鉄鋼労連大手組合が2月7日、経営側に要求を提出、2002春闘が本格的にスタートした。連合では、すべての単組が2月末までに要求を提出するようにし、3月第3週を集中回答ゾーンに指定している。
スケジュールは例年通りだが、今春闘は様相がすっかり変わった。ベア(賃上げ)要求を放棄するところが増え、雇用維持が要求の中心となっている。ベアの統一要求基準を設定し、統一闘争による相乗効果で賃上げを実現する従来の春闘方式は崩壊したのである。正確には、自動車総連、私鉄総連、ゼンセン同盟、全国一般などベアを要求する産別もある。だが、ナショナルセンター連合としては、春闘史上初めてベアの統一要求を放棄、「賃金カーブ維持分(定期昇給)プラスアルファ」とし、「雇用維持協定」など「雇用最重視」の方針となっている。
連合を中心にした春闘の実態はこんなていたらくだが、労働者の雇用、生活危機は深刻化し、ますます耐え難いものになっている。
労働者が自らと家族の生活を維持・向上させるために、また格差是正のために、賃上げを要求するのは当然である。この闘いは、ごく一握りのわが国多国籍企業が、グローバリズム下の世界的競争で生き残るために国民経済を破壊するのに抗して、国民の生活、国民経済を守る正義の闘いでもある。
米国主導のグローバリズムの中で、大企業とその政府、小泉政権は、労働者、勤労国民に過酷な犠牲を押しつける道をとっている。首切り、賃下げなどの攻撃は、その一端にすぎない。当面の春闘を断固闘うと同時に、敵の諸攻撃にあわてず、その背景・本質を見極め、本格的な反攻へ腹をくくらなければならない。
企業の存続のみ叫ぶ日経連
日経連は1月11日、資本・経営側の春闘に臨む指針として「労働問題研究委員会報告」を発表した。そのポイントは、「みぞうの危機」の中、グローバル化に対応するには「徹底した構造改革の断行」による「高コスト構造の是正」で国際競争力を強化する以外にないと強調している点にある。「高コスト構造の是正」とは、賃金・人件費コストの削減、低生産性分野の淘汰(とうた)の「断行」を意味する。危機の深まりの中で、一握りの多国籍企業が生き残るためには、国民大多数の営業や暮らし、国民経済がどうなろうが知ったことではない、という卑劣な身勝手さだ。
春闘に臨む具体的指針については、「いかに企業が生き残るか」を主眼として対応すべきだと「これ以上の賃金引き上げは論外」、「定昇の凍結・見直し」など「賃下げ」にまで踏み込むことを要求している。
雇用問題については、当面「緊急避難型ワークシェアリング」を強調。それは、労働時間を短縮して雇用を維持する代わりに、賃金・賞与など「総額人件費を縮減する」というもので、経営側にはなんら痛みもなく、労働者側だけに一方的に「賃下げ」を押しつけるシロモノだ。
今回の日経連の春闘指針は「市場がすべてを決定する」株主資本主義の圧力に迫られて「日本的労使関係」を最後的に投げ捨て、米国流儀に転換せよ、というものである。
敵に屈する日和見主義許すな
財界のこうした身勝手な攻撃と対決し、5000万労働者の雇用・生活危機突破を図る今春闘は、きわめて重大である。
だが、すでに述べたように最大のナショナルセンター連合は、労働者の生活実態を踏まえた賃上げ要求基準を設定し、断固として闘おうとはしていない。日経連に調子を合わせる実にものわかりのよい対応である。敵将・奥田日経連会長のおほめにあずかるはずである。
「雇用維持」では、連合は政府、日経連との3者会議の一角を担って、「緊急避難型のワークシェアリング」を切り札であるかのように持ち上げている。実質は労働者側の「賃下げ」で危機を乗り切ろうというものだが、これとてもっと厳しい状況に直面すれば雇用維持の保証になるとは限らない。
連合の春闘方針は、連合内部でも中小単産を中心に批判が出ているように、およそ労働者の大多数の雇用、労働条件、生活の実態からかけ離れたものである。「労働運動の社会的役割」を強調した「ニュー連合」は、看板に偽りありと言わなければならない。
その証拠(しょうこ)に、日経連の「高コスト構造の是正」論に公然と呼応する一部連合幹部の言動を黙認し、結果的に追随する態度をとっている。
札付きの鈴木電機連合委員長(IMF・JC議長、連合副会長)は最近、よりストレートに日経連に呼応する発言を繰り返している。日本における「高コスト体質を是正する構造改革は正しい」、これからもドルを蓄積する金属産業のあり方、「製造能力の強化」のための政策は、日本の「国家戦略」であるべきだと公然と言い始めた。これは端的にいえば、電機・自動車などのドルを稼げる巨大輸出企業、多国籍企業の国際競争力を高めて生き残るには、物流・流通・電力・通信など「高コスト」を引き下げよ、生産性の低い中小企業はつぶせ、労働者の賃金はパート・派遣を多くして引き下げよ、公務員にも賃金引き下げと人員削減を、ということである。しかもこれらを「国家戦略」にしろという。彼はまた、「市場がすべてを決定する」株主資本主義のこんにちでも、(経営)参加路線を熱心に推し進め、アテのない「労使協議」「社会合意」へと労働運動を導こうとしている。
鈴木副会長は、まさに多国籍企業の経営者の代弁者として、かれらの世界観、政策を労働運動内部に伝達しようとする裏切り者に他ならない。こうした裏切り者、日和見主義指導者との闘いなしに、弱体化した労働運動を活性化・強化することなど空論である。どうして笹森連合会長は批判しないのであろうか。
ついでながら、共産党の影響力が強い全労連指導部が、最近、このような連合を美化し、「共同」の秋波を送っていることも犯罪的なことである。
米国流グローバリズムと闘う以外に活路はない
労働者の賃上げ、雇用維持の闘いは、ひとり労働者のための闘いではない。グローバル資本主義の下でわずかの多国籍企業が生き残るために、社会全体に「高コスト構造の是正」を押しつけ、国民の営業と生活を破壊することに反撃して、国民経済を守る正義の闘いでもある。したがって、労働者は自分たちの要求を実現するために闘うこと自身重要な意義がある。
それだけでなく、小泉改革の犠牲になる他の諸階層の要求と闘いを支持し、かれらと連帯して闘ってこそ、小泉政権の国民経済破壊と有効に闘うことができる。財界主流、小泉政権が米国流グローバリズムに従う限り、大リストラ、失業、倒産、小泉改革など勤労国民への多大な犠牲、国民経済破壊はやむことがない。
したがって、先進的な労働者は、ことの本質を認識し、これと本格的に闘うために、目先のことだけに左右されず、本当に腹をくくる必要がある。
今さら「労使協議」、「社会合意」など話し合いで労働者の言い分を通すことなどできない。幻想を捨て、自らの団結の力、断固たる闘争によって活路を切り開こう。この力だけが、多国籍企業の横暴と闘い、小泉改革と闘って、労働者の雇用・生活危機を突破できる力である。
闘おうとすれば、条件は広がっている。経営側の攻撃の強まり、労働条件の絶え間ない悪化、生活危機は、職場・地域の労働者の不満をうっ積させ、闘うエネルギーを充満させつつある。労働者の中には力があり、バラバラの状態を克服さえできれば、時代を動かす力を持っている。
また、地域には350万人を超える職を求める失業者、仲間がいる。小泉改革に反対する不満と抵抗が地場中小企業、農民、地方自治体の中に広がっている。国民諸階層と結びつき、広く連携を求めていけば闘いの展望は開ける。