20020825 社説

2002年米国防報告
軍事に頼っても衰退のすう勢はとどめられない


 米国のイラク攻撃が取りざたされる中、米国防総省は8月15日、ブッシュ政権の新たな軍事戦略をまとめた「2002年国防報告」を発表した。これは昨年9月の米国「同時多発テロ事件」以降、ブッシュ政権が世界で進めてきた、凶暴な軍事戦略の集大成として発表されたものである。
 報告は、世界的な「対テロ戦争」を米軍の最大の目標とし、米国に脅威を与えるものに対しては「あらゆる手段を行使する」、「優れた攻撃が最良の防御」などと、核兵器による先制攻撃も辞さないという態度を明言した。また、これまで「悪の枢軸」と呼んできたイラン、イラク、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を改めて名指しし、「核や生物化学兵器などの大量破壊兵器の入手をめざすか、入手しつつある」と決めつけ、「国際テロ組織を支援している」と、切迫するイラク攻撃を正当化しようとはかっている。
 テロ事件以降、米国はアフガニスタンへの「報復戦争」など軍事力を振りかざし、動揺する同盟国を巻き込んで、米国中心の新たな「世界秩序」構築の策動を強めている。
 世界一の軍事超大国に、さしあたり、軍事的に直接刃向かう国はないかもしれないが、この戦略が長期に、そして本質的に成功する保証はまったくない。これほど露骨な軍事支配は、すでに世界で激しい抵抗と、矛盾に直面している。何より米経済の危機は、その軍事支配の足元を大きく揺さぶり始めた。
 中曽根や小泉、そして小沢らの恐米論者の見方とは異なり、大局的には、米帝国主義の世界支配の体制は、その同伴者たちを道連れに、崩壊に向かって歴史の急な坂道を転げ落ちつつある、と見るべきである。

軍事力のみに頼る米新戦略
 米国を頂点とする資本主義の世界支配体制は、昨年の米国テロ事件を契機に、その限界を一気に露呈させた。
 すでにテロ事件以前から、米主導のグローバル資本主義の進展の下で、世界には貧富の格差が未曾有の規模に拡大し、貧しく抑圧される民族、人民の怒りが沸点に達し、テロや民族間のあつれきは抑えきれないものとなっていた。
 従来、軍事力だけでなく、外交や経済政策を使って、世界のさまざまな矛盾を緩和しながら、「秩序」を維持してきた米国のやり方が、限界に行き当たったのである。
 米国はすでに、クリントン政権時代から、国連決議なしでユーゴスラビア空爆を強行し、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の継続に反対するなど、「単独行動主義」を強めていた。これが、テロ事件を契機に、優勢な軍事力を唯一の頼りに、脅威となる国の政権を打ち倒し親米政権に取り替える「予防戦争」すら許される、などというような、「ならず者」的新戦略を公然化させたのである。
 まさに「反テロ」を口実に、新たな世界秩序・米国による世界の一局支配を、力ずくでつくり出そうというもので、「悪の枢軸」論も今回の国防報告も、この戦略に従ったものである。

没落、崩壊に向かう米の世界支配
 しかし、戦争は別の手段でする政治の延長である。軍事は政治に従属する。米国の軍事力がどれほど強大でも、没落しつつある米国の政治力、さらに経済崩壊の危機は押しとどめられない。
 事実、米国は軍事力でアフガンに親米政権を樹立したが、いまだにアルカイダをせん滅できず、テロの脅威におびえている。そればかりか、アフガンの政権は混乱を続け、米軍は長期駐留を強いられている。
 また、米国の政治力の後退は、パレスチナ問題でイスラエルを制御できないことに如実に示されている。
中東地域での反イスラエル、反米感情の高まりは、米国のこの地域への関与、コントロールをいっそう難しいものとしている。
 米国のイラク攻撃に対しは、同盟国のドイツのシュレーダー首相が「軍事参加も財政協力もしない」と言明した。さらにフランスのドビルパン外相も「米国との信頼関係は保つものの、ときには厳しい対応も辞さない」と指摘し、シラク大統領も軍事行動には国連安全保障理事会の決議が必要と、米国をけん制している。1991年の多国籍軍によるイラク攻撃の拠点となったサウジアラビアのサウド外相は、「米国のイラク攻撃に対し、国土を出撃拠点に使用させない」と表明した。クウェートでさえ「現状では攻撃反対」(サババ外相)と表明している。
 キッシンジャー・元国務長官は、米国のためだけでなく資本主義の根幹を守るために必要なことと、欧州などに脅しをかけ、この軍事態勢への協力を迫ったが、動揺は抑えられそうもない。
 さらに、6月以降、米国の株安とドル安が同時に進行し、米経済の深刻な実態が、改めて浮き彫りとなった。米国からの資金流失が続き、90年代の「繁栄」を支えた資金還流システムが崩壊の危機に瀕している。崩壊は、米国に依存する世界資本主義を破局の淵に直面させる。グローバル資本主義の根幹にかかわるこの帰すうは、世界情勢に決定的影響を与えるだろう。
 数度にわたる金利引下げ、大規模減税と対テロ戦争での莫大な軍事支出で、今年はじめの景気「回復」を演出してきた米経済だが、政府支出の増大はクリントン時代の財政黒字を帳消しにし、赤字財政へと転落させた。米国は増え続ける経常収支赤字とならんで「双子の赤字」を抱え込むこととなった。深刻な経済・財政危機は、ブッシュ政権の足元を揺さぶる。当面する米中間選挙での敗北すら、あり得ないことではないのである。
 米国、ブッシュ政権の抱える、政治、経済面の困難は深刻で、その凶暴な軍事政策も、その足元から崩れる日が近いだろう。

対米追随続ける小泉政権
 しかし、この米国の戦略に追随し、そのお先棒を担ごうというのがわが国小泉政権である。イギリスのブレアと競い合って、対テロ戦争を支持し、有事法制を制定し、米国の戦争を世界で支援する態勢を急ごうとしている。
 8月2日に閣議報告された、わが国の「2002年度版防衛白書」は、テロ対策について「関係国が協調して軍事力を行使することによって問題解決を図る」などと、武力行使の必要性を説いている。また、米国のテロとの闘いを「第2段階に入った」とし、イラク攻撃を想定してわが国の参戦を求めるものとなっている。
 すでに、小泉は、昨年のブッシュのアフガン攻撃に真っ先に支持を表明、テロ対策特別措置法を成立させ、自衛隊を中東に出兵させた。また、パレスチナ問題ではブッシュのアラファト議長退陣要求にも真っ先に支持を表明し、その対米従属ぶり、自主性のなさを全世界に示した。
 さらに、「拉致」疑惑や「不審船」を騒ぎ立て、北朝鮮敵視政策で、ブッシュの「悪の枢軸」論を手助けし、また、一連の中国敵視政策もそうした流れの中で進められた。
 米国防報告は、世界中で戦争できる能力を強化する上で、同盟国、友好国との「安全保障協力が死活的」と指摘し、「死活的作戦基地の防護」の重要性も強調されている。日米安保体制と沖縄基地はここに位置付けられている。
 しかし、イラク攻撃には、保守層の内部でも、米国に従うことに動揺がある。小泉の徹底した対米追随に対する懸念も広がっている。諸悪の根源である日米安保条約を破棄し、独立・自主でアジアと共生する、新たな国の進路をめざす国民的な闘いは、いよいよ重大な課題となった。
 「テロ、『不審船』対策が不十分」などという理由で有事法制反対に回り、小泉以上の対米追随ぶりを演じた民主党に、期待を抱くことなど絶対できない。小泉は早速、次期国会での有事法制審議に、テロ、「不審船」対策を加えるよう指示した。民主党の裏切りは明らかである。
 労働者、労働組合は、この国の進路をめぐる重大な闘いの先頭に立ち、裏切り者をあらかじめ打ち破り、壮大な国民的運動の発展のために闘おう。