20010625(社説)

小泉改革 地方切り捨てに首長の反対続出

労働者は先頭に立ち、広い戦線つくり闘おう


 当面の「小泉改革」の最終案が六月二十一日、経済財政諮問会議(議長・小泉首相)で決定された。
 この「経済財政運営・構造改革方針」は、ひとことでいえば「日本経済の再生」の名で、銀行の不良債権処理と企業のリストラを進める一方、地方向けの歳出を全面的に見直し、大都市へ資金を移転・集中させようというものである。その結果は、ただでさえ長年の倒産、失業、また地方経済の疲弊にあえいでいる国民各層に、さらに大規模な犠牲を押し付け、また地方を情け容赦なく切り捨てることになる。
 そうして、多国籍大企業にとってコスト安の政府をつくり、国際競争に打ち勝てるように資金(公的・私的)を回らせ、かれらのみが生き残りを図ろうというわけである。
 だが、小泉にとってこの改革攻撃推進も容易なことではない。まず、一・三月期がマイナス成長になったように、最悪の経済環境の中で進めなければならない。改革は、かれら自身が認めているように、マイナス成長に拍車をかけるものとなり、小泉政権に打撃を与える。
 より肝心なのは、国民各層からの抵抗である。小泉政権は、当面の参議院選挙乗り切りのため、改革の細目はぼかしているが、選挙後、改革で犠牲を被る国民各層の抵抗、闘いが激化することは避けられない。すでに多数の県知事、市長会などの地方自治体、業界団体、自民党内部でも「見直し」に抵抗が開始されている。これらは「小泉フィーバー」現象とは裏腹に、支配層、小泉政権の重大な弱さである。
 だから、闘いの準備を急がなければならない。

国際競争に勝つ多国籍大企業のための改革
 諮問会議の方針は、銀行の不良債権処理と企業のリストラを進め、制度や規制を見直す構造改革によって経済の活性化と財政再建をめざすとして、七つの構造改革プログラムの項目と改革のポイントを示した。
 分類すれば、次の四点である。
 (1)「構造改革」の項では、銀行の不良債権問題の抜本的解決などを打ち出し、低生産性部門から高生産性部門へ資源(カネ、労働力)を移転させるという考え方で、リストラ、失業を増大させる内容だ。
 (2)「社会資本整備」の項では、道路特定財源見直し、公共事業見直し、都市の再生などを盛り込み、財政を大都市(東京・大阪圏のみ)に集め地方を切り捨てる内容だ。
 (3)「社会保障改革」の項では、医療、年金、介護は「自助と自律」を基本とし、医療費総額の伸びの抑制、負担増、「社会保障個人会計」の創設などの広範な国民を犠牲にする表現が並ぶ。
 (4)「個性ある地方の競争」の項では、「均衡ある発展」から「地域間の競争による活性化」への転換を求め、国からの地方交付税、補助金の見直し、市町村合併など、地方切り捨てをあからさまにしている。
 さらに「七つの改革プログラム」の中には、具体的に特殊法人の統廃合、郵政民営化の検討、公的金融機関の再編、国立大学民営化の検討、医療・介護への競争原理の導入、貯蓄優遇から投資優遇など、総じて公的部門のリストラ・縮小、社会保障の切り捨てなどの「改革」が目白押しである。
 これらは、諮問会議の「効率性の低い部門から効率性や社会的ニーズの高い成長部門へヒトと資本を移動することにより、経済成長を生み出す」という基本的思想に貫かれている。方針の原案段階(五月)では、もっと露骨に構造改革とは「低生産性部門から高生産性部門への資源の移転」という表現だった。
 つまり、国、地方自治体の戦後の施策は、いまやあまりに生産性が低いので、これをリストラする。大都市に比べれば、地方への財政投入はやはり生産性が低いので、これを削減、あるいは生産性が高い東京・大阪圏に移転する。郵政や公的金融機関も生産性が低く、かつ民業を圧迫しているので、これを民営化する│以上が当面、かれらが描く社会経済像であろう。
 これら改革の直接のきっかけは、六百六十六兆円の国・地方の累積債務の削減に迫られていることがあろうし、戦略的には国際資本との競争に打ち勝つという狙いもあろう。多国籍大企業にとってみれば、外国資本と闘い、利潤を生み出す上で、行政コストも安くなる改革は結構なことかもしれない。
 だが、わが国経済を支えてきた大多数の国民は、これら改革が強行されればどうなるか。不良債権処理によって、一部大企業と大量の下請け・中小企業の倒産、労働者の首切りにさらされる。新たな失業者は百三十万人(ニッセイ基礎研究所)という試算もあるが、政府とて数十万の失業が出ることは公認している。また公共事業や地方への財源削減などを通じて、地方の非情な切り捨てを生み出す。社会保障にも国民の負担増を求めて、できないものは保障がなくなる。要するに、国民生活と中小の営業にとって、こんにちの不況に加えて、より一段と大規模な犠牲が待ちかまえているのである。支配層いうところの「痛み」である。
 これまで、さんざん痛めつけられてきた勤労国民は、これ以上こうした「痛み」を甘受するわけにはいかない。ごく少数の大銀行、大企業には非常に都合よく、大多数の国民には多大なる犠牲という「小泉改革」は断じて許されない。

大都市を優遇、地方を総犠牲に
 今回の諮問会議方針は、結局のところ、多くの分野で国民に犠牲を強要するものだが、とりわけ地方には集中している。
 国会でも論点になってきた道路特定財源、地方交付税交付金、公共事業がやり玉にあげられ、さらに市町村合併、補助金削減、外形標準課税導入、税源委譲などの検討も、方針には盛り込まれている。
 これら地方切り捨ての発想の基本には、今後の地方制度のあり方は「(従来の)『均衡ある発展』から『地域間の競争による活性化』」(方針原案)へ移行すべきだという考え方がある。また「国が地方に対して、画一的な行政サービスを確保する時代は終わった」(同)ともいう。つまり、交付税など地方への財源は削減するので、従来のような全国均一の行政サービスは保証せず、自治体同士競争して勝手にせよ、というわけである。
 そのうえ、地方への支出を東京・大阪圏に移転させる動きがある。小泉首相が本部長の都市再生本部は六月十四日、東京湾臨海部での防災拠点整備、廃棄物処理施設整備など三大事業を決定した。事業規模は数兆円という。何のことはない、大都市公共事業であり、自民党の都市での選挙対策でもある。
 これに対し「東京、大阪中心の政治にしようとしている」という批判が出るのは、自然である。さらに、全国市長会決議、九州知事会決議、知事有志のアピールなど、自治体首長からいっせいに地方切り捨てへの反対、批判がまきおこっている。小泉政権は地方切り捨ての問題で、反対の炎に包まれつつある。
 六月の連合中央委員会でも、この改革案に対し「弱者切り捨て」という批判が出ている。労働者は、先述したように「追い打ち」ともいうべき容赦ないリストラ攻撃がかけられようとしている。労働者は、自らの雇用と生活を守るため、断固闘わなければならない。同時に、「小泉改革」で犠牲になる勤労国民と広い連携をつくって闘うべきである。地方住民であれ、医療・介護など社会保障を切り縮められる人びとであれ、中小零細企業であれ、共に闘うものはきわめて多い。
 しかも今後、「小泉改革」の具体化が進むにつれ、日増しに全国規模で「同盟軍」は増えるに違いない。断固広範な戦線をつくり、前進すべきときである。

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