20020525(社説)

意図的な「領事館事件」キャンペーン

アジア共生への進路転換こそ肝心


 中国瀋陽の総領事館駆け込み事件は、一行の韓国到着で1つの決着をみた。
 この問題で中国警察や総領事館側の対応などをめぐって、わが国では大騒ぎとなった。これらは、議論の的になるところではあろう。だが、事実経過をめぐって日本側と中国側との発表は、大きく食い違っており、断定しがたい段階である。
 今回の事件をとらえて、小泉政権は中国敵視のキャンペーンをはった。問題は、今回のキャンペーンで見られた小泉政権の中国、朝鮮民主主義人民共和国、ひいてはアジアを敵視する危険な本質である。この点を見ておかなければならない。小泉政権のアジアに対する態度の背後には、また常に米国のアジア戦略がある。日本共産党はあわてて「中国の対応はウィーン条約違反、中国は原状回復を」などという見解を出したが、これこそ小泉政権のキャンペーンに合わせたものである。
 肝心なことは目先のことではない。わが国の基本路線の問題である。小泉らの策動を打ち破り、アジアとの真の友好、共生の進路をかちとることは今重要な課題である。

一貫した小泉の中国、朝鮮敵視政策
 今回の事件は、事前に1部マスコミに予告され、あらかじめカメラが設定されていたように、あまりにも準備がよく、結局「NGO(非政府団体)」をかたった連中が仕組んだ「亡命劇」とされている。その背後にはだれがいるのかなど、極めてあやしげな事件ではある。折しも、韓国から北朝鮮に南北対話のための特使が派遣され、北朝鮮では外国客を招き入れて南北会談再開の機運が出た時期であることも、事件が偶発的でないことを物語っている。
 肝心な問題は、小泉政権のアジア政策である。就任以来1年を超えたが、小泉政権のアジア外交は、繰り返し近隣諸国との対立を引き起こしてきた。昨年は歴史教科書問題、靖国神社参拝、台湾の李登輝訪日などで中国、韓国、北朝鮮と激しく対立した。昨年10月、小泉首相は中国、韓国を相次いで訪問したが、これは靖国参拝など諸問題について弁明し、両国との関係「修復」のためにほかならなかった。
 今年に入っても小泉政権は、こりずに「不審船」引き揚げ問題や突然の靖国参拝で対立を繰り返した。「不審船」引き揚げ問題では、中国は以前から中国の排他的経済水域(EEZ)内であるため、慎重さを要求。5月には、韓国外交通商相も日朝関係の悪化、ひいては南北朝鮮関係につながることから、引き揚げに懸念を表明した。にもかかわらず、日本側は調査を強行している。
 靖国参拝問題では、小泉首相は突然4月に参拝を強行、中国や韓国などの厳しい批判を招いた。特に中国は、4月末の中谷防衛庁長官の訪中延期さえ決定して、抗議した。
 今回の事件も、こうした流れの中で起きた。小泉政権は、事件を利用し、中国に対抗、けん制する狙いでキャンペーンを強めた。果ては、今回の騒動の最中、福田官房長官は「台湾が世界保健機構(WHO)へオブザーバー参加を」とわざわざ「台湾カード」さえ使った。これは、いわば「1つの中国、1つの台湾」を公言し、1972年の日中共同声明に違反するものである。いざとなれば、「台湾カード」を使うという中国への脅しであろう。日中共同声明に公然と反するほど、支配層は反動化している。
 事件に先だって、菅民主党幹事長の「台湾の国連加盟容認」発言(5月)や小沢自由党党首の中国に対抗した「日本の核武装可能」発言(4月)も、支配層の反動化に呼応したものであろう。
 小泉は、日中国交正常化30周年を意識して「日中関係の基盤を確固たるものにする」だの、「日朝正常化交渉に取り組む」(施政方針)などと言うが、実際行動は口とは裏腹である。前述の経過を見れば一目りょう然のように、一貫した対中国、朝鮮敵視、けん制の意図がある。そこには、支配層のそれなりの戦略があるのであろう。
 このように、いつまでも最も近い国々と対立を続けるようでは、わが国の前途は展望がない。東アジアに真の友がいないのだ。小泉外交を打破し、本当にアジアと友好、共生できる進路の大転換を図らなければならない。

背景に米国のブッシュ戦略
 こうした小泉外交の背後には、米国の戦略、意図がある。
 今回の瀋陽の事件でこそ、米国はあまり表面に出なかったが、一貫して陰に陽に中国、北朝鮮を敵視する問題でわが国をあおってきた。
 不審船問題でも、米国は中国に同型船が寄港したと衛星情報を日本に提供、引き揚げにも積極的だ。北朝鮮の「拉致疑惑」というものについても、米国務省は実在するとの報告を発表し、わが国をあおっている。
 台湾の「国防部長」の初訪米(3月)など、米国の「台湾カード」利用もブッシュ米大統領となって以来、いちだんと露骨になった。要するに、米国は中国、北朝鮮をたたき、介入する機会を狙っているのであろう。
 米国の戦略は明白である。東アジアでは、冷戦時代のソ連に代わって、強大化する中国を抑え込もうとする。同時に、昨年の米国テロ事件をきっかけに、反面でグローバリズムのもろさがあばかれた。ブッシュは、米国主導の世界のグローバル資本主義体制を守るため、必死に軍事力を世界に展開している。ブッシュが、北朝鮮を「悪の枢軸」とし、中国も核攻撃の対象と規定するのも、その焦りの表れである。わが国は、その米戦略と戦争にいっそう動員されようとしている。そして、アジアと敵対させられる。
 わが国支配層も、それに追従する道を選択している。米国と歩調を併せて中国を包囲しようと画策し、北朝鮮問題を使って中国をけん制した一連の不審船引き上げ問題のやり口は、今回の瀋陽の事件へと引き継がれているのである。
 日本と中国、朝鮮半島との間には、厳然と米国が君臨している。95年の「東アジア戦略」、さらには昨年9月以来の「反テロ戦争」。わが国は、アフガン周辺への自衛隊派遣の延長、有事法制など、米国からさらなる軍事貢献を迫られている。
 米戦略に追随する政府のために、わが国は近隣諸国とさえ真の友好関係を築けないでいる。この道は、米国の利益と思惑にはかなっても、わが国の利益にはならない。日米安保体制からの脱却とアメリカ追随外交の転換は、差し迫った課題だ。

共生は、アジアの願いでもある
 ある意味では、今回の事件はいい加減にすませてはならない。というのは、総領事館の権利うんぬんなどという目前の問題ではなく、わが国の基本路線にかかわることだからである。「主権侵害」というのなら、政府は沖縄の無数の米兵暴行事件やえひめ丸事件などで、一度でも米国を相手に「主権」を主張したことがあるだろうか。米国には屈従、アジアには居丈高、というのでは話にならない。
 そうではなく、わが国と国民が平和のうちに、いかに安全で豊かに暮らせるかという基本問題がある。わが国支配層の対米追従、アジア敵視の現在の道では、それは国民経済、平和・安全な環境などの面でも到底保証されない。
 国の進路転換は、間違いなく緊急に迫られている。こうした流れに、国内でも憂える声が、支配層の一部も含めて急速に広がっている。米国流グローバリズム追従への危ぐ、また有事法制など際限ない米国への軍事貢献などについてである。
 最近来日したマレーシアのマハテーィル首相は、東アジア経済グループ(EAEG)構想を確信をもって再度提起した。97年の経済危機を味わったアジア地域でも、中国を含むアジア全体の共生を望む声はいちだんと強まっている。こうしたアジア諸国の動きは、21世紀、アジアの諸国が共生し、協調と発展の道を歩もうとする大きな流れを示すものだ。
 米国に追随した日本の中国・朝鮮敵視政策はすでにアジアで孤立している。アジアとの真の友好と共生の道への転換を国民大多数の力で進めよう。

ページの先頭へ