20020115

「高コスト構造是正」--賃下げに踏み込む日経連
「労使協議」「社会合意」は幻想 断固たる闘争を

日経連
「2002年版労働問題研究委員会報告」についての談話

日本労働党中央委員会労働運動対策部長 中村 寛三


 日経連は1月11日、臨時総会を開催し、経営側の春闘指針である「労働問題研究委員会報告」を承認した。これに関して、中村寛三・党中央委員会労働運動対策部長は、15日に以下のような談話を発表した。

1.
  1月11日、日経連は臨時総会を開き、「2002年版労働問題研究委員会報告」を承認、資本・経営側の春闘に臨む指針として発表した。
 今次報告の際だった特徴は、「未曾有の危機」のなか、グローバル化に対応するには、「徹底した構造改革の断行」による「高コスト構造の是正」で国際競争力を強化する以外にないと強調している点にある。「デフレを促進するからという理由で高コスト構造是正の取り組みの手綱を緩めることがあってはならない」と並々ならぬ決意を表明している。
 「高コスト構造」とは、「国際的にみて高い賃金・物価水準」だとして、これを「是正」するためには、「生産性に即した賃金決定の貫徹」、「低生産性分野の生産性向上と高生産性分野の創出・育成による経済構造改革」が必要だと言う。政府に対しては、「規制改革と社会保障の適正化、公共部門の効率化」など、その環境整備を要求している。
 要するに「構造改革の断行」とは、賃金・人件費コストの削減、低生産性分野の淘汰を徹底して「断行」する、ということである。これは、グローバル化の圧力に迫られたわが国多国籍企業が独り生き残るために、労働者と中小企業を容赦なく攻撃すると宣戦布告したものである。
 危機の深まりの中で、わが国多国籍企業は、自らの利益確保のためには国民経済、国民大多数の営業や暮らしを破壊してはばからない手前勝手さ、その反国民的正体をもはや覆い隠すことができなくなっている。

2.
 日経連のそうした態度は、2002春闘に臨む具体的指針に貫かれている。
 奥田会長は、「もはや賃金か雇用かの選択を論議して済む状況ではない。いかに企業が生き残るか、その中で雇用をどこまで確保できるかを主眼に、総額人件費の観点から」対応すべきだと高姿勢に出ている。
 賃金については、「これ以上の賃金引き上げは論外」であって、「定昇の凍結・見直し」など「賃下げ」にまで「思い切って踏み込む」べきだと言っている。
 雇用問題については、「社会の安定のためにも、全力を挙げて取り組むことが政労使の最重要課題」とし、「雇用ポートフォリオ」、「派遣労働・有期労働契約の規制緩和」などを推進するとしているが、当面の対策として提起されているのは「緊急避難型ワークシェアリング」である。それは、労働時間を短縮して雇用を維持する代わりに、「賃金・賞与など総額人件費を縮減する」というもので、経営側にはなんら痛みもなく、労働者に一方的に「賃下げ」を押しつけるシロモノである。
 今回の日経連の春闘指針は、時期を画するものである。日経連は昨年「横並び賃上げ春闘」を解体し、変質させたが、これにとどまらず今春闘で、雇用危機を脅しに「賃下げ」まで一挙に踏み込み、総額人件費の大幅削減をもくろんでいる。「市場がすべてを決定する」株主資本主義の圧力に迫られて、わが国多国籍企業は「日本的労使関係」を最後的に投げ捨て、アメリカ流儀に転換する挙に出たと言える。

3.
 日経連のこうした攻撃と対決し、5000万労働者の雇用・生活危機突破を図る2002春闘は、きわめて重大である。まさに労働組合の出番である。
 だが、最大のナショナルセンター・連合は、断固として闘おうとしていないばかりか、日経連に調子を合わせている。
 2002春闘の要求策定に先んじて、昨年10月18日、連合は日経連との間で「雇用に関する社会合意」推進宣言を合意、「生産性の向上や経営基盤の強化に協力する」「賃上げについては柔軟に対応する」と約束した。文面では、経営側の「失業を抑制する」と引き替えたつもりだろうが、その後の経過が示しているように、個別企業のリストラ、首切りは後を絶たず、わずか1カ月で完全失業率が0.1ポイントも上昇、5.5%の最悪記録を更新した。「労使合意」は、失業の抑制に何の役割も果たさなかった。労働側、連合の「ベア要求見送り」には絶大なる効果があった。
 こうして連合の賃金要求は、春闘史上初めてベア統一要求を放棄し、「賃金カーブ維持分(いわゆる定期昇給分)プラスアルファ」となった。
 「雇用最重視」の切り札であるかのように騒ぎ立てている「ワークシェアリング」は、いま政労使で話し合われているが、着地点は「緊急避難型のワークシェアリング」。実質は労働者側の「賃下げ」で危機を乗り切ろうというものである。
 連合の春闘方針は、350万人をはるかに超える失業者、不良債権処理で失業の危機に直面する労働者、4年連続の平均賃金の低下、賃金格差で生活危機に直面している労働者、パート・派遣など不安定な労働者の実態、要求からかけ離れたものである。連合内部でも中小単産を中心に批判が出ているが、当然である。
 危機の深まりの中で、電機・自動車など多国籍企業労組が実権を握る連合は、ますます参加路線を推し進め、何のアテもない「労使協議」、「社会合意」へと労働運動を導こうとしている。この潮流は、まさに「労使が協力して『社会の安定帯』たる役割を担って未曾有の危機を脱しよう」という日経連の呼びかけに呼応する裏切り者である。
 共産党の影響力が強い全労連指導部が、最近、こうした連合を美化し、「共同」の秋波を送っていることは犯罪的なことである。

4.
 労働者と労働組合は、「労使協議」「社会合意」への幻想を捨て、自らの団結の力、断固たる闘争によって活路を切り開こう。
 日経連の「構造改革の断行」の決意が示しているように、危機の深まりのなかで支配層は、ウムを言わさず労働者に譲歩を迫っている。「労使協議」「社会合意」など話し合いで労働者の言い分を通すことなどできない。力で決着をつける以外にない。労働者にとっては、労働者の階級的団結、ストライキ、断固たる闘争だけが活路を切り開く唯一の確かな道である。この力だけが、多国籍企業の横暴と闘い、小泉構造改革と闘って、労働者の雇用・生活危機を突破できる。
 先進的活動家の皆さんは、こうした断固たる闘いの道を広く宣伝し、職場から、地域から労働者の団結と闘争力を回復し、弱体化した労働運動の全国的再構築のために全力を挙げよう。
 闘おうとすれば、条件は広がっている。経営側の攻撃の強まりは、職場・地域の労働者をますます耐え難い状況に追い込み、闘うエネルギーを高めさせるに違いない。昨年1月15日、JAM加盟のミツミユニオン労働者3000人は、工場閉鎖に反対して24時間ストライキを打ち抜いた。昨春闘でも10数年ぶりにストライキを打った組合もいくつか出てきた。労働者の中には力があり、バラバラの状態を克服さえできれば、時代を動かす力を持っている。萎縮せず、自信を持つべきだ。
 労働者は闘おうとすれば、友がいる。いま、わが国多国籍企業、その政府が進める「構造改革」に対して中小業者、地方自治体では不満と抵抗が広がっている。そこに注目し、広く連携を求めていけば、闘いの展望は開ける。
 労働党は、失業者を含む労働者と労働組合のすべての闘いを断固支持するとともに、労働運動の先進的な活動家の皆さんに労働運動の再構築に向けてともに共同の努力を払われるよう訴える。           

以上