20020325(社説)

不審船、「拉致疑惑」騒動

小泉政権の朝鮮・中国敵対を許すな


 現在、マスコミで「拉致疑惑」と不審船問題が併せて騒がれている。これらの事件は、みな朝鮮民主主義人民共和国のしわざだというわけである。小泉首相は、この件を先の日韓首脳会談でわざわざ持ち出したほどである。
 だが、この意図的なキャンペーンについて、小泉政権の真の狙いを見ておく必要がある。北朝鮮に対する締め上げを狙ったものであり、ついでに中国をもけん制しようとしている。背後には明らかにブッシュ政権がいる。
 小泉政権の朝鮮、中国敵視政策に反対し、日本と北朝鮮との国交正常化を速やかに実現しなければならない。こうして東アジアにおける緊張を和らげ、アジアとの友好・共生を真剣に追求すべきである。この課題は、わが国の平和的な環境をつくり、わが国の新しい進路のためにいよいよ切実なものとなっている。この課題での広範な国民的運動を盛り上げることが求められている。

一連の「騒動」の真の狙いは
 まず、事態を分かりやすくするために、北朝鮮に関するごく最近の「騒動」を見てみよう。朝銀東京信用組合の不正資金容疑で朝鮮総連家宅捜索・元幹部逮捕(昨年11月)、不審船事件(同12月)、沈没した不審船調査(本年2月)、拉致事件公表(3月)、日韓首脳会談(3月)といった流れである。
 朝鮮総連への弾圧から始まって、しつような不審船調査(引き揚げの方針)、さらに重ね合わせるかのような「拉致疑惑」の公表が続いた。これだけ大々的にキャンペーンすれば、人をだましやすい。だが逆に、いかに北朝鮮を「悪者」に仕立て上げようかという、この集中的な流れを見れば、小泉政権の魂胆が見え見えでもある。
 実はこうした手口は、以前の日朝関係でも使われた。例えば、韓国の旅客機がミャンマー沖で爆発、失そうした事件(87年11月)である。その爆破犯人が北朝鮮の者で、その者に日本語を教育したのが、拉致された日本人女性だというわけである。91〜92年、日本と北朝鮮との間で行われていた国交正常化交渉の場で、日本側(海部、宮沢政権)はこの「拉致疑惑」をわざわざ持ち出し、ついに交渉を決裂させたのである。「拉致疑惑」なるものは、すでに約10年前にも日朝関係を悪化させるために使われた古い手口なのである。
 小泉首相は、「今後とも日朝国交正常化交渉の進展に粘り強く取り組む」(2月、施政方針演説)と、あたかも真面目に交渉に取り組むかのようにいう。だが、これもまったく人をあざむくものである。小泉は「拉致疑惑を棚上げしての正常化交渉はない」とまで言明した。口では、正常化に向けて努力するかのように言いながら、実際はキャンペーンをはりながら敵対政策をとるのである。
 さらに事例を上げてみる。歴史的な南北朝鮮首脳会談が開かれた2000年には、日朝交渉も久しぶりに開催された。ところがこれも決裂する。それは、日本側の北朝鮮に対する要求を見れば決裂理由がはっきりする。要求事項をあげてみよう。拉致疑惑、ミサイル輸出、核開発、日本人妻里帰り、不審船、生物・化学兵器開発、覚せい剤、貿易債務といった具合で、これらの問題、「疑惑」を解決せよというわけである。無理難題のら列で、およそ国交正常化問題どころではない。
 これでは、だれが見ても友好的に国交正常化を話し合うのではなく、ケンカするために、わざわざ持ち出したと言われても仕方あるまい。
 つまり、日本政府が何かの「事件」をとらえて北朝鮮などに対するキャンペーンを張る時は、必ずそこに明確な政治的狙い、背景があることを見ておかなければならない。

日米結託のどう喝、背後に米国
 なぜ小泉政権はこうした敵対的外交方針をとるのか。それは、米国の戦略に追随する結果である。
 ブッシュ米政権は、北朝鮮に対して核開発、ミサイル輸出、韓国との境界線からの兵力削減などについて強硬に要求を突きつけている。そして、イラク、イランと並んで北朝鮮をあげた例の「悪の枢軸」論である。大量破壊兵器を持ち、世界でテロを支援しているという。
 ご丁寧なことに、米国は「北朝鮮には20人の拉致された日本人がいる」(3月、国務省報告)と発表し、小泉の策動を支援している。ブッシュとしては、東アジアでその帝国主義的支配権、主導権を維持するために、何かと邪魔な北朝鮮を締め上げておきたいのであろう。今のところ、そういった強硬姿勢である。
 小泉政権は、そのブッシュの尻馬に乗っているのにすぎない。同時に昨年、教科書問題、靖国神社参拝問題などで中国、韓国と激しく対立したように、わが国の軍事大国化をめざす意図がある。折しも、小泉政権は一連の有事法制案を国会に提案しようとしている。
 そういう意味で先日の日韓首脳会談は、小泉政権の米戦略をバックにした強硬姿勢を金大中大統領に承認させようとするものだったのである。いわば、2月のブッシュ訪韓の真似ごとみたいなものである。
 加えて、不審船問題ではわが国は中国とも対立し、中国敵視の姿勢を露骨にしている。中国の排他的経済水域(EEZ)で沈んだ船を、わが国が勝手に引き揚げようという方針を打ち出し、調査を始めたことである。中国側は、海洋資源への主権、環境保護の管轄権などを有するその水域で、日本による船体引き揚げに事実上反対を表明している。ところが安倍官房副長官などは引き揚げを再三強調している。
 この背後には、また米国がいる。というのは、沈没した船と同型船が事前に中国に寄港したという偵察衛星写真を米国が日本に提供しているからである。そして、米国は船体引き揚げを強行するようあおっている。日米が結託した露骨な朝鮮、中国への敵対政策である。むしろ、北朝鮮問題も使いながら、中国をけん制するのがかれらの本音であろうが。
 キャンペーンの背後にある、日米結託の朝鮮、中国敵視政策に惑わされてはならない。

広範な国民運動で策動打ち破ろう
 周知のように、アジアで北朝鮮と国交正常化をしていないのは、わが国だけである。前述のように、米戦略の枠組みの中にあるからである。まるでわが国の主体性はない。
 日朝間にある諸問題は、正常化交渉の中で十分解決できる。例えば、「不明日本人の調査」では、すでに日朝両赤十字間で合意している(99年)。問題は、わが国が国交を正常化させるという基本方針をとらないことである。常に人の顔(米戦略)を伺い、その後に付いていく仕組みだからである。
 北朝鮮との国交正常化は、わが国の進路、また東アジアの緊張緩和、平和な環境にとって重要な意義がある。少なくとも、日朝間では敵対関係に終止符を打ち、公式な国家間交流が実現するからで、東アジアの緊張緩和に役立つ。これはまた、東アジアの緊張の元凶である10万駐留米軍の存在を次第に否定する布石となろう。
 また国民感情としても、隣国との国交は当然であろう。外務省内の一部でも、また自民党内にも「拉致問題解決のためには国交正常化が必要」という考え方が存在する。
 だが、小泉政権はこうした流れに逆らい、妨害している。一連の「騒動」の本質を見抜き、小泉政権の朝鮮、中国敵視政策を国民的運動で打ち破らなければならない。そうして、早期に日朝国交正常化を実現しなければならない。

 

日朝国交正常化交渉
 第1回交渉は1991年1月に始まり、翌年11月まで8回開かれた。前年の金丸訪朝団の交渉を受けて始まったものだが、大韓航空機爆破事件にかかわる日本人のことを日本側が持ち出して決裂した。次は、2000年4月から10月まで3回行われたが、核開発、拉致問題などを日本側が持ち出して、やはり決裂した。決裂の背景には、前年の米国のペリー元国防長官が出した朝鮮政策見直し報告がある。

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