20010625

地方交付税削減 「地方の自立」口実に

地方の生存権すら奪われる


 小泉政権は、「聖域なき構造改革」の一貫として、公共事業の見直しなどと共に地方交付税の「改革」を主張している。小泉首相を議長とする経済財政諮問会議(以下、諮問会議)も、そうした方向を提唱した。道路特定財源「改革」とあわせ、「改革の痛み」が国民各層、とりわけ地方に押しつけられようとしている。そもそも、地方交付税は、教育・福祉など、本来国が行うべき公共サービスを地方自治体が行っていることから、必要とされるのである。これを一方的に切り捨てることなど、断じて許されない。地方切り捨ての「改革」を許さない全国での闘いが求められている。

「交付税」配布は国の義務

 地方交付税とは、本来地方税として集められるべき税の一部をいったん国税として集め、すべての県や市町村の間で再配分する制度である。
 こうした制度自身は戦前、一九三〇年代の世界恐慌がわが国の農山漁村に深刻なダメージを与え、地方自治体が財政危機に陥ったことに対する対策として、「臨時財政補給金」制度創設(三六年)に始まった。
 戦後の一時期、シャウプ勧告の下では、地方の赤字を国が補てんするという形の財政配分が行われたこともあるが、これは長続きしなかった。そして、現在の地方交付税制度は五四年に始まっている。
 特徴としては、第一に、戦前の中央集権制度を受け継ぎ、国税五税(所得税・酒税・法人税・消費税・たばこ税)の一定割合を配布する形をとっていることである。
 第二に、基準財政需要と基準財政収入の差額を計算し、これがプラスなら交付税を給付する。
 「基準財政需要」とは、都道府県百七十万人、市町村十万人を「標準的」な自治体とし、そこでどれだけの費用がかかるかを計算したものである。「基準財政収入」とは、地方税を標準税率で課税する時に入ってくる税収のうち、都道府県なら八〇%、市町村七五%分をいう。
 つまり、自治体の赤字に応じて配分するものではなく、あくまで机上の「標準的」なモデルをもとに計算されたものである。
 第三に、国民がどの地方に住んでいてもまんべんなく最低限の公共サービスを受けられるように、過疎地域、人口急増地域、積雪寒冷地などの地域特性を調整する「段階補正」が行われている。
 第四に、交付税は地方自治体の一般財源に当てられ、使い道が制限されている「補助金」とは別物である。むしろ、自治体は教育や医療、年金、介護保険のように、国が行う事務を自治体が代行しているので、その必要経費を国が交付するのは当然であり、「義務」でもある。
 こうした地方交付税は、戦後の保守政治の下では、地方の支配層が国との「パイプ」によって資金を引き出し、それを地方に還元する「利益配分型」政治の温床として、歴史的に形成されてきた。これが地方の独自税源の乏しさともあいまって、「三割自治」というような地方自治の空洞化・国への依存を招いてきたのも、事実ではある。

地方への税源移譲は不明確

 小泉政権は、六百六十六兆円にも及ぶ国と地方の累積債務を口実として地方交付税の削減を打ち出している。これは、膨大な財政赤字の解決策というだけでなく、多国籍企業の国際展開のために「効率的」な行政を実現する狙いもある。
 諮問会議は、地方政策の基本理念を、これまでの「均衡ある発展」から「個性ある地域間の競争」に転換するとしている。
 具体的には、地方税と地方交付税「改革」により、国に依存しない「地方自治体の自立」を要求している。地方交付税については、人口や面積といった単純な基準に基づく「簡素な配分調整」をめざし、配分額全体を縮減させるという。反面、「自立」のための地方への税源移譲がどの程度行われるのかについては、まったく明確でない。財務省の武藤事務次官などは、税源移譲にも否定的である。むしろ、法人事業税への外形標準課税など、中小企業いじめの徹底を狙っている。
 地方交付税は、一面で、立地条件や産業の違いなどによる自治体間の財政力格差を解消し、行政サービスを均一化する機能をもっている。だが、諮問会議は、こうした「段階補正」の縮小を明記、人口や面積などの基準で配分する方式にするという。単独では財政的に立ち行かない過疎地の市町村は、不可避的に合併へと「誘導」される。これはまさに、地方を「兵糧攻め」することにひとしい。

地方の反撃で「切り捨て」阻止を

 現在、自治体財政全体に地方交付税が占める割合は、過疎地にいくほど高い。もし地方交付税の削減を断行すれば、自治体の住民サービス低下は避けられない。交付税や段階補正制度の縮小は、地方の大きな痛みを強い、いまでも開きがちな地域格差を是認、固定化してしまいかねないばかりか、いっそう拡大させることになる。過疎地に住む住民にとっては、憲法で保証された生存権さえ否定されることになる。これらをすべて「効率」で押し切ろうとすれば、地方が反発を強めているのも理の当然である。
 すでに、宮城、三重、高知など七県知事が緊急アピールを発表、全国市長会なども反対の声をあげている。地方財界も、東北経済連などが反対している。地方マスコミも、「『痛み』が地方にだけ押し付けられては、到底理解は得られまい」(岩手日報・六月二日)と、反発はきわめて根強い。
 こうした地方の反発は、道理がある。だが、議会内の野党はまったく無力であり、小泉と改革を競い合うことしかできない。こうした野党に幻想をもつことはできない。
 労働者や中小商工業者など国民諸階層は、自治体などとも連携し、大都市優先・地方切り捨ての「小泉改革」に反対する幅広い国民運動こそが求められている。

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