20020625(社説)

グローバル化対応に焦る財界

改革、大増税に反撃し、国民経済守る政治を


 新たな財界の団体、日本経済団体連合会が5月末に発足した。経団連と日経連を統合して、政治に発言力を増大させようというわけだ。
 日本経団連の会長には、奥田トヨタ自動車会長が就任した。そのトヨタも各国の自動車産業と、世界を舞台に激しくしのぎを削っている。世界の自動車市場は今や、GM(米国)、フォード(同)、トヨタ、ダイムラー・クライスラー(米・独)、フォルクスワーゲン(独)、ルノー・日産(仏・日)の6大グループにほぼ分割されている。この中で世界3位のトヨタは2010年代に、GMを抜いて世界トップを狙うという。
 日本経団連設立総会の決議は、わが国経済の最大の課題は「停滞と閉塞感の打破」であり、「改革の先送りは許されない」と決意を述べている。
 かれらはし烈なグローバル競争の中で、このままでは自企業が落伍すると危機感を抱いている。そのため、国内の経済・政治・社会体制の改造を要求、破たんしかかった小泉改革に「改革の先送りは許されない」と発破をかけている。これは多国籍大企業に有利な体制づくりであり、「官から民へ」、「小さい政府」の実現、高コスト構造の是正、総じて改革の断行ということで、勤労国民にはリストラ・首切り、労働条件悪化、中小商工業切り捨て、地方の切り捨てなど犠牲を強いる。結局のところ、国民経済の破壊をもたらすものである。
 こうした攻撃とは断固闘わなければならない。失業者、労働者、中小企業、また地方でも抵抗は広がっている。国民経済を守る、そうした国民的政府の樹立へ広い戦線を形成しなければならない。

グローバル化対応の非人間的な財界の戦略
 わが国財界は、国際競争に打ち勝つ体制をつくる上で、わが国の長期の不況、中途半端な小泉改革などに、いちだんと焦っている。だから、国際競争力強化のための国内体制づくりになりふり構わず必死である。
 そのため総会決議は、企業は「選択と集中の経営」、リストラ(事業の再編成)、新技術開発などを進めること、政府には規制改革、教育改革、簡素で効率的な政府などを厳しく要求している。
 奥田は、トヨタの経営について「日本経済の高成長は当面望めず、成長の舞台は海外だ。国内はコスト削減で耐え、新技術開発で成長を狙う」と展望している。彼らの理屈は、もうかる所は、日本に限らずどこでもよい。当分、日本は高成長が期待できないから、投資を控え、海外投資に励む。国内はコスト削減でしばらく耐える、とこういう具合である。ここには国民経済という立場はなく、多国籍というよりむしろ「無国籍」である。労働者はもとより、下請け、地域経済の犠牲もいとわない。だから、今春闘で奥田の一喝によりベアゼロの流れが決まったといわれるように、1兆円を超える過去最大の利益を上げながらも賃上げを絶対に認めない。これが「人間(?)の顔をした市場経済」の正体である。
 しかも、こうした傾向が政府、マスコミなどで盛んにあおられており、1つの風潮となりつつある。小泉政権は奥田を経済財政諮問会議の議員にも入れた。国民経済を守る上では、こういう風潮は断じて容認できないことである。
 いうまでもなく自動車産業は多国籍企業の1つの典型であり、その自動車業界のトップが今回、財界団体の総元締めとなった。奥田は日本経団連会長就任のあいさつで、わが国は歴史上の大きな転換点を迎えており、この新しい社会の発展の原動力として従来の日本人のように画一的ではなく、多様性を持った個人や企業のエネルギーこそが必要だと強調した。奥田の見解は、わが国多国籍企業の代表的な見解の一つであろう。
 ここには、グローバル化に対応してわが国経済・政治・社会の高コスト構造の是正、総じて改革の断行を求める姿勢がにじみ出ている。さらには、新技術開発に遅れをとるなと日本の教育制度改悪にも言及している。もちろん、公的コストのかかる政府への行財政改革はいうまでもない。
 すべては、国際競争に打ち勝つためであり、それに都合の良い国内諸制度の大改造である。「カニは甲羅に合わせて穴を掘ろうとする」わけである。だが、これはグローバル資本主義の理屈であり、その具体化によって大企業だけが生き延び、国民生活、国民経済を破壊させることを許すわけにはいかない。

改革による国民経済破壊を許すな
 こうした財界の意向に沿って、小泉政権は昨年の「骨太方針」以来、改革を進めてきた。今ではかなり「骨抜き方針」となりつつあるが、最近、労働条件悪化や失業対策切り捨て、大増税方針など、労働者や勤労国民全体へのさらなる犠牲策が相次いで計画されている。
 労働分野では、解雇を簡単にできる「解雇基準の見直し」や派遣労働の抜本的規制緩和の検討である。
また、失業対策では保険料引き上げ、給付の削減、対象者の限定など雇用保険法の全面改悪がもくろまれている。
 つい最近では、政府税調から国民大増税となる税制方針が出された。この方針では、実施時期に幅があっても、課税最低限引き下げ、消費税大幅引き上げ、外形標準課税導入など、低所得者、中小企業などに大きな負担が集中するのは間違いない。まさに10兆円以上の「平成の大増税」である。不況に苦しむ低所得者、中小企業などにとっては、無慈悲な追い打ちである。
 ところが、発足した日本経団連はさっそく、自分らに都合の良い税制提言を出した。法人税の引き下げ、消費税の引き上げ、勤労者控除削減、特定財源の一般財源化、連結付加税の撤廃などである。かれらにとっては、企業・政府における「高コスト構造の是正」、つまりコスト削減になれば、国民大増税などもとより問題ではないのである 。
 こうした財界の意向を受けた小泉政権の失業者や労働者切り捨て、国民への大増税を断固として跳ね返さなければならない。 国民経済守るために広範な戦線を  小泉政権は民主党の助けなどもあって、まだ生き永らえているものの、まったく失速状態である。小泉政権は国民にほぼ見放されつつある。
 1年2カ月の小泉政治のもとで、国民生活と中小商工業の営業、地域経済などは疲弊し切っている。だれも景気「底意入れ」などは信じていない。全国に、小泉政権への不満が充満している。
 他方で、小泉政権は前述のような勤労国民への攻撃を画策している。攻撃の背景には、グローバリズムに対応しようとする多国籍企業の強い意思がある。
 だが、こうした大増税計画などは、むしろ小泉不信の火に油を注ぐ結果となろう。部分的ではあれ、最も困難な状況の失業者や労働者も自ら立ち上がりつつある。地方では、交付税削減や強引な市町村合併で不満がたまっている。これらとからんで、地方自治体にとっては有事法制問題にも不安、不満が多くある。こうした国民の要求、闘いをまとめ、小泉政治を打ち破らなければならない。小泉政権の失速状態のもとで、道路公団、郵政民営化、税制などをめぐり、政府・与党内の対立も深刻である。
 国民経済の破壊を招く財界の意向に反対し、国民生活、国民経済を守る政府をめざす広い戦線を断固つくり上げなければならない。時と共に、情勢は闘うものに有利な環境が広がっている。

日本経団連
 財界総本山といわれた経団連と、戦後労働運動に対抗して財界労務部だった日経連が5月28日統合した。グローバル競争のもとで、激動する政治により直接的に発言力を増すのが目的。かつて旧経団連は、自民党に約130億円企業献金していたが、今では30億円程度で、今後金も口も出し、より露骨に財界政治を実現しようという狙いがある。

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