20020605(社説)

有事法制ー「軍事は政治の延長」

国の進路の課題として、広範な戦線で断固阻止を


 小泉政権にとって今国会での有事法制定のもくろみも、ますます容易でなくなってきた。
 有事法制の提案元である官邸や防衛庁で、核武装発言やリスト作成問題が浮上したからだ。内閣支持率低下の中で、強行突破を図ろうとしていた小泉政権だったが、さらに困難が加重された。
 有事法制は、戦後初めて本格的に国家総動員体制をつくり、米国の戦争に動員しようとするものである。
軍事大国化というわが国の思惑もある。明白な憲法違反でもある。
 法案によれば、わが国は国を挙げ、米国の戦略に従ってアジア、とりわけ中国、朝鮮と武力を構え、敵対する準備を具体的に進めることになる。わが国がアジアと平和に友好、共生するうえで、最悪の環境づくりである。わが国の前途を見据え、この動きを断固阻止しなければならない。
 具体的な事柄のため、法案に対して県知事などからも反対や懸念がいっせいに噴出している。状況は小泉にとって極めて不利であり、広範な戦線をつくり闘いを大きく前進させる必要がある。

アジアに敵対する体制づくり
 国会で議論になっている有事法制案は、武力攻撃事態法案、安保会議設置法改悪案、自衛隊法改悪案の3法である。要するにわが国が「戦争状態」に突入した場合を想定して、最も戦争がやりやすいように国全体を統制する規定をつくっている。
 法案が想定する「戦争状態」では自衛隊が出動し、かつ米軍支援を行う。国内では、公共(的)機関と国民の権利、自由などいっさいが、懲役・罰金刑まで含む国の統制下に置かれ、物品、施設、役務を提供することとなっている。政府の体制は、国会はほとんど無視され、安全保障会議、対策本部などで首相にいっさいの権限を集中させる。
 「戦争状態」を想定したこれら規定は、もちろん現憲法にも違反しているのはいうまでもない。
 だが、最も肝心なのは「軍事は、他の手段をもってする政治の延長である」ということである。有事法制という前に、わが国の外交、国際政治こそ問われなければならない。小泉政権誕生以来、明白なように、わが国外交は米国の言いなりで、対米従属一辺倒であった。他方、アジアに対してはどうかといえば、昨年来、歴史教科書、靖国神社参拝、「不審船」引き揚げ、瀋陽領事館事件など、近隣諸国と再三の対立の繰り返しであった。だから、わが国支配層主流は、この外交を引き続き進もうと意図している。
 有事法制は、こうした外交の延長である。したがって、狙っている総動員体制は、現実には米国の起こす戦争に貢献させられるものである。実際、小部隊の国連平和維持活動(PKO)派遣を除くと、例えば湾岸戦争後への自衛隊派遣、アフガン攻撃への自衛隊派遣、みな米軍への「後方」部隊であった。自衛隊自身、戦後の歴史で明白なように米戦略下、米軍の指揮下以外にあり得なかった。
 さらに現在、米国は「米中対決」「米朝対決」を陰に陽にあおっている。仮に台湾海峡や朝鮮半島で事が起こった場合、米軍の指揮下で自衛隊そしてわが国全体が動員されることになる。そうして、中国、朝鮮と敵対させられる。有事法制は、とどのつまりそういう問題である。
 有事うんぬんの前に、わが国の外交、国際政治こそ根本的に改められなければならない。わざわざ、米国の指揮棒にしたがってアジアと事を構えてはならない。近隣諸国と友好、共生・共栄はまったく可能な道である。そうすれば、有事うんぬんは、不要となる。
 むしろ、米国と小泉政権が画策するアジア敵対の方向こそ、地域の緊張を高め、危険である。この方向を断じて許してはならない。

あくまで米国の軍事要求に追従
 そもそも有事体制づくりは、米日支配層にとって1996年の日米共同宣言以来の宿題だった。
 その後、日米防衛協力の指針(新ガイドライン)関連法(99年)が成立したが、翌年にもアーミテージ(現米国務副長官)報告でいっそうの整備を米国から迫られた。
 昨年の米国テロ事件後に、小泉政権はブッシュ米大統領の要求に従ってテロ関連法案をつくり、戦闘地域周辺への自衛隊を初めて派遣。さらに米国の要請に基づき自衛隊派遣を、この11月まで延長した。今では、海上自衛隊のイージス艦派遣すら迫られ、米国の軍事協力要求は際限がない。
 ブッシュは昨年の米国テロ事件後、「どちらにつくか」と世界をどう喝し、本年に入っても「悪の枢軸論」や核どう喝をぶちあげてきた。最近は、イラクなどを念頭に先制攻撃も公言している。だが、ブッシュのこうした強硬策は、むしろかれらの危機感、焦りの表れであることを見ておく必要がある。
 ブッシュの強硬路線も欧州首脳や中東での猛反発を招き、日本でも懸念が広がっている。米国国内でさえ、議論が巻き起こっている。今は強がっているが、ブッシュ路線が成功する保証はどこにもない。
 こうした中、福田官房長官は「核武装可能論」を言い出した(5月31日)。歴代自民党政府さえ言えなかったこの発言は、有事法制が議論されているこんにち、官房長官自ら一気に「戦争体制」を促進させようという反動的狙いからであろう。焦りでもある。背後には、ブッシュの軍事恐喝路線があり、それに悪乗りもしている。政府よりもいっそう反動的な有事法制案を国会提出している自由党の小沢党首も、すでに中国向けに「核武装可能論」をぶちあげている(4月)。
 こうした連中は、アジアで平和、友好のうちに共に生きるわが国の進路を決して考えてはいない売国奴である。ブッシュの下僕として、アジアでミニ軍事恐喝路線ともいうべき反動的方向を強行しようとしている。わが国の進路にとって極めて危険な連中である。
 福田らの策動は、かれらの正体をいっそう暴露させ、法案反対の機運を高める結果となった。福田や中谷防衛庁長官辞任要求など、小泉政権への大打撃となり、国会運営にすら窮している。

広がる不安、広範な戦線は可能
 有事法制をめぐっては、具体的統制がなされることから、自治体から急速に反対や懸念の声があがっている。法案に対し、高知、徳島、長野各県知事は反対を表明、広島、岡山など中国地方五県知事は県への政府説明など「緊急要望」を提出した。全国知事会も各県から多く不安の意見が出たため、近く「要望」をまとめる。有事法制に関連する輸送、医療なども含め、労働組合も各地で闘っている。政府の拙速さもあるが、各界に日に日に不安感が広がっている。
 ことは、単に軍事、安全保障の問題ではなく、国の進路にかかわることだけに、与党内部でも不安、不満が拡大している。背景には、どこまでブッシュ路線に付き合うのかという不安感もあろう。
 各界の動向もあるが、最も大事なことは大衆的運動を大きく進めることである。国会での野党、特に民主党や自由党などは反動的である。小泉政権以上に、悪質な法案を提出した自由党は論外である。ただ、この党の小沢党首が、民主、社民党などに、連立政権づくりを提起していることは非常に警戒すべきである。どんな反動的な政権をめざしているか、明白だからである。
 民主党も極めて危険で、かれらはペテン的に今回の有事法制にはいまだ賛否を決めていない。有事法制そのものには賛成だからである。かれらもまた、わが国を対米従属のもとで、アジアと敵対する道に導こうとしているかのは明らかだ。基本方向は、小泉政権と大差がない。昨年のテロ法案の時も、民主党は基本的に賛成しつつ小泉・鳩山会談を行ってきた「過去」がある。こういう連中には、いっそう警戒を強める必要がある。
 状況は小泉にとって極めて不利である。国の進路の課題として、広範な戦線をつくり闘いを大きく前進させる条件は、ますます広がっている。断固前進しなければならない。

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