労働新聞 2002年11月5日号 社説

 衆参7選挙区の統一補欠選挙が10月27日、投開票された。
 結果は、衆院新潟5区、大阪10区、福岡6区、参院千葉選挙区、鳥取選挙区で自民党公認または無所属の与党3党推薦候補が当選、自民党は選挙前の勢力を維持した。一方、野党は、民主党公認で自由党推薦の新人が衆院山形4区で当選したにとどまった。衆院神奈川8区では、政党の推薦を受けない保守系の無所属候補が当選した。
 今回の選挙戦は、小泉改造内閣発足後初の国政選挙で、長期不況の中、深刻な倒産やリストラ、失業といった国民の苦難がかつてなく深まった下で闘われた。従って本来、国民は、この長期不況を打開できる政治の実現を切実に望んでいた。しかし実際の選挙戦は、与野党とも構造改革を叫ぶ候補ばかりで、国民の願いを反映する真剣な論戦、対立すら、およそ見られなかった。
 「勝利した」とされる自民党だが、有力議員の「政治とカネ」にからむ議員辞職を受けた補欠選挙で、候補者擁立でも一本化に成功せず、野党、民主党の混迷と記録的な低投票率の中、連立与党の公明党の支持基盤、創価学会の組織票に助けられての、危うい「勝利」で、およそ復調というには程遠い実態であった。
 「勝ち過ぎ」と自ら評価した小泉首相は、「引き続き改革に立ち向かう」などと自画自賛したが、自民党や連立与党内では、「首相の路線が信任されたと思っているのは1人もいない」(麻生・自民政調会長)、「小泉政権の経済運営全てが支持されたわけではない」(神崎・公明党代表)と、評価も正反対で、だれ1人勝利を確信するものとてない実態である。
 他方、補選勝利で政権交代の道筋をつける、としてきた野党側は、選挙協力も功を奏さず、予想以上の惨敗にぼうぜん自失である。とりわけ民主党は、鳩山代表の求心力がいっそう失われ、党内から責任追及の声も高まっている。
 また、全選挙区に候補者を立てた共産党は全敗であった。指導部は、これを「善戦、健闘」などと言い繕い、自らと支持者をごまかそうと必死だが、前回参院選以来の支持激減に歯止めがかけられない事実は、覆い隠せない。
 野党の選挙協力で臨んだ社民党も、成果がなかったのはもちろんである。

記録的低投票率は政治不信加速示す

 今回の統一補選の特徴の1つは、その記録的な投票率の低さであった。衆院山形4区43.54%、神奈川8区33.66%、新潟5区51.86%、大阪10区41.45%、福岡6区49.00%、参院千葉選挙区24.14%、鳥取選挙区56.35%と、7選挙区全部で2000年の衆院選、昨年の参院選の投票率を大幅に下回り、過去最低の投票率を記録した。7選挙区中5選挙区で、有権者の半数以上が投票所に足を向けず、選挙に参加しなかったのである。特に、千葉選挙区は7選挙区中最低で、何と有権者の4人に1人しか投票していないのだから、尋常ではない。
 そもそも今回の補選は、与野党の有力政治家の「政治とカネ」問題での不正に端を発して行われたものが多く、有権者の政治不信は当然である。その上、自民党が「候補者」難から、政敵である民主党候補を自民党公認として擁立したり、野党の民主党も比例区から選挙区への「くら替え」で立候補させるなど、与野党問わずの政党の無節操さ、党利党略ぶりが、有権者の政治・政党不信をいっそう拡大させるものとなった。
 何よりも、与野党とも政策面で大差がなく、基本政策では改革を競い合うもので、深刻な不況と改革政治の下で営業と生活の危機にあえぐ有権者の実際とは遠くかけ離れており、およそ選択の余地を与えないものであった。
 また、従来棄権が多いとされた都市部に限らず、鳥取や山形など地方、さらに農村部などでも投票率は激減で、政治不信が全国に、また広範な層に広がっていることを示した。圧倒的な有権者は投票に参加しないことで、現状の政治・政党に対する強い批判を表明したのである。

保守分裂の背後に商工業者の不満

 一方、今回の補選のもう1つの特徴は、衆院神奈川8区、大阪10区、福岡6区、参院鳥取選挙区で自民党の分裂選挙となったことであった。神奈川では保守系無所属候補が勝利し、自民党公認候補は敗北した。また、大阪、鳥取、福岡ともに自民党系候補者間で激戦が演じられた。
 山形では、中央主導の候補者選定に反発した地元自民党が最後まで動かず、自民党推薦候補が敗北した。
 保守分裂選挙は現象だが、その基礎には、自民党への商工業者の強い不満、抵抗があり、そこに激しい階級対立を見ることができる。
 改革を掲げ、「自民党を変える」と叫び、異常な支持率を記録した小泉政権だが、その改革政治の実際が姿を現し、その痛みが具体的に襲いかかるに連れて、国民の中での暴露は、急速に進んだ。昨年夏の参院選での予想以上の低投票率にそのことは端緒的に現れていた。有権者は、始まった改革の痛みに触れ、小泉支持を躊躇(ちゅうちょ)し、野党にも期待できず、棄権という行動でその意思を示した。以降、この流れは加速された。今回補選での棄権の増大については、すでに触れた。
 今回の選挙では、自民非公認の保守反対派候補への業界あげての推薦など、各所で商工業者の反乱が見られた。それは、この間の商工業者や地方の保守層の小泉改革政治に対する反発、抵抗の激化からも十分うなずけることである。
 6月に発表された経済財政諮問会議による「骨太方針第2弾」は大企業減税と併せて道路特定財源見直しや、外形標準課税導入など、国民負担増を打ち出し、これに反発した日本商工会議所、全国中小企業団体中央会、全国商工会連合会、全国商店街振興組合連合会などは、直ちに外形標準課税導入反対で政府に申し入れ、反対行動を強めた。各地で行われた決起大会では、商工業者の改革政治への怒りと、その下で深まる不況、デフレ、銀行の貸しはがし等に対する憤りが、激しく示された。
 また、鳴り物入りで登場した「道路公団民営化推進委員会」は、公団民営化、高速道路建設凍結方針を打ち出したが、8月には岩手、岐阜、鳥取など6県知事が高速道路建設凍結反対などで緊急提言を発表。地方交付税切り捨てや、合併の強制など地方切り捨てに対する自治体、首長らの対決姿勢を鮮明にした。8月、医療費3割負担に反対して、沖縄県医師連盟が内閣不支持と自民党支持凍結を決めたが、それは分裂選挙を予測させる象徴的事件であった。
 また農民も、政府、農水省のコメ政策改悪に反対し、各所で闘いを開始した。
 労働者、労働組合も、多くは連合の指導下で闘いを押さえ込まれているとはいえ、例えば、この6月の失業者による、国会行動の始まりなど、闘いの契機が見え始めた。
 自民分裂選挙は、改革で存亡の危機に立たされる、中小事業者、その業界団体や地方における保守的な支配層の1部すら、改革反対で行動を開始したことを示した。労働者、勤労国民の多くの苦難はなおさらである。危機の時代、改革政治に対する国民的な反抗、行動が、まさに始まりつつある。ここに変化の兆し、時代を突き動かす、マグマの胎動を見なけらばならない。

心ある野党政治家は、
この変化を知らねばならない

 これほどの自民党の危機にもかかわらず、野党、とりわけ民主党は、その批判の受け皿となることができず、無力さをさらした。改革を小泉と競い合うこの党の基本政策では、当然のことでもある。
 選挙協力も効果は上げられず、社民党など野党は、改めて政権戦略の練り直しに直面するだろう。
 政治的で大規模な国民運動の連携、発展こそ事態を打開できる力である。今回の選挙結果とそこに現れた国民意識の変化、改革政治への反発、抵抗の強まりという事実を、心ある政治家は知るべきである。
 勝利したように見える自民党の政治は、内部に深刻な矛盾を抱え、危機を深めている。改革に苦しむ広範な諸階層と大胆に連携し、国民生活と国民のための経済を守る壮大な戦線と闘いを準備する好機である。


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