20010405・社説

ついに起こった米中軍用機衝突

米軍は日本、アジアから直ちに撤退すべき


 ついに危ぐしていたことが起こった。米軍機と中国軍機の衝突事件である。
 米中両国は、事件の責任などをめぐって相手を非難し合っている。このやりとりと決着の先行きは、現時点では不明である。
 今回の事件は、日本にそう遠くない地域で発生し、日本をはじめアジアの平和と安定にかかわる重大な意味をもっている。それだけにとどまらず、米軍機はわが国の沖縄を発進基地としている。まさに、今回の事件は日本にとって決して「対岸の火事」ではない。わが国が、米中対峙(じ)の緊張の地域にあり、直接かかわっていることを明るみに出した。
 問題が顕在化したいま、こうした事態を打開し、東アジアの平和と安定をめざすことは緊急の課題である。そのためには、緊張と不安定の元凶である米軍は、日本、アジアから直ちに出ていくべきである。
 そういう方向を実現するよう、わが国外交が踏み出さなければならず、日米基軸路線の転換、安保条約の破棄を、広範な国民の力でかち取ることがいよいよ迫られている。

アジア緊張の火種は米国、米軍
 事件発生後、米国は責任が中国側にあると非難し、ブッシュ大統領は米軍機と乗員の早期返還を中国に強く求め、「中国が機敏な対応を取れないことに困惑している」と不満を表明した。
 一方、中国の江沢民主席は「責任は完全に米国側にある」と非難、中国沿岸空域での米軍機による偵察飛行の停止を求めた。中国国内のインターネットでは、対米強硬論が盛んに展開されたという。
 はっきりしていることは、米軍が中国沿岸空域で常時偵察していた事実だ。米海軍電子偵察機EP3は基地、艦船などが発する電波を集めて周波数などの情報を収集、分析するのが任務といわれる。中国の防空能力を試すために、この二年間で計五十回以上、米軍機がわざと中国領空を侵犯したという報道もある。したがって、今回の事件は起こるべくして起こったともいえる。
 その伏線は、はるか以前からあった。米国の東アジア戦略(九五年)である。そこでは、当面の朝鮮半島情勢に対応するとともに、強大化する中国を戦略的標的としていた。実際、米第七艦隊は、台湾総統選挙で中国、台湾間が緊張した九六年春と二〇〇〇年春に、中国を威嚇するために台湾海峡に機動部隊を急きょ出動させている。それ以前の九四年にも、北朝鮮の「核疑惑」を口実に朝鮮半島周辺に威嚇出動させている。
 クリントン前米大統領は、国際政治として「中国を重視しすぎ」などと米国内ではいわれているが、中国抑止の実質はそんなものである。基本的には、米国の一貫した戦略がある。さらに、米国家情報会議(NIC)報告(昨年九月)は、アジアにおける米国の影響力低下に危機感を表し、米中対峙を想定してアジアが米中どちらにつくかの選択を迫られるとして、ソ連崩壊以後、中国がソ連に代わる大国として登場することを阻止する狙いを露骨に示した。
 しかもこの傾向は、中国を「戦略的な競争相手」だというブッシュ大統領就任以後、いっそう鮮明になった。三月の中国の銭副首相訪米では、台湾へのイージス艦売却問題をめぐり米国との激しいやりとりが展開された。さらに両国は、弾道ミサイル防衛(BMD)問題、中国での人権問題でも激しく対立。米国側は、中国の世界貿易機関(WTO)加盟や北京オリンピック開催候補地問題などをからめて、攻勢をかけている。
 今回の事件を「緊張の火種にするな」と双方の自制を呼びかける国内意見もあるが、ことをあいまいにしてはならない。火種は戦略的に着々とまかれてきているのである。こんなやりとりが米中間であったという――米国が「航空機は領土と同じだ」と拘束された偵察機への立ち入り禁止を求めたのに対し、「どうして米国の領土が中国に飛んでくるのか」と中国は反論したと。米国の論理は、まさに居直り強盗の論理であり、噴飯(ふんぱん)ものである。この期間の米国の路線や実際行動からみて、火種はますます大きくなるであろうし、しかも米国はそれをうちわで必死にあおろうとするのは間違いない。
 もちろん、アジアにとって米中関係は重要で、平和的で良好な両国関係が確立することが望ましいことは言うまでもない。経済が再び危機的状況に陥ろうとするアジアの繁栄にとって、平和で安定した国際環境は欠かせない。
 だが、戦後五十数年間、アジアで火種をまき大火事にするのは、常に米国・米軍であった。朝鮮戦争、ベトナム戦争、また冷戦での対ソ連ということで米軍が居座り続けた。先述のように、わざわざ太平洋を越えて台湾海峡に波風をたてにくるのも米軍である。
 アジアの緊張、不安定の元凶は十万米軍である。火種は消すべきで、米軍は直ちに日本、アジアから撤退しなければならない。アジアのことはアジアが解決する。

自立できないわが国政府
日本の進路選択が迫られる
 今回の事件は、日本をはじめとする東アジアの平和と安定にかかわる一般的問題だけではない。拘束された米偵察機は沖縄の嘉手納基地を拠点とし、三沢基地にも配備されているという。日常、表には出ないが、こうした米中対峙の中にあって日々、日本は米軍、米戦略に加担している実態があるのだ。
 今回の事件について、福田官房長官は「乗員の安全確保を含め速やかに円滑に解決されたい」と述べたという。わが国が、事実として役割を果たしているのに、まるで人ごとのようである。ここに対米従属が身に付いたわが国外交の姿がある。
 今年の数カ月でさえどうだったか。えひめ丸事件も約二カ月たつが、一向に真相は明らかにならず、事態は進展しない。最近も、米原潜が佐世保へ初めて無通報入港するという横暴ぶりを表した。三沢では訓練中の米戦闘機の墜落など。相つぐ米軍の犯罪、事件に政府は何もできないでいる。例えば、原潜の日本への入港拒否を断固通告してみたらどうか。それゆえに、国民の反米感情、決してき然とした態度をとれない無能な政権への怒りも満ち満ちている。しかも、政局混迷で支配層も機能不全に近い。
 われわれがこの期間、強調してきた日米基軸路線の転換が、ことあるごとに鋭く問われる状況になった。米国のアジア戦略とそれに従属する仕組みがある以上、必然的に今後ますますこの課題は先鋭化せざるを得ない。
 米軍は日本、アジアから出て行かねばならない。いまこそ、わが国の日米基軸路線からの脱却、日米安保破棄を広範な国民の力でかち取る時である。