の弱体化を示した。社民党も21議席減の73議席と過去最低に落ち込んだ(表2)

無党派候補、知事の増加
 知事選挙における、低投票率と並ぶもう一つの特徴は、あえて政党の支持を受けない無党派候補が増大したことであった。東京、神奈川、岩手、鳥取など無党派を掲げた候補が当選した。福井、福岡でもオール与党候補に対して無所属候補の善戦が目立った。実態はどうあれ無党派を装った候補者が増大したことは、有権者の既成の議会政党への不信、政党離れの反映であり、候補者がこれに対応せざるを得なかった結果である。
 今回、無党派候補を選択した有権者の意識は、既成の政治、政党に対する深い失望、批判の結果という意味で、棄権に回った有権者の意識と共通項が多い。したがって、無党派支持は過渡的で、ここにも失望すれば次には棄権に回ることとなる。無党派知事の増加という現象は、そのような有権者の意識を反映したものである。

危機の中、大きな変化つくれなかった野党
 今回の前半戦結果、とりわけ知事選結果には、地方経済や自治体をめぐる危機の深刻さに比して、その打開の方向を示すべき政党の政策論争やその消長という変化が、十分現れたとは言い難い。おおむね現職、後継候補が勝利したことに見られるように、地方での既存の権力構造に大きな変化は生まれなかった。
 もちろん、自民党が調整力を失って4候補を支持した佐賀県知事選、あるいは北海道、福井、大分など保守、相乗り候補の苦戦など、注目すべき変化の兆しはあった。自民、保守票は各所で分裂を余儀なくされた。福井の無所属候補が中小企業対策をその政策の第一に上げ、大きな支持を獲得したことにも、昨年の衆参統一補選で示された、中小業者達の自民党支配への反乱とその闘いの継続を見ることができる。与野党相乗りが前回の10から2へと激減したことにもそれは現れている。小泉改革の下、自治体財政の危機を口実とした、合理化、住民への犠牲転嫁で、官公労などの労働組合が相乗りからの離脱へと動き出したことも、重要な動きである。しかしそれらは結果から見て大きな変化には行き着かなかった。
 多くの与党系候補者は、政党隠しと争点隠しで、旧来の政治と政党に対する批判をかわそうと画策した。これは国民の政治や政党への不信の高まりの反映だが、この欺まんを野党が攻めきれなかったことが、この程度の結果にとどまった原因であろう。
 そのような中で、唯一得票を大きく前進させ、変化をつくり出したという意味で、東京都の石原知事の得票結果は、注目すべきであろう。
 この反動的な野心家は、口先の「反米」や反中国の言動で排外主義をあおる一方、大銀行への課税強化など、あえて国政との対立ポーズを演じて見せた。政策に掲げた都による新銀行設立も、中小企業への融資、資金支援などの主に中間層、中小商工業者を意識したものであった。小泉改革の下で存亡の危機に瀕し、今回選挙でも保守分裂、激戦の目となった中小商工業者の動向に、敵の一部が注目し、対処しようとしても不思議なことではない。
 もちろん、石原都政の実際は徹底した合理化、福祉切り捨てなど都民いじめで、国の進める行革、財政再建など「改革」路線をどこより忠実に実践するもので、「国政との対決」など真っ赤なうそである。
 欺まんに満ちたこの傾向への警戒と暴露が、いっそう必要となろう。

 今回の地方選前半の結果は、危機の下で深まる有権者の政治、政党不信を劇的に示したとともに、それに何ら対処できず、打開の方向を示せない、議会主義野党の無力さを示して余りあるものである。
 始まった変化の兆しを大きな流れとなし得るか、後半戦の課題であるとともに、そこに地方政治転換に向けた大衆運動の発展の重要な契機を見なければならない。

(グラフ)統一地方選挙の投票率の推移

(表1)道県知事選挙の結果

【北海道】
○高橋はるみ(無・自公保)
鉢呂 吉雄(無・民由社)
磯田 憲一(無)
伊東 秀子(無)
酒井 芳秀(無)
若山 俊六(無・共)

【岩手】
○増田 寛也(無)
菅原 則勝(共)

【東京】

○石原慎太郎(無)
樋口 恵子(無)
若林 義春(共)
ドクター・中松(無)

【神奈川】
○松沢 成文(無)
宝田 良一(無・自公保)
飛鳥田一朗(無)
田嶋 陽子(無)
吉村 成子(無・共)

【福井】
○西川 一誠(無・自民公社保)
高木 文堂(無)
山川知一郎(無・共)

【三重】
○野呂 昭彦(無・民由社)
水谷 俊郎(無)
村尾 信尚(無)
鈴木  茂(無・共)

【島根】
○澄田 信義(無・自公保)
太田 満保(無)
九重 匡江(無)
佐々木洋子(共)

【福岡】
○麻生  渡(無・自民公由社保)
今里  滋(無)

【佐賀】
○古川  康(無)
宮原 岩政(無)
樋口 久俊(無)
木下 知己(無)
福島 是幸(無・共)

【大分】
○広瀬 勝貞(無・自公保)
吉良 州司(無)
阿部 浩三(共)
(獲得票数)
798,317
736,231
428,548
371,126
167,615
142,079


669,527
89,692


3,087,190
817,146
364,007
109,091


1,040,594
676,534
643,583
496,319
197,402


245,538
199,497
16,643


473,246
173,433
171,200
48,616


245,509
105,113
44,925
26,967


1,162,836
710,230


160,809
147,842
76,520
30,149
25,577


322,456
295,886
42,312
(相対得票率)
29.3
27
15.7
13.6
6.1
5.2


88.2
11.8


70.2
18.6
8.3
2.5


32.6
21.2
20.2
15.6
6.2


53.2
43.2
3.6


54.6
20
19.8
5.6


58.1
24.9
10.6
6.4


62.1
37.9


35
32.1
16.6
6.6
5.6


48.8
44.8
6.4

(表2)道府県議会選挙の結果

議席数
相対得票率
絶対得票率
今回
99年
今回
99年
今回
99年
自民党
1,309
1,288
38.9
37.7
16.3
17.6
民主党
205
170
9.2
8.0
3.9
3.8
公明党
178
166
8.1
6.7
3.4
3.1
自由党
25
20
0.8
0.8
0.4
0.4
共産党
107
152
8.6
10.5
3.6
5.0
社民党
73
94
2.7
3.4
1.1
1.6
無所属
687
698
29.2
30.1
12.3
14.0


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