20010315・社説

外交問題に発展した「つくる会」教科書

国の進路の問題、広範な闘いで策動阻止を


 中学教科書の検定問題が、いま中国、韓国などとの間で外交問題にまで発展している。二〇〇二年度から使う新しい中学歴史・公民教科書検定の合否が、文部科学省でこの三月末にも決まるといわれているからである。
 問題になっている教科書は、「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会、会長・西尾幹二電通大教授)のメンバーが執筆したもので、アジア侵略の歴史をねじ曲げ、正当化しているからだ。これに対して、韓国、中国は昨年来、政府も民間も、マスコミも挙げて再三日本政府に警告を発してきた。だが、検定作業は大幅な修正はあったようだが、続行されている。この教科書は、わが国が米国の東アジア戦略にいっそう加担し、軍事大国化の道をつき進むのを、イデオロギー面から掃き清めようとしている。
 したがって、これは単に教育や歴史認識といった問題にとどまらない重大問題である。わが国がこの時代に、どの進路を進むのかという問題とも、密接に関係するからである。
 折しも、米原潜事件などで日米同盟は大きく揺さぶられている。国民の米国への怒りは高まり、日米基軸路線に疑問が広がっている。幅広い運動で、教科書問題におけるこうした反動的動きを阻止しなければならない。

「修正」してもなお反動的
 問題になっている教科書は、産経新聞社が発行、その系列の扶桑社が発売元となっている。その中身は、そもそも日本の過去の侵略戦争と植民地支配を正当化、美化し、そのためには歴史の事実までわい曲するとんでもない代物である。
 例えば、「韓国併合は、日本の安全と満州の権益を防衛するには必要であった」「日本軍の南方進出がきっかけとなり、……ヨーロッパの植民地だった国々の独立の波はとまることがなく」「南京攻略戦において……戦争中だから、何がしかの殺害があったとしても、ホロコースト(虐殺)のような種類のものではない」といった具合である。もちろん「従軍慰安婦」の記述などはいっさいない。
 その後の検定意見によって、百三十七カ所も修正されたといわれるが、「大東亜共栄圏」「日本軍の南方進出」「(南京)事件については……今日でも論争が続いている」など、反動的な記述ないしは考え方が、巧妙に維持されている。だから、西尾が「個別部分は修正も受け入れたが、われわれの考え方そのものは残っている」と言うように、以前ほど露骨でなく粉飾を施したものの、実質的には相変わらず反動的なものである。
 つくる会は、反動的な教科書づくりを計画的に進めてきた。かれらは、まず一九九五年に「自由主義史観」研究会を発足させ、九七年になると西尾らは藤岡信勝東大教授、漫画家の小林よしのりらとつくる会を結成。それ以後、財界、学者、労組OBなどを巻き込んで全国組織をつくり、日本の侵略戦争を記述した教科書を「自虐史観」と攻撃、自分らの見解、教科書の宣伝のために全国の地方議会・教育委員会に大量の出版物を送りつけたり、請願・陳情を繰り返している。
 しかも、かれらは「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(会長・中川昭一元農相)ら自民党一部と結託して画策している。果ては、こうした動きに警告を発した検定審議委員の野田英二郎元駐インド大使を、かれれらの策動の邪魔者として更迭に追い込んだ。
 こうした教科書を使用させられる学校、生徒はわい曲した歴史教育が強制され、誤った国論の温床となるであろう。さらに、この問題は単なる教科書問題ではなく、疑いもなくわが国を危険な方向に導くイデオロギーの準備となる。米アジア戦略に軍事大国としていちだんと協力し、アジアと敵対させる道に踏み込ませることになるであろう。こうした策動を、断じて許してはならない。

中国、韓国から厳重な批判
責任は日本政府に
 こうした策動に、日本に過去の侵略の被害をこうむった韓国、中国は昨年来、再三再四警告を述べてきた。ここにきて、いっそう強いものとなっている。
 韓国の李外交通商相は二月二十八日、日本の大使を呼び、「(問題の教科書が)検定を通過した場合、両国関係に悪影響を及ぼす」と、初めて正式に通告した。金大中大統領も日本からの独立運動の記念日である三月一日、「日本が正しい歴史認識を持つよう期待する」と日本政府に対応を求める演説を行った。韓国国会も、日本の教科書問題について「過去の歴史の縮小、わい曲を是正すること」を求め、日本の大衆文化開放を見直すことを決議した。問題の教科書が大幅に修正されたことについて政府高官は、「この程度の修正では受け入れることはできない」と、韓国紙は伝えている。
 中国も王外務次官が三月二日、日本の臨時代理大使に「侵略を否定し歴史を美化する教科書を阻止すべきだ」と正式に申し入れた。さらに唐外相は、「日本の検定(の仕組み)は複雑だが、最後的な検定作業では、やはり日本の政府が責任をもって行うことになっている」と、あくまで責任は日本政府にあると断言した。さらに中国の各新聞は、問題の教科書が大幅に修正されたことについて「修正したとしても真実の歴史、正確な歴史観との隔たりは大きい」と、そのペテンについてさらに暴露、批判している。
 かように韓国、中国の政府が正式に申し入れをするなど、教科書問題はいまや日韓、日中間の大きな外交問題にまで発展しつつあるのである。まして、検定意見の「修正」などという小手先のペテンも見抜かれているのである。まさに、正確な歴史認識に基づく以外に正しい教科書はできないし、アジア諸国と友好善隣の関係も打ち立てられない。
 ところが、こうした中国、韓国からの批判を「内政干渉」などと「反論」する見解がある。自民党や民主党の一部、また読売新聞などである。これらの論者は、それらの国がかつて日本軍国主義にほしいままにじゅうりんされ、国として存亡の危機に直面したことを忘れたわけではあるまい。わが国の動向が、その国の将来に直接かかわるからこそ批判しているのである。それを「内政干渉」などと言うのは、それこそ「居直り強盗」の論理ではないか。
 問題は、わが国がどう生きていくかであり、危険な方向に導く策動は打ち破らなくてはならない。

日米軍事同盟強化へ軍事大国化狙う
 こうした韓国、中国の批判にあわてた中川昭一、自民党文部科学部会などは、政府・自民党に対し、教科書検定への「内政干渉」を排除せよと申し入れるなどやっきとなっている。かれらこそ、アジアへの内政干渉の事実をいまだ反省できない反動派である。例えば、台湾侵略を事実上美化する小林よしのりは最近、台湾当局から立ち入り禁止の処分を受けた程である。これこそ天にツバするものであろう。
 問題の教科書などが狙うのは、単にわが国の軍事大国化だけではない。かれらは昨年、アーミテージ国務副長官(現)らが提言した日米軍事同盟強化の報告に呼応して、いちだんと活動を強めた。産経新聞などは、自分らの教科書のために反中国キャンペーンなどを必死に展開した。かれらは、わが国の軍事大国化を狙い、それがいっそう日米同盟強化につながるよう犬馬の労をとろうとしているのである。そもそも、自由主義史観研究会やつくる会が次第に本格的活動を始めるのは、ちょうど日米間で「安保再定義」や日米の新ガイドラインが策定される過程と符合する。事実上、対米従属でなおかつ軍事大国を狙うかれらの策動は、わが国の進路にとってきわめて許し難いものである。
 「死に体」の森内閣は、一方で米原潜問題で米国と、他方で教科書問題で中国、韓国とそれぞれ深刻な外交課題を抱えるはめに陥った。窮地の森政権に迫り、いっそう広範な国民的運動によって、こうした反動的動きを阻止しなければならない。そうして、アジアと共生する、独立・自主の進路を実現する必要がある。