20010915(社説)

小泉政権の雇用対策はペテン

雇用と生活の保障求めて断固闘おう


 失業率はついに五・〇%という最悪の状態になった。この雇用・景気対策(補正予算)をめぐって、小泉政権の改革路線が深刻なジレンマに立たされている。
 四ー六月期の経済成長率マイナス、失業も最悪という事態を受けて、小泉首相は景気対策として補正予算編成を決めた。その中身は、雇用対策が軸といわれるが、問題はその規模である。首相は「来年度の国債発行を三十兆円以下にする」という目標を、今年度も適用したいという。
 だが、ここにきて三十兆円という枠に、各方面から反対が急速に強まっている。そういう意味で、小泉流改革路線が貫けるかどうか、今問われている。景気・雇用を重視しすぎれば改革がおろそかになり、改革を重視しすぎれば景気・雇用が回復しないというジレンマである。いずれにせよ、中途半端な政策となり、国民の不満あるいは不信を呼ぶ結果になることは必至である。国民総犠牲の小泉改革を打ち破っていく好機でもある。
 小泉政権がどうなろうと、労働者は食わねばならない。ますます増大する首切りに反対し、雇用保障、生活の保障を政府、企業に求めて断固闘おう。また労働組合は、この問題に真剣に取り組み、闘わなければならない。

容赦ないリストラ許すな
実際の失業率は5%でなく、10%
 七月の完全失業率は、前月より〇・一ポイント上がり、ついに最悪の五・〇%になった。このうち男子に至っては、五・二%にもなる。
 自動車など大企業のリストラ、中小企業における倒産・廃業、海外生産の増大と国内製造業の空洞化などが原因である。
 完全失業者数は三百三十万人で、前年同月より二十三万人増えた。
 就業者数を業種別にみると、最も減少したのは製造業の五十八万人減(前年同月比)で、前月(四十三万人)以上に急速に人員削減が進んだ。次いで建設業が二十一万人減と、八カ月連続で前年同月を下回っている。
 企業規模別では、従業員五百人以上の企業が三カ月連続で前年同月を下回った。これは、この期間の大企業におけるリストラの激しさを物語っている。実際、この期間、日産、マツダ、三菱自動車などで、首切り、希望退職などが相次いだ。
 しかもこの不況下では、いったん退職すると再就職がきわめて困難となっている。千八百人の希望退職を募集したマツダでは、現在再就職できたのはホワイトカラー中心に約二五%にすぎないという。日産村山工場では、閉鎖による退職者は約四百七十人にのぼる。同地域にあるハローワーク立川ではこの一年間、日産や下請けから約百七十件の相談を受けたが、再就職できたのはわずか二十一件だという。
 こうして、失業の長期化が急速に進んでいる。現在、一年以上の失業者は失業者全体の約二六%にものぼり、八五年の約一三%に比べて倍増している。
 「失業率五%」というが、実態はそうではなく約一〇%といわれる。というのは、現在の失業者の定義は、もう職が見つからないとあきらめて求職活動をしない人を含めないからである。そういう人はおよそ四百万にのぼるとされており、これらの人を計算すると失業率は約一〇%になる。だから、ドイツ、フランスは八?九%台で高い失業率といわれるが、わが国はそれ以上で、きわめて深刻な事態である。
 しかも、この八月以後、大企業の人員削減計画が目白押しである。東芝一万八千人、富士通一万六千四百人、日立一万四千七百人など、情報技術(IT)不況を背景に大手電機メーカーが続々と人員削減計画を発表、国内外八万人弱に達している。自動車産業では不況と生産の海外移転で、二〇〇五年には部品メーカー中心に約十四万人減少するという試算もある。自らは生き延び、労働者、下請けを犠牲にする、非情な大企業のリストラを断じて許してはならない。
 大企業だけではない。大失業をさらに準備しているのは、小泉政権そのものである。不良債権処理、公共事業削減、地方切り捨て、財政改革などの「小泉改革」により、官民問わず何百万もの失業者があふれ出ようとしている。銀行の不良債権処理だけでも、百万から百数十万人の失業者が出ることが予想されている。
 したがって、民間の大企業を始めとするリストラに断固反対するとともに、小泉政権の進める改革にも反対して闘うことが必要となっている。

大量失業出す小泉改革
小泉政権の雇用政策はペテン
 小泉首相は、九月末からの臨時国会を「雇用対策国会にしたい」などとうそぶいている。補正予算などで雇用対策を打つことを念頭においての発言であろう。
 だが小泉のいう「雇用対策」などというのは、まったくのペテンである。
 第一に、前述のように小泉改革自身、結果的に何百人もの失業者を生み出す政策だからである。そういう大失業の基本政策がある限り、わずかな「雇用対策」とは人だましの小細工にすぎない。いわば片方でたらいの水をあけながら、他方でさじで水をすくうようなものである。
 そういう意味では小泉改革をやめること、これこそ大きな雇用対策である。
 第二に、政府は現在も進められている企業のリストラになんら規制をせず、放置、容認してきている。失業率が五%になった時点で、塩川財務相は大手電機の相次ぐリストラ計画に対して「企業は社会的責任がある」と警告を発したという。だが、大企業のそういう横暴な首切りをずっと放置してきたのは、政府ではないか。政府こそ「社会的責任」を持ち、民間のリストラを容認すべきではない。
 しかも、単にリストラを放置してきただけでなく、あたかも企業の首切りに補助金を出すような産業再生法(九九年制定)などのように、自民党政府自ら企業のリストラを促進してきた経過がある。
 第三に、この九、十月に策定されようとする対策は、雇用の受け皿づくり(雇用創出)、転職支援、職業訓練などが柱とされている。きわめて貧弱で、不確定要素が大きいものである。改革を進めることで、「この十年間でサービス分野で新たに五百三十万人を創出する」という経済財政諮問会議の方針こそ、そのペテンの最たるものであろう。こんなものは誰も信じてはいない。
 とはいえ、当面、失業手当の大幅延長など失業者への手厚い保障は絶対必要である。政府は、もっと抜本的に失業保障を打ち出さなければならない。
 一方で大量失業を容認あるいは促進し、他方でわずかな雇用対策を取っても、決して雇用問題は解決しない。
 政策の優先順位を聞いた世論調査(朝日、八月始め)でも、「景気や雇用対策を優先してほしい」が五六%、「構造改革を進めてほしい」が三五%となった。長期の不況のもとで、労働者は雇用、生活の危機、そして将来不安にあえいでいる。その打開を求める声は切実である。生活、営業危機が原因の自殺も増え、三年連続で自殺者が三万人を超えている。
 だから、こうした勤労国民の要求に反して改革を強行し、また真に多くの労働者に対する雇用対策を取ろうとしない小泉政権の支持率は、急落している。先の世論調査では、ピーク時の八四%(五月)から六九%(八月)へと、一五ポイントも落ちた。現状では、失業者の恨みはもちろん、小泉政権への国民の不満、不信感は一気に増大するであろう。
 補正予算をめぐって、政府・与党内でも小泉首相に対する異論が強まっている。何よりもいっそう悪化する景気が、小泉政権へ不信任を突きつけつつある。闘うものにとっては、好機である。
 また、連合など労働組合は、単に政府、自治体に「お願い」するだけでなく、今こそ失業者と共に各地で何十万、何百万人の大規模な大衆行動を組織すべきである。それこそが労働組合の役割である。こうした時期、断固闘わなければ、その存在価値が根底から問われるであろう。
 生活と雇用の危機突破のため、労働者、失業者は団結して大衆行動で断固闘おう。

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