20010605(社説)

「小泉改革」へ自民の抵抗始まる

国民生活と地方を守る闘争を準備しよう


 「小泉改革」の全体像を示していくものとして、鳴り物いりで五月末、経済財政諮問会議(議長・小泉首相)の改革についての基本方針原案が示された。この基本方針は、不良債権の処理などを掲げるとともに、従来の公共事業、地方自治体、社会保障の各分野について切り込み、国民犠牲を押しつける方向を示した。
 この方針提示とともに、これに抵抗する自民党内の動きも強まってきた。この諮問会議方針のさらなる具体案が出てくれば、「痛み」を強いられる国民各層、地方の抵抗が激化することも必至である。
 小泉首相は、こうした抵抗も、また当面の参議院選挙乗り切りも計算に入れながら改革を強行していかざる得ない。小泉政権にとって深刻なのは、不況の度合い、反政府世論の動向など、薄氷を踏みながら改革を強行せざるを得ないことである。
 いずれにせよ、国民犠牲の「小泉改革」を阻止する点からみれば、当面、自民党内の抵抗は悪いことではない。
 だが最も肝心なのは、労働運動など広範な国民の闘いである。国民生活を守る現在の闘いとともに、いっそうの改革強行に対する闘いの準備は、全国、各地方で急がなければならない。

諮問会議方針は、地方切り捨て、さらなる国民犠牲
 すでに、諮問会議方針の焦点の部分については、五月からの国会論戦の中でかなり具体的に議論されつつある。それは、一つは不良債権処理などの「経済活性化」に関する部分である。もう一つは、道路特定財源の見直し、地方交付税の削減、社会保障費の切り捨てなど、国の財政の「削減」「効率配分」に関する部分である。
 すでに、不良債権処理については、われわれは膨大な倒産、失業を引き起こし、ひいては不況を深刻化させるものだと、再三バクロしてきた。
 そのうえに、焦点になりつつあるのが、道路特定財源や地方交付税見直しなどである。特に小泉政権は、これらを目玉とし、これを突破口に改革をおし広げようと狙っている。これらが強行されれば、不良債権処理に伴う労働者、下請け、関連企業の犠牲に加えて、大規模な地方の切り捨てが始まる。
 例えば、道路特定財源とは、道路整備の使用目的に限って自動車利用者にガソリン税などで税金を求める仕組みである。この制度は一九五四年、戦後経済の復興、高度成長に至る過程で導入された。この税収は、今年度予算では国・地方合計約五兆八千億円となる。この使途を限定された税源を、環境や都市基盤整備などへ使途を拡大し、ひいては「特定」でない一般財源にしようというのが、政府のもくろみである。
 地方交付税とは、自治体の行政サービスを全国一定水準にするために、税収不足のある自治体に国税収入から再配分する仕組みである。現在、法人からの地方税収が格段に多い東京都以外の道府県と、ほとんどの市町村が交付金を受け取っている。今年度予算では約二十一兆円で、地方収入の約二三%を占める。これを一兆円、国債発行減額のため削減しようというわけである。
 いずれも、名目は財源の硬直化是正のため、国の債務削減のため、あるいは資源(資本)の高生産性部門への移転というようなものである。
 だが実質は、地方から大都市への資本(予算)の移転、大都市対策、つまり都市やそこでの産業で大もうけを狙う大企業の要請にこたえることである。そして、昨年の総選挙で都市部で大敗北した自民党の都市選挙対策という意図もあからさまである。併せて、いわゆる「道路族」として君臨する、田中角栄以来の橋本派の力をそぐという狙いもあるといわれる。
 いずれにせよ、大きな利潤を狙って財政を大都市・都市へ移転させ、地方、財政的弱者の切り捨てにつながることは明白である。こうした策動は断じて認めるわけにはいかない。

公然たる抵抗が始まった
 さっそく、自民党内からこれらの見直し・削減に反発が噴き出している。
 道路特定財源見直しについて、自民党四十七都道府県連幹部への調査によると、北陸、九州を中心に十五県がこの時点で反対している(二十三県が未定、大都市圏など九府県は賛成)。
 さらに閣僚、自民党幹部でも「公共工事を減らすことが構造改革とは思わない」(武部農相)、「学者は田舎の農業や漁業の話が分かるかな。諮問会議ですべてが決まるわけじゃない」(青木・自民党参議院会長)、「郵政三事業は、郵政公社のこれ以上の見直しをしないと法律に明記した。これを守る」(野中広務・自民党元幹事長、特定郵便局長会総会で)、「小泉君は地方の公共事業を切り捨てろ、東京、大阪中心の政治にしようと言い出しているが、法改正しないとできないし、させなければいい」(山中貞則元通産相)などといった具合である。
 切り捨ての対象となる宮城、島根、香川など、県知事の反対も広がっている。
 業界の石油連盟も「使途拡大ほど余裕があるなら、税率を下げるべき」と道路財源見直しに反対している。
 これらの反発の背景には、何百何千万人ものその地方、地域で働き、生活する者が存在する。小泉はこれを敵にしなければならないのだ。今でこそ小泉政権は高支持率だが、改革の具体化により国民に「痛み」が強制され、あるいは景気や国民の動向などによって、それが逆に転化する可能性は少なくない。それがこんにちの支配層、小泉政権の決定的な弱さでもある。

幻想を捨てて闘争を準備しよう
 高支持率の小泉政権が、改革を断行する過程はまた、国民にとってその実質が
暴露される過程でもある。
 労働者階級と広範な国民各層は「小泉改革」に一切の期待を持つことができない。闘う以外に活路はないことは明らかである。
 最近、新潟県刈羽村の住民は住民投票でプルサーマル導入を拒否した。有明漁民は、一貫して闘っている。こうした人びとの闘いこそ、基本的な力である。
 しかるに、ナショナルセンター連合の支持をうける民主党は、こともあろうに「小泉改革」の応援団をかって出て、最近、「改革」の対案なるものを発表した。それは、「小泉改革」の土俵の中でスピードなどを競うものに過ぎない。
 こうした民主党はすでに勤労国民の政党ではない。また、民主党を支持する鷲尾など連合中央指導部は、労働者階級の裏切り者である。この連中を打ち破る以外にない。
 これに劣らず悪質なのが、日本共産党である。彼らは「小泉改革反対」とはいっている。しかし、その内容は「ルールなき資本主義の是正」であり、また欧米並みの税金の使い方(公共事業に少なく、社会保障に多く)をせよ、ということである。しかし、支配層が命運をかけて改革という国民大多数への新たな攻撃に打って出ているとき、こうしたことで事態を打開できないことは明らかであろう。
 労働者階級・勤労国民の断固たる行動こそ勝利への道である。今こそ、国民生活擁護、地方を守る要求を高々と掲げて闘い、「小泉改革」を打ち破ろう。


経済財政諮問会議
 
「小泉改革」の企画立案の機関として注目されているが、本年1月の省庁再編で新設された。経済財政政策や予算編成の基本方針をつくる内閣の協議機関。首相が議長で、閣僚ら7人、民間人の本間正明・大阪大教授、奥田碩・トヨタ自動車会長ら4人で構成される。小泉首相は「聖域なき構造改革を肉付けするための最も重要な会議」と位置づけている。

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