労働新聞 2002年10月15日号 社説

瀬戸際の小泉改造内閣

小泉改革支える
野党の裏切り打ち破れ

 

 小泉首相は、政権発足後初めて内閣を改造、9月30日、小泉改造内閣が発足した。今回の内閣改造の最大の特徴は、銀行への公的資金投入に慎重だった柳沢金融担当大臣を解任、竹中経済財政担当大臣がこれを兼務することとなったことである。不祥事で評判の悪かった農水相や防衛庁長官などを更送、6閣僚を交代させたが、いずれにしても中規模改造で、与党内に根強かった経済関係閣僚の総入れ替えは行われなかった。戦後初の日朝首脳会談の実現を、自らの政権浮揚の術策に利用し、与党内の不満を押し切り、内閣改造での主導権を握った小泉は「改革を軌道に乗せ、実績を残す」と、新内閣の課題を宣言した。
 しかし、従来「1内閣1閣僚」を唱え続けてきた小泉の主張からすれば、内閣改造に手をつけざるを得なかったこと自身、その求心力低下を物語るものである。
 一方、奥田日本経団連会長は、竹中経済財政相の金融担当相兼務について歓迎する意向を示し、公的資金を活用した不良債権処理加速を支持する方針を初めて表明した。また、ハーバード・米大統領経済諮問委員会委員長も30日、竹中の金融担当相兼任を歓迎、「断固とした決意で改革を推進しようとしている人物」と高く評価し、エールを送った。わが国金融市場への参入や企業買収を狙う米国にとって、企業再編、淘汰(とうた)を叫ぶ竹中は、実に好都合な人物である。小泉は、この竹中との運命共同体を選択した。まさに、米国と多国籍大企業のための内閣そのものである。
 これにこたえて竹中金融兼経財相は、就任早々、銀行の不良債権処理の加速化を宣言、10月3日、不良債権処理の抜本策を練るためのプロジェクト・チームを発表した。しかし、その直後から、不良債権処理の加速が、借り手の不振企業の倒産を強制し、景気が失速しかねないとの見方を生み、東京株式市場の株価はバブル後の最安値を更新して続落。ついに10日、日経平均株価は8200円を割り、1983年3月以来の安値水準へと暴落した。銀行の不良債権処理どころか、株価の大幅な下落で大手銀行7グループの含み損は、10日午前、逆に5兆円規模に拡大したと見られている。
 米国株とドルの連鎖安など、IT(情報技術)バブル後の米経済の長期の調整局面入りの中、これに依存するわが国経済は深刻な不況へと突入している。デフレ下の不良債権処理の加速は、わが国経済をいっそう不安定なものにと追い込み、改革政治の条件をいっそう悪化させている。小泉改造内閣は、その発足早々、重大な危機に直面、改革政治は瀬戸際を迎えている。

事実上の政策転換に 踏み込んだ改造内閣

 株価下落が続く7日、政府はついに、来年4月に予定されていたペイオフ(預金などの払戻し保証額を元本1000万円とその利息までとする措置)の解禁時期を2005年4月まで2年間延期することを決めた。
 この決定は、数次にわたる銀行への公的資金(国民の血税)の投入によって、「金融システムに問題はない」と言い続けた政府が、ついに、銀行の現状がペイオフ解禁には耐えられない、と認めたことを意味する。このまま「金融自由化」の改革路線を走れば、大銀行も含めた銀行倒産の続出で、「取り付け騒ぎ」など、深刻な金融危機が爆発しかねないと、小泉自ら認めたわけである。わが国銀行の抱える不良債権の膨大さ、経営内容の深刻さを示して余りあるものである。
 小泉は、これを「改革政策強化だ」などと強弁しているが、ペイオフ解禁こそ、小泉内閣が掲げてきた金融システム改革の柱で、この延期は事実上の改革政治の政策転換を意味する、重大な選択である。
 この日、併せて検討が発表されたデフレ対策の「緊急対応戦略」は、大企業への大幅減税や、証券税制、土地関連税制の改革を打ち出した。「デフレ克服のため政策を総動員する」と竹中が述べたとおり、これらはみな、財政投入をともなうもので、国家財政から見れば大幅な赤字要因である。
 一方、悪化する一方の景気への対策のため、補正予算編成論が政府、与党内で勢いを増し、小泉もこの検討を示唆し出した。小泉改革の象徴であった「国債発行30兆円枠」の維持は、不況による今年度の税収不足で新規国債発行が避けられず、事実上困難となっている。その上、銀行への公的資金投入と併せ、国家予算をさらに投入する新たな補正予算編成となれば、改革のスローガンであった国債発行「30兆円枠」は、小泉自らの手で公然と放棄されることになる。財政改革の破たんは、小泉改革の破たんを意味する。米国とわが国多国籍大企業の支持を受けた小泉政権は、政策転換で、当初の意義を失おうとしているのである。

小泉改革打ち破る好機

 わが国多国籍大企業の要請を受けて、小泉は昨年6月の「経済・財政運営基本方針(骨太方針)」で改革の具体的方針を打ち出した。その狙いは、グローバル資本主義下の国際競争での生き残りをあせる多国籍大企業のために、国民各層に犠牲を押し付け、コストの安い社会・経済システムを形成し、大規模な財政カットを実現することにあった。だが、景気対策優先という与党内の要求や諸抵抗の高まり、何より、すでに見たような、わが国経済の悪化、不況の深刻化の中で、その改革はいよいよ行き詰まった。
 金融システム安定化をめざすためという不良債権処理の加速化は、倒産、失業をあふれさせ、逆にデフレを拡大させる。デフレ対策で財政投入すれば、財政赤字は深刻化し、財政改革は頓挫(とんざ)する。改革は深刻なジレンマに直面した。「改革も中途半端、景気も回復せず」で支配層にとっては、まさに最悪の事態である。
 もちろん、改革が破たんしつつあるとはいえ、国民生活への犠牲の押し付けは強行されている。財政投入といっても大企業の支援策のみで、国民には負担増ばかりである。米国と多国籍企業の手先である小泉にとって他に選択の余地はなく、いっそうの国民犠牲によってしか、この危機を乗り切るすべがないからである。
 医療費、年金、失業手当など社会保障や福祉関係の負担増や支給切り下げが目白押しで決められている。今年7月の「骨太方針第2弾」では、政府系中小企業金融の縮小、公共事業見直し、地方交付税削減、コメ政策の補助金削減等、中小零細企業、農業、地方自治体など国民総犠牲が打ち出された。小泉改革が労働者、農民、中小零細事業者にとって、自らの利益、生存すら脅かす、最悪の攻撃であることがいっそう明白となった。多国籍企業の利益のために国民を犠牲にし、切り捨てる小泉政権は国民共通の敵であり、犠牲を強いられる諸階層が連携して闘う客観条件はいっそう拡大している。危機に直面した小泉政権を、国民自らの手で打ち破る好機である。

瀬戸際の小泉支える野党の犯罪性

 ところが、この局面で議会の野党、とりわけ野党第1党の民主党の無力さ、犯罪性は目を覆うばかりである。鳴り物入りで行われた党首選挙は、党内亀裂をいちだんと加速させ、その混迷ぶりを見せつけた。こうすることで、国民の野党への失望感を広げ、窮地の小泉を救う役回りを演じているのである。またこの党は、小泉と基本政策で変化がなく、逆に改革の本家、推進派を任じて小泉と競い合っている。鳩山代表は、ペイオフ解禁の延期を厳しく批判し、「根本的治療」などを対置し、ここぞとばかりに米国と財界の意に添おうと画策を強めている。
 さらに、小泉政権の窮地を意識し、政治、政党再編をにらんで、自由党小沢らと組んで保守2大政党制への動きを強めてもいるのである。
 政局は重大な局面を迎える。遠からず小泉政権は立ち往生することとなろう。政治、政党再編の画策もいっそう強まろう。民主党など、支配層の画策に呼応する議会内野党の犯罪性をはっきり見抜かなければならない。売国的多国籍大企業など、支配層の進める改革政治に苦しむ諸階層の国民は、国民生活、国民経済を守るため、広範な戦線を形成し、あくまで自らの力に頼って闘おう。


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