労働新聞 2002年11月25日号 社説

 先月末、再開にこぎつけたばかりの日朝国交正常化交渉が、早くも行き詰まっている。この責任は、あげて対米追随の小泉売国政権が負うべきものである。
 今月14日、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発計画を、米朝枠組み合意に対する重大な違反などと非難、12月分以降の重油供給を凍結するとの制裁措置を決定した。また米国は、北朝鮮が計画の撤廃を表明しない限り、軽水炉提供を含む、米朝枠組み合意全体の解消も辞さないと、強硬姿勢を露骨にした。KEDO理事会では、この米国の強硬姿勢に、問題の平和的解決と対話継続を望む韓国が抵抗を見せたが、わが国が米国に追随、制裁措置が決定された。
 そもそも、北朝鮮が国際的合意を破ったなどという非難はでたらめで、逆に、合意を破ってきたのは、他ならない米国である。そしてこの米国に追随、日朝平壌宣言すら反故にしようとしているのが、わが国政府である。

枠組み合意を破ったのは米国である

 米朝枠組み合意は、1994年10月、ジュネーブで締結されたもので、4項目からなっていた。その第1は、北朝鮮が核兵器への転用が比較的容易とされる黒煙減速炉を凍結し、その見返りに米国が、2003年までに軽水炉発電所2機を提供するとしたもので、黒鉛減速炉凍結によるエネルギー損失を補償するため、米国が毎年50万トンの重油を納入することも約束された。北朝鮮は合意を順守し、黒鉛減速炉を凍結してきたが、軽水炉建設は米国の意図的な妨害と先延ばし策によって大幅に遅れ、8年もたった今年8月に、やっと1号機の土台部分にコンクリートが注入されただけである。03年の提供は事実上不可能となり、北朝鮮は今日、深刻な電力不足で生産と国民生活に重大な支障をきたしている。合意の第2は、経済制裁措置の解除や、相互の連絡事務所開設など、米朝の政治、経済関係を正常化することであった。しかし米国はこれも全面的にサボタージュ、経済制裁を加え続けた。さらに第3では、米国が核兵器を使用せず、威嚇もしないという公式保証を北朝鮮に与えることとなっていた。しかし米国は、ブッシュ・ドクトリンで、北朝鮮を核先制攻撃の対象に指定、軍事恫喝をいっそう強めているのである。さらに第4では、タービンと発電機など軽水炉の相当部分が完成した後に、北朝鮮が核査察を受け入れることとなったが、米国は、当初の合意にない早期査察を持ち出し、あたかも北朝鮮が合意違反をしたかのように騒ぎ立ててきたのである。
 このように、枠組み合意を踏みにじり、違反を繰り返してきたのは米国である。しかもその米国は世界最大の核兵器保有国で、北朝鮮をイラクと並んで先制攻撃の対象国と言明、核による包囲、封鎖、軍事恫喝をかけ続けている。北朝鮮が、このような環境の下で、しかるべき対処、備えをするのは、独立国として当然の権利である。

対米追随で自主性のかけらもない小泉外交

 米大統領・ブッシュは、日朝首脳会談直前に行われた日米首脳会談で、北朝鮮の核開発情報も示して、米国の真の狙いが北朝鮮の武装解除にあり、核を含む「安全保障問題」で北朝鮮が屈服しない限り、国交正常化、とりわけ経済援助を急いではならない、と小泉に圧力をかけた。
 従って小泉は、これらの事情を、みな承知の上で、日朝首脳会談に臨み、平壌宣言に署名することを「決断」したのである。
 小泉は、自らの思惑と共に、国益をも考慮し、「一つの決断」として平壌宣言に合意したか、あるいは、毒を含んで、つまり北朝鮮への計略として署名したか、または、十分な考慮もないまま、自らの政権浮揚という、目前の思惑のために、この合意を使おうとしたか、考えられる「決断」の背景、根拠は、これら3つのどれかであろう。もちろん、徹底した対米追随の小泉政権が、国益に従って、重大な「決断」をするなどは、およそありえない話で、その後の経過はそれを明白に物語るものである。
 日朝首脳会談直後、小泉は、拉致問題での国内世論の予想以上の反発に大慌てしたが、やがてこれを逆手に取り、排外主義的な反北朝鮮キャンペーンを展開、北朝鮮をさらに圧迫し交渉を有利に展開しようと画策した。しかし、被害者らの帰国で、拉致事件についても日本の世論が軟化を見せると、米国は突如、北朝鮮の核開発問題を公表、交渉進展を妨害するための干渉をいっそう強めた。わが国政府はこれらの米国の干渉に慌て、次々と屈服した。当初は、諸懸案は「包括的に協議する」との立場で、拉致問題とあわせ経済協力の協議も同時に進めるとしていた国交交渉の方針を転換、当面の議題を拉致、核開発問題に絞り、「米国の懸念に配慮し」、これらで進展がない限り経済協力問題は取り上げないと変更したのであった。
 さらに、政府は19日、拉致事件被害者5人を返さないという自らの合意違反を棚に上げ、家族の帰国問題などで進展が見られないと、北朝鮮が求めた、国交交渉の今月中の開催を見送るとの方針を固め、合わせて、すでに両国が月内開催で合意していた安全保障協議についても、開催見送りもやむなしと言うに至ったのである。
 これは、「国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注する」とし、「国交正常化の実現に至る過程でも、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む」と確認した、日朝首脳会談と平壌宣言の基本的精神と合意を踏みにじり、平壌宣言それ自身を反故にしようとする悪意に満ちた策動である。また、米国の干渉の下で、これに慌て、右往左往し、拉致問題、核開発問題、さらには「生物兵器開発疑惑」まであげつらって、交渉の「ハードル」を次々と高め、一方的に北朝鮮の屈服を迫り、はては交渉そのものまでサボタージュしようとするわが国政府の態度は、きわめて売国的である。これは、対米従属で、国際的合意を守る意思も能力も持たないわが国外交の無様な実態を世界に曝し、国際社会の不信と軽蔑をかうものである。国交交渉を暗礁に乗り上げさせた責任は、あげてわが国政府にあるといわねばならない。

独立自主の外交で南北朝鮮人民との連帯を

 一昨年6月の、朝鮮の南北首脳会談と共同宣言の発表は、朝鮮半島の平和と安定、統一に向かって大きな希望を与えた。南北の朝鮮人民は共に喜び、心から歓迎した。これは、在日の南北朝鮮の人びとにも大きな希望となって、今日もこの気運は双方の底流に流れている。また、韓国政府は、米国の妨害の中でも「太陽政策」を堅持し、一部の反動派を除いて、国民多くの支持の下、努力が続けられている。
 わが国は、この方向、努力を断固支持すべきである。これは南北朝鮮に留まらず、東アジアの平和、安定に大きく寄与するものだからである。隣国であるわが国が、側面からでも、真剣に支援しうるならば、平和統一の機運と実際を前進させる、一定の貢献となるに違いない。また、こうしてこそ、わが国にとっての、真摯な過去の清算となるはずである。
 わが国には、歴史的な大きな責任があることを知らなければならない。
 もちろん、見てきたように対米追随の小泉政権に、このような態度は望むべくもない。従ってわが国人民は、断固として日朝平壌宣言を支持し、日朝の国交正常化を要求すると共に、南北共同宣言を支持し、南北朝鮮人民と固く連帯し、平和統一を支援し闘わなければならない。
 「国交交渉は時期尚早」などとブッシュばりの発言を繰り返す、民主党などに期待を寄せることができないのはもちろんである。
 また、一時の逆流に、われを忘れて、「核開発は平壌宣言違反」などと言い立てる社民党中央、土井氏らの言動も、あたかも朝鮮敵視をやっているようなものである。日朝国交正常化に向け、野党の中心で努力してきた多くの党員、支持者が納得できるものではないはずである。
 今こそ心ある政党、団体、活動家は力をあわせ、対米追随の売国外交の清算、日朝国交正常化早期実現、南北朝鮮の平和統一支援の国民的運動を共同して巻き起こさねばならない。


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