20020705(社説)

株・ドル安/米国発の経済危機を招くか

あばかれたグローバリズムの正体


 米株式とドルの下落が、世界を激しく揺さぶっている。米国発の新たな危機を招かんばかりである。
 米国市場の現在の不安定さは、1昨年来の景気低迷に加えて、ここにきてエンロンなどでの大規模な会計不正事件が発覚したからである。米国が世界に押し付けてきたグローバリズムなるものの本質の一端が暴露された。さらに、米国は「双子の赤字」や資金流入減少など深刻な構造的問題を抱えている。
 米経済の動揺は、世界経済へも大きな影響を及ぼす。ついこの間まで、日本が世界経済の「お荷物」のようにいわれてきたが、今や米国が「お荷物」となる恐れさえある。世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める日米両国が、世界経済を揺るがす震源地ともなる。
 しかも経済の不安定さは、「反テロ」を掲げ世界で軍事強硬路線を突っ走る米国の帝国主義政策の足元を、何かと揺さぶらざるを得ないであろう。
 カナダ・サミットで見られたように、小泉政権の米国追従の方向ではなく、米国流グローバリズムとは断固決別し、国民経済を守る政治を確固として実現しなければならない。

米経済の抱える構造的危機
 カナダ・サミット終了後、ニューヨーク株式市場は米店頭株式市場(ナスダック)総合指数が1357と大幅に下落。昨年9月の同時テロ時の水準を下回り、アジア金融危機時の1997年6月以来、5年ぶりという安値を記録した(7月2日)。これは2000年の過去最高値と比べほぼ4分の1の水準である。ダウ工業株平均も9007ドルと9000ドル割れに近づいた。ハイテク関連など米経済の浮上を支えるとみられてきたナスダックのこの「暴落」は、米経済の深刻な混乱を表現している。併せて、ドル安も止まる気配が見えない。
 実体経済のうち、個人消費は政府による減税や、自動車ローンのゼロ金利策などで、辛うじて景気回復のシナリオを支えてきた。だが、ここに来て陰りを見せ始め、米国のバブルの清算は予想以上に深刻で、長期化しそうなことが明らかとなってきている。企業の設備投資も、一向に改善の兆しを見せていない。  さらに深刻さを拡大させているのがこの個人消費を下支えするために行われた減税や景気刺激のためのたび重なる財政出動で、米国の財政赤字が拡大していることである。米議会予算局は四年連続黒字だった国家財政が、2002年度は1000億から1500億ドルの赤字に転落すると見越している。
 経常赤字も、GDPの4%相当にまで膨らんでいる。80年代の米国を苦しめた「双子の赤字」が再燃しようとしている。
 こうした事態は、ただでさえ不振の米国経済を嫌って、流入を細めている国外資金のいっそうの逃避を促す要因となる。景気刺激のための低金利政策は、この傾向をさらに促進する。事実、1〜3月期の世界の対米証券投資の買越額は前年同期比で4割も減額した。ここに構造的な要因がある。
 世界最大の借金国家である米国が90年代に異常な「好況」をおう歌できた秘密のカギは、「強い米国」に流入した外資であった。米国はこれを元手に国内と世界に投資し、利ざやを稼ぎ、バブルを膨らませ、「繁栄」した。政府も高金利とドル高政策でこれを推進してきた。この構造がこんにち、破たんの危機に直面しているのである。株やドルは投機のネタとして乱高下は当然で、アナリストの予想はほぼ当たらない。だが、この米国向けの「資金の環流システム」が行き詰まる時、それは米経済、そして世界資本主義の重大な危機へとも結びつきかねない。
 この事態が、世界資本主義経済の回復に深刻なマイナス要因となって襲いかかっている。ここにこんにちの世界経済の構造的な危機、破局の芽があるといわなければならない。

米経済揺さぶる大企業不正事件
 加えて、いま米経済を暴風雨のように襲っているのは、企業会計の不正事件の相次ぐ発覚である。
 「グローバル・スタンダード」といって、世界に押しつけてきた米国流の経済、金融システムが、実はペテンと腐敗にまみれたものであったことを、最近のエンロン(エネルギー産業)、あるいはワールドコム(通信)の不正会計、粉飾決算の事実が、劇的に暴露して見せた。
 他にも、クエスト(同)、グローバル・クロッシング(同)、CMSエナジー(エネルギー)、Kマート(小売業)、タイコ・インターナショナル(金融・警備など)など、有力大企業が続々と摘発されている。売上高の水増し、会計操作などの容疑で、証券取引委員会(SEC・米政府の監督官庁)などの調査、起訴など摘発が続いている。これらは氷山の一角で、米国バブルを演出したほとんどの大企業が何らかの不正を行っているといわれる。
 しかも、これら不正には会計事務所、証券会社がぐるになっており、監督すべきSECすら癒着しているという。ブッシュ大統領の共和党もこれら企業から多額の政治献金を受け、まさに政財官ぐるみ不正の様相を呈している。その規模では、わが国のかつてのリクルート事件の比ではない。
 世界的な投機熱をあおった米国のみぞうの「好況」、空前の企業実績なるものがでたらめだったわけで、ペテン師がバクチ場の胴元を張っていたようなものである。投機家がおびえ、米国株から逃げ出すのは当然である。米企業・経済への不信は、株・ドル安、また流入資金減少という悪循環を引き起こしている。「この不信感が米経済に及ぼす打撃は、昨年の同時テロよりも深刻」という評者もいる。
 こうした米経済全体の危機が、すでに日本、アジア、欧州に波及しているのはいうまでもない。これら地域の株式下落がすでに起こっており、中南米のブラジル、アルゼンチンなどでもいちだんの金融不安が広がっている。米国市場に依存するわが国自動車、電機産業などは警戒感を強めている。もちろん、円高差損も大きいだろう。米経済の動揺は、世界資本主義の新たな危機の引き金になる恐れさえある。

米帝国主義もいっそう困難に 国民の経済守る新たな選択を
 折しも6月下旬、ブッシュにとっては運悪く、カナダでサミットが開催された。当然、このサミットでは5月から株・ドルの下落が続く米経済の動揺、また世界経済への波及など、その打開策は、先進諸国の支配層、資本家たちにとっては焦眉の課題であった。しかし、今回のサミットは、それに何ら有効な処方せんを提示できず、その限界をいっそう強く印象づけるものとなった。
 一方、米国の主導による「反テロ」での先進諸国の政治的、軍事的結束も、その足元、経済での不安定さ、矛盾の深まりを見れば、その実態が極めて不安定で矛盾に満ちたものである。サミット直前のブッシュの新中東和平案1つをとっても、その露骨な内政干渉ぶりに欧州などは公然と反対した。米経済の動揺は、ブッシュが世界で帝国主義政策を展開するうえで極めて都合の悪い条件となっている。
 昨年の同時テロは、米国流グローバリズムを暴露したが、今回のエンロン事件なども別の角度からグローバリズムを暴露した。今は、ブッシュが世界の軍事監獄化を狙っているが、足元の経済動揺などでいつまで持つか保証の限りではない。人民の抵抗も根強い。帝国主義は長くは続かない。
 このような中で、わが国小泉首相の示した米国への忠誠ぶりは際立ったものであった。新中東和平案には、即座に「支持」を表明、米国がロシアを抱き込むための財政支援では、また都合のいい財布の役回りを演じさせられた。さらに米経済を支えるためのわが国「構造改革」の推進を再々度公約した。まさに売国奴の面目躍如である。
 深まる危機の下、米国主導のグローバル資本主義に追随し、わが国国民生活、国民経済を破滅へと導くのか、独立、自主、アジアとの真の共生を掲げ、国民経済を守り抜く道を選ぶのか、事態はいよいよ切迫した局面を迎えようとしている。

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