小泉外交許さず、アジアとの共生の道を切り開こう

　小泉首相が東南アジア訪問を検討していると伝えられている。
　当初、九月中旬の国連子供特別総会に出席する予定だったものを、急きょインドネシアなど東南アジア四カ国程度の歴訪を想定。靖国神社参拝や教科書問題など、小泉政権のアジア敵視の印象を薄める狙いといわれる。
　だが、小泉首相はいったい、いかなる姿勢で東南アジアを歴訪しようとするのだろうか。この歴訪があろうがなかろうが、日本とアジアとの関係、とりわけ最も近い韓国、中国、朝鮮民主主義人民共和国との関係は、靖国神社参拝や教科書問題などによって最悪の状態にある。小泉政権の大国主義的姿勢は断じて許されない。その結果�わが国はアジアでまったく孤立しているのである。アジアにおける小泉外交の破たんである。
　今回の事態は�追い詰められて靖国参拝日を変更するなど、国内的にもいろいろと「小泉人気」に打撃となった。今やアジア外交は小泉政権のアキレス腱（けん）である。一方でまったくの米国追随で、他方でアジアに大国主義的に振る舞う小泉外交を許すわけにはいかない。先の靖国神社参拝に見られるように、小泉政権のアジア外交は破たんしている。これを転換させる機会としなければならない。

アジアでの大国狙う
　近隣諸国との関係がここまで悪化したのは、いうまでもなく先の小泉首相の靖国神社参拝の強行にある。すでに教科書問題で悪化していた関係を、いちだんと深刻化させた。
　小泉首相は四月の自民党総裁選挙中から、靖国参拝を公言。それ以来、中国、韓国などのアジアから猛烈に反対の声が上がり、また国内からも反対の声が強まるばかりとなった。再三の周辺諸国の反対にもかかわらず、小泉首相は「熟慮中」ということで最終的な判断をずるずると引き伸ばし、ついに八月十五日直前まで追い込まれた。
　そして八月十三日、参拝を強行した。現職首相の参拝は、九六年の橋本首相以来五年ぶりである。
　参拝日を変更したのは、「改革」を最も重要な課題とする小泉政権にとって、これ以上アジア諸国との関係悪化の問題に足を引っ張られることを懸念したからであろう。
　だが、参拝自体がきわめて反動的なのである。そもそも靖国神社なるものは、戦前、陸・海軍が事実上運営し、日本軍国主義の宗教的、精神的支柱であった。戦後、宗教法人になったものの、東条英機元首相ら第二次大戦のＡ級戦犯十四人を合祀（ごうし＝いっしょにまつる）するなど、引き続き軍国主義策動の象徴であり、温床となっているしろものである。
　小泉首相は参拝に際し、「アジアに過去、侵略を行い、計り知れぬ苦痛を強いた」などと、あたかも「深く反省」するかのような談話を発表した。だが、こうした反動神社に参拝することは、言葉とはまったく逆で、実際は軍国主義の賛美以外の何ものでもない。
　まして、Ａ級戦犯として死刑になった連中にまで手を合わせているのである。韓国が「近代日本軍国主義の象徴である靖国神社の参拝に対し、深い遺憾の意を表する」（外交通商省）と直ちに厳重に抗議をしたのは当然である。
　小泉政権は、一方で米国のアジア戦略に従い加担しながら、他方でアジアに対し大国として対応する姿勢を示そうとしているのである。すでに今春以来、韓国とは教科書問題や国後、択捉島などの北方領土での漁業問題などで、中国とは教科書問題や李登輝訪日問題、農産物セーフガード問題などで、関係は悪化していた。さらに、わが国が米国のアジア戦略に沿って、集団的自衛権や米国のミサイル防衛構想を容認することに対して、アジアでは警戒が高まっている。
　結局、小泉政権の一連のアジア外交は、戦後形成されてきたわが国とアジア経済との密接な依存関係、友好関係からみても、この発展を破壊するものである。これこそ、わが国とアジアとの共生、共栄を阻害し、わが国の前途を危うくするものである。
　こうした方向は断じて阻止しなければならない。

内外で孤立する小泉政権のアジア外交
　小泉首相の靖国参拝に対し、アジアでは一斉に批判、大衆行動が巻き起こった。日本の侵略で死傷者三千五百万人を出したといわれる中国は、参拝の直後、日本大使に対し、「中国政府と人民は強烈な憤慨を表す」「小泉首相の靖国神社参拝は、日本政府の基本的立場に背き、日本の歴史認識問題に関する世界の人民の信頼を失わせるもの」と強く抗議した。また、八月十五日を中心に、韓国、中国で大衆行動が噴き出した。中国各地では、抗議行動や過去の中国侵略を弾劾する行動が取り組まれた。台湾・台北でも約百人が抗議の座り込みを行った。韓国・ソウルでは、元従軍慰安婦や宗教関係などの各団体がデモなどの行動を繰り広げた。それほど、わが国はアジアから非難されていることを見せ付けられたのである。
　注目すべきは、小泉首相の頑固な姿勢に対し国内でも大きな亀裂、矛盾が生まれたことである。野中広務自民党元幹事長や後藤田正晴元副総理らまで、小泉首相に警告を発した。また、後藤田氏は「僕が中曽根内閣の官房長官当時（八六年夏）、『近隣諸国の国民感情にも適切に配慮すべきだ』として公式参拝を差し控えるとの談話を出した。その考えは今も持っている。……アジア各地はもとより国内でも多大の犠牲を出したことを考えると、戦争を指導した人の責任は免れない。国内に意見の違いや対立はあるが、日本は憲法九八条で国際条約の順守を約束し、サンフランシスコ平和条約一一条で、連合国との間で極東裁判の結果を受け入れている。小泉さんの（参拝したい）気持ちは感情論としては分かるが、総理大臣は内外に向かって日本を代表する唯一の立場にあることを考えてほしい」と述べている。
　在韓国の寺田大使も、大使としては異例の参拝中止要請を小泉首相に発した。与党内ももめた。
　さらには、札幌、武蔵野（東京都）、白井（千葉県）、向日（京都府）、高知の各市議会までも参拝反対決議を上げた。
　また、さすがに商業各紙もほとんどが参拝に反対、ないしは慎重さを求めた。こうして、小泉首相は国内でも孤立しつつあったのである。そうして、小泉首相は参拝日変更という妥協を余儀なくされた。
　今後、米国のアジア戦略がいっそう明確になるにしたがい、わが国の進路もさらに厳しく迫られる。すでに、山崎自民党幹事長があたかも東南アジア諸国をなだめすかすかのように、五カ国を訪問した。だが、こんな小細工をろうしても何の益もない。アジアとの共生・共栄、そして日米基軸路線からの脱却を高々と掲げてこそ、わが国の進路に展望がある。
　今回の靖国参拝における小泉の動揺に見られたように、内外のまっとうな要求、諸条件を生かし、広範な戦線をつくれるならば、反動的で危険なアジア外交路線を阻止し、自主・平和、アジアとの共生をめざす道を切り開くことは可能である。

靖国神社
　明治維新直後に「東京招魂社」として設立され、陸・海軍の直轄下で天皇のために戦った死者約２５０万人をまつった。戦後、宗教法人となったが、１９７８年東条元首相らＡ級戦犯１４人を遺族にも知らせず「神」として合祀した。８５年８月１５日、中曽根首相が戦後初めて公式参拝したが、中国などの強い反対で翌年から中止に追い込まれた。



		20010825（社説）靖国参拝で、またもアジアと敵対小泉外交許さず、アジアとの共生の道を切り開こう

		小泉首相が東南アジア訪問を検討していると伝えられている。　当初、九月中旬の国連子供特別総会に出席する予定だったものを、急きょインドネシアなど東南アジア四カ国程度の歴訪を想定。靖国神社参拝や教科書問題など、小泉政権のアジア敵視の印象を薄める狙いといわれる。　だが、小泉首相はいったい、いかなる姿勢で東南アジアを歴訪しようとするのだろうか。この歴訪があろうがなかろうが、日本とアジアとの関係、とりわけ最も近い韓国、中国、朝鮮民主主義人民共和国との関係は、靖国神社参拝や教科書問題などによって最悪の状態にある。小泉政権の大国主義的姿勢は断じて許されない。その結果�わが国はアジアでまったく孤立しているのである。アジアにおける小泉外交の破たんである。　今回の事態は�追い詰められて靖国参拝日を変更するなど、国内的にもいろいろと「小泉人気」に打撃となった。今やアジア外交は小泉政権のアキレス腱（けん）である。一方でまったくの米国追随で、他方でアジアに大国主義的に振る舞う小泉外交を許すわけにはいかない。先の靖国神社参拝に見られるように、小泉政権のアジア外交は破たんしている。これを転換させる機会としなければならない。アジアでの大国狙う　近隣諸国との関係がここまで悪化したのは、いうまでもなく先の小泉首相の靖国神社参拝の強行にある。すでに教科書問題で悪化していた関係を、いちだんと深刻化させた。　小泉首相は四月の自民党総裁選挙中から、靖国参拝を公言。それ以来、中国、韓国などのアジアから猛烈に反対の声が上がり、また国内からも反対の声が強まるばかりとなった。再三の周辺諸国の反対にもかかわらず、小泉首相は「熟慮中」ということで最終的な判断をずるずると引き伸ばし、ついに八月十五日直前まで追い込まれた。　そして八月十三日、参拝を強行した。現職首相の参拝は、九六年の橋本首相以来五年ぶりである。　参拝日を変更したのは、「改革」を最も重要な課題とする小泉政権にとって、これ以上アジア諸国との関係悪化の問題に足を引っ張られることを懸念したからであろう。　だが、参拝自体がきわめて反動的なのである。そもそも靖国神社なるものは、戦前、陸・海軍が事実上運営し、日本軍国主義の宗教的、精神的支柱であった。戦後、宗教法人になったものの、東条英機元首相ら第二次大戦のＡ級戦犯十四人を合祀（ごうし＝いっしょにまつる）するなど、引き続き軍国主義策動の象徴であり、温床となっているしろものである。　小泉首相は参拝に際し、「アジアに過去、侵略を行い、計り知れぬ苦痛を強いた」などと、あたかも「深く反省」するかのような談話を発表した。だが、こうした反動神社に参拝することは、言葉とはまったく逆で、実際は軍国主義の賛美以外の何ものでもない。　まして、Ａ級戦犯として死刑になった連中にまで手を合わせているのである。韓国が「近代日本軍国主義の象徴である靖国神社の参拝に対し、深い遺憾の意を表する」（外交通商省）と直ちに厳重に抗議をしたのは当然である。　小泉政権は、一方で米国のアジア戦略に従い加担しながら、他方でアジアに対し大国として対応する姿勢を示そうとしているのである。すでに今春以来、韓国とは教科書問題や国後、択捉島などの北方領土での漁業問題などで、中国とは教科書問題や李登輝訪日問題、農産物セーフガード問題などで、関係は悪化していた。さらに、わが国が米国のアジア戦略に沿って、集団的自衛権や米国のミサイル防衛構想を容認することに対して、アジアでは警戒が高まっている。　結局、小泉政権の一連のアジア外交は、戦後形成されてきたわが国とアジア経済との密接な依存関係、友好関係からみても、この発展を破壊するものである。これこそ、わが国とアジアとの共生、共栄を阻害し、わが国の前途を危うくするものである。　こうした方向は断じて阻止しなければならない。内外で孤立する小泉政権のアジア外交　小泉首相の靖国参拝に対し、アジアでは一斉に批判、大衆行動が巻き起こった。日本の侵略で死傷者三千五百万人を出したといわれる中国は、参拝の直後、日本大使に対し、「中国政府と人民は強烈な憤慨を表す」「小泉首相の靖国神社参拝は、日本政府の基本的立場に背き、日本の歴史認識問題に関する世界の人民の信頼を失わせるもの」と強く抗議した。また、八月十五日を中心に、韓国、中国で大衆行動が噴き出した。中国各地では、抗議行動や過去の中国侵略を弾劾する行動が取り組まれた。台湾・台北でも約百人が抗議の座り込みを行った。韓国・ソウルでは、元従軍慰安婦や宗教関係などの各団体がデモなどの行動を繰り広げた。それほど、わが国はアジアから非難されていることを見せ付けられたのである。　注目すべきは、小泉首相の頑固な姿勢に対し国内でも大きな亀裂、矛盾が生まれたことである。野中広務自民党元幹事長や後藤田正晴元副総理らまで、小泉首相に警告を発した。また、後藤田氏は「僕が中曽根内閣の官房長官当時（八六年夏）、『近隣諸国の国民感情にも適切に配慮すべきだ』として公式参拝を差し控えるとの談話を出した。その考えは今も持っている。……アジア各地はもとより国内でも多大の犠牲を出したことを考えると、戦争を指導した人の責任は免れない。国内に意見の違いや対立はあるが、日本は憲法九八条で国際条約の順守を約束し、サンフランシスコ平和条約一一条で、連合国との間で極東裁判の結果を受け入れている。小泉さんの（参拝したい）気持ちは感情論としては分かるが、総理大臣は内外に向かって日本を代表する唯一の立場にあることを考えてほしい」と述べている。　在韓国の寺田大使も、大使としては異例の参拝中止要請を小泉首相に発した。与党内ももめた。　さらには、札幌、武蔵野（東京都）、白井（千葉県）、向日（京都府）、高知の各市議会までも参拝反対決議を上げた。　また、さすがに商業各紙もほとんどが参拝に反対、ないしは慎重さを求めた。こうして、小泉首相は国内でも孤立しつつあったのである。そうして、小泉首相は参拝日変更という妥協を余儀なくされた。　今後、米国のアジア戦略がいっそう明確になるにしたがい、わが国の進路もさらに厳しく迫られる。すでに、山崎自民党幹事長があたかも東南アジア諸国をなだめすかすかのように、五カ国を訪問した。だが、こんな小細工をろうしても何の益もない。アジアとの共生・共栄、そして日米基軸路線からの脱却を高々と掲げてこそ、わが国の進路に展望がある。　今回の靖国参拝における小泉の動揺に見られたように、内外のまっとうな要求、諸条件を生かし、広範な戦線をつくれるならば、反動的で危険なアジア外交路線を阻止し、自主・平和、アジアとの共生をめざす道を切り開くことは可能である。靖国神社　明治維新直後に「東京招魂社」として設立され、陸・海軍の直轄下で天皇のために戦った死者約２５０万人をまつった。戦後、宗教法人となったが、１９７８年東条元首相らＡ級戦犯１４人を遺族にも知らせず「神」として合祀した。８５年８月１５日、中曽根首相が戦後初めて公式参拝したが、中国などの強い反対で翌年から中止に追い込まれた。ページの先頭へ

靖国参拝で、またもアジアと敵対

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