20011005(社説)

米国発の世界恐慌の瀬戸際

ドル中心・米国依存の経済から脱却すべき


 国際金融の中心、米国の世界貿易センタービル崩壊は、世界資本主義経済に激震となった。世界中の金持ちどもはかたずをのんでいる。
 世界政治と軍事での米国の威信は地に落ちたが、ドルによる世界経済・金融も重大な打撃を受け、転換点に立たされている。
 わが国経済への打撃もとりわけ大きく、ドルと没落を共にするか、問われることになった。
 米国の「報復」攻撃とそれに追随する小泉政権の海外派兵策動に反対すると共に、労働者と国民各層は歴史的な資本主義の危機、激動する情勢に備えを急がなくてはならない。

「恐慌は避けられるか」
 テロ事件後、ニューヨーク株式市場の平均株価は、一週間で一四〇〇ドルに迫る過去最大の下落となり、下落率一四%は大恐慌時につぐ過去二番目となった。
 一九二九年からの大恐慌には、事前の備えがなかった。だが、今回は、米国政府が市場を閉鎖し万全の準備をした。米連邦準備制度理事会(FRB)は〇・五%の緊急利下げなど金融緩和に手を打ち、また企業による自社株買いの規制を緩和した。米国のメンツをかけて、あらゆる手だてが打たれたにもかかわらず、この結果である。
 欧州も日本も、世界同時株安となった。その後、各国市場とも一進一退であるが、株式市場が安定に向かうとの見方はどこにもない。事件による一過性の危機と違うからである。米国経済は、昨年秋以降、情報技術(IT)バブルがはじけ、減速過程にあった。今年に入って九回の利下げ、あるいは減税など手が打たれたが効果はなかった。九九年第四・四半期には八・三%に達する勢いのあった経済成長(国内総生産・GDP)は、今年四・六月期には〇・二%にまで減速した。失業率も、四・九%に上昇した。
 対米輸出に依存していた日本やアジアには大打撃であった。欧州も影響を受け停滞し始めた。七月のジェノバ・サミットでは、「世界同時不況の危険」がいわれた。だが、危機の押しつけ合いで終わり、有効な協調政策を何一つ打ち出せなかった。
 そこに、今回の事件である。事件が引き金となって米国は一気に景気後退局面となった。テロ事件後、航空業界などの業績が悪化、GM(ゼネラル・モーターズ)が工場閉鎖するなど、大規模なリストラもいちだんと急テンポである。何より米国景気の最後の支えで、GDPの約七割を占める個人消費が、株価大幅下落による「逆資産効果」で大きく後退している。
 米国のマイナス成長はもはや避けられない。世界は、中国を除きほぼ同時不況となった。とりわけ対米依存度の高い日本や韓国、台湾など東アジア経済の後退はいちだんと進む。
 米政府当局は、後退は一時的、来年には回復すると繰り返している。わが国政府も、そこにすがっているが、信ずるものはだれもいない。各国政府・中央銀行が、協調利下げ、為替市場への協調介入など必死の対応策を採って、この現状である。世界は恐慌の瀬戸際である。少なくとも、出口の見つからない世界同時の「長期的な停滞局面」に突入した。

マンハッタンに沈んだ「ドル環流システム」
揺らぐドルの信認
 米株式市場では事件後、約一兆四千億ドル(約百六十四兆円)の資産が吹き飛んだという。株から安全な預金に資産を移し、銀行の個人預金が急増している。海外投資家が米国市場への不信感から、ドル資産を売って自国に資産を移している。
 この結果、ドル安局面が進み、ドルへの信認が揺らいでいる。これは資本主義世界経済にとってきわめて重大なことである。
 周知のように米国は九〇年代、意図的に「ニューエコノミー」だなどといってITバブル、ドル高をあおり、世界中の資金をニューヨークへと引きつけた。昨年だけでも、約六千億ドルの投資資金が、欧州、日本から流入したという。「グローバリズム」などという理屈もつくられた。引きつけた外国資金を、高株価でさらに膨らませ、そのカネで米国は生産以上に大量に消費した。いわば生産を手抜きして、「金融」や「情報」、すなわちバクチ、「水商売」をやってきたのである。
 この結果、世界に対していわば「最後の消費者」となった。日本のバブル崩壊後の十年間が破局にならなかった一因は、この米国の過剰消費の結果である。アジア通貨危機から韓国などが「立ち直れた」のも同様である。
 日本も、アジアもさんざん米国に搾り取られた。米国はこのシステムによって世界中の富を独り占めしてきた。この十年間、世界の貧富の格差拡大、対立・矛盾は急速に激化した。米国が世界中の貧しい人びとの恨みの的となったのは当然である。
 この「ドル環流システム」と呼ばれる虚構は、いつかは破たんするとだれもが分かっていた。だが、それでも世界中から資金が入って来る間は成り立ち、イカサマはばれないですむ。このシステムの頂点に立っていたものこそ、崩壊した世界貿易センタービルだった。
 だが、ドルへの信頼がなくなればどうなるか。ドルが紙切れになると分かれば、投資するものはいない。すでに資金の流れは、米国から欧州や日本へと流れ出るようになった。米国は年間、四千億ドルも赤字を垂れ流してきた。埋め合わせができなかったらどうなるか。普通の家庭で考えればすぐ分かる。放蕩(ほうとう)家庭の破たんである。
 十年前の湾岸戦争当時、「有事のドルは買い」でドル高となった。今回は違ってドル安がじわじわと進んでいる。日銀をはじめ、各国中央銀行はドルを買い支えているが、軟着陸できる保証はない。「報復」戦争が始まって「有事のドル」となれるか、見所ではある。
 暴落へと、いつ転機がこないとも限らない。今回の事件から直線的にそうなるとは断言できないが、転機が急速に近づいたことは間違いない。ドル中心の通貨金融体制は終えん期に入ったともいえる。
 軍事超大国、米国の威信は地に落ちた。ドルの威信も同様である。これからは世界の人民、世界各国の支配者たちも、このことを日々認識することになる。
ドルと共に沈没するか、アジアと共に繁栄するか
 竹中経済財政相は「改革のシナリオが狂った」と、楽観的に装っているが、そんなことではすまない。「法と理性」によるテロ根絶などという共産党もおめでたい限りである。事態はきわめて深刻である。輸出大企業は、電機産業など大規模なリストラ策を決めたばかりだが、さらに大規模に労働者に犠牲を転嫁して、危機乗り切りを図るだろう。
 国内では現在、自衛隊派兵問題が焦点だが、「改革」がすぐに大問題となる。改革も進まず、不況も深刻化し、小泉は立ち往生せざるを得まい。財政出動が問われるが、問題は決して解決せず、金利下げ、金融政策はもはや限界である。唯一の頼みだった対米輸出立ち直りのめどはまったくなくなった。「日本発の恐慌にしない」というが、策はない。
 世界は米国とともに破局を迎えるか、問われている。欧州では、来年一月から新通貨ユーロが流通し、世界的なドル不信認がいちだんと進む。アジアと世界の国々は注視している。
 わが国は報復戦争に追従し、米国の番犬としてインド洋からパキスタンへと自衛隊を進めるべきではない。自主的・平和的な外交、進路をわが国はとるべきである。
 経済面でも、ドル・米国依存の経済路線に終止符を打ち、国民生活の大幅向上・内需中心の自立的な経済、アジア諸国と平和・共生する経済へと、進路を切り替えるときである。


米国の景気後退予測

 米国の調査機関(44社)のうち、テロ事件の追い打ちで約八割の機関がすでにマイナス成長と予測している。7?9月期はマイナス0・5%(前期比年率)、10?12月期はマイナス0・7%が平均値。湾岸戦争の時、先行き不安から90年7月から翌年3月まで、最大マイナス3・9%成長となる不況に突入したように、米国が今回、報復戦争を強行すれば、いっそうの不況深刻化は避けられまい。

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