20010615(社説)

米国から同盟強化迫られる小泉政権

行き詰まりの現状を打破し、独立・自主の進路を


 今月、小泉政権が成立して初めての日米外相会談、首脳会談が相ついで開かれる。
 米国ブッシュ政権は、集団的自衛権行使や新ミサイル防衛構想協力など、米戦略に基づきわが国にいっそうの軍事的役割、日米同盟の強化を迫ろうとしている。
 他方、わが国と中国、韓国など近隣諸国との関係は悪化、とりわけ中国との関係は最悪といわれるほどである。小泉政権は、日中、日韓、日朝、日ロなど森政権で行き詰まった外交問題を引き継いだが、なんら打開方針はない。当面、「改革」に力を集中し、その点では高い支持率がある小泉政権だが、田中外相の一連の騒動もあって、外交問題は一種の「弱み」となっている。
 小泉政権は米国追随という外交基軸は従来の路線を踏襲しており、アジアとは善隣友好、共生どころか敵対的関係ですらある。こうした現状は断固打破しなければならない。
 同盟強化を求める米国の圧力をはねのけ、日米安保条約破棄、アジアとの平和的な共生へ向けて、いっそう広範な世論と闘いをつくらなければならない。

同盟強化を迫る米国
中韓とは対立する日本外交
 「改革断行」を掲げて政権を握り、そこに力点をおく小泉首相だが、いま米国はいやおうなく日米同盟強化を迫っている。
 昨年秋、アーミテージらは台湾有事などを想定して日本に「英国並み」の同盟関係を求め、集団的自衛権行使や憲法改悪を求める提言を行った。そのアーミテージ国務副長官は五月上旬来日し、小泉首相にブッシュ政権が重視する新ミサイル防衛構想への支持・協力を求めた。この新たなミサイル防衛構想は、クリントン政権時代とは違い、米本土ミサイル防衛(NMD)と戦域ミサイル防衛(TMD)とを一体化するものである。この構想への支持・協力を得るため、米国は五月、日本、韓国、インド、ベトナムにアーミテージらを特使として送り込み、この構想に猛反対する中国へのいわば「包囲網」を形成しようとしている。
 わが国は、TMDについてすでに九九年から米国と共同技術研究を進め、またNMDについては「理解」を表明。だが、この新ミサイル防衛構想によって、「T」と「M」の区別がなくなり、米国本土防衛や世界戦略にすら組み込まれようとしている。
 五月末、首相訪米の露払いとして与党三党の幹事長が訪米し、米国首脳と会談した。アーミテージはそこで、「中国はアジアの安保問題で最大の問題」と語り、中国の台頭を阻止しようとする米戦略への追随を求めた。さらに、国連平和維持活動(PKO)での武力行使も要求した。
 ブッシュ政権は、中国を「戦略的競争相手」と位置づけ、先の海南島での米スパイ機衝突事件、台湾への武器売却など、米中関係は今年に入り緊張の度を高めている。米政府系シンクタンクのランド研究所の提言(五月)も、中国により近い沖縄・下地島などの米軍基地化を提言、東アジアの米軍戦力を朝鮮半島から台湾有事にシフトするよう露骨に言明している。この米アジア戦略につき従ってアジア(中国)と敵対し、火中の栗(くり)を拾うのか、わが国の行き方が迫られている。
 他方、対アジア外交はどうか。
 日中、日韓関係は、きわめて悪化している。周知のように、教科書問題、首相の靖国神社参拝問題で、両国の厳しい抗議を受けたままである。
 とりわけ中国とは、台湾の李登輝訪日問題、農産物緊急輸入制限措置(セーフガード)問題が加わり、中国は李鵬全人代委員長の訪日を中止させるなど、最悪の関係になっている。
 朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉は、暗礁に乗り上げた状態である。さらにブッシュ米大統領は、北朝鮮に対する政策見直しを六月六日発表。それは、「核疑惑」解明の厳密化、米朝枠組み合意の見直しなど、いっそう北朝鮮への締め付けを狙ったものである。わが国の北朝鮮政策も、またこの政策に符合させるのか、問われる所である。
 対米関係、対アジア関係いずれも、わが国の行き方が問われている。

対米追随を踏襲する小泉政権
 小泉政権の外交方針は「日米同盟関係を基礎にして、中国、韓国、ロシアなどの近隣諸国との友好関係を維持発展させていく」「日米安保体制がより有効に機能するようにする」(所信表明)というものである。
 「改革」を当面、重点にしているためであろう、従来の対米追随の枠組みをそのまま踏襲している。言うならば、従来路線から突出もせず、かといって集団的自衛権行使などもまったく否定するわけでもない。例えば、集団的自衛権行使については当初は積極的だったが結局、「歴代政府ができないと言っていることはできない」という所に落ちつかせている。米国のミサイル防衛構想についても、小泉首相は「検討する価値がある」と評価さえしている。そこには、最近の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、仏独首脳らが一斉に警戒、批判を表明したのとは雲泥の差がある。
 そうしたもとで、ミサイル防衛や日米安保に関連して、「自立的」な田中外相の発言が取りざたされている。一部では、田中発言なるものを「日米同盟を揺るがす」と恐れおののいている。発言の真偽はともかく、一連の田中発言なるものは個人的発言ではあるが、支配層の一部の傾向を反映したものでもあろう。だが、問題はそれを外相の公式発言、あるいは政府の公式方針とするかどうかである。対米追随路線の小泉政権には、それは到底不可能である。
 他方、北京における先の日中、日韓外相会談では、関係悪化をなんら打開できなかった。それも当然であろう。過去の侵略の歴史を真摯(しんし)に反省せず、アジアに対する大国主義の立場を放棄しないからである。わが国は、対米国ではきわめて卑屈だが、対アジアではきわめて大国的である。
 それどころか、靖国神社への参拝については、中国、韓国が再三警告を発しているにもかかわらず、小泉首相は参拝にこだわり強硬である。
 結局、対米関係ではいっそう危険な道に引きずり込まれ、対アジアでは友好・共生どころか敵対的にさえ追い込まれる。これでは、わが国がアジアで平和のうちに共に繁栄する道は、到底不可能である。
 もし、小泉首相が六月訪米で、ブッシュ政権のアジア戦略に従い、集団的自衛権の行使、ミサイル防衛構想などに同調すれば、中国との関係をはじめ、アジアとの関係は一段と悪化するに違いない。こうした事態を許してはならない。
 最近シンポジウムに来日したマレーシアのマハティール首相やスパチャイ次期世界貿易機構(WTO)事務局長(元タイ副首相)は、アジア通貨基金(AMF)創設を再度提唱している。これは国際経済問題だが、アジアではこうした主体的主張がある。ところが、これと比べたわが国の主体性のなさは歴然としており、情けない限りである。
 一方、国会の論戦でも明らかなように、対米従属、アジア蔑視の小泉内閣の外交を批判し、独立・自主、アジアの共生の外交を展開すべきと主張する政党はなく、野党はまったく無力である。民主党のごときは小泉政権の応援団と化している。
 わが国外交は、米国によりいっそうの軍事的貢献を迫られ、他方でアジア近隣諸国との関係で完全に行き詰まっている。こうした現状を憂える広範な人びとと共に事態を打開し、安保条約破棄、独立・自主の進路をかちとらなければならない。


ミサイル防衛構想
 飛来するミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とす米国の構想。ブッシュ政権は「NMDは米国防衛だけのため」という欧州の批判を受けて、NMDとTMDを区別しないで一体化する方向を打ち出している。日本政府はこの構想に対し、従来は「理解する」立場に立ってきた。

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