20010415・社説

不良債権処理は何をもたらすか

またも大銀行救済、国民への激しい痛み


 政府がこのたび、月例経済報告で景気悪化を公式に認めざるを得ないほど、不況は深刻化している。
 政府は四月六日、緊急経済対策を決定した。その中身の中心は、銀行の不良債権処理で、さらに銀行の保有株式制限や銀行が持つ株式を放出させる「取得機構」設置などがある。
 森首相は緊急対策について、「日本経済が抱える構造的問題の解決が喫緊(きっきん)の課題」だと強調した。これらを解決すれば、構造的問題が解決されて日本経済が強くなり、あたかも景気が回復するかのようにいう。
 だが、これはペテンである。この政策が強行されれば、大銀行や大企業だけは生き延び、下請け、中小、労働者にはリストラの嵐(あらし)が吹き荒れることになる。一部の金融機関、大手・中堅企業ですらつぶされるであろう。そうして国民経済の疲弊、不況に一段と拍車がかかることになる。
 こうした大銀行・大企業救済策、国民犠牲増大の政策は、断じて容認するわけにはいかない。長期の不況で、これまで勤労国民はさんざん犠牲になってきた。怒りはたまるばかりだ。労働者などの闘いによって、さらなる国民犠牲の政策に反対し、国民が豊かになる政治に転換しなければならない。

大銀行・大企業の生き残りのため
 今回の政府の緊急経済対策には、銀行の不良債権処理を既存債権は二年、新規は三年以内に最終処理すること、銀行の株式保有額を自己資本の範囲内などに規制すること、銀行の保有株を買い上げる「銀行保有株式取得機構」の設置などが盛り込まれた。
 要するに対策の狙いは、大銀行が三十二兆円といわれる膨大な不良債権、また企業が過剰債務を抱えていて、投資などにカネが動かないので、つぶす所はつぶし、再建の見込みのある所は残すという荒療治をしようというわけである。もちろん、実際の不良債権は金融庁発表よりはるかに多く、四十兆〜六十兆円ともいわれている。また、銀行は一般企業の株式を持ちすぎていて、株価の動きで経営が不安定になるので、銀行の株を放出させようということである。
 今回の対策が打ち出されてきたのは、金融システムの危機が深刻化し、支配層が追い詰められた結果でもある。すでに三月上旬、日米を中心とした世界的な株価暴落が引き起こされた。その後、価格は回復したが、ほとんどの銀行は株価下落で、この三月期に何兆円もの含み損を出したといわれている。そのため、銀行の不良債権を処理する原資は減ってしまった。他方で銀行の不良債権はいくらか減らしても、次々と新たな不良債権が発生している。
 国際的圧力もある。実態は米国の圧力だが、「グローバル・スタンダード」の名のもとに、この九月期中間決算から時価会計制度を導入し、企業経営の「健全さ」を示す必要に迫られている。三月の日米首脳会談では、森首相は不良債権処理と構造改革を「手みやげ」のつもりだったのが、対米公約にまでさせられた。
 また、今回の緊急対策は、自民党などの参院選対策ともいわれている。しかし、この対策が国民への激しい「痛み」を伴い、国民の反発を受けることをかれらが知っているため、与党・政府間協議は対立を生み、一度では決定できなかった。しかし、国際大競争の中で大銀行、多国籍大企業が打ちかっていくために、余儀なく選択したのであろう。
 結局は、勤労国民に多大な犠牲を強いても、大銀行や大企業が生き延びるための方策にほかならない。こうした新たな犠牲策動を、断じて許すわけにはいかない。

広範な国民に犠牲が
一部銀行、中堅企業さえ整理
 リアルに見てみよう。まず、不良債権の最終処理(直接償却など)の方法は、およそ三通りあるといわれる。一、企業の再建計画に基づく銀行の債権放棄、二、民事再生法などによる企業の法的整理、三、外部への債権売却である。現実には債権放棄、つまり借金棒引きと法的整理の二つの方法に絞られるという。
 企業の経営再建ならば当然、すでに行われてきたリストラがまたもや強行されることになる。企業倒産になれば、いうまでもない。どちらにしても労働者、下請け、関連企業に犠牲が押し付けられることになるのだ。
 例えば、不良債権が多い業種は建設、不動産、流通の三業種である。特に、「ゼネコン(総合建設会社)危機」が以前からいわれていたように、昨年、住友銀行はゼネコンの熊谷組に四千三百億円、第一勧銀はハザマに千五十億円の債権放棄を実施した。建設業はわが国の倒産件数全体のトップで約三分の一を占め、昨年約六千二百件が倒産している。その九〇%以上は中小企業である。建設業で再度リストラが強行されれば、約六百五十万の従業者がいる業界だけに大変な事態になることは予測に難くない。まして、この業界の九〇%以上は中小企業で、もともと体力がない所である。
 今回の不良債権問題は、主要十六行に焦点が当てられているが、そのうち東京三菱など九つある都市銀行は大企業に融資しているだけではない。都市銀行の融資額の四割超は中小企業への貸し出しである。これが、いっそうの不良債権処理、債権回収に走れば中小企業は、ひとたまりもない。現在でさえ、資金難で経営危機にある中小企業は壊滅的打撃を受けざるを得ない。
 労働者の生活にとってこういう試算もある。銀行の「問題債権」二十二兆円を最終処理した場合、失業者は一気に百三十万人増え、失業率も六・七%にはね上がるという衝撃的なものである(ニッセイ基礎研)。さらに四十兆円を一年半で処理すると、その期間はマイナス成長の恐れがあるという試算もある(野村総研)。
 不良債権処理問題は、大銀行だけの問題ではない。さらに地元や中小企業と密着した各県での地方銀行などにも影響を及ぼすに違いない。さらに回り回って、信用金庫や信用組合も圏外にはおかず、全体として銀行業界のいっそうの淘汰(とうた)がいっそう進むことになる。
 結局、今回の緊急対策が強行されれば、中堅企業(一部の大企業も)や中小企業を巻き込んでの事態となるだろう。もちろん、最も犠牲になるのは、労働者など勤労国民である。
 大銀行、大企業の借金は、かれらが自民党政府の手厚い保護を受けて、バブル期に濡れ手にアワでもうけてきたツケである。例えば、今ですら不況のこの三月期、上場企業の経常利益は二〇数%の増加になるという。かれらの内部留保などを吐き出させ、かれらの責任で、かれら自身の借金の問題を解決させるべきである。
 むしろ、まさに政府の「緊急対策」として手厚く保護されるべきは、生活や営業に苦しむ労働者や中小零細の自営業者である。そして、大銀行、大企業優先のわが国経済の仕組みを切り換えなければならない。もちろん、わが国国民経済の再建にとって、先の日米首脳会談に示されるように、米国・ドル従属の経済関係も根本的に改めることは不可欠である。
 大銀行、大企業に引き続き手厚い保護策をとる自民党主導政治を変えなければならない。この期間の経過から自民党政治は、完全に窮地に立っている。他方、国民の怒りは充満するばかりである。
 だが、野党の民主党は銀行への公的資金の再注入を主張するなど、自民党以上の救済策を打ち出している。民主党にだまされず、労働者階級を先頭に、生活と営業を守るため断固闘おう。