20010715(社説)

米兵暴行事件

全国で、再び米軍基地撤去の大きなうねりを


二十一世紀初めての国政選挙―参議院選挙が闘われている。この国のこれからの進路をどうするのか、これは重大な争点となるべき課題である。
だがどの議会政党も、沖縄での米兵暴行事件に象徴されるような属国同然の日米関係をどう根本的に転換するのか、この国政選挙で焦点を当てて主張し、小泉政権を批判するものはいない。日米基軸という自民党と同じ土俵の上で、程度を争っているにすぎない。
 絶えず繰り返される米軍犯罪・事故。この根本的解決は、元凶である米軍基地を撤去し、日米安保条約を破棄する以外にない。沖縄での米兵暴行事件で再びはっきりしたように、米軍に植民地支配者的な特権的地位を与えている日米地位協定の抜本的改定は緊急の課題である。
 六年前の沖縄県民などの決起が安保体制を揺さぶったように、国民的運動で要求をかちとらなければならない。こうした広範な力の構築こそ、第一義的な課題である。選挙で世の中は変わらない。

在日米軍が諸悪の根源だ
地位協定を即刻改定すべき
 国民がいら立ちを募らせている中、沖縄県北谷町における女性暴行事件の米兵容疑者の身柄が七月六日、ようやく沖縄県警に引き渡された。逮捕状が出てから五日もたってからである。
 沖縄県では、米兵が昨年七月に就寝中の女子中学生へわいせつ事件、今年一月には女子高生わいせつ事件を引き起こし、同じ北谷町では一月に連続放火事件があったばかりである。今年は、米軍とその子弟による犯罪は、傷害、車放火、県警の車両損壊、窃盗車で衝突・逃走などを含め、すでに二十五件に達している。
 沖縄復帰の一九七二年以来この二十九年間、米軍は実に五千六件もの犯罪を引き起こしている。そのうち、凶悪犯は五百二十七件、粗暴犯九百四十九件である。
 沖縄以外でも、神奈川県で中学生へのわいせつ、殴打・傷害、密輸などが起き、長崎県佐世保市では、暴行容疑で逮捕、米側に引き渡された米兵がなんと基地から逃走するという事件さえ起こっている。
 こうした凶悪事件が後を絶たないのは、米軍基地があるからである。沖縄県議会の抗議決議(七月五日)も「これまでも厳重に抗議してきたにもかかわらず、かかる相次ぐ米軍事件の発生は、本県に米軍基地が集中していることに起因している」と指摘し、「基地の整理縮小と兵力削減」を明確に要求している。米軍基地の存在こそ、事件の根源である。 そもそも、在日米軍基地はアジアでの米戦略遂行のためのものである。中国、朝鮮ににらみをきかし、アジア侵略の拠点にほかならない。こんなものを受け入れておく必要はない。
 特に今回の事件では、米兵の身柄引き渡しが大幅に遅れたため、日米地位協定の改定問題が大きな焦点となった。地位協定は、海外に駐留する自国軍保護のため、米軍人・軍属の特別な扱いを、米国政府が日本政府に対し認めさせたものである。
 九五年の少女暴行事件以後、地位協定の運用改善により「殺人、婦女暴行」の「凶悪犯罪」は米国側の「好意」で、起訴前でも米兵の身柄引き渡しは可能となった。だが実際の適用は、今回の事件が沖縄では初めてである。この期間、九八年十月の女子高生ひき逃げ事件(北中城村)、今年二月の連続放火事件(北谷町)などは起訴前の拘禁ができず、県民の怒りをかった。「運用改善」というペテンの限界が今回もまた浮き彫りにされた。
 したがって、沖縄県議会など最近の自治体決議では、「地位協定の抜本的見直し」を必ず打ち出している。もはや待ったなしの要求である。沖縄県はすでに昨年八月、環境条項の新設、起訴前拘禁など地位協定全二十八カ条のうち十カ条、十一項目についての改定要請を正式に政府に提出している。小泉政権が、米国でなく日本の政府であるならば、沖縄県民の要求を受け入れ、地位協定改定の対米交渉を直ちに始めるべきである。

小泉政権は米国一辺倒の売国政権
ところで、「改革」を声高に叫び参院選を展開する小泉首相だが、対米関係では旧態依然のままである。
 先のブッシュとの首脳会談で「揺るぎない日米同盟関係」を声明にうたうなど、これまでの歴代内閣と同様に、ひたすら米国につき従う姿勢を明らかにした。暴行事件の直後の会談にもかかわらず、抗議一つ言えぬままである。それどころか「在日米軍の駐留が日本の平和を維持してきたとの事実を理解している日本人はまだまだ少ない」などと、米軍に感謝する始末である。
 まして、今回の事件を通じて、地位協定抜本改定の要求が再び高まったことに対し、小泉首相は歴代政権同様、「協定の運用の改善で」と言うだけである。まさに沖縄県民など国民の要求を無視し、米国にのみ顔を向ける民族の裏切り者である。
では野党第一党の民主党はどうか。今回の事件に関して一応「地位協定の改定」を主張してはいる。しかし、それは日米同盟関係を維持し、米国のご機嫌を損なわない範囲でである。民主党の参院選政策には「日米安全保障体制を基軸としつつ、積極的に日米対話を促進」すると明記されており、何よりも日米関係を重視し、関係が悪化することを最も恐れている。「この事件によって、日米関係が悪化することを極めて憂慮する」(伊藤英成外交・安保担当の談話)と。そんな基本姿勢で、地位協定の改定を求める外交交渉などできるわけがなかろう。軟弱そのものである。この党に米軍基地の撤去や縮小を期待するのは、まったくの間違いであることがわかる。この党のこういう実態をしっかりと見ておく必要がある。 
 
選挙でなく、広範な大衆行動こそが事態を揺り動かす
 度重なる米軍犯罪に、沖縄の我慢ももはや限界にある。沖縄県、北谷町など自治体からは「地位協定の改定」「米軍の削減」などを求める抗議決議が相ついで上がっている。現地では、労組、女性なども闘いに立ち上がりつつある。本土でも闘いが始まりつつある。これらの闘いをいっそう発展させなければならない。
 現在、参院選の真っ最中だが、問題打開のカギを握るのは選挙ではない。今回の参院選を含めて、九五年の少女暴行事件以来四回の国政選挙が実施されたが、事態を変えたのは選挙ではなかった。約九万人の県民大会をはじめ沖縄、全国の闘いだった。これが安保体制を揺さぶった。地位協定の「運用改善」ですら、選挙ではなく全国の怒りの声と闘いによってかちとられた。だから、問題を打開しようとすれば、広範な大衆行動こそ最も確かな道である。
 すでに指摘したように、問題の根源は、今年五十年目を迎える日米安保体制とそれを支える膨大な在日米軍基地の存在である。わが国の主権を制限し、沖縄をいわば異民族支配の下に提供し、沖縄など全国に治外法権の米軍基地を容認している状況、こうした国家的従属の道に踏み込んだ日米安保体制を打破することこそ、真の課題解決の道である。
 日本がこの新しい世紀に、アジアと共生し、アジア諸国との信頼をつちかい、平和な進路を歩むためには、相も変わらぬ「日米基軸」から転換し、独自に自主的な外交を展開すべきである。それは、わが国経済の現状克服のためにも、避けて通れない選択であり、国民の安全と繁栄の前提条件である。


日米地位協定
 1960年の日米安保条約に基づいて、日本における米軍施設、使用区域、米軍の地位について定めた協定。全28カ条からなり、安保条約と同時に発効した。日本全土どこでも米軍基地化が可能なことや在日米軍の免税などを盛り込み、米軍に多大な特権を与える極めて不平等で、屈辱的な内容である。現在焦点となっているのは、「裁判権」に関する第17条である。

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