20010905(社説)

世界は同時不況の中、
窮地に陥る「小泉改革」

連携して、犠牲を強いる改革と断固闘おう


 このところ、連日のように日本、米国の株安が報じられ、ますます米国発の世界同時不況突入の観を呈している。もちろん、わが国経済の危機も深刻で、近く発表される四ー六月期の経済成長率もマイナスとの見方が強まっている。
 そういう中で、小泉首相は改革を強行せざるを得ず、「不況」という強大な「抵抗勢力」に直面するはめに陥った。それはまた政治にも反映し、政府は補正予算の編成に追い込まれたようである。補正予算案や特殊法人改組などをめぐって、激しい矛盾、対立を引き起こしている。あくまで改革強行をめざす小泉首相だが、経済環境は最悪で、また政府・与党内を含め抵抗は拡大の一途である。攻防戦も激しいが、「小泉改革」もまた窮地に立ちつつある。
 他方、不況は勤労国民の生活を耐え難いものにしており、特にリストラ、失業問題は深刻である。そのうえに、「小泉改革」による失業増大など勤労国民への犠牲のこれ以上の加重は断じて許されない。労働者は、雇用問題など自らの生活を守ると共に、犠牲を受ける人びとと広く連携して改革と断固闘わなければならない。「小泉改革」はすでに多数を敵に回しており、われわれが闘ううえで有利な状況であることを、ぜひ確認しておく必要がある。

不況深刻で、改革に最悪の環境が
 政府の八月の月例経済報告は、「景気は、さらに悪化している」と事態の深刻さを報告した。住宅建設が減少し、失業率は高水準で推移し、輸出、生産も大幅に減少し、設備投資も減少している。
 七月の完全失業率は、前月を〇・一ポイント上回り、ついに五・〇%に上昇した。完全失業者数は、実に三百三十万人と過去最悪を記録している。このうえに、大リストラ、大量首切りが襲いかかる。さら不良債権処理で百万人を超える失業者が、新たに生まれると予測されている。
 東芝一万八千人、富士通一万六千四百人、日立一万四千七百人、松下、NEC、沖など、大手電機・情報関連企業は、国内外八万人弱に達する大幅なリストラ策、首切り計画を続けざまに発表している。
 それらの結果、東京株式市場ではこのところ、ほぼ全面安となり、日経平均株価は一万五〇〇円の大台を割り込み、バブル崩壊後の最安値を更新した。市場では一万円割れすら懸念され始めている。
 日本経済はまさに深刻な不況、デフレの真っただ中で、事態はいっそう深刻化している。
 一方、九〇年代に世界経済をけん引した米国経済は、すでにIT(情報技術)バブルの崩壊で、失速。本年七度にわたる利下げ、金融緩和策やブッシュ政権の減税措置によっても改善の兆しは、まるで見られていない。今年後半からの米経済の回復というシナリオは、いまやほとんど絶望視され、米主要金融機関五社の予測でも、本格回復は来年後半とされている。
 九〇年代のバブル期に積み上がった過剰生産、過剰在庫、過剰債務を本質とする不況である以上、米国経済の回復は容易ではない。
 七月三十日、ニューヨークダウは、とうとう一万ドル割れとなった。これに引きずられる形でEU(欧州連合)もアジア経済も悪化、世界連鎖株安を起こした。世界経済は同時不況から、恐慌も想定される長期の調整局面に入っている。
 わが国輸出大企業がバブル崩壊後の危機を、これまで程度で乗り切ってこれたのも、九七年のアジア金融危機後の急速な回復を支えたのも、挙げて米国経済の「好況」であった。それが今逆転し、長期不況に苦しむわが国経済の上に、この構造的な世界不況の荒波が襲いかかっているのである。
 「小泉改革」をめぐる経済環境は、いまや最悪といってよい局面を迎えている。かれらは政策選択では事実上、極めて狭い道に追い込まれた。

補正予算、特殊法人など、
噴出する支配層内の矛盾
 株安の進行と、雇用情勢の悪化をきっかけに、小泉首相は本年度補正予算を編成することを決めた。当初、九月七日発表の四ー六月期の成長率を見たうえでとしていた補正予算編成の是非の判断を、前倒しせざるを得なかった格好である。
 首相は編成にあたって、「来年度から新規の国債発行額を年間三十兆円以下に抑える」との財政改革目標を今年度も適用するとして、国債追加発行の上限、約一兆七千億円の範囲、総額二―三兆円規模の補正規模とする意向を伝えている。
 しかし、自民党内や閣内からさえ、これに対する反対論が表面化しだした。平沼赳夫経済産業相は「足元の景気対策のために国費で五兆円程度の補正予算を組む必要がある。三十兆円枠にこだわらずに積極的な補正をやったらどうか」と記者団に語り、閣内の不一致を印象付けた。
 麻生太郎政調会長、青木幹夫参院幹事長も上限枠に反対を表明、森前首相も三十兆円枠の順守よりも景気対策の中身が問題だと強調。「提言勢力」を自称する亀井静香前政調会長に至っては、事業規模三十兆円以上の大型補正を主張している。
 さらに七月末、自公保の与党三党は与党緊急経済対策の原案を提示、政策責任者会議は、国債発行三十兆円にこだわることはないとの見解で一致した。
 景気悪化の中、早くも財政改革の突破口である「三十兆円枠」をめぐって対立が表面化したのである。
 それだけではない。小泉首相が行政改革の突破口と狙う特殊法人(七十七)の廃止・民営化をめぐっても、各省庁との対立が激化している。特殊法人の廃止・民営化について各省庁は九月三日、ほとんど「ゼロ回答」を事務局に提出、その攻防戦が激しくなるのは必至である。
 以上見たように、「小泉改革」の具体案が出る度に抵抗は日に日に拡大するばかりである。闘うものにとっては、有利な状況といえる。

早くも窮地迎える「小泉改革」
 六月に経済財政諮問会議が発表した構造改革「基本方針」(骨太方針)に沿って、改革は具体化の段階に入ろうとしている。金融機関の不良債権処理など改革の工程表作りが始まり、来年度予算の概算要求が提出されて、改革の具体化、「痛み」の姿が見えてきた。同時に、さまざまな抵抗、反発も表面化しだした。
 支配層内部の利害の対立も深刻で、すでに地方交付税削減、公共事業の削減、道路特定財源の一般財源化などをめぐって地方自治体の首長が政府に異議を申し立てるなどその一端が出てきている。そして、今回の補正予算をめぐる、政府、与党内の矛盾の表面化である。
 危機が一層深まる下での「改革」政治である。既得権をなくす者、犠牲、痛みを転嫁される広範な労働者、国民諸階層は、不満といら立ちを高め、やがて闘いを始めるだろう。すでに参議院選中にも見られたが、利害に目覚めるのに長い時間は要さない。
 わが党はすぐる参院選挙の結果について「『自民党の復調』など論外で、改革政治の本格化で自民党の内紛激化は不可避、さらには『痛み』に対する国民諸階層の反発も必至であるから『復調』はおろか、一時的な勝利も吹っ飛ぶであろう」と評価した。また、「参議院選挙で成功した今、小泉改革の最大の不安要因になってきているのが経済である」と指摘し「深刻な世界的な不況の下で、小泉改革がとん挫する可能性は大きいし、あるいは、改革も中途半端、景気も回復せずという、(敵にとって)最悪の事態さえ予測される」と述べた。まさに、その「走り」が現れてきたのである。
 「改革」は、多国籍化した大企業、大銀行が競争力を高め、今日のグローバル経済でますます激化する国際競争で勝ち抜くために、何が何でも必要としているものだが、多くの勤労国民にとっては、犠牲の押し付け、なおいっそうの地獄に過ぎない。しかも、支配層にとってはまた、最悪の環境、余裕のない局面である。
 敵は、踏み込むほどに内紛、分裂含みで窮地である。民主党など「改革」の本家を競い合う議会の野党に幻想を持たず、労働者、国民が立ち上がって、力に頼って闘いさえすれば、大いに展望ある情勢が開ける。
 犠牲を国民諸階層に強いる、小泉政権の「改革」政治に反対して、広い連携をつくって断固闘おう。

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