参議院選挙の結果と視点

　今回の参議院選挙は、景気がさらに落ち込み経済危機がいちだんと深刻なものとなって、国民の不満と不安がかつてなく高まったもとで行われた選挙であった。
　小泉首相とその内閣は、ほんの数カ月前、いっそう深まる経済危機と支持率一〇％台にまで落ち込んだ森前政権を受け継いだばかりだったが、「自民党的政治と決別」し「改革の旗手」のようにふるまうことで内閣支持率八〇数％という異常な政治的ムードがつくられていた。小泉政権への支持率の高まりにつれて、自民党もまた支持率を回復することになった。当然ながら商業新聞と各種の調査機関は、小泉政権や各政党に対する支持率、関心事など、丹念に世論動向を追っていた。
　この選挙で有権者が、小泉政権とその「改革」に、あるいはまた自民党や各政党にどんな「審判」を下すだろうか、もはや野党が望むような「自公保」の過半数割れはないにしても参議院での議席数でみる力関係はどうなるか、それにしても投票率は大幅に増えそうだがどの位になるだろか、マスコミはこれらの問題を頻繁に解説あるいは予測した。
　結果は、投票率が予想を大幅に下回り、これまでのなかでは三番目に低かったこと、つまり投票所に行かない者が多数いたこと、与野党の議席数でみる力関係は、自民党が議席を伸ばしたことで「過半数割れ」はもちろんなく、選挙前より議席を増やし、与党は安定過半数を獲得したこと、民主党は議席を増やしたが「勝ったか負けたか」の議論が起こるほどであまり伸びなかったこと、社民党と共産党は惨敗であったこと、などの特徴をしめす選挙となった。
　小泉首相とその与党は、梅雨でぬれた後は炎天下で焦がされ絶叫した甲斐（かい）があった。勝利したからである。選挙での大騒ぎが終わって、小泉首相と自民党中心の「自公保」政権は、「コップの中」での政権基盤を強めたが、いよいよ「改革」を実行に移さねばならない。だが、選挙期間中も経済はさらに悪化し「改革」を根底から揺るがしかねない諸条件も新たに生じ蓄積されつつある。小泉首相とその政権には、息を抜く余裕などあるはずもない。
　野党も、梅雨でぬれ炎天に焦がされたのは同じだろうが、結果が思わしくないか、敗北だから気も晴れまい。「敗因」やら責任をめぐっての党内問題は大変で、指導部がそれを乗り越え「立て直す」のは難題である。民主党も新聞報道で見ると「にぎやかに」なっている。自由党の小沢戦略も練り直さねばならない。社民党は前倒しで十月大会を開くというが、土井氏は辞めないで「市民の党」「女性の党」でどんな展望を描いてみせるだろうか。新社会党も熟考せねばなるまい。共産党は、前回の総選挙での敗因は「かつて見られなかったほどの反共攻撃」でしのいだが、今回は「小泉突風」。それでも自信がないらしく、支持者や周辺の知識人にも意見を聞いて「総括」するといっている。
　したがって野党各党も、負けたなりに、それはそれで息を抜く余裕がない。
　わが党もこの結果を真剣に研究し、情勢を見極め、「迫りくる破局」に党を強化しつつ備えねばならない。

（１）議席の配分、得票など、各党の消長について

　各党の獲得議席数、与野党の議席数の変化など、順次記述する。

１、各党の獲得議席数など

新議席当選者数選挙区比例区非改選旧議席数

自民党 111 65 45 20 46 107

民主党 59 26 18 8 33 55

公明党 24 13 5 8 11 23

共産党 20 5 1 4 15 23

社民党 8 3 0 3 5 12

自由党 8 6 2 4 2 5

保守党 5 1 - 1 4 7

無所属の会 4 0 - 0 4 4

二院クラブ 1 0 - 0 1 1

さきがけ 1 - - - 1 1

無所属 6 2 2 - 4 11

合計 247 121 73 48 126 250

２、与野党の獲得議席数と力関係

新議席当選者数選挙区比例区非改選旧議席数

与党 140 79 50 29 61 137

野党 107 42 23 19 65 113

合計 247 121 73 48 126 250

　公示日当日の有権者は一億百九十三万九千百十三人であった。
　投票者数約五千七百五十万人、棄権者数約四千四百五十万人、有効票数は、五千四百七十四万千四百九十二票で、ほぼ半分の五千万人は棄権したか、投票したが白票などで無効な投票であった。
　投票率は五六％そこそこだった。もちろん、まったくの政治的無関心な人びとも含まれるだろうが、どの政党にも期待を持てず「誰に入れても同じ」と、政党と選挙や議会政治といった政治システムそのものへの不信を表明しているのである。
　各政党の比例区での得票数を、それぞれ前回の得票数と比較することで、おおまかに各政党の得票数の増減を示してみる。
　＜自民党＞は、二千百十一万票を獲得した。前回が千四百十二万票だから、七百万人近い有権者を新たに引きつけた。得票率は三九％であり、前回九八年参議選（二五％）に比べて一三ポイントも増加した。昨年衆院選での二八％からも一一ポイント増。とりわけこれまで地盤沈下してきた大都市部で大幅に支持を伸ばした。大都市での自民党の得票率は三三・八％で昨年衆院選での二〇・九％から一二・九ポイント上昇。
　棄権は減らずに、むしろ増えたわけだから、この自民党の得票増は、前回選挙で、他党に投票した人が、今回は自民党に投票した結果ということである。
　＜公明党＞は、七百七十四万票を八百十八万票に若干ながら伸ばしている。だからこの党は、自民党に票数を奪われなかったことになる。
　自民党に票数を奪われたのは、したがってすべて野党ということになる。
　＜民主党＞は、千二百二十万票から八百九十九万票に激減。
　＜共産党＞も八百十九万票から四百三十二万票に激減、約半分に減った。
　＜社民党＞も四百三十七万票から三百六十二万票に、少ない票数をさらに減らした。
　＜無党派層＞九〇年代に、自民党を批判して自民党から離れ、時に社会党、時に日本新党、新進党、民主党、さらには共産党に投票してきた「新無党派層」といわれる人びとが今回は自民党を変えるという「小泉」に投じたことが読み取れる。マスコミの「出口調査」では約三〇％が自民党に投票した。自民党政治を打ち破る役割を、無力な野党ではなく、この層は小泉に期待した結果といえるのである。

（２）結果でみる特徴あるいは各党の消長、評価について

　商業新聞は「自民党の大勝利」と報じ、「小泉改革」を有権者が支持したと大々的に宣伝しているが、よく観察、分析すると、支配層やマスコミの不安が解消するほどの彼らにとっての勝利ではない。自民党の勝利も各党の消長も、深まる危機のなかでは一時的なものにすぎない。財界の道具となった政党はいつかは打ち破られる。だから政治家も政党も、人民の利益にそって進まねばならない。
　正しい道を歩く決意があれば、一時的な敗北は、やがての勝利のよい糧となり得るからである。
　わが党は今回の選挙に参加しなかったが、選挙を闘った友党・友人にも、選挙結果の冷静な検討を望みたい。では、選挙の結果から何を読みとるか。

１、異常ともいえる「小泉ブーム」にもかかわらず、投票率は約 56％で史上３番目の低さであった！

　今回の参議選は、小泉政権への高い支持率をうけて投票率の大幅なアップが予想されていた。だが、結果は意外な低さとなった。前回と比べても二・四ポイント低い五六・四％という史上三番目に低く、棄権者数は約四千五百万人、これほど多くの有権者が投票所に足を向けず選挙に参加しなかったのである。
　異常なほどの小泉ブームにもかかわらず、これほどの棄権者があったことは注目に値する。しかし、それだけではない。読売新聞の事前調査による予想では、約九二％の有権者が投票するとみられていたからである。それが実際には五六％であった。その差は三六ポイントにもなる。これまた尋常ではない。
　この事実は、政治不信による確信的棄権者層の一部が、小泉ブームのなかで当初は投票しようと思っていたが、何かの理由で途中で「棄権」を選択した、あるいは、これまでも投票しており今回も投票するつもりであったが、「棄権」を選択した、そんな有権者が相当数あったことを意味する。三六ポイントの差、これは有権者三千数百万人の意識のしかも急激な変化あるいは動揺である。ただ今回は投票率の低さとしてだけ現れ、政党の消長の激変要因として機能しなかったので、人びとの注目を集めなかった。しかし、このような世論の激動あるいは動揺は、この時代を思わせるに十分である。
　ある調査によれば、四十歳代以上の中高年層に棄権が多かったが、この層はリストラなど小泉政権による「改革」政治のしわ寄せをもろにかぶる世代である。
　また、商業新聞の世論調査では、一様に小泉内閣の高い支持率（八〇数％）が七月のある時点から低下したことがわかっている。読売によれば、六月から投票直前にかけて、一二・五ポイント下落した。また自民党への支持率もこの間に、全体では〇・八ポイントとわずかの下落だが、四〇歳代以上では三ー七ポイント下落した。
　わずかな期間に、有権者の小泉内閣への支持率が一二・五ポイントも下落し、自民党への支持率も四〇歳代以上に限ってだけだが三ー七ポイントも下落したことは、人びとが急速に気づいたことを意味する。この期間の小泉政権下での「諸事件」が、政権の本質に気づかせる契機となったのである。以下、いくつかの事例をあげてみたい。
　六月二十一日、野党の「改革の中身がない」との批判にこたえて、経済財政諮問会議が構造改革の「基本方針」を発表した。以後、急速に反応が表面化した。新聞社の調査でも、「地方交付税削減」と「高齢者医療費抑制」については、不支持が多く、「生活に身近な問題で有権者の改革に伴う痛みへの懸念が強い」と論評されていた。七月に入ると、全国の知事会や市長会、町村会などが、地域住民を巻き込んで「地方交付税削減反対」の集会、決議を各地でくりひろげた。全国町村会（二千五百五十四町村）は五日、東京都内で三十九年ぶりに臨時の全国大会を開き、小泉政権が掲げる「地方交付税削減や道路特定財源の見直しに反対する特別決議」を採択した。大会を報道した商業紙は、「壇上には『確保せよ地方交付税』『強制するな市町村合併』など小泉改革に反対するスローガンが書かれた大きな垂れ幕が並び、さながら『反小泉集会』の様相を呈した」と報じたほどである。
　沖縄での米兵による女性暴行事件も国民の怒りを高めた。米軍、米国に対してだけでなく、国家主権と自国民を守ろうとしない小泉の対米追随は国民の不満を高めた。
　教科書問題や靖国問題での近隣諸国との関係悪化などもまた、アジア外交に対する小泉政権への国民の不信や不安をつのらせた。ミサイル問題、温暖化防止など、国際問題でのこの期間のきわだった対米追随外交も、小泉政権への評価を低めた。
　小泉内閣の高支持率下でも、景気はいっそう悪化し、リストラによる失業増、倒産増、株安などは、国民の自覚を促す条件となった。景気対策重視の声も大きくなった。
　野党もまた一時の小泉ショックから立ち直り、参議院選挙を目前にして、ある程度には「対決」色を出し、「改革の痛み」を暴露したので、この効果もあったであろう。
　こうして十分か不十分かは別として、小泉内閣が掲げる「改革」政治が次第に暴露され、「痛み」を押しつけられる有権者が目覚め、あるいは、とまどいや疑念が産まれ、棄権者が当初の予測を超えて増加した。この急激な変化が投票率の低下となった。

２、自民党の勝利はきわめて一時的、条件的なものである

　今回の選挙で自民党が十五年ぶりに絶対支持率二〇％台を回復したので、この結果をさして「自民党は復調した」との評価がある。確かに今回の選挙で自民党は「勝利」したが、歴史的な退潮傾向に歯止めがかり「自民党は復調した」とはいえない。いうところの「小泉効果」に支えられた一時的、条件的な復調に過ぎない。誰もが認めているように、自民党「勝利」の主たる要因は、間違いなく小泉「効果」といわれるものだったからである。
　背景に深刻化する経済危機があり、そこに突き動かされて「解党的出直し」と「聖域なき構造改革」を唱えて非主流の小泉が登場し、総裁選で勝利したが、この首のすげ替えは参院選挙をにらんだものあった。それは、前森政権下での参議選では、大敗がはっきりと予測できたからである。
　小泉は、総裁選で「自民党を変える」「日本を変える」と「改革の旗」を高く掲げることによって、現状打開を切実に求める国民の期待を集めることに成功した。マスコミはこれを大々的に応援し、国民の中に小泉改革に対する「幻想」をあおり立てた。
　自民党は参議院を前にして、高い支持率の小泉首相とその内閣に寄り添って進むしかなかった。ときに「反対勢力」といわれても、とりあえず一致して参議院で勝利せねばならなかった。
　小泉首相も自民党も参議院選挙では、「小泉効果」を最大限使って国民の支持をかすめ取るため、野党との論戦にも応ぜず、「改革」の具体的な中身を明らかにしない戦略的な方針で臨んだ。だから、多くの有権者にとっては、小泉改革についての認識はまだ漠然としており、現状打破への「期待」だけが膨らんでいた。
　投票日までには相当にしかも急激に暴露されたが、全体としては、「期待」はまだ「未分化」の状況で、投票率の低さやその他に兆候的には表れているが、それ以上ではなかった。出口調査によれば、九〇年代を通じて政治不信を背景に自民党から離れ、これまでは野党に流れていた無党派層のなかの三〇％が、今回は自民党に投票した。また生活の重圧がまだ少ないのか、二十歳代の有権者が事前の調査よりやや高めの自民党支持であった。
　有権者は、これまでの自民党を支持したわけではない。「小泉改革」への漠然とした期待、しかも「改革をジャマするなら自民党をつぶす」という小泉に賭（か）けたのである。それはまた無党派層の三〇％の支持でもわかる。この投票は、旧来の自民党への支持ではないし、しかも一時的な支持でしかない。
　有権者が一時的に小泉の「改革」に引き寄せられ、自民党に投票したのは、野党が小泉改革への対抗軸を出せず、またこれと真っ向から対決して闘う姿勢を示せなかったからで、ある意味では当然である。
　こうしてみると、「自民党の復調」など論外で、改革政治の本格化で自民党の内紛激化は不可避、さらには「痛み」にたいする国民諸階層の反発も必至であるから、「復調」はおろか、一時的な勝利も吹っ飛ぶであろう。
　選挙民を裏切らず、時代を認識し、よく総括をすれば、したがって議会主義の各野党にも、まだしばしば機会はめぐってくるということになる。

３、民主党は議席を増やしたが、伸びきれず

　民主党は小泉政権の「改革」政治に対置できる政策を持てず、動揺を重ねた。その結果議席は増やしたものの、比例区での得票数は約三百数十万票減らし、勝ったか負けたかの議論が必要となった。
　当初は、「本当にやるのなら小泉改革を支持する」（鳩山代表）、「民主党こそ改革本家である」（菅幹事長）と主張し、小泉改革に賛意を示した。選挙戦に入ってからは、「政権交代なくして改革なし」と訴えた。
　後半に入ると「温かい改革」を唱え、小泉改革との違いを出そうとした。これは、すでに見た国民の小泉改革への疑問や不安、反対の気分が反映しているとみられるが、終盤での民主党の小泉内閣と自民党への批判もまた不徹底で、際立つものではなかった。
　この党は本質上、小泉と同じ改革をめざしていたからである。すなわち多国籍化した巨大企業の国際競争のための、コスト削減の改革だから、当然といえば当然である。
　有権者にとってみれば、多少の違いがあれ、基本的には同じ「改革」で、実際に政権を握っている小泉でよいということになる。この方がよほど確実で、小泉は改革をジャマするなら自民党もぶっこわすというわけで、これに比べて民主党は内部もバラバラ、党首は「お坊ちゃん」のようで、実に頼りない。
　民主党は、結局小泉の「改革政治」に賛成なのか反対なのか、この肝心な問題で最後まで揺れて、かつ中途半端であった。この姿勢が主な敗因であろう。
　民主党はこれまで、「反自民の受け皿」として伸びてきたが、小泉政権登場以降は党としての存在理由が厳しく問われることになった。選挙結果もそれを示すものとなっているが、政権戦略をたてるのは容易ではあるまい。迫りくる政治再編で、統一は保てないであろう。こんな党を連合が支持するのもますます困難になるだろう。連合傘下の労働者はますます疑問を深めた。

４、健闘した自由党

　自公保政権の「過半数割れ」から総選挙へと、自民党中心政権の崩壊、大きな政治再編と「改革」をめざす「小沢戦略」は、小泉内閣の登場ですっかり狂ったが、この自由党は、議席も得票数も伸ばしたので、健闘というかとにかく前進である。比例の得票数では社民党を抜き共産党も抜いて、自民、民主、公明党のつぎに票数は半分だが並んだ。今回の当選者数では社民は三、共産は五だが、自由党は六議席を獲得した。
　それはなぜか、それは、党首の小沢一郎が長い間一貫してわが国の「改革」を唱え、自民党を批判し、財界の一部の根強い支持と期待を受けているからで、また乱に備えて、昨今の保守的議会政党には珍しく、結束した集団をつくりあげたからである。
　小沢は、小泉に対しても「国家像がない」と批判を加えているが、一般に小沢の発言、政策には歯切れのよさがある。わかりやすい。策略にも強い。こうした姿勢が保守層の一部に強い共感、支持をもたらし、また新たな支持を呼び起こしているのであろう。

５、大敗した社民党

　社民党は今参議院選挙で、改選議席七を三に減らし、比例の得票数もさらに減らした。選挙区での議席は初めて当選ゼロであった。先の都議選でも議席ゼロとなったが、それに続く敗北で、参議院での新議席数は、共産党も二十に減ったが、社民党八、自由党八、保守党五である。社民党はこの敗北で、参議院での一般議案の提出権と院内での団体交渉権をなくした。したがって議運協議にも参加できない。
　社民党は敗北したこの選挙で、小泉改革に対して「憲法九条を守れ」で対抗しようとした。しかし、これはピンぼけでもあり、何よりも窮状に追い込まれ、現状打破を切実に求めている国民諸階層の現状から遊離したものであった。
　選挙戦の最後になって、小泉改革は「弱いものに犠牲を押しつける」と批判した。民主党の場合と同じように、やはり大衆の不安や不満を選挙戦のなかで学んだ結果であろう。
　だが、始めからの一貫した戦略的で有効な政策提言は、持ちえようはずもなかったし、他方では「改革」や「憲法改正」、多国籍軍への参加、海外派兵さえ主張する小沢一郎らの自由党、民主党などと「選挙協力」を進めていた。村山問題もきちんとは解決されなかった。
　政権への接近を目指す共闘路線、「選挙協力」は満足な成果を生むはずもなかった。現場の労働者は疑問と不信を持っていたからである。
　こうした不信は「選挙協力」の現地だけのことではなかった。土井社民党への不信は、全国で、選挙活動を不活発にした。労働組合も、現場に近いほど活動がなかった。
　社民党に可能性があるとすれば、村山路線をきちんと清算し、全国で労働組合との結びつきを強め、労働運動を発展させ、これを基盤に国民運動の組織者、あるいはその一翼を担った場合だけである。
　そうでなければ、「市民の党」「女性の党」などといった小市民的な「議員の党」で、生き残るのがやっとであろう。天下を握ることなど夢のまた夢、敵に利用されるばかりで、労働者と勤労諸階級、広範な国民大衆にとっては、無用である。
　土井氏は今回の敗北で、好みを選ぶか天下に道を譲るかの岐路に立たされた。
　共産党は当初から小泉改革に反対していたが、「消費税を三％に切り下げ」「中小企業を大切にする政治」など主張してこの選挙戦に臨んだ。
　だがこの「危機」は中途半端な危機ではない。世界資本主義経済と国際政治の「危機」と深刻な再編期、わが国経済・社会や政治にとっても激動と転換期である。わが国の「財界と支配層」も二つの戦線、国際戦線でも経済、政治（外交や安全保障）での支配と反支配、分割再編期を闘っており、国内では資本効率を引き上げるため、戦後のあらゆる経済�政治システムを再検討し、資本効率の悪いものを「打ちこわし」、国内を「改革」して国際戦線で生き抜こうとしている。

６、天下を覆す道をやめ、政権参加を目指す共産党
「小泉突風」にやられ、ますます惨め、当選議席も得票数も半減！

　共産党はわが国を「ルールなき資本主義」と規定して、せめてヨーロッパ並みの「ルールある資本主義」というが、世界資本主義経済はアメリカ経済のバブルがはじけての調整期にあって、同時不況、株安、資本主義列強はみな行き詰まっているのである。
　問題は、巨大企業、銀行グループなどの、つまり支配層、財界が、現状を打ち破り「改革」を実行しなければ、生きていけなくなっていることで、また反対に、労働者だけでなく国民の大多数も現状の困難が限界に達しつつあることである。
　こうした時期の闘いは熾烈（しれつ）である。前回は「反共攻撃」、今回は「小泉突風」、そんなことはまだ序の口で、近代史、階級闘争の歴史をみれば明らかで、その都度積み上げた議席という「陣地」が吹っ飛ぶようでは、夢も描けないではないか。
　財界と支配層に「おもねって」も「政策的な配慮」をしても、こんな時期にはどうにもならない。闘いをやめねば敵は許さないからである。
　だから幻想を捨て、大規模に労働運動を発展させ、国民運動を組織し、大衆を動員して、議会の外でも闘いを組織しなければならない。その道こそ、支配層を譲歩させるか、うまくすれば打倒できる道である。
　その道を選択すれば支配層は激怒するであろう。だから、反共攻撃と孤立化を恐れるならば、つまり票がもっと一時的にか長期にわたって、激減するするかもしれない。それを恐れるならば、別な道、ちょうど今のような道を歩かねばならない。
　二十一回党大会路線は一つの選択だろうが、この時期には多くの人びと、とりわけ労働者の心をとらえることができない。敵にとっては安心だろうが、惨敗の理由でもある。
　もう少し丁寧に記述すれば、以下のようになる。
　共産党は前回の九八年参議選の「躍進」をピークに以降昨年総選挙では後退し、今回もそれに歯止めをかけられなかった。保守政党や中間政党との「妥協」で政権にもぐりこもうとするこの党の路線が不可避的に生み出すジレンマである。保守政党や中間政党をたたかなければ票は取れず、決定的にたたけば政権共闘は不可能になる。　
　共産党は、危機が深まる下で、その本性を表し、労働者国民諸階層の闘争の前進を妨害してきた。その二十一回大会で政権ほしさに「ルールなき資本主義の是正」を唱え、支配層に屈服し、以降さらに転落の坂を転げ落ちている。
　今回の選挙結果は共産党二十一回大会の「現実路線」の破たんを示した。

（３）今後の情勢の展望と闘いについて

１、情勢の見通し

　小泉内閣は、参議院選挙で「勝利」したので、政権基盤を強めた。「国民の支持」と選挙での勝利で、自民党内での指導権も強まった。したがって、いわゆる党内の「抵抗勢力」も一般的には動きにくくなったとみられる。
　ただ「抵抗勢力」も改革いかんでは「死活」にかかわる。いくらかはにぎやかになる可能性がある。野党は議会で後退したが、「抵抗勢力」の動きと連動し、あるいは機会をつかむかもしれない。
　それはともかく、支配層にとって参議選の勝利は一つの「必要条件」でしかなく、これからが改革の正念場である。小泉内閣はそれにこたえねばならない。
　わが国支配層にとって、「改革」は何度も述べたが、多国籍化した大企業・大銀行が競争力を強め、今日のグローバル経済でますます激化する国際競争で勝つ抜くために何が何でも必要としているものである。しかも彼らには、今では時間的な余裕がない。
　小泉改革は首尾良く進むであろうか。
　参議院選挙で成功した今、小泉改革の最大の不安要因になってきているのが経済である。「改革なくして景気回復なし」といっても、日本経済が長期不況から脱出できなければ、「改革」どころではないからである。
　七月のサミットでは、世界同時不況に対して、米国も、ＥＵも、日本も、まったく独力では有効な脱出策がないらしいことが、暴露された。だから政策協調どころではなく、各国の利害対立だけが目立った。こうしたなかで小泉政権は、「改革」と「景気回復」の両方を約束し、これは国際公約」となった。だが「改革」の環境はいっそう厳しい方に動いている。
　最近、わが国のＩＴ産業の先端を走ってきた松下、ＮＥＣ、富士通、ソニー、ＮＴＴなど情報・通信、電機関係の大企業が、世界的なＩＴ不況の波をもろに受けて、軒並み業績悪化となり、急ピッチで大規模なリストラ計画を出して、本格的に備えようとの動きを始めた。これは一つの状況判断、この危機の厳しさへの認識でもある。
　こうした深刻な世界的な不況の下で、小泉改革がとん挫する可能性は大きいし、あるいは、改革も中途半端、景気も回復せずという、最悪の事態さえ予測される。
　ともあれ、小泉首相を中心に七月に策定された経済財政諮問会議の「基本方針」は、すでに具体化されつつある。「方針」が示されただけでも、選挙中にさえ動きが起こった。危機がいっそう深まる下での「改革」政治である。既得権をなくす者、犠牲、「痛み」を転嫁される広範な労働者、国民諸階層は、不満といら立ちを高め、やがて闘いを始めるだろう。すでに今参議選中にも見られたが、利害に目覚めるのに長い時間は要さないであろう。
　支配層内部の利害の対立も深刻で、すでに、地方交付金の切り下げ、公共事業の削減、道路特定財源の一般財源化などをめぐって地方自治体の首長が政府に異議を申し立てるなどその一端が出てきている。
　こうしたことは、戦後の政治史のなかでもまったく新しい事態であり、わが国政治もいよいよ議会政党的な「策略型」政治から、力で決着をつける「公然たる」諸階級の闘争が始まる時期に移ってきた。どの政党も議会の内外で闘わねばならなくなっており、議席の数だけが力ではなくなった。
　一般的にいえば、階級闘争はますます激化するすう勢にある。労働者階級の革命的階級的な前進が、特に重要である。わが党も急いでそれに備えねばならない。

２、闘争の前進のために連携して闘おう

　重要な情勢が近づきつつある。
　わが党はかねがね政治的には社民勢力との政治的連帯を願ってきた。だからこの二年来、新社会党と社民党が団結を回復し、できれば統一することを願っていろいろな話し合いや工作をしてきた。また、国政選挙に共同で対処するため、それぞれの党は維持しながらも国政選挙のためだけの「党」も提案した。この提案は今でも有効である。
　これには二つのねらいがある。
　一つは国政選挙では、すでにか、まだか、われわれのどの党も独自には力が弱くて、全国的に十分に候補者を擁立できないからである。少ししか候補者を持たず弱々しければ、それに期待をかける人は少ない。そこに展望があるとは思わないであろう。こういう時期には仕掛けも大きく構想は雄大で夢がなければならない。
　もう一つは労働運動の状況である。わが国労働運動は、連合のダラ幹どもが基本的には牛耳っている。これらの連中は、まさに支配層の側に立ち、世界観、ものの考え方まで影響を受けている。この時期に労働者階級のためになにか有益な闘いを期待することなどできない相談である。だが、連合傘下の労働組合には、まだ左派的活動家や指導者がいくらもいて、闘いの火を消さないように守ってはいる。連合の指導層の中でさえ、ときに話し合える幹部とめぐり合うことがある。
　連合は矛盾を抱えながらも民主党を支持しているが、左派的活動家や指導者の多くは、こうしたなかで社民党を支持している。そしてそれらの左派活動家は、社民党が村山路線にきっちりと決着をつけ、強化されることを強く望んでいる。また社民勢力の団結を強く望んでもいる。
　こうした労働運動の状況は、連合内部での左派勢力の維持問題と社民勢力の党の問題とは密接に絡んでいるからでいる。こんにち、連合内部での連合路線への批判勢力の維持と発展あるいはその再建は、この時期のきわめて重要な課題である。
　こういうわけで、労働運動の左派的再建、発展という立場からも社民勢力の結集と党の問題は重要で、その党は「市民の党」とか「女性の党」などであってはならない。
　もちろん「選挙の党」であれば、われわれも参加することができる。そうでなければ新社会党と社民党とが団結を強め、統一することをわが党は強く望んでいる。その場合には友党として共同の闘いが組めるからである。
　社民党問題はそのくらいにして、次に移る。
　わが党は、小泉「改革」政治という新しい政治的条件のもとで、生起するすべての要因を生かして闘争の組織者となる。この「改革」攻撃のなかでは、敵陣営の分化も必至で、闘うという意味では入り乱れるからである。

３、参議院選挙の総括の最後に

　労働運動の活動家や職場で働いている労働者の皆さんに呼びかけたい。先の第二次世界大戦でわが国が敗北してからでも、やがては六〇年が経過します。それなのにわが国のいたるところに米国の軍事基地があり、政治や外交も米国に追随し、経済は発展したというのに国民多数は豊かにならず、今また銀行や巨大企業のための「改革」攻撃にさらされています。
　政治を変えようと社会党や今では社民党、あるいは共産党のいうなりに、議員の当選を願って選挙運動を繰り返してきました。五十数年もやって展望がなく、今回は社民党も新社会党も共産党も惨敗です。それに民主党などはまるで実質は敵側の党ですが、連合の指示で労働者は選挙運動と投票をさせられています。
　疑問に思う労働者は多いはずで、皆さんは必ずそうした疑問をもたれていると思います。
　それから脱却する道は二つです。
　一つは労働者は数千万人、数は力ですから、本来は天下一の勢力です。労働者がストライキをやれば、世の中は立ち行かないのです。つまり死活を握っている階級です。支配層と闘う武器はこれが一番です。現在の政党の指導者はそれを隠しているか、教えないのです。わが党は労働者の皆さんにそれを勧めます。
　もう一つは、敵と闘うには革命の党が必要で、労働者はそうした党に結集しなければなりません。労働党は皆さんを待っています。
　最後に、社民党、新社会党、すべての社民勢力の皆さんと、その影響下の労働組合の皆さんに連帯のあいさつをおくります。わが党は、今回の選挙では皆さんの力にはなりえませんでしたが、もう一度団結の願いを表明します。
　大局的には敵側が弱いのですから、楽観主義で腕を組んで闘いましょう。