20010925(社説)

米国テロ事件

危機は一気に深刻化し、世界はより不安定に


 世界は今、米国テロ事件の衝撃で大揺れである。
 テロ襲撃で大恥をかいたブッシュ米大統領は、報復準備に必死である。だが、これで世界はいっそう不安定となり、足元の米国始め世界資本主義は、一気に危機を深刻化させた。わが国政治・経済にも重大な影響が及んでいる。
 小泉政権も米国の圧力を受け、あたふたとわが国を危険な道に引きずり込む米軍支援策を決めた。一方、「野党」の側では対米追随丸出しの民主党もいれば、「法の裁きを」と言ってブッシュに穏健な現実路線を売り込む共産党もいる。ケンカ両成敗論もある。事件をどうみるのか、また米国にどう対応し、わが国はどういう態度をとるべきなのか、今鋭く問われている。
 米国の報復攻撃に断固反対し、これに追随する小泉政権の自衛隊派兵策動に反対しなければならない。

背景に米国の強権的世界政治が
 今回の事件は、日本人を含め七千人近い犠牲者を出した痛ましい出来事ではある。だが、ことの歴史的、経済的背景などをみなければ、真相は分からない。
 まず、米国防総省が襲われたのは、象徴的でもある。なぜなら、米国は冷戦終了後の唯一の軍事超大国として、世界でわが物顔に振る舞ってきたからである。
 この十年間だけでも、湾岸戦争(九一年)でのイラク爆撃と経済封鎖、アフガニスタンやスーダンへのミサイル攻撃(九八年)を強行した。特にアフガンには、国連を使うなどして九九年以来四次にわたる経済制裁などを科している。その結果、アフガンでは数百万人が飢餓で苦しんでいる。
 さらにユーゴスラビア爆撃(九九年)も強行――と、米国は常に世界で武力介入してきた歴史がある。中東紛争では、イスラエルの後ろだてとして支え続け、サウジアラビアやクエートなど中東に二万五千人の米軍を駐留させている。東アジアでは、台湾、朝鮮問題に介入したまま十万の米軍を張りつけている。「世界の憲兵」を自認するが、要するに他国に侵略、介入する戦争の火種以外の何物でもない。米帝国主義といわれる由縁である。この悪行が、広く人民の恨みをかわないわけにはいかない。
 マンハッタンという金融の中枢が狙われたこと、これもまた象徴的である。九〇年代、「グローバル化」を世界に押し付け、米国は世界のカネと物を一極集中させ、ひとり「好況」を謳歌(おうか)してきた。アジアが苦境に陥った九七年の経済危機も、「グローバル化」した米金融資本などがしかけたものである。当時、インドネシア、韓国などは、米国・国際通貨基金(IMF)の支配下に置かれさえした。一国の命運さえ左右しかねないのが、ヘッジファンドなどの金融賭博(とばく)であり、「グローバル化」の一典型でもある。
 こういう世界的システムをつくった米国に、不満が向けられるのも不思議ではない。今回の事件の背景について、当地の大学教授も「『富の象徴』に途上国が反発」と題して、「四百年以上続いた資本主義システムが危機にひんしている。市場経済は世界中の富をごく一部の国に移し、世界が同様に成長できない。貧しい国は貧しいまま、という考えが不満を募らせる」(ウォーラーステイン・ニューヨーク州立大名誉教授)と指摘している。貧富の格差は拡大し、今でも地球人口の約二割、十二億人は飢えに苦しんでいるという。
 だから、米国が武力介入はもちろん、外交、経済問題でも、世界中で多かれ少なかれあまねく人民の恨みをかっていたことは想像に難くない。
 どれほどテロを非難しようとも、人民の困窮と不満、米国への不満という基礎がある限り、自然発生的な何らかの行動が起こるのは避けられない。いわば米国がまいた種であり、米国の世界における帝国主義政策が発生源である。実際、報復攻撃の対象とされるアフガンでは全国民に徹底抗戦を呼びかけている。
 問題の根本は、テロでは解決しない。世界人民が団結して米帝国主義の策動を打ち破り、各国・各民族が平和、平等に、共に豊かになる世界を築くよう奮闘することである。

一気に資本主義の危機が深刻化
 軍事・金融中枢へのテロ一撃によって、世界秩序の頂点に立っている「超大国」米国の威信はものの見事に失墜した。
 今後、世界はより不安定なものとならざるを得ないだろう。米国に対して人民、途上国であれ何であれ、いっそう物を言いやすい環境となった。これは、人民にとって有利なことである。まだ報復戦争の準備段階の今でさえ、集団的自衛権を行使するという北大西洋条約機構(NATO)内部でも、対米協調に温度差がある。
 さらにかれらにとって深刻なのは、資本主義の危機が一挙に深化したことである。事件の経済的打撃は、当事者たちが現時点でも予測できないほど多方面で甚大だ。再開された米国の株式市場では、約一四〇〇ドル安という過去最大の下げ幅を記録し、ドルはじりじりと下落し始めた。米国に集中し好況を支えていた資金も、リスクを避けて欧州、日本など自国へ還流し始めている模様だ。米景気の中軸である消費も急落し、経済成長率も、今年後半はついにマイナス成長=景気後退が確実視されている。
 そして米国発の打撃が、欧州、日本、アジアなどに軒並み波及している。各地域でもその影響は見通しがつかず、混乱と危機はいっそう深まっている。世界資本主義は「恐慌を阻止できるかどうか」という瀬戸際に立ちつつある。

小泉政権の対米追随の参戦許すな
 この荒波はわが国にも波及し、ただでさえ不況の経済をいっそう深刻化させている。そうして政府・自民党内でさえもめていた小泉改革は、破たん寸前に追い込まれつつある。小泉政権にとっては、重大な打撃となりかねない情勢となった。
 他方、米国からは「(南西アジアに)日の丸を立てよ」(アーミテージ国務副長官)と、報復攻撃への貢献の圧力が強まった。小泉政権は、自衛隊法改悪、「米軍支援法」制定、イージス艦派遣などにより、日米安保体制のもと自衛隊の海外派兵拡大でこれにこたえようとしている。こうした米軍支援は、わが国をアジア、中近東人民に敵対させ、国の進路を誤らせるものである。断じて許してはならない。
 米軍支援での小泉首相の強硬さに、自衛隊法改悪などについて橋本、宮沢元首相らから異議が出されるなど、対立が表面化している。国の進路をめぐる基本問題だからである。いずれにせよ、小泉政権はテロ事件、経済危機とも関連して、改革、米軍支援問題でその存立基盤が大きく揺さぶられている。
 わが国は、世界での米国の強権政治に反対し、平和に、アジアあるいは中近東との共生の道を、主体的に選択すべきである。
 ところが民主党は、早々と「米軍支援法」制定に賛成し、対米追随、小泉政権支援の正体を自己バクロした。「野党」として米軍の他国介入の戦争に、積極的に加担しようというわけである。民主党はこうした重要問題の節目では、必ず支配層の露骨な支持者としてたち現れる。こうした連中は、国民の裏切り者であり、絶対に支持すべきではない。
 共産党は、武力行使に反対しているものの、「テロ容疑者の逮捕、法の裁き」などを強調し、一見ブッシュの手先のようでもある。まして、米国が武力などで世界人民、民族を抑圧している事実、歴史にはいっさい触れず、米帝国主義を免罪している。結局、かれらの日和見主義的な態度は、この機に穏健な現実路線の党として米国に売り込みたいからであろう。これでは、米国の戦争策動と本当に闘うことはできない。
 すでに東京、沖縄などでは闘いが始まっている。米国のニューヨークなどでも数千人が反戦集会を開いている。
 国会内の闘いだけでなく、労働者階級を先頭にした国民的大衆行動こそが決定的である。米国の武力攻撃に反対し、小泉政権の追随、参戦を許さない広範な闘いを、断固全国で展開しよう。

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