労働新聞 2003年3月5日号 社説

日本国際フォーラム
「イラク問題について米国の立場
と行動を支持する」について

徹底した対米従属、売国主義者の犯罪的提言

 2月18日の国連安全保障理事会公開討論会で、わが国政府は独、仏などの査察継続論をけん制、イラク攻撃を急ぐ米国を支持する立場を鮮明に打ち出した。
 この国連演説について、与党内一部からも「時期尚早」などの疑問、批判意見が上がっていた最中の20日、日本経団連名誉会長の今井敬氏が会長を務めるシンクタンク「日本国際フォーラム」が、「イラク問題について米国の立場と行動を支持する」と題する緊急アピールを発表した。
 アピールは、イラクと朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)をめぐる二つの「危機」は「連動している」と指摘し、日米同盟が試練を迎えているときこそ、「米国支持の旗幟(きし)を鮮明にすべき」などと、米帝国主義のイラク攻撃、侵略戦争を積極的に支持し、わが国政府の態度を擁護する。あわせて、「北朝鮮危機」の解決は「われわれのイラク危機への対応にかかっている」。日本は米国に対して「イラクへの武力行使には反対するが、北朝鮮の危機には断固として対処して欲しい」とは言えないと言い、「イラク問題について米国の立場と行動を支持し、北朝鮮問題での日米連携の強化を主張」すると、徹底した対米追随の売国外交と北朝鮮敵視をあおり立てる代物となっている。

エセ学者ら使い恐米論ふりまく思想攻撃
 この緊急アピールは「日本国際フォーラム」の緊急提言委員会(委員長・田久保忠衛・杏林大学教授)の委員有志の連名で発表された。日本国際フォーラム」は、昨年12月にも集団的自衛権行使容認と自衛隊の海外派兵を推進すべしとの政策提言を行うなど、反動的、売国的世論操作をその任務とする、財界お抱えのシンクタンクである。その緊急提言委員会なるものも、委員長の田久保氏自身が「諸君」など極右マスコミの常連寄稿者で、委員には、岡崎久彦・元駐タイ大使や伊藤憲一・青山学院大教授ら、米、ブッシュ・ドクトリンの理論化、宣伝に狂奔する、札付きの対米従属論者、売国主義者たちが名を連ねている。伊藤氏は同フォーラム理事長でもある。
 一介の民間シンクタンクに過ぎない同「フォーラム」の提言だが、密接な関係にある「読売新聞」などは、社説でほぼ同様の趣旨を述べた上で、アピール要旨まで掲載して、紹介、宣伝に努めている。また、不見識な政治家も早速この影響を受け、例えば、額賀福志郎・元防衛庁長官は講演で、米国が国連決議なしで武力攻撃に踏み切った場合も「イラクと北朝鮮問題はつながっている」ので「国連より日米同盟を優先させ」米国を支持すべき、などと同提言の受け売りに努めている。小泉首相もまた、来日したパウエル米国務長官との会談で、イラク、北朝鮮問題で「日米同盟はさまざまな意味で重要」と、「連動」していることを強調した。
 激動を深める内外情勢の下、敵がイデオロギー分野での攻撃を強め、世論に影響を与え、与野党政治家も巻き込もうとしている中で、このような売国的な見解を暴露し打ち破ることは、当面のイラク反戦の闘いにとどまらず、日朝国交正常化を求める闘いを始め、長期のわが国進路をめぐる闘いの発展にとってもきわめて重要である。

だれが危機をつくっているのか
 このアピールの中心的論点は、「イラク危機と北朝鮮危機は連動している」というところにある。そして、わが国が今、米国のイラク攻撃に協力しておかないと、北朝鮮への対応で、米国に救ってもらえない。世界の大勢に反しようが、何が何でもイラク攻撃でいち早く支持を表明し、孤立する米国を助け、その米国に頼って北朝鮮に対決しなければならない、と言っているのである。
 さらに、わが国は仏、独など欧州と違い、独自外交などできず、対北朝鮮外交でも、米国の後見、軍事力の後ろ盾がなければやれないと言い切るのである。このあきれるほどの売国主義と朝鮮敵視は異常と言うよりほかない。
 とりわけアピールは、北朝鮮危機なるものをあげつらい、それが「北朝鮮の核武装化の動きがエスカレート」していることだと決めつける。しかし、これはまったくのでたらめで、白を黒と言いくるめるものである。危機などと言うなら、だれがそれをつくり出しているのかを明らかにしなければならない。そうでなければその危機と闘えないからである。
 経過を見れば明らかである。言うまでもなく、朝鮮戦争休戦以来一貫して北朝鮮敵視を続け、核を含む膨大な軍事力を韓国、日本に配備し、軍事挑発と核どう喝を続けてきたのは米国である。その上米国、ブッシュ政権は、一昨年の同時多発テロ事件を契機に、北朝鮮を「ならず者国家」「悪の枢軸」などと決めつけ、ブッシュ・ドクトリンで核先制攻撃を公言、いっそうの圧迫、封鎖を強めたのである。このような、国家の存亡を問われる危機の中で、北朝鮮政府が必要な軍事力を整備し、自国の独立を維持し、防衛しようとするのは当然の権利である。それが通常戦力であれ核兵器であれ、本質上は同じである。今日、北朝鮮がそれを決断するかどうかはわからないにしても、米国を頂点とする大国の核独占、それによる世界支配という事実がある以上、弱小国が核を熱望したとしても、それには根拠があるといわねばならない。核の脅威を言い、その廃絶を願うならば、それを独占し、実戦に配備し、他国をどう喝し、世界支配の道具としてる大国、とりわけ米帝国主義こそ問題にされなければならい。
 現実に核をもてあそび、朝鮮半島に核危機をつくり出している張本人は、米国にほかならない。

許し難い朝鮮敵視と売国主義
 わが国は戦後一貫して米帝国主義の支配下で、それに従属し、独自外交など片時も持つことがなかった。最も重要な近隣諸国、対北朝鮮外交も同様で、朝鮮戦争以来の米国の対北朝鮮包囲、封鎖、敵視の政策に従って、一貫した敵視政策を続けてきた。今日の日朝間の様々な諸課題、拉致事件その他の不正常な問題は、このような敵対的で不幸な両国関係の中でつくり出されたものであった。
 昨年九月の日朝平壌宣言は、本来、この不正常な関係を清算し、国交の正常化を目指すことに合意したものであった。しかし、拉致、核問題などさまざまに難題を突きつけ、交渉のハードルを高め、先延ばししてきた、その後のわが国の態度は、わが国政府が相変わらず対米追随で、何の自主性もなく北朝鮮敵視政策を継続してきたことを暴露するものであった。今日、日朝関係は、従来にも増して最悪の状態となった。
 これらの経過から明らかなことは、両国間の諸課題の解決のためには、わが国が対米追随の北朝鮮敵視政策をやめ、両国関係の正常化を目指し、誠実に交渉のテーブルにつき、平和的に話し合うことこそ必要だということである。
 それを、ブッシュ・ドクトリンの下、イラクの次は北朝鮮と、軍事圧力を強める米国に頼り、北朝鮮敵視政策を継続しようというアピールの態度は、両国関係の正常化にもアジアの平和にも結びつかない、最悪の選択と言わねばならない。
 これは、外交で何の自主性もなく、徹頭徹尾米国への従属を誓う、奴隷根性、売国主義の提言である。
 本来、わが国外交は、わが国独自の課題であり、他国の干渉や、介入を許すべきものではない。こんにちの激動の国際社会の中で、わが国の国益を守り、どのように生きていくか、独立自主で、独自の国家戦略にそって、その方向、進路が決められなければならない。とりわけ、対朝鮮外交は、近隣国というだけでなく、戦前の植民地支配で大きな被害を負わせ、朝鮮半島の南北分断に大きな責任を負うわが国にとって重大である。対米追随の朝鮮敵視政策をやめ、朝鮮民族の悲願である平和統一に積極的支援を寄せてこそ、真の意味での過去の清算となり、それはまた、アジア諸国の信頼をも得る道となろう。
 エセ学者、その他の振りまく恐米論、売国主義の思想攻撃を打ち破って、独立、自主でアジアと共生する平和な国の進路への転換に向け、国民的世論と戦線を構築しなければならない。


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