20010925

米同時テロ 世界恐慌を阻止できるか

資本主義の危機を一挙に加速


 米国で発生した同時テロは、米国経済の中枢を直撃、金融・航空など各方面に多大な影響を与えた。大企業の業績悪化は相ついでおり、日米欧が協調した金利引き下げや株式市場への規制緩和を強めても、危機が緩和する保証はない。これは米国のみならず、同時不況色を強めていた世界資本主義の危機を一挙に深刻化させた。米国の威信は揺らいでおり、武力行使によって、経済はさらに悪化する可能性がある。世界資本主義は、まさに「土俵際」にある。

米国 運輸・生産・金融などに打撃

 同時テロは、米国の運輸、生産、金融、消費に大きな影響を与え、景気が大幅に落ち込むのは必至だ。
 もっとも典型的なのは、航空産業である。事件を受け、ユナイテッド、コンチネンタルなど航空会社は、定期便削減と総勢十万人に及ぶ大規模な首切りなど、大リストラ策を発表している。すでに国内線会社のミッドウェーが廃業に追い込まれるなど、米主要十社のうち三社が経営破たん寸前にあるともいわれ、航空業界は二百四十億ドルの支援を政府に要請した。
 ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)などの国際物流もまた、軒並み二十四?四十八時間の遅れを余儀なくされた。ニューヨークの地下鉄も大打撃を受けている。
 これらにより、製造業も大混乱した。フォードが七・九月期の生産台数を当初計画から十一万?十二万台縮小する案を発表、ゼネラル・モーターズ(GM)も生産が計画を下回る事態となっている。在米トヨタ自動車のケンタッキー、インディアナ、ウェストバージニアの三工場で、生産が一時停止。マツダのミシガン工場も生産を一時停止した。
 飛行機の墜落やビル倒壊などに伴う保険金支払いで、保険支払い金額が二千三百億ドルを超える見通しになっており、保険業界でも危機感が高まっている。観光・レジャー産業にも、大きな影響が出ている。
 米国では、七月から実施されていた減税にもかかわらず、個人消費はすでに減退傾向を見せ、失業率も、八月には四年ぶりの四・九%に悪化していた。事件により、いっそうの消費減退は確実と見られている。
 株式や金融も、打撃は大きい。事件後の十七日に再開した株式市場は、ダウ工業株三十種平均が八九二〇・七〇ドルと、二年九カ月ぶりに九〇〇〇ドル割れとなり、下落幅は過去最大となった。
 株取引再開に備え、連邦準備理事会(FRB)は同日、フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標水準を〇・五ポイント引き下げ、三・〇%とした。利下げは今年に入って八度目である。米証券取引委員会(SEC)も株価下落を恐れ、企業の自社株買い戻しの規制緩和策を実施したにもかかわらず、効果はわずかであった。
 同時テロは、すでに減速局面にあった景気に、甚大な影響を与えている。「(テロの影響で)景気後退に陥る可能性が十分ある」(チェイニー副大統領)。「景気後退と景気の減速の間を綱渡りしている米経済の足元の綱を、今回のテロが切ってしまった」(米大手銀行ウエルス・ファーゴのエコノミスト)といわれる。

欧州 景気後退に歯止めかからず

 英ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は二十日、五千二百人の人員削減などを発表した。ヴァージン・アトランティック航空も、千二百人削減を明らかにした。ドイツのルフトハンザ航空も、営業利益が予想を下回ると見込んでいる。
 北海原油の価格上下動しており、経済に不安を投げかけている。
 株式市場では、英国の株式指標であるFT百種平均株価指数が約五・七%下落した。一日の下げ幅としては八七年十月のブラックマンデー以来最大の下げ幅。ドイツのフランクフルト市場でも一時一一・五%の暴落となった。
 欧州中央銀行(ECB)は、政策金利を〇・五〇%ポイント引き下げ三・七五%にすると発表した。
 だが、「経済見通しを修正する必要がある」(欧州委員会のソルベス委員)など、欧州でも景気後退が避けられない情勢となっている。

日本 事件でマイナス成長確実に

 まだ詳細は明らかでないが、わが国経済もまた、米国向けを中心とした輸出、航空産業などへの打撃は必至であろう。
 事件翌日の十二日、平均株価が十七年ぶりに一万円を割り込んだ。
 日銀は十七日、米欧と協調して公定歩合を年〇・二五%から史上最低の年〇・一〇%に引き下げた。金融機関が日銀に預けている当座預金残高の目標額も、これまでの「六兆円程度」から「六兆円を上回ること」とし、量的緩和策の拡大を決めた。
 だが、深刻な不況が改善する当てはなく、支配層の危機感は深い。
 第一生命経済研究所によると、事件により、二〇〇一年度GDP成長率が〇・三ポイント下落しマイナス一・五%、二〇〇二年度は一ポイント下落しマイナス一・二%になるという。
 わが国経済もまた、同時不況の荒波を避けることはできない。

武力行使でさらに景気後退も

 国際通貨基金(IMF)は十二日、今年の世界の国内総生産(GDP)伸び率を三・二%から二・七%へ下方修正した。
 また、ドイツのIFO経済研究所のジン所長は、「米国が中東や中央アジアで報復攻撃を開始すれば、世界はリセッション(景気後退)に陥る恐れがある」と警告している。
 同時テロを契機として、世界同時不況が一気に深刻化、奈落の底に落ち込む可能性が高まった。


米航空会社のリストラ計画

ボーイング
2?3万人
ユナイテッド
2万人
コンチネンタル
1万2000人
USエアウェイズ
1万1000人
アメリカンウエスト
2000人
ミッドウエスト・エクスプレス
3750人
フロンティア
440人
ミッドウェー(廃業)
1700人

ページの先頭へ