20011105(社説)

真にアジアとの平和・共生を

小泉政権に「アフガン復興」主催の資格はあるか


 米英軍のアフガニスタン爆撃開始以来、約一カ月がたった。それとともに、「タリバン後」の「新政権」デッチ上げをめぐって、日米欧などの策動が活発化している。日本もこの流れに乗り遅れじと、動きを強めている。
 他方、アフガン攻撃による被害拡大につれ、中東、アジアを始め世界で攻撃反対の国際世論がいちだんと高まっている。そんな国際環境で米国も容易ではなく、現地では厳冬期やラマダン(断食月)も迫っている。
 小泉政権は、米国の攻撃を無条件で支持しただけでなく、米軍支援に自衛隊まで派遣する。そのうえ、「タリバン後」の画策である。とんでもない米国のお先棒担ぎであり、断じて認めてはならない。わが国がなすべきは、米国などの武力攻撃を直ちにやめさせること。米国テロ事件がきっかけならば、その根源である米国の帝国主義政治を正させることである。わが国外交は、「人道援助」をいうなら、それらの前提なしには全くのぎまんとなる。
 わが国の生き方が問われている。米国主導の軍事侵攻、政権転覆、内政干渉につき従うのでなく、アフガンやアジアとの平和、友好、共生の道を実現しなければならない。対米追随から脱却し、アジアとの共生を求めよう。

「復興会議」は米国のデッチ上げ
 小泉政権は、タリバン政権転覆後の国連の「アフガン復興会議」なるものを東京で開催する方向で、関係諸国との調整に入ったという。すでに十月下旬、外務省の重家中東アフリカ局長が米英を訪問し、「アフガン全民族の参加」「国連の暫定統治はしない」など、新政権の枠組みについて両国と原則一致したと伝えられている。
 小泉首相も十月二十日、上海での日米首脳会談で、ブッシュ米大統領に対し、自衛隊派兵とあわせて、アフガン復興で日本が役割を果たすことを申し入れた。そして、ブッシュは小泉の提案に感謝したといわれる。
 だが、他国を爆撃でたたきつぶし、都合のよい「新政権」をデッチ上げようとすることこそ、帝国主義以外の何ものでもない。ちょうど、日本軍国主義が戦前、中国東北部に「皇帝」まで立てて「満州国」をつくった歴史を想起させる。今回、皇帝ならぬ「国王」までも準備されている。「満州国」との違いは単独でやるか、数カ国の合作でか、だけである。
 小泉政権は「和平と復興」の美名で、あたかも日本が積極的にアフガンの平和と安定に「貢献」するかのように吹聴している。日本には、カンボジア(九二、九三年)、インドネシア東ティモール(九九年)復興活動の実績があるという。だが、アフガン関与の実態は、米戦略の枠の中でしかない。わが国は、早くも米英の攻撃準備段階から「タリバン後」を米国などと画策してきている。
 すでにパウエル米国務長官は十月半ば、経済援助をエサにパキスタンとインドを相次いで訪問、両国と「タリバン後」を協議している。ラムズフェルド国防長官も現在、パキスタン、ロシアなど周辺国を回っている。
 こうした米日の思惑による「新政権」樹立策動は、直接アフガンを攻撃している米国が前面に出ることでイスラム諸国の反発を招くことや、かつてソ連がアフガンにかいらい政権を打ち立て、統治しようとして失敗したことなどの経験によるものである。軍事と政権打倒の中心は米国、和平・復興には日本が前面に、という米国演出による役割分担にすぎない。
 もちろん、「タリバン後」をめぐっては、米欧、ロシア、日本、周辺のパキスタン、イランなど、それぞれの利害をかけた思惑が錯綜(さくそう)し、予断を許さない。
 いずれにせよ、大国の思惑、アフガンの自立・自決を排除した復興計画などはまったく不当な内政干渉であり、決してアフガンの平和と安定に役立つものではない。

米国一辺倒、アジア敵視の小泉外交
 小泉政権は、テロ関連法案を成立させ、戦闘中のアフガン周辺への自衛隊派兵を法的にも可能にした。戦後の安保・外交政策の大転換である。とはいえ今回の実体は、米軍の「日の丸を立てた」後方部隊にすぎない。
 同時に、自衛隊派兵にはわが国支配層の軍事大国化の狙いも込められている。アジアに展開しているわが国多国籍大企業の権益擁護や、中東原油の安定的確保などがいわれている。アフガン情勢の不安定化、中東情勢の流動化の連鎖が、日本の石油確保をおびやかすとの懸念もある。以前からわが国では、「マラッカ海峡防衛論」などが浮上していたが、今回のテロを口実の自衛隊派兵は、東南アジアから中東にかけて、わが国自衛隊を自由に派兵できる体制をつくり出したのである。
 自衛隊派兵、軍事大国化をめぐって、中国、韓国などアジア諸国は、わが国に警戒を強めている。それも当然であろう。もともと小泉政権の外交は、四月の政権発足直後から米国一辺倒で、中国、韓国などアジア敵視はきわめて露骨だったからだ。
 小泉首相は六月、ただちに訪米して日米首脳会談を行い、米国側からの軍事協力拡大要求を認め、日米基軸強化をうたった。折しも当時、沖縄で米兵による女性暴行事件が発生したが、地位協定改定を求める国民の声を無視して、小泉は何ら言及しない屈辱的姿勢を示した。
 他方、アジアでは教科書問題などで中国、韓国と対立していただけではない。北方漁業問題、農産物輸入問題などもあった。さらに火に油を注ぐように、首相自ら「八月十五日の靖国神社参拝」に固執した結果、中国、韓国からの要人訪問や民間交流の相次ぐ中止など、中国、韓国との関係は最悪の状況に陥った。靖国参拝問題は最後には小泉が妥協したが、むしろ挑発的でさえあった。そうして日中、日韓関係は、対米関係に比べ放置された。このように、小泉政権のアジアに対する大国主義的志向は、きわめて露骨である。
 それが、米国テロ事件が発生し、アジア太平洋経済協力会議(APEC、上海)も予定されていたので、十月の日韓、日中両首脳会談に至った。そこで小泉は、日韓両国と「手打ち式」をしたものの、テロ事件などたまたま関係修復のきっかけができたにすぎない。
 だから、中韓両国からは「自衛隊の活動範囲は、日本は過去の問題があるので慎重に」(朱鎔基中国首相)とクギを刺された。それほど中韓両国をはじめ、アジアでは今回の自衛隊派兵、軍事大国化の動きに対して警戒が強いのである。
 しかも、中国側に反テロで同調させることにより、中国が日米の行動をけん制しないよう、日本の外交面での対米支援になっている側面も、見逃すことはできない。
 結局、歴史認識問題などを明確にし、アジアでの外交や経済政策などで、自主的でアジアと共生する方向を示さない限り、わが国はアジアから信頼を得ることはできない。アフガン問題で、小泉政権が「和平と復興の担い手」のような顔で振る舞っても、底は割れている。
 小泉政権のアフガン介入は、わが国の進路を危うくし、世界の平和と安定を損うものである。
 まして、米国テロ事件をきっかけに、アジアでも米国流の「グローバル化」に対し疑問が噴出している。わが国でも、今回の事態について保守層の一部に懸念が明確に生まれている。
 米国の攻撃、自衛隊派兵に反対する大衆的闘いは、大小の規模の差はあれ全国各地で急速に広がっている。米国のお先棒を担ぐ小泉政権のアフガン介入に反対し、対米追随から脱却して、アジアとの平和、友好、共生の道を求めよう。


アフガン復興会議
 米国がタリバン政権打倒後、自国に都合のよい新政権づくりをめざすもの。暫定政権づくりのバックは、国連にするか、多国籍軍にするか、あるいはアフガンのどの勢力を入れるかなど、現在各国の思惑が錯そうしている。昨年、タリバン、北部同盟、元国王側近の3者対話を開催した日本が、会議の主催に名乗りを上げている。

ページの先頭へ