20010825

特殊法人改革

実態は地方や国民生活に犠牲


  「聖域なき構造改革」を進める小泉政権は、その目玉として特殊法人改革を位置づけている。改革案の作成は前倒しされ、十二月末までにまとめられることとなっているが、政府の「特殊法人等改革推進本部」には、すでに一定の「見直し案」が出されている。この改革は道路特定財源や地方交付税の見直しと同様、地方を犠牲とし、中小零細企業の経営をさらなる危機に追い込むものである。また、特殊法人で働く労働者に対しては、容赦のないリストラ攻撃でもある。幅広く連携し、「改革」と闘う国民運動を起こすことが求められている。 (関連記事)

 特殊法人とは、「法律により直接に設立される法人または特別の法律により特別の設立行為をもって設立すべきものとされる法人」(総務省)とされている。また、設立の際は、国が資本金の二分の一以上を出資する。
 法律により設立されても、民間人が発起人となって設立する法人は、主務官庁が認可を与える認可法人となる。ただし、法律により設立された日本銀行は特殊法人に含まれず、日本財団(旧日本船舶振興会)は、法律により直接設立されたものでないにもかかわらず対象に含まれている。このように、政府による特殊法人の定義と実際とは、一致していないこともある。

特殊法人改革を突破口と狙う小泉政権

 小泉政権は、すでに廃止が決まった石油公団をはじめ、七十七の特殊法人と八十六の認可法人を改革対象として廃止・民営化・独立行政法人化を検討、十二月末までに見直しを終えるという。
 特殊法人改革の口実として持ち出されているのが、いうところの「ムダ」論や高級官僚の天下り先となっていること、不透明な財政投融資(財投)との関係、一部特殊法人の抱える多額の不良債権問題などである。
 確かに、特殊法人が官僚の天下り先となっているのは事実であり、放置できないことは論を待たない。
 また、郵便貯金、国民年金保険料などを原資とした財投と特殊法人の結びつきの深さも、事実ではある。「財政投融資レポート」(大蔵省・九七年)によれば、財政投融資を受けている特殊法人は三十九、融資額は三十四兆円以上である。
 こうしたことを口実として、小泉政権は特殊法人改革を行革の突破口と位置づけているのである。

大企業のための基盤整備を目的に設立

 特殊法人の本質を知るには、その生成発展を見るとわかりやすい。
 戦前からある帝都高速度交通営団などを別にすれば、中小企業金融公庫(五三年)、農林漁業金融公庫(同)、日本住宅公団(五五年・現都市基盤整備公団)、日本道路公団(五六年)、首都高速道路公団(五九年)、日本鉄道建設公団(六四年)など、戦後のわが国の復興期から、高度経済成長期にかけて設立されていることがわかる。
 特殊法人は、道路や鉄道建設に典型的だが、民間企業に先立って産業基盤を整備することが大きな目的であった。つまり、ある程度採算性を度外視するなど行政の下請け機関的役割を果たし、大企業の経済活動を容易にする狙いがあったのである。
 また、自民党長期支配の下、各種金融公庫などを通じ、中小商工業者や農民などに「利益配分型」の支配を行ってきたという面がある。そして八五年、わが国が世界最大の債権国となったことなどを背景に「国際化」が求められ、こうした保守支配の構造はむしろ邪魔となったことから、支配層は「改革」に踏み込んだのである。

改革は地方、国民生活切り捨てに

 その経過はともかく、特殊法人の多くは、現実に国民生活に深くかかわっている。
 たとえば、民間住宅ローンでは、通常、金利上昇によって返済負担率が上昇する可能性があるのに対し、住宅金融公庫融資の場合は、申し込み時点で完済時までの返済額が確定する。このため、利用者中に年間所得八百万円以下の層が占める割合は、民間が五〇・九%であるのに対し、住宅金融公庫は八一・九%である。一方、一千万円以上の所得者は、民間が三二・一%に対し、住宅金融公庫七・六%となっている。住宅金融公庫が、低・中所得者の住宅取得資金として、一定の役割を果たしていることがわかる。
 また、沖縄振興開発金融公庫の融資累計額は約四兆二千億円、九九年度の総貸付額二千百四億円だが、うち住宅資金は九百億円にのぼる。沖縄の住宅新築資金利用者の資金調達内訳で見ると、七〇%が公庫借入金であり、全国一所得が低いとされる同県の住宅取得に占める、位置の大きさがわかる。
 また、不良債権を基準に、特殊法人を廃止すればどうなるか。不良債権率(総貸付残高に占める不良債権額)でみると、上位を占めるのは奄美群島振興開発基金(三〇・六%)、国際協力事業団(二一・九%)、中小企業事業団(一九・八%)、地域振興整備公団(産炭地域振興事業勘定)(一一・一%)などとなっている(九九年)。
 もし、効率性・採算性を理由に特殊法人を廃止・民営化しようとすれば、地方、中小企業に関する事業を行っている法人が、軒並み見直しの対象となってしまう。
 十日に特殊法人等改革推進本部においてまとめられた「個別事業見直しの考え方」においては、地域振興整備公団に対して「新規の事業採択を凍結」、住宅金融公庫の貸し付けを「民間金融機関にゆだねる」、中小企業金融公庫は「規模を縮減」などの見直し案が提起されている。
 こうした改革案が実施されれば、地方や中小企業をはじめ、国民生活に大きな悪影響を与えかねない。
 小泉改革に抵抗・反撃する闘いを大きく発展させ、国民総犠牲の小泉改革を打ち破らなければならない。


特殊法人等の事業見直し案(事務局案・要旨)

・日本道路公団
 建設中の事業の凍結による事業量の縮減、工事単価の見直しによる建設コスト縮減などを図るとともに、採算性確保の措置を講ずる。
・石油公団
 事業を真に必要なものに限定、他の法人の行う事業に統合。
・地域振興整備公団
 採算性に問題があるプロジェクトは、採算性が確保される見通しが得られるまで事業を凍結する。
・中小企業金融公庫
 規模を縮減。リスクに見合った金利設定の導入を検討するなど、融資条件を適切に見直す。
・商工組合中央金庫
 国の関与を廃止し、自主的・自立的に業務を実施する。
・住宅金融公庫
 貸付自体は民間金融機関にゆだね、融資条件を見直す。

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